【研究ノート】 生産性成長の要因とその計測法 青木俊介 月次 ●●●●● 『11▲〈叩〃/】(ぜ、|〉幻刎斗△[●民、〉 はじめに これまでの計測法 代替の弾力性 新しい計測法の提案 おわりに 数学付録 参考文献 1.はじめに 本小論の目的は,前稿[19]で明らかにされた生産性成長の構成要因につい て,その計測の仕方に関して新しい提案を試みんとするものである。 我々はこれまで,企業間競争を,技術競争という視点で切I)取り,その状況 を,企業間の全要素生産性格差によって数量的情報として計測し,明示するこ とをテーマにしてきた。一連の研究を続ける中で,我々は全要素生産性の源泉 となる五つの構成要因を探し出し,それらを一つ一つ分離計測可能な形に表現 し,それらの格差の中で,どの格差が企業間競争格差の最も大きな要因となっ ているのかを実証的に明らかにした。各企業の全要素生産性成長率の五つの要 因とは,体化されない技術進歩率,機械設備資本の分配率で調整された機械設 備資本の生産効率を上昇させる技術進歩率,機械設備資本の稼働率の時間変化 率,総資本に占める機械設備資本構成比の時間変化率,労働の生産効率を上昇 させる技術進歩率の五つであった。ただ,これら要因の計測において,-部設 -99- 生産性成長の要因とその計測法(青木) 備資本効率の時間変化率と労働効率の時間変化率の計測において代理変数を利 用するといった若干の窓意性が介在した。この部分の改善を提案するのが,本 小論の目的となる。研究の継続性,関連性もあり,次にこれまで検討した方法 について簡単に振り返りたい。 2.これまでの計測法 まず生産関数を次のように表現し,全要素生産性を次のように定義した生 産関数には生産関数としての適切な性質と,収穫一定,完全競争,利潤極大を 前提する。 Q(t)=T(t)・f(K(t),L(t)) (2-1) これより, T(t)=Q(t)/f(K(t),L(t)) (2-2) なお,T:全要素生産性指数,Q:産出量(付加価値額),K:総資本投入量, L:労働投入量,t:時間を表す。(2-1)式を時間微分し,両辺をQで割り, DK/Kを引いて整理すると,全要素生産性成長率DT/Tを得る□ 、T/T=(DQ/Q-DK/K)+VL(DK/K-DL/L) (2-3) なお,VK:総資本分配率,VL:労働分配率を表し,VK+VL=1である。ま た,演算記号Dは,D=d/dtを表す。(2-3)式は,我々に,全要素生産性 成長率が資本生産性成長率と労働分配率で調整された労働者一人あたり資本装 備率成長率の和として定義されることを教えてくれている。 次に,全要素生産性成長率を構成する原因を探るために,時間tを陽表的に -100- 生産性成長の要因とその計測法(青木) 含むいくつかの要因を導入した以下の生産関数を考えた。技術進歩のタイプは, 生産要素拡大的技術進歩を前提した。 Q(t)=F[B(t)e(t)Kl(t),C(t)L(t),t] (2-4) ここで,K1は機械設備資本量であI),Kl(t)=K(t)-K2(t)と定義し, 総資本Kから,機械設備資本以外の資本K2を差し引いたものである。また, B:新技術等がもたらす機械設備の生産効率を上昇させる機械に内在する体化 された技術進歩を表す効率指数,e:機械設備の稼働率,C:働く意欲の程度 の強弱がもたらす労働の生産効率を上昇させる労働に内在する労働に体化され た技術進歩が表す効率指数を表す。 (2-4)式を時間微分し,Qで割った後,両辺からDK/Kを引いて整理する と,次式の全要素生産性成長率DT/Tを得る。詳細は,前稿[19]を参照さ れたい。 、T/T=(DQ/Q-DK/K)+VL(DK/K-DL/L) =(0F/8t)/F +VK1(DB/B) +VK1(De/e) +VKl(DKl/Kl-(1/、)(DK/K)) (2-5) +VL(DC/C) ここで,(0F/0t)/F:体化されない技術進歩率,DB/B:機械設備の生 産効率を上昇させる技術進歩率,De/e:機械設備の稼働率の時間変化率, DC/C:労働の生産効率を上昇させる技術進歩率である。またVK1は,機械 設備資本の分配率を表し,VKl=(Kl/K)・VK=m・VKとする。なお, mは,総資本に対する機械設備資本の構成比率、=K1/Kを表す□(2-5)式 右辺第四項の()内は,機械設備資本構成比率の時間変化率に準ずるもので -101- 生産性成長の要因とその計測法(青木) ある。というのは,Dm/m=(DKl/K1)-(DK/K)であるからであ る。 我々は,(2-5)式より,全要素生産性成長率が,体化されない技術進歩率, 各々機械設備資本の分配率で調整された,機械設備資本の生産効率を上昇させ る技術進歩率,機械設備資本の稼働率の時間変化率,機械設備資本構成比の時 間変化率に準ずる表現,労働の生産効率を上昇させる技術進歩率の五つの要因 から構成されることを知ることができたのである。そして,このことにより, 我々は,全要素生産性成長率の構成要因を,五つの原因ごとに分離計測するこ とが可能となったのである。計算手順は,次のように行われた。まず最初に, (2-5)式の右辺により,全要素生産性成長率を計算し,次に(2-5)式の左辺 の構成要因の内,体化されない技術進歩率以外の四つの構成要因を計算する。 そして最後に,残差項として,体化されない技術進歩率を計算した。 ただ,ここで機械設備の生産効率を上昇させる技術進歩指数Bについては, 次のように作成された。これは,新技術等がもたらす機械設備の生産効率を上 昇させる機械に内在する体化された技術進歩を表す効率指数を意味するもので あった。ここでは次のように考える。新しく据え付けられた機械ほど生産効率 はより高い。したがって,機械の年齢が若いほど生産効率はより高くなる。そ こで,企業が保有する機械設備の平均的年齢を推計して,その年齢に基づく効 率指数を作成し,次のように提案した。 B(t)K1(t)=B(y(t))K1(t) =(l+(1/y(t)))Kl(t) このBは,機械の年齢が若ければ若いほど,その機械の持つ効率はより高い ものとなるような指数として作成された。機械設備の年齢yの作成方法につい ては,前槁[19]を参照されたい。 また,労働の生産効率を上昇させる技術進歩の効率指数Cについては,直接 生産に携わる現業部門の従業員のやる気度を,労務費の増減により代理的に次 -102- 生産性成長の要因とその計測法(青木) 式で表現した。 労働のやる気度指数C=今期労務費/前期労務費 労務費の対前期比の値がlを超えて大きくなる程,働く意欲はより上昇する ものとし,逆に,lを下回れば,現業部門の労働者の働く意欲は悪化すると考 える。このことが,労働に内在するやる気という内的な心理的要因によって生 産効率の変動の一因がもたらされることとなると考え,代理変数として利用し た。 以上から分かるように,我々は機械設備資本の効率上昇DB/Bと労働の質 の効率上昇DC/Cの二つの要因に代理変数を考えている。この点に,若干の 恐意`性が介在している。この窓意'性を回避する測定法を,以下において検討し, 提案したい。次に,その準備として,新しい計測方法において重要な役割を果 たすことになる代替の弾力`性について述べておきたい。 3.代替の弾力性 代替の弾力性は,投入要素の比率の変化率をその限界代替率の変化率で割っ た値として定義される測度である。すなわち,次のように定義されるものであ る。 o=(.(K/L)/(K/L))/(dR/R) ここで,Rが限界代替率を表す。 R=(0Q/OL)/のQ/0K) である。利潤極大条件を考慮すると, -103- (3-1) 生産性成長の要因とその計測法(青木) =(.(K/L)/(K/L))/(.(w/r)/(w/r)) と表現できる。 さらに,生産関数を Q=F[G,H]=F[EK,CL]=F[BeKCL] (3-2) と書いて式の展開を繰り返すと,次式の表現を手に入れることが出来る(数学 付録1を参照几 o=wr/(Q・(0W/0K)) =wr/((-xy).(0W/Ox)) (3-3) 次に,要素拡大的技術進歩を含むケースにおける代替の弾力性を展開したい。 (3-2)式の生産関数Q=F[G,H]=F[EKCL]=F[BeK,CL]を前提にす ると,代替の弾力性は次のように定義される。 o=(.(G/H)/(G/H))/(dR/R) =(.(EK/CL)/(EK/CL))/(。(Ew/Cr)/(Ew/Cr))(3-4) ここで,生産関数に一次同次を前提すると,(3-2)式は, Q/EK=F[EK/EKCL/EK]=f(cx) (3-5) c=C/E,x=L/K,y=Q/K と書くことが出来る.これより, Q=EK.fにx) (3-6) 104 生産性成長の要因とその計測法(青木) を得る。さらに利潤極大条件を力Ⅱ味すると,次式を得ることが出来る。 w=0Q/OL=C・P (3-7) l-0Q/0K=E・f-Cx・P (3-8) これらの関係式を利用すると,次章で重要な働きをすることとなる関係式を 手に入れることが出来る。 (1/o)(r/y) =-(1/wr).(-xy).(0W/0x).(r/y) =x・(0W/0x).(1/w) =cxP,(1/f,) (3-9) ここまでで,要素拡大的技術進歩率を陽表的に表現できる準備が整ったので, 次章で検討したい。 4.新しい計測法の提案 まず,労働の賃金率成長率Dw/w,資本収益率成長率Dr/rを求めること から始める。(3-7),(3-8)式を時間微分し,長い式の展開の後,次式を得る (数学付録2を参照)。 Dw/w=DC/C-(VK1/(7)(DC/C-DE/E+Dx/x)(4-1) Dr/l-DE/E+(VL/C)(DC/C-DE/E+Dx/x) (4-2) (4-1),(4-2)式を連立方程式として,DE/E,DC/Cについて解くと, -105- 生産性成長の要因とその計測法(青木) 以下の式を得ることが出来る。 資本に関する技術進歩率DE/E=SE/UEを得る。なお, SE=o・VDDw/w-o(o-VK1)Dr/r+VL・○・Dx/x UB=VK1・VL-(o-VKl)(o-VL) である。 ここで,さらにE=B・eより,資本の技術進歩率が, DB/B=DE/E-De/e として手に入れられる。 また,同様にして,労働の技術進歩率が DC/C=SC/UC のように得られる。ここで, SC=0(o-VL)Dw/w-VK1・○・Dr/r+VK1.o・Dx/x UC=(o-VK1)(o-VL)-VK1.VL である。 以上で,我々の手に入れたかった投入要素の要素拡大的技術進歩率DB/H DC/Cを,代理変数に頼らない方法で陽表的に表現することができた。 5.おわりに 本小論では,前稿での若干の恐意性を持った代理変数を一部含む計測法の問 題点を克服すべ〈,生産性のより精度の高い客観的な計i則法への一つのアプロ ーチとして,生産要素拡大的技術進歩率を代替弾力性を利用して表現する仕方 をヒントに,我々のモデルの中にそれを取1)込むことによって,一つ一つの要 因の分離計測法を工夫し提案した。これによ'),我々は恐意性を持たない全要 -106- 生産性成長の要因とその計測法(青木) 素生産性成長率の要因別成長率を手に入れる-つの計測法が提示できたと思 う。 稲を改めて,本小論で提示した方法による実証結果を,前稲での結果との比 較検討の上で,企業間競争力格差の源泉について検討し,報告したい。 数学付録 付録1 技術進歩を陽表的に考慮しない生産関数の表現Q=F[K,L]においては, 代替弾力性は(3-1)式と同様次のように表現される。 o=(.(K/L)/(K/L))/(dR/R) (付1-1) ここで,限界代替率Rは, R=-(dK/dL)=(0Q/OL)/(0Q/8K) =FL/FlFw/r である。また, リ 。(K/L)==(L・dK-K.(1L)/L- dR=(OR/OL)。L+(0R/0K)dK であるから,dK=-(FL/FK)(1L=-RdLを代入し,整理すると,次のよ うな代替弾力性の別表現を得ることが出来る。 o=(FL・FK)/(Q、FKL) (付1-2) 107- 生産性成長の要因とその計測法(青木) 要素拡大的技術進歩を含む生産関数(3-2)式を前提にすると,同様の事を 以下のように展開できる。 FL=8F/OL=(0F/0H)/(8H/OL) (8F/aH).C=w FK=8F/0K=(0F/OG)/(OG/8K) (0F/OG).E=r FKL=0/DK(0F/OL)=0w/0K したがって,以上より次式を得る。 (付1-3) O=(w・r)/(Q・(0W/8K)) また,Q=F[EK,CL]の両辺をEKで割り,c=C/E,x=L/Kと置い て整理すると, (付1-4) Q=EK.fにx) を得る。次に, w=FL=8Q/OL=EK.f'・ Ow/0K=0F,.(C/E) =-(Cu/EK).x (c/K)=C f, (-L/K2) F, これより, Q・(0w/0K)=-(C2/E).(Q/K).x・P, ここで,y=Q/Kと置くと,上式は, 108- 生産性成長の要因とその計測法(青木) Q・(0w/0K)=-(C2/E).y・x.f,, と表現される。また, 0W/3x=C・P,.(C/E)=(C2/E)・P, であり,故に,次式を得る。 Q・(0w/OK)=-y・x.(3W/8x) かくして,(3-3)式が導出される。 付録2 まずDw/wの導出について展開する。なお,D-d/dtである。(3-2)及 び(3-6)式より,次の(3-7)式 w=0Q/OL=BK.f,.(c/K)=C・P (付2-1) を得る。これを時間微分すると, Dw=dw/dt =(dC/dt).f,+Cf,,((DC/E-C・DE/Eu)x+C・Dx/E) これより, Dw/w =DC/C+(f,,/f)(C/E)x(DC/C-DE/E+Dx/x) -109- 生産性成長の要因とその計i1lI法(青木) であり,これにさらに,(3-9)式を使うと(4-1)式を導出できる。 Dw/w=DC/C-(VK1/(7)(DC/C-DE/E+Dx/x)(4-1) 次に,Dr/rの導出についてみてみよう。次式(3-8)式を時間微分すると, (付2-2) r=0Q/0K=Ef-Cxfツ Dr=dr/dt =DE・f-DC。x・F-C・Dx・P +(C/E)x(DC/C-DE/E+Dx/x)(Ef,-Cxf,') を得る。これを,(付2-2)式で割ると,次式を得る。 、r/r =(DB・f-DC.x・r-C・Dx・P)/(Ef-Cxf,) +((EP-Cxfツ,)/(Ef-Cxf,))(C/E).x・(DC/C-DE/E+Dx/x) ここで,(3-6)及び(3-7)式より f=Q/(EK)=y/E (付2-3) lツーw/C (付2-4) f,,=(0W/8x)(E/C2) (付2-5) これらを代入して整理すると,次の(4-2)式を導出できる。 110 雄産性成長の要因とその計測法(青木) Dr/r=DE/E+(VL/C)(DC/C-DE/E+Dx/x)(4-2) 参考文献 l)Christensen,LR,andJorgenson,DW.,USRealProductandRealFactorlnput’ ’929-1969,,1MW:,1970,ppl9-50. 2)-,-,andLau,LJ,`TranscendentalLogari-thnucProductionFrontiers,, RES,1973,pp、28-45. 3)Jorgenson,,.W、,andNishimizu,M,‘USandJapaneseEconomicGrowth, 1952-1974:A、lnternationalComparison,,DJ,1978,pp、707-726. 4)_,andSato,R,`FactorPrice,Productivity,andEconomicGrowth,'AER, 1963,pp974-lOO3、 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