学位論文内容の要旨

氏
名
塩津 範子
学
位
博士
専門分野の名称
歯学
学位授与番号
博甲第4942号
学位授与の日付
平成26年3月25日
学位授与の要件
医歯薬学総合研究科社会環境生命科学専攻
(学位規則(文部省令)第4条第1項該当)
学位論文題目
口蓋粘膜上皮におけるタイトジャンクションの細胞生物学的研
究
学位論文審査委員
高柴 正悟 教授
大原 直也 教授
窪木 拓男 教授
学位論文内容の要旨
【緒言】
タイトジャンクション (TJ)は一般に単層上皮細胞,血管内皮細胞に存在し,隣接する上皮細胞を密
着させる細胞間接着装置の一つであり,機能としてはバリア機能とフェンス機能の二つが知られてい
る。TJ を構成している主な膜タンパクにはオクルディン (OCD),クローディン (CLD)がある。また,
重層扁平上皮である皮膚においても TJ の存在が報告され,水分蒸散に対するバリア機能が明らかにな
っている。
近年,重層扁平上皮である口腔粘膜上皮においても TJ の存在が報告されるようになり,歯肉や頬粘
膜において微細構造学的に TJ の分布や分子生物学的,免疫組織化学的に CLD 組成などの構成タンパク
の存在が報告されている。しかしながら,TJ のバリア機能について観察したものはなく,特に咀嚼粘
膜に分類される口蓋粘膜上皮における TJ の存在や構成タンパクについての報告はない。そこで本研究
では,口蓋粘膜を用いて TJ の分布およびその構成タンパクである OCD,CLD の発現ならびに局在とバ
リア機能について調べた。
【方法】
8 週齢マウスの口蓋粘膜上皮を用い,微細構造学的,免疫組織化学的および分子生物学的に検索した。
微細構造学的観察では,通法による観察,ランタン浸漬法による観察,フリーズフラクチャー法によ
る観察を行った。免疫組織化学的観察及びウエスタンブロット解析は OCD,CLD-1,-2,-3,-4,-5 に
ついて行った。また,ビオチンを用いたトレーサー浸透実験を行った。免疫組織化学的観察には未固
定未脱灰凍結切片を使用した。
【結果】
微細構造学的観察では,通法で細胞膜の癒合,ランタン浸漬法で硝酸ランタンの浸透が中断された部
位である TJ が顆粒層上層の細胞間において,頻度は低いが認められた。フリーズフラクチャー法では,
顆粒層で TJ ストランドが認められ,数条のネットワークを構成していたが,直線的かつ断続的に走行
し,長さには長短があった。
免疫組織化学的観察では,OCD,CLD-1,-4 は顆粒層上層の細胞間に,点状または線状の陽性反応が
認められた。さらに CLD-1 は顆粒層の中間層から有棘層全層で,CLD-4 は顆粒層の中間層から有棘層上
層で,細胞の輪郭に沿って網目状の陽性反応が認められた。OCD と CLD-1 または CLD-4 について蛍光二
重染色を施して観察すると,いずれも顆粒層上層の細胞間に認められた点状の反応部位は一致してい
た 。CLD-2,-3,-5 は粘膜上皮では陽性反応が認められなかった。粘膜固有層において CLD-2 は唾液
腺,CLD-5 は血管で陽性反応が認められた。
ウエスタンブロット解析では,OCD,CLD-1,-2,-4,-5 は陽性,CLD-3 は陰性であった。
トレーサー浸透実験では,ビオチンは OCD 陽性反応部位を越えて浸透している部位と OCD 陽性反応部
位で停止している部位の両方が観察された。
【考察】
微細構造学的観察により,口蓋粘膜上皮においても顆粒層上層の細胞間に TJ が存在することが示さ
れた。
免疫組織化学的観察では,口蓋粘膜上皮の TJ の構成分子として OCD,CLD-1, -4 が存在することが明
らかとなった。今回得られた免疫組織化学的な OCD と CLD 種の局在性ならびに発現パターンは角化重
層扁平上皮である表皮における TJ の構成分子の種類とその分布に一致していた。ウエスタンブロット
解析では陽性であり,免疫組織化学的観察では陰性であった CLD-2,-5 については組織採集の際に含
まれていた唾液腺や血管によるものと考えられた。
バリア機能については,トレーサー浸透実験およびフリーズフラクチャー法での所見より,形態学
的所見では口蓋粘膜上皮における TJ のバリア機能は強固ではないと考えられた。口蓋は皮膚と比べて
水やタンパク高分子を透過させやすいという生理学的な報告もあり,本研究の結果はこれらを裏付け
るものと考えられる。
TJ が形成されていない細胞層において CLD が発現している意義については判然としないが,細胞分
化に伴って顆粒層上層で形成される TJ のために予め顆粒層の下層で発現するのではないかと推察され
た。
【結論】
口蓋粘膜上皮では,顆粒層上層に TJ が存在し,その構成タンパクとして OCD,CLD-1,-4 が存在する
ことが明らかとなった。口蓋粘膜上皮における TJ のバリア機能は形態およびトレーサーの浸透性より
強固なものではないと考えられた。
学位論文審査結果の要旨
一般に単層上皮細胞間にはタイトジャンクション (TJ)という細胞間接着装置が存在し,TJ 部位で
は隣接する細胞の細胞膜間の距離がほぼゼロである。TJ の機能は細胞間物質輸送に対するバリア機
能と細胞膜の機能局在を維持するフェンス機能であると言われている。主な TJ 構成タンパクにはオ
クルディン (OCD)とクローディン (CLD)がある。前者は TJ に普遍的に存在し,後者はファミリーを
構成しており,組織・細胞特異的に発現し特有な機能があると考えられている。近年,単層上皮の
みならず重層扁平上皮においても TJ の存在が報告され,例えば皮膚における TJ は水分蒸散に対す
るバリア機能が明らかになっている。口腔粘膜上皮は重層扁平上皮であり,摂食や咀嚼による機械
的刺激はもとより異物・細菌等にさらされておりバリア機能は重要である。口腔粘膜上皮において
も TJ の存在が報告されているが,その分布形態やバリア機能については明らかになっていない。本
研究は咀嚼粘膜である口蓋粘膜上皮における TJ の分布,形態とその構成タンパク,およびバリア機
能の解明を微細構造学的,細胞生物学的,免疫組織化学的に行ったものである。
免疫組織化学的,微細構造学的観察により口蓋粘膜上皮の顆粒層上層に TJ が局在することが示さ
れた。
また,
免疫組織化学的観察により TJ 存在部以外の顆粒層,有棘層にも細胞の輪郭に沿って CLD-1,
-4 が存在することが明らかになった。さらに,フリーズフラクチャー法で観察すると,TJ ストラン
ド数が尐なく,かつ不連続な箇所が頻繁に認められた。ビオチンを用いたトレーサー浸透実験にお
いてもトレーサーが一部 TJ 存在部位を越えて浸透している部位が観察された。TJ の構成タンパクに
ついては免疫染色およびウエスタンブロット解析において OCD,CLD-1,-4 の存在が示された。これ
らのことから口蓋粘膜上皮に TJ が存在すること,また,そのバリア機能は強固ではないことが明ら
かとなった。さらに,TJ 存在部位以外の細胞層に TJ 構成タンパクの一種である CLD が分布すること
を明らかにした。
以上の結果から,本研究は口腔粘膜上皮を介した物質輸送・浸透ならびにバリア機能を理解する
上で重要な知見を示したものである。よって審査委員会は本論文に博士(歯学)の学位論文として
の価値を認める。