イネいもち病圃場抵抗性遺伝子Pi34のマッピングと - 日本植物防疫協会

イネいもち病圃場抵抗性遺伝子 Pi34 のマッピングと対応する非病原力遺伝子 AVR―Pi34 の同定
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イネいもち病圃場抵抗性遺伝子 Pi34 のマッピングと
対応する非病原力遺伝子 AVR―Pi34 の同定
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
は じ め に
我が国では,無農薬・減農薬米の需要と,環境への負
善林 薫・鬼頭 英樹
I いもち病圃場抵抗性遺伝子
と候補遺伝子の推定
の精密連鎖解析
荷を低減しつつ低コストで効果の高い病害虫防除法確立
Pi34 は陸稲品種 戦捷 に由来すると考えられ, 中部
の重要性がますます高まっている。これらの問題を解決
32 号 といもち病感受性品種 農林 29 号 の交配後代系
する手段として,病害抵抗性を付与した品種の育成と利
統を用いた QTL 解析により,第 11 染色体の長腕に座乗
することが明らかとなっている(ZENBAYASHI et al., 2002)
用は最も有効であると考えられる。
イネいもち病についても,近年はいもち病菌レースに
(図―1 a)
。QTL 解析に用いた交配組合せは日本稲同士で
対する特異性が低いいわゆる「圃場抵抗性」に重点を置
あったために互いの塩基配列が似通っており,解析対象
いた抵抗性育種が進められている。1990 年代からイネ
とする遺伝子の近くに両者を識別できる DNA マーカー
ゲノムの塩基配列に基づく各種 DNA マーカーの開発と
を設計することが困難であった。そこで Pi34 の座乗領
全塩基配列の解読が進められ,2004 年の全塩基配列完
域をより精密に特定するため, 中部 32 号 に,第 11 染
全解読後は,その情報をベースにして,対象とする圃場
色体長腕領域がインディカ品種 Kasalath に置き換えら
抵抗性にかかわる遺伝子について染色体上の座乗領域
れたコシヒカリ染色体断片置換系統である CSSL を交
植物防疫
(量的形質遺伝子座:QTLs)を特定することが可能にな
配し,得られた 3,150 の交配後代分離集団の自殖系統
った。さらに,目的とするゲノム領域に,対象となる品
(RIL)を用いて Pi34 の精密マッピングを行った。その
種を識別できる DNA マーカーを設計することも格段に
結果,本遺伝子の位置を遺伝距離 0.25 cM の領域内に絞
容易になった。現在,イネいもち病圃場抵抗性遺伝子に
り込んだ(ZENBAYASHI-SAWATA et al., 2007)
(図―1 b)。その
つ い て は,陸 稲 オ ワ リ ハ タ モ チ に 由 来 す る pi21
後,解析系統数をさらに増やすとともに,Pi34 座乗領
(FUKUOKA et al., 2009)
,穂いもちに対して抵抗性を示す
域のグラフ遺伝子型を 中部 32 号 もしくは CSSL 由来
Pb1(HAYASHI et al., 2010)が既に単離されており,Pi35(福
の Kasalath 型に固定させた固定系統を用いて再度抵抗
岡ら,2010)や Pi39(TERASHIMA et al., 2008)も遺伝子同
性検定を行って座乗領域の絞り込みと確定を行い(図―
定後に近傍の DNA マーカーが整備されて,マーカー選
1 c)
,中部 32 号ゲノムの BAC ライブラリーから本領域
抜育種によりこれらの遺伝子を導入した新品種が育成さ
を含むクローンを選抜して塩基配列を解読した。
れている。その先駆的な例となる,いもち病圃場抵抗性
さらに,SuperSAGE 法(MATSUMURA et al., 2003)を用
pi21 の単離と,DNA マーカーを用いた本遺伝子導入品
いて,Pi34 保有品種と非保有品種間で発現の有無や発
種の育成については,本号で福岡氏らにより解説されて
現量に差があり,かつ連鎖解析により決定した Pi34 領
いるのでそちらを参照されたい。
域に座乗する遺伝子を選抜することで,Pi34 候補遺伝
筆者らはこれまで,水稲品種 中部 32 号 が保有する
子を特定した(善林ら,2009)
(図―1 d)
。現在,Pi34 候
いもち病圃場抵抗性遺伝子 Pi34 の解析を行ってきた。
補遺伝子について塩基配列解読と相補性検定を行って
本稿では,Pi34 の精密マッピング状況および本遺伝子
Pi34 の特定と単離を進めている。また,日本稲品種間
に対応するいもち病菌の非病原力遺伝子が同定されたこ
で本遺伝子保有の有無を簡便に識別できる DNA マーカ
とについて報告し,圃場抵抗性の持続性について考察し
ーを作出しており,これらは,コシヒカリをはじめとす
る優良品種へ Pi34 を導入する際の,Pi34 保有系統の迅
たい。
速・確実な選抜に利用可能である(善林ら,2011)
。
Mapping of the Par tial Resistance Gene Pi34 in Rice and
Identification of the Avirulence Gene AVR―Pi34 in Blast Fungus. Kaoru ZENBAYASHI-SAWATA and Hideki KITO
(キーワード:イネ,いもち病,圃場抵抗性遺伝子,非病原力遺
伝子,持続性)
II に対応するいもち病菌の
―
の同定
非病原力遺伝子
中部 32 号 の圃場抵抗性には菌株特異性があること
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