2014 遺伝学 テスト 解答と配点 問題文中で、対象とする生物は、断りのない限り 2 倍体と考える。計算問題は答えを導き出すための過程を文章で説明しなさい。計算 問題は、少数第 2 位以下を四捨五入して答えること。 問題 1 次の文章を読み、問 1~問 6 に答えよ。60 点 一般に、(ア)量的形質は表現型から遺伝子型を予測できないため、量的形質遺伝子座(QTL)の遺伝子型は直接的には 把握できない。しかし、(イ)QTL を挟み込む隣接マーカー遺伝子型の情報を利用することで、QTL の有無を予想できる。 或る 2 倍体の自殖植物について、同じ染色体に座乗する DNA マーカーM1 と M2 およびその間に座乗する QTL が多型 を示す親品種の組合せ P1 と P2 との交雑後代について考える。M1 座および M2 座の P1 対立遺伝子を A、P2 対立遺伝 子を B とし、QTL の P1 対立遺伝子を Q、P2 対立遺伝子を q とする。M1 座 と QTL との組換え価を x1、QTL と M2 座との組換え価を x2、M1 座と M2 座の 組換え価を x1+2 とするとき、P1 と P2 を交雑した F1 の遺伝子型は右図の ようになる。 なお、x1+2 は、x1 と x2 の(ウ)組換えが互いに干渉しないと考え、x1+2=x1(1- x x2(1-x1)= x1+ x2 - 2x1x2 とみなす。 問 1 下線(ア)に示す、量的形質の定義と実例を挙げなさい。 重さや長さなど計量値で表される形質を量的形質という。ヒトの体重や 身長が量的形質の例である。5点(例のみ 3 点) 問 2 下線(イ)による QTL マッピングの手法の名称を1つ挙げなさい。 インターバルマッピング 5 点 問 3 下線(ウ)に基づく遺伝モデルの名称を答えよ(このモデルに基づいた遺伝距離にもこの名称が付与される)。 ホールデン(Halden)のモデル 5点 問 4 上図の F1 個体が減数分裂してできる配偶子の遺伝子型組合せについて考える。M1 座と M2 座の遺伝子型が観 察可能であるとき、F1 が減数分裂してできる配偶子の遺伝子型全 4 種類を M1 座・M2 座の順に表にまとめ、それらの 出現頻度を x1+2 を使って示しなさい。なお、全ての組合せの配偶子出現を足すと1になる。10 点 問 5 問 4 で挙げた全ての配偶子について、M1 座と M2 座に挟み込まれる QTL の対立遺伝子は Q または q を取りう る(QTL 遺伝子型は、一般には観察できない)。問 3 の表の全ての M1 および M2 の組合せの各配偶子遺伝子型が Q また は q となる確率を、M1 座と QTL との組換え価 x1 と、QTL と M2 座との組換え価 x2 で示しなさい。なお、各配偶子は Q または q となるので 2 つの確率を足すと1になる。 例えば M1 と M2 座が供に A の配偶子で、QTL が Q となる確率は(1-x1)(1-x2)/2 となる。 10 点 問 6 上図の F1 個体に、P2 を戻し交雑した BC1F1 個体について、M1 および M2 座の遺伝子型組合せ別の QTL 遺伝子 型の予測確率(挟み込む DNA マーカー遺伝子型の条件の下での Qq または qq の確率)を表で示しなさい。10 点 2)+ 問 7 x1+2 が 0.1 で、QTL が M1 座と M2 座のちょうど真ん中にあるとき、QTL 遺伝子型 Qq と qq の形質値への影響 を比較するのに適した BC1F1 個体の M1 座と M2 座のマーカー組合せはどれとどれか答えなさい。 問 6 の 4 種の隣接マーカー遺伝子型のうち、Qq と qq の差が大きいものを選べばよい。QTL 遺伝子型の予測確率 は、AB-AB と BB-BB、AB-BB と BB-AB の 2 組に分けることができ、x1 = x2 なので AB-BB と BB-AB は予測確率 の式より、Qq と qq の比は 1:1 である。一方、x1 = x2 が小さいとき AB-AB は Qa>>qq で、BB-BB は Qq << qq なので M1 座と M2 座がヘテロの個体群と、M1 座と M2 座が B ホモの個体群の形質平均を比較すれば QTL 遺伝子型の形質値へ の影響を観察できる(x1+2 が 0.1 より計算すると 0.053 だが答えには影響しない)。20 点 問題 2 次の文章を読み、問 1~問 5 に答えよ。40 点 或る生物の戻し交雑集団(BC1F1)24 個体を用いゲノム中の 4 種類の DNA マーカーA~D の遺伝子型を調べたところ、図のようになっ た。戻し交雑集団ではホモ接合体とヘテロ接合体の 2 種類の遺伝子型が分離し、DNA マーカーを電気泳動したバンドは 2 本のものがヘ テロ接合体、1本のものがホモ接合体であると考える。 図 問1 BC1F1 個体 1~24 の、マーカーA,B,C,D のバンドパターン 図 2 の各マーカーのバンドパターンから遺伝子型を推定しなさい。各マーカーのホモ接合体を a、ヘテロ接 合体を H とし、各個体の遺伝子型を表にしなさい。5点 問2 問 1 の表から各マーカー対の遺伝子型組合せ、a/a, a/H, H/a, H/H を数え、表にまとめなさい。5点 問3 各マーカー間の組換え価(小数点以下 3 桁までを有効数字とし、それ以下は四捨五入する)を計算しなさい。 10 点(冒頭の指示では小数点第2位以下を四捨五入と描いているのでどちらも可) 問4 組換え価が 0.4 以下のものは連鎖していると考え、連鎖地図を描きなさい。10 点 問5 マーカーA~D のうち、メンデル理論比からのズレが一番大きいものを選び、χ2o を計算しなさい。また、 この値を有意確率 5%でカイ 2 乗適合度検定をするのに適した閾値を右表から選びなさい。10 点 メンデル理論比では a と H は 1:1 に分離する。問 1 答えをまとめると右表のよ うになり、右表より理論比からのズレはマーカーD が大きい。よって、 で、これは自由度1の 5%有意水準の閾値 3.841 より大きく、理論比から有意 にズレているといえる。 2 マーカー間の理論比と考えた場合は 1:1:1:1 からのズレを 見る。BD のズレが最大である。 問題 3 次の文章を読み、問 1~問 5 に答えよ。20 点 右図は真核生物の遺伝子発現調節機構モデルを示したものである。真核生物の場合、RNA ポリメラーゼⅡだけでは(ア)プロモーター に結合して転写を開始できず、転写因子と呼ばれる様々な調節タンパク質が結合した転写複合体と RNA ポリメラーゼⅡが結合する。 転写因子には、他の転写因子と結合するものと、(イ)DNA 結合領域に結合するものとがある。 問1 下線(ア)について、転写開始点の 25bp 上流付近にあり、A 塩基と T 塩基が豊富にあることから名づけられた認識配列名を 答えなさい。 TATA ボックス 問2 問3 3点 下線(イ)について、DNA に結合するドメイン・モチーフ名を1つ挙げなさい。 へリックス・ターン・へリックス(他に、ロイシンジッパー、Zn フィンガーなど)3 点 図の、エンハンサーの働きを簡潔に書きなさい。また、エンハンサー配列と反対の働きを持つ配列名を答 えなさい。 エンハンサー配列は、プロモーターから遠く離れた場所(例えば 2 万塩基以上)に存在し、 そこに結合したアクチベータータンパク質が転写複合体を活性化す 7 点。 反対の働きを持つのはサイレンサー配列で、負の調節を行う。 問題 4 次の文章を読み,設問に答えよ。10 点 或る DNA 配列 5’-AGTC・・・・・・・・・・・-3’(・は不明塩基を表す)を鋳型とし て、サンガー法による DNA 塩基配列決定を試みたところ、ddATP, ddCTP, ddGTP, ddTTP の 各蛍光標識別に生成できた DNA 断片長の順位(小さい順)は下表のようになった。鋳型 DNA 配列の不明塩基を答えよ。 生成断片を長さ順に並べると下のようになり、鋳型 DNA は AGTCGTAGCGACGTG と分かる。 問題 5 次の設問に答えよ。10 点(部分点は各 3 点) 鋳型 DNA 配列, 3’-TACACCGAGGGCCTAATT-5’は 5 個のアミノ酸からなるポ リペプチド Met-Trp-Leu-Pro-Asp-停止をコードしている。この配列に対す るサイレント突然変異、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異の例をそ れぞれ1つずつ挙げなさい。そのさい、DNA 変異箇所と mRNA 配列およびポリ ペプチド鎖を明示すること。遺伝暗号表は右を使用する。 7点 問題 6 次の文章を読み、問いに答えよ。 数分 10 点(ハプロタイプ 5 点、第一減数分裂終期 5 点) 減 右図のように 2 種類の染色体(Ⅰ, Ⅱ)を持つ細胞の、減数分裂を考える。図で、各染色体の父親(P1)由来は白抜 きの長方形で、母親(P2)由来は黒塗りの長方形で表す。1つの細胞が減数分裂したときに生じうる配偶子の染色体 構成(ハプロタイプ)を図示しなさい。その際、それぞれの染色体で乗換が 1 回起こるとし、対応する第一減数分 裂終期の時点の染色体構成も示しなさい。 ポイント:染色体乗換の位 置が対応していること。全ての遺伝子座に ついて、配偶子の遺伝子型は父親:母親 =1:1 になる。染色体ⅠとⅡのどの組が同じ 配偶子になるかは確率の問題で、上図の減 数分裂Ⅰ終期からは右図の配偶子組や左 (例 2)の配偶子組などが生じうる。 問題 7 次の文章を読み、問いに答えよ。10 点 以下のような 70 塩基対よりなる 2 本鎖 DNA 配列について考える。 この DNA 配列を PCR で増幅するのに相応しいプライマー対を下のア)~オ)から選び、プライマーがアニーリングする箇所を、書 き写した DNA 配列上に明示しなさい。 何らかの方法でアニーリング箇所を説明していること、2か所以上の余分は各-2 点、 問題 8 次の文章を読み、問いに答えよ。 20 点 日本では血液型で性格が分類できるという考え方が広く知られている。これは血液型(それから予測される1つの遺伝子座の遺伝子 型)で、性格(形質)に差が生じるとする遺伝学的事象としてとらえることができるため、この事象は正しいか否かを検証することが できる。その検証方法を、P = G + E という式を使って具体的に述べよ、またその際、正しくない結論を導きうる過誤として起こりう るものは何か具体的に挙げよ。 遺伝子型と形質との関係式 P=G+E において血液型を遺伝子型(G)、性格を表現型(P)と仮定し、血液型別のグループ 間で性格に差があるか否かを調査すればよい。そのためには再現性のある性格診断法が必要である(例えば几帳面 な性格という診断する場合、A さんが B さんより几帳面である、と判定できる指標が必要となる) 。また、血液型グ ループ間の差を不偏的に示すには、各グループに属する複数人の調査結果(反復という)が必要で、一般に、調査 人数(反復数)が多いほど判定結果の信憑性が高まるといえる。 仮定に用いた関係式 P=G+E より、P は環境(E)にも影響を受けることを表している。判定結果から環境の 影 響 を 取り除くことで遺伝子型(G)の効果を見積もることができる。例えば、同じような躾を受けたグループと受けなかっ たグループでは几帳面さに影響がでるかもしれないので、理想的には同じ方法で躾をしたグループと躾をしないグ ループで育てた複数人について性格を調べる(このとき躾グループと躾しないグループに含まれる血液型の頻度を 均等にしておく) 。環境による影響を考慮し忘れることで、正しくない結論を導いてしまうことがある。 ポイント:1)P=G+E で、血液型が G、性格が P に相当することを明記している。2)反復と再現性について言及 する。3)環境の影響について言及する。 血液型で性格が決まる、決まらないを聞いているのではなく、検証方法を聞いていることに注意。血液型、性格 は P=G+E の式のどれにあたるか述べられているか(P=G+E の式について聞いてはいません)。 問題 9 次の文章を読み、問いに答えよ。10 点 トランスポゾンを利用した遺伝子の機能を解析する手法にトランスポゾンタギング法がある。原理を簡潔に答えよ。 機能解析したい遺伝子にトランスポゾンが転位すると、その遺伝子の転写産物が不完全になったり、読み枠がズ レてコードするタンパク質が不完全になることがある。その遺伝子破壊個体が示す変異形質を調べることで、破壊 した遺伝子が影響を及ぼす形質を見つけ、遺伝子機能の予測を行う方法がトランスポゾンタギング法である。 問題 10 次の文章を読み、問 1~問 3 に答えよ。30 点 右はヒトの家系図で、四角形が男性、丸形が女性、黒塗りは発病個体を示す。こ の病気の原因遺伝子は、非常に稀な確率で存在し、常染色体に座乗することがわか っている。 問1 この遺伝子座は優性または劣性のどちらといえるか、右図の情報をもとに した理由とともに答えよ。 家系図第四世代の 5 人きょうだいのうち 2 人が発病し、その両親は発病し ていないことから、この病気は劣性ホモ接合体で発病すると考えられる。 10 点 理由を説明できていること 問2 非常に稀な病気が、5 人きょうだい中 2 人も見られた原因は何か、簡潔に述べなさい。 集団の中で稀な劣性遺伝子でも、両親がヘテロ接合体(病気の劣性遺伝子を持っている)同士であれば、 複数の子供で発病することは珍しくない。ヘテロ接合体同士から劣性ホモ接合体の子が生まれる確率は 1/4 で、劣性ホモ接合体が 5 人中 2 人以上になる確率は、1 - {5C0(3/4)5 + 5C1(3/4)4(1/4)} = 0.367 であり、十分 起こり得る。 近親婚で稀な劣性遺伝子がホモ接合体になることを述べているだけで 10 点 問3 成人前に死亡するヒトの重篤な病気の遺伝子の多くは劣性であることが知られている。その理由として遺 伝学的に妥当なものは何か答えなさい。 成人前に死亡する重篤な病気が優性である場合、子孫を残し遺伝子が伝わる確率は極端に低く集団の中 から淘汰(排除)され易いはずであるため。劣性遺伝子の場合は、ヘテロ接合体であれば重篤な病気を発 症せず、集団の中に維持される。そのため、成人前に個体が死亡するような重篤な病気遺伝子は、劣性遺 伝子が多くなるはずである。10 点 問題 11 次の文章を読み、問いに答えよ。10 点 DNA 鑑定とは DNA の多型により個人を識別する鑑定方法で、例えばコップの縁についた唾液や毛髪などの極少量の遺留物の持ち主を判定することがで きるため、犯罪捜査でもよく利用されている。DNA 鑑定結果の信憑性は、主に使用する多型遺伝子座の数と対立遺伝子頻度に依存する。 5 つの遺伝子座の全てが 2 種類の対立遺伝子座を持ち、その頻度は高(0.9)と低(0.1)であるとする。或る人が 5 つの遺伝子座の全てで高頻度の対立遺 伝子を持つ確率は幾らになるか、また 5 つの遺伝子座全てで低頻度(0.1)を持つ確率は幾らになるか。現在の DNA 鑑定技術では数十万遺伝子座を一度に 調べることができるため、(試料の取り違えがなければ)DNA 鑑定や親子鑑定の信頼性は高いと言える。 5 遺伝子全て高頻度を持つ確率は 0.95=0.59 5 遺伝子全て低頻度を持つ確率は 0.15=0.00001 5 遺伝子だけで DNA 鑑定をする場合に、全て高頻度を持つヒトは集団中に 59%存在し、個人を特定できない。 次の文章を読み、問いに答えよ。10 点 下図は、フレデリック・グリフィスの形質転換実験の方法と結果を示している。この実験で明らかになった遺伝 学上の重要事項とは何か、答えなさい。 問題 12 この実験で、死んだ S 型肺炎球菌(病原性)の持つ物質(当 時は化学的形質転換因子と呼ばれた)には、R 型肺炎球菌(非 病原性)の形質を S 型に転換させる能力があることが分かっ た。 問題 13 次の文章を読み、問 1~問 3 に答えよ。15 点 下図は真核生物の遺伝子発現のモデル図である。 問1 左上の細胞内で、DNA から mRNA へ、mRNA からタンパク質への一方通行の情報の流れを何と呼ぶか、 答えよ。 セントラルドグマ 5 点 転写、翻訳とした場合は各 1 点 問2 問 1 には一部で例外が見つかっている。その例外について簡潔に説明し、例外を持つウイルス名を一つ挙 げよ。 RNA から DNA の逆転写が知られている。HIV、インフルエンザ、センダイウイルスなどの RNA ウイ 問3 ルスの名前を1つ挙げる 5 点 逆転写とウイルス名、どちらか一方だけなら 2 点 右上の真核生物の遺伝子転写の図にならい、一つの遺伝子座から複数の mRNA が生ずることがあるスプ ライス・バリアントという現象を図と文章で説明しなさい。そのさい、エクソンとイントロンという用語 を使用すること。 下図のようにエクソン 1,2,3 とイントロン 1,2,3,4 からなる遺伝子座の場合に、エクソン 1,2,3 から成る転 写産物 1 が転写される場合と、エクソン 1,2 のみからなる転写産物 2 が転写される場合があるとき、転写 産物1と2はスプライス・バリアントの関係にあるという。1 の遺伝子座から、或る組織では転写産物1 が転写され、別の組織では転写産物 2 が転写されるなど、スプライス・バリアントごとに異なる機能を担 う場合がある。5 点 テストの結果の概要 点数の分布は次のようになりました。最高点は 128 点で、100 点以上は7名です。 単位の評価点は、期末の点数+中間テスト/10 を単位基準点とし、単位基準点×0.9 としました(これが 100 点を 越えた 6 人は 100 点にする) 。ただし、単位基準点が 45 点以上あれば、基準点×0.9 が 60 点未満でも 60 点で可と しました。この調整により、期末テストを受けた 61 名中 60 名が合格になりました。不合格者は中間テスト 14 点 だった 3 回生です。 単位の度数分布 秀 10 優 15 良 13 可 22 不可 10 *不可のうち 9 名は期末テストを受けていない
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