【応用 3】機能性化学材料の評価 - AIST: 産業技術総合研究所

【応用 3】機能性化学材料の評価
陽電子でみる化学材料のナノ空間構造
れています。産総研が独自開発したパ
で説明できないことがわかってきまし
高効率分離プラントや次世代自動
ルス化低速陽電子ビームシステムを活
た。そこで、非晶領域の自由体積空隙
車にはさまざまな機能性化学材料が使
用した寿命測定技術により、分離活性
を解析したところ、非水酸基 PP に比
用されており、これらの材料を開発す
層を選択的に解析できるようになりま
べて水酸基 PP は空隙が小さいことが
る技術は、わが国産業の根幹をなすも
した
。その例として、分離活性層
わかりました [4]。非晶領域で水素結合
のの一つです。化学材料の諸物性は自
中の自由体積空隙と溶質分子のサイズ
が形成された結果、高分子鎖の運動性
由体積空隙とよばれるナノメートルス
比が阻止率と相関することを初めて明
が抑制され機械強度が高くなったと考
[1][2][3]
ケールの空間に強く支配されることか
らかにし(図 1) 、革新的性能をもつ
えられます(図 2)。非晶構造による物
ら、その評価は重要です。特に無定形
膜材料の開発に必須である空隙構造評
性制御は、機能性化学材料の新たな設
高分子などの非晶構造を形作る分子鎖
価への陽電子プローブ技術の有用性を
計指針を与えると期待されます。
間の自由体積空隙に関しては、陽電子
示しました。
[1]
寿命法以外に直接評価できる分析法が
ありません。ここでは、機能性化学材
料の特性の起源を陽電子プローブで解
析した事例を紹介します。
機能性ポリオレフィンの構造
−物性相関解析−
次世代自動車用材料としてポリプロ
ピレン(PP)ベースの新規材料が期待
逆浸透膜のイオン分離機構の解析
されています。PP のような結晶性高
参考文献
[1] Z. Chen et al. : J. Phys. Chem. C.,
115, 18055-18060 (2011).
[2] 伊藤 賢志:膜 , 38, 17-24 (2013).
[3] H. Hagihara et al. : Desalination, 344,
86-89 (2014).
[4] H. Hagihara et al. : Macromolecules,
46, 4432-4437 (2013).
海水から淡水をつくるための高分子
分子ではこれまで結晶構造を制御す
環境化学技術研究部門
化学材料評価基盤グループ
系複合膜では、多孔性支持層表面にの
ることで高強度化が試みられてきま
せた厚さ約 0.1 µm の高分子の緻密層
した。一方、産総研で新たに開発し
萩原 英昭
(分離活性層)中の自由体積空隙が、塩
た PP に水酸基型分岐が導入された高
計測標準研究部門ナノ材料計測科
ナノ構造化材料評価研究室
イオンの透過に強く影響すると考えら
強度化 PP では、機械強度が結晶構造
伊藤 賢志
非晶領域
溶質分子
はぎはら ひであき
いとう
結晶
水酸基なし
分岐構造により
自由体積空隙が
大きい
自由体積空隙
非晶領域
水分子
分離活性層
けんじ
結晶
水酸基あり
水素結合のため
自由体積空隙が
小さい
多孔性支持層
水分子の流れ
図 1 複合膜では表面層の自由体積空隙の大きさが溶質分
離性能を決める
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計測標準研究部門
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図 2 同じ結晶性をもつ置換基導入 PP では自由体積空隙の
小さい水酸基 PP の引張強度が高い
https://unit.aist.go.jp/isc/ci/index.html
https://www.nmij.jp/info/lab/
https://unit.aist.go.jp/riif/index.html
https://unit.aist.go.jp/ubiqen/
産 総 研 TODAY 2014- 09
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