前回の問題 • 銀行の融資姿勢、火災保険、医療保険にお けるモラルハザードは、実際に道徳観(モラ ル)の喪失により引き起こされると考えられる でしょうか。あなたの考えを簡潔に説明してみ ましょう。 解答例 • 例では、いずれも自分の利得を最大化するような行動 の結果として、モラルハザードが起こる。 • 依頼人の利得を省みない点で、自分勝手かもしてない。 また、医療保険のように、税金のようなものでまかなわ れる場合は、公共の利益に反するかもしれない。 • しかし、経済学では、個人は効用最大化のために自分 勝手に振舞うことが前提で、いわゆるモラルは考慮しな い。 • モラルハザードは、情報の非対称性によりインセンティ ブがゆがむことなので、その原因を、モラルの喪失と考 えるのは、問題の対処方法を誤る可能性がある。 モラルハザードの解決 • モラルハザードの原因 – 情報の非対称性 – 依頼人と代理人の利害の不一致 – インセンティブ付けが困難 • 依頼人が代理人の行動(努力)を観察可能 – 依頼人が代理人を監視(モニタリング) • 情報の非対称性を解消 • 代理人が望まない行動をする → 報酬を払わない 1 インセンティブ契約 • 依頼人が代理人の行動(努力)を観察不可能 – モニタリングのコストが非常に高い場合も – ただし結果は努力の水準をある程度反映 • インセンティブ契約 – 結果を代理人の報酬に反映 – 成果主義、成功報酬、歩合制 – やる気を引き出す仕組み セールスマンの問題(1) • ある販売契約をまとめる – 一生懸命努力 → 成功確率 p – 努力しない → 成功確率 q – がんばれば成功する確率が上がる p>q • 努力には費用がかかる – 努力する → 費用 e – 努力しない → 費用 f e>f セールスマンの問題(2) • インセンティブ契約 – 契約成立 → 報酬 v – 契約失敗 → 報酬 w v>w • セールスマンの利得 – 期待効用 – 努力する場合 – 努力しない場合 pu( v ) (1 p )u( w) e qu(v ) (1 q)u( w) f 2 セールスマンの問題(3) u(v)-e 成功 自然 努力する u(w)-e 失敗 セールスマン u(v)-f 成功 努力しない 自然 失敗 u(w)-f 誘引整合性(1) • 誘引整合性(Incentive compatibility)の条件 – 代理人が努力をするための条件 – 努力するほうが期待効用が大きい pu (v ) (1 p )u ( w) e qu (v ) (1 q)u ( w) f ( p q)(u (v ) u ( w) e f – 努力をしたときの期待効用の増加分≧努力の増加分 – 努力をすれば、しただけの見返りがある 誘引整合性 w u ( v ) u ( w) e f pq v O 3 雇い主の問題(1) • 雇い主の利得 ← 販売契約の成否 – 契約の成功は不確実 – 契約成功 → 雇い主の利益 V-v – 契約失敗 → 雇い主の利益 W-w – 代理人が努力したときの期待利得 – pV+(1-p)W-pv-(1-p)w – 代理人が努力しないときの期待利得 – qV+(1-q)W-qv-(1-q)w 留保水準 • セールスマンはほかで働くこともできる – 報酬が低すぎるとやめてしまう – ほかで働いた場合の効用 U=留保水準 • セールスマンを引き止めるには – 最低でもUの効用は保証する 雇い主の問題(2) (pV+(1-p)W-pv-(1-p)w, 努力 pu(v)+(1-p)u(w)-e) 代理人 IC成立 転職 雇い主 怠ける (0, U) (qV+(1-q)W-qv-(1-q)w, qu(v)+(1-q)u(w)-f) IC非成立 代理人 転職 (0,U) 4 個人合理性(1) • 個人合理性(Individual rationality)の条件 – 参加条件(Participation condition)とも言う – 代理人がオファーを承諾する条件 pu(v ) (1 p )u( w) e U – ほかで働くより、ここで努力するほうが高い効用 個人合理性(2) w pu( v ) (1 p )u( w) U e v O 最適な契約(1) • 代理人に努力させて、なおかつ転職されない – 誘引整合性 – 個人合理性 • 代理人が努力する場合の期待支払額 pv (1 p ) w – 傾き(1-p)/pの直線 • 上の2条件を満たし、期待支払額を最小に 5 最適な契約(2) w v O 最善の場合 • 情報の非対称性がない場合 – 努力が観察できるので、結果に左右されない – → 報酬に不確実性を導入しない – 努力をしなければ報酬を払わない – 努力をした場合は、個人合理性がちょうど満たさ れるだけ • 情報の非対称性がある場合 – 変動する報酬 → 最善より高い期待支払額 リスク回避的な代理人 • リスク回避 – 代理人がリスク回避的 – → 原点に対して凸の無差別曲線 – 大きく変動する報酬=リスクの大きな報酬 – → 効用が低下 – 個人合理性の条件 → 高い期待報酬 6 インセンティブの強さ • 誘引整合性の条件 u ( v ) u ( w) e f pq – 努力する場合の追加的な費用が大きい(分子) – → 賃金の差が大きい – 努力する場合の成功確率の増加分が小さい(分母) – → 賃金の差が大きい – インセンティブの強さ=賃金の差 – → 代理人にとってのリスク トレードオフ • 代理人がリスク回避的な場合 – インセンティブの強化 – → 成功したときと失敗したときの賃金差拡大 – =リスクの増大 – インセンティブとリスク回避のトレードオフ • エージェンシーコスト – インセンティブ契約では、リスクがあるので、個人 合理性の条件を満たすため、期待支払額が増加 – 最善の場合との差額=エージェンシーコスト リスク中立的な代理人 • 代理人がリスク中立的 – 成功と失敗の賃金差(=リスク)は気にしない – 期待報酬だけが大事 – 期待報酬が変化しなければリスクを増加 – → インセンティブ – エージェンシーコストはゼロ • 完全な委託 – 代理人が依頼人から事業の権利を買う – 事業の利益はすべて代理人が受け取る 7 地代契約 • 地代契約 – 地主が土地を貸し与える – その土地で行う事業の収益は借主が受け取る • タクシーのリース契約 – タクシー会社は運転手に車をリース – 運転手はタクシーの収益を受け取る • どちらの場合も代理人がすべての収益のリス クを負う 今日の問題 8
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