インターフェイス(その1 - 杉浦技術士事務所 (情報工学部門)

電子カルテのユーザ-インターフェイス(その1)
杉浦技術士事務所 杉浦和史
1.はじめに
電子カルテは、医師が患者と目を合わさず、画面を向いている時間が長く、フレンドリーではないという
批判を聞くことがあります。では、紙のカルテの時は、検査データを見たり、所見、処方・指示を書く時、
患者の顔を見ながらだったかというと、そのようなことはできません。紙と鉛筆というなじみのあるものに対
し、ディスプレイとキーボードに対する無意識なアレルギーがあること、および、やろうと思えば記入しなが
ら患者と会話可能な紙カルテと不慣れな操作に戸惑いながらの電子カルテとでは、医師の余裕が違うと
いうことではないでしょうか。では、なぜ医師が習熟に時間を要し、戸惑うような UI(ユーザーインターフェイ
ス)になってしまったのでしょう。
それは、診察現場に於ける作業の連続性、情報の関連を考えた画面レイアウト、画面遷移、および、操作
性に重きを置かずに作られてしまったからに他なりません。医療系のシステムに限らず、システムは Ease
Of Learning(習熟容易性)、Ease Of Use(使い勝手)に最大限、気を遣って作られるべきです。これに
は、入念な現場の観察と、医師のみならず、診察介助にあたる看護師から、細大漏らさず作業の実態を聞
き出すという、手間のかかる作業が必要となります。手間暇かけずに、手離れ良くと考えているベンダ
(システム開発会社)にとっては、できれば適当に済ませたい部分です。
診察に必要な情報を網羅的に表示し、作業実態を十分反映しないままの UI を持つパッケージを勧める
ベンダの姿勢が問われますが、変更できる部分の少ないお仕着せのパッケージでも、それしか知らない
病院が多いので、多くの工数を伴う UI の変更をしないで済んでいるのが現状ではないかと思われます。
2.ユーザ-インターフェイス(UI)
ベンダと、その製品を使う側の医師との間に大きな意識の差があるのは UI ですが、医師からみたら、
UI は電子カルテそのものであると理解しているベンダは少なく、仮に理解していたとしても実装には至って
いないのが現状です。その結果、多機能、高機能を標榜するものの、UI の良さを売りにしている製品は少
数です。直感的に操作できると謳っているものもありますが、自画自賛の域をでていないと感じます。診察
に製造業のような生産性という指標はなじみませんが、UI の出来不出来が、診察効率(生産性)に及ぼす
影響は大きく、経営にも関係してくる要素であることを理解しなければならないでしょう。
(1)クリック回数
ある電子カルテは、ネブライザの処方・指示をするのに、18回もクリックしなければならないという。
①汎用メニュー表示、②汎用カレンダ表示、③新規処置選択、④呼吸管理選択、⑤ネブライザ選択、⑥ネブ
ライザの種類選択、⑦1日3回を選択、⑧1回目の時間を入力、⑨2回目の時間を入力、⑩3回目の時間を
入力、⑪決定をクリック、⑫確定をクリック、⑬何日からをクリック、⑭何日までをクリック、⑮確定をクリック
⑯管理メニュ-表示、⑰診察終了をクリック、⑱カルテ保存をクリック、という操作順です。
この間、約3分を要すると医師が悲鳴を上げていますが、この操作の間、画面を見続けなければならず、
患者の方に顔を向けることはできません。この UI を設計した技術者は、ネブライザの処方を画面からした
い、という顧客の要望を満たしていると思ったら間違いで、実用に耐えなければ使えないと思わなければ
ならないでしょう。この製品を作ったベンダはデザインレビュー(関係者で仕様の適切性を議論するミーティ
ング)を行ったのでしょうか。
できる限りクリック回数を減らす、これが UI の基本的な考え方ですが、業務の性格、作業の順番から考え、
デフォルト(省略時解釈値)を表示しておくことで回数を減らすなど、現場の声を聞き、業務を分析すれば自
ずからクリックを含む、操作の手間を軽減するアイデアはわいてくるはずです。もちろん、デザインレビュー
で議論されるべき事柄です。
(2)シェーマ
定型の絵をスタンプとして用意しておき、これを選択して画面上に貼り付けることで、絵を描く手間を省く
ことができ、医師によって微妙に異なる形も統一できるというシェーマは、どの電子カルテにも備わってい
る一般的な機能です。電子カルテを開発するベンダは、描かないで済む分、楽になると考え、どの様な
場面でも使えるよう、様々な形のシェーマを多数用意し、その選択肢の数を競っていたりします。この機能
は使われているのでしょうか。使用頻度を考えているでしょうか?
鉛筆なら簡単に描ける(書ける)ものを、①シェーマ一覧を表示させる、②適切なものを選び、所見欄に
表示させる、③適宜位置を調整し、④コメントする、⑤強調したいことがあれば色を変え、その領域を指定
する操作が必要となります。
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手書きでサッと描けるものがこの手順を踏むとなると、効率が悪いので使わない方が良いと判断する医師
もいるでしょう。④、⑤の操作は特に面倒なので二の足を踏む要因にもなる。ベンダはこの辺りをきちんと
調べたうえで、シェーマを用意し、使い勝手を考えたのだろうか。色をつける場合でも、標準カラーコードで
決められている色があり、選択に迷うほどの色パレットを用意する必要があるとは思えません。
角膜(厚さ、混濁)
角膜の傷、虹彩、眼瞼の睫毛
眼底
選択に迷う
また、シェーマではなく、写真の方がはるかに情報量が多いのは理解されているはずです。前眼部、眼底
はスリットカメラで撮影した写真をキャプチャして取り込み、画面に表示した写真に直接書き込めるように
した方が、理解しやすいと思うのが自然です。本来、こうすべきではないでしょうか。
=以上=
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