キンギョ皮膚におけるメラノトロピン類受容体の動態 Miguel Cerdá-Reverter2・水澤寛太1・高橋明義1 (1北里大学海洋生命科学部 2 Instituto de Acuicultura de Torre de la Sal, Consejo Superior de Investigaciones Científicas (IATS-CSIC)) ○山村豊1・José 背景 視床下部 魚類の体色は、色素胞の運動によって 変化する。色素胞内の色素が凝集すると 体色は明るくなり、拡散すると体色が暗く なる。この現象に内分泌系ではメラニン凝 集ホルモン(MCH)、黒色素胞刺激ホル モン(MSH)およびアグチシグナリングタ ンパク質(ASP)が係る。たとえば白背地 に馴致したキンギョは、体色が明化し MCH mRNA量が高くなる。 背地色に応じたホルモン遺伝子(MCH、 MSH、ASP)の動態は様々な魚種で報告さ れている。一方でこれらの受容体の動態 に関する知見は乏しい。そこで、背地色に 応じたホルモン遺伝子の動態が報告され ているキンギョを用いて、背地色に応じた 受容体(MC1R、MC5RおよびMCH-R2)の 動態を調べた。 proMCH 下垂体中葉 神経下垂体 POMC→α-MSH MCH 下垂体 色 素 凝 集 促 進 色 素 拡 散 促 進 α-MSH受容体 MCH受容体 色素(拡散) 色素(凝集) 皮膚 ASP 体色変化 材料および方法 材料 方法 ・キンギョ( 図-1. 3週間黒あるいは白色背地で馴 致した)脳、下垂体、背側部および腹側部の皮 膚片由来のtotal RNA ・TaqManプローブを用いた定量リアルタイム RT-PCR法 黒背地馴致個体 白背地馴致個体 図-1 色素の運動に係るホルモンと背地色による体色変化 結果 背側部皮膚における各受容体mRNA濃度におよぼす背地色の効果 1 P<0.05 20 10 5 0 黒 黒 白 背地色 白 背地色 4 6 15 0 5 3 2 1 0 黒 0.8 0.6 0.4 0.2 0 黒 白 背地色 15 P<0.05 10 5 0 黒 黒 白 6 4 黒 1 背地色 黒 白 白 背地色 受容体 組織 ホルモン 背地色 黒 白 脳 下垂体 皮膚 MCH POMC-a ASP + ++ ++ + + + P<0.05 4 2 0 白 背地色 ・腹側部皮膚におけるASP mRNA濃度には、黒背地馴致個体と白背地馴致個体で差は無かった。 ・白背地馴致個体の脳におけるMCH1a mRNA濃度は、黒背地馴致個体に対して9倍高かった。 ・黒背地馴致個体の下垂体におけるPOMC-a mRNA濃度は、白背地馴致個体に対して3倍高かった。 2 0 0 白 3 2 ホルモン 6 背地色 8 P<0.05 まとめ1 各種ホルモンおよび受容体遺伝子の発現におよぼす背地色の効果 8 黒 10 MCH-R2 mRNA量 ・腹側部皮膚におけるMC1R mRNA濃度には黒背地馴致個体と白背地馴致個体で差がなかった。 ・黒背地馴致個体の腹側部皮膚におけるMC5RおよびMCH-R2のmRNA濃度は白背地馴致個体に対し てそれぞれ1.5倍および2倍高かった。 下垂体 POMC-a mRNA量 POMC-a mRNA(×109 copies / µg total RNA) MCH1a mRNA(×106 copies / µg total RNA) ASP mRNA(×105 copies / µg total RNA) 1 0.5 背地色 MCH1a mRNA量 脳 1 12 背地色 ASP、MCH1aおよびPOMC-aの各mRNA濃度におよぼす背地色の効果 ASP mRNA量 1.5 0 白 ・黒背地馴致個体の背側部皮膚におけるMC1R、MC5RおよびMCH-R2のmRNA濃度は、白背地馴 致個体に対してそれぞれ1.5倍、3倍および4倍高かった。 皮膚 2 P<0.05 MCH-R2(×105 copies / µg Total RNA) 2 P<0.05 MC5R mRNA量 MC1R mRNA量 MC5R mRNA(×106 copies / µg Total RNA) 6 3 MCH-R2 mRNA量 MC1R mRNA(×10 copies /µg Total RNA) P<0.05 4 MC5R mRNA量 MCH-R2(×105 copies / µg Total RNA) MC5R mRNA(×106 copies / µg Total RNA) MC1R mRNA(×10 copies/ µg Total RNA) MC1R mRNA量 腹側部皮膚における各受容体mRNA濃度におよぼす背地色の効果 組織 受容体 背地色 黒 白 背側部皮膚 MC1R MC5R MCHR-2 ++ ++ ++ + MC1R 腹側部皮膚 MC5R MCHR-2 ++ ++ 下垂体 POMC-a MCH-R2 脳 MCH1a MC1R MC5R 下垂体 POMC-a 拡散 MCHR-2 皮膚 ASP MC1R MCH-R2 MC1R MC5R 凝集 MCHR-2 皮膚 ASP 拡散 MC5R POMC-a産生量が高いことから、POMC-aより生じるMSH類も同様に高いと考え られる。また受容体の産生量も高くなる傾向があった。すなわちMSH類とMCRs の相互作用が活発になり、体色が暗くなると考えられる。 MC1R 凝集 MC5R 黒背地馴致個体と比べて白背地馴致個体の各受容体含量は低かった。 MCH産生量が高くなることによって体色が明るくなると考えられる。 総括 課題 ・黒背地色馴致ではPOMC-a、白背地馴致ではMCH1aの産生量が高かった。 ・ホルモンに対する受容体の感受性が背地色応答によって変化するか検討する。 受容体の量による差か、感受性の変化かを調べる。 ・背地色は、ホルモン遺伝子のみならずその受容体の発現にも影響をおよぼすこ とがわかった。 ・以上のことから、キンギョの背地色応答はホルモンおよび受容体の発現動態に よって変化すると考えられる。 + + 背地色は、ホルモン遺伝子のみならずその受容体の発現にも影響をおよぼすことがわかった。 まとめ2 遺伝子発現から類推される背地色応答におけるホルモンと受容体の活性化状態 脳 MCH1a + + + + ・MC1RおよびMC5Rによるヘテロダイマー化の可能性を検討する。 キンギョ皮膚において従来認められてきたMC1Rに加えMC5Rの発現も認められた。 マツカワではモノマーMC1Rと、MC1R/MC5Rのヘテロダイマーとでα-MSHに対する 感受性が異なる(Kobayashi et al.,2009)ことから、ワキン黄色素胞でも同様の現象 が起きるか検討する。
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