立山山麓における光化学オキシダント濃度の季節変化

第 39 回 環境保全・公害防止研究発表会 (2012.11)
立山山麓における光化学オキシダント濃度の季節変化
1)
富山県環境科学センター、2)国立環境研究所
○近藤隆之 1)、木戸瑞佳 1)、山﨑敬久 1)、源将 1)、西川雅高 2)
1 はじめに
日本海側沿岸地域では、春季に光化学オキシダン
ト(Ox)が高濃度で観測されることが多く1、2)、
その原因の一つに東アジア地域からの長距離輸送
の寄与が考えられている3)。富山県におけるOx濃
小杉太閤山局
度の変動要因を解明するため、県内の人為的発生源
の影響を受けにくいと考えられる立山山麓スキー
立山局
場山頂(立山局:標高1,180m)でOx濃度を測定
した。
2 検討内容
山間地にある立山局と富山平野の中央部に位置
図1 測定地点
する一般大気汚染常時観測局の小杉太閤山局(図
1)の 2005 年4月から 2011 年3月の6年間のOx
濃度1時間値を用いてOx濃度の季節変化や日内
80
立山局
小杉太閤山局
変化等について検討を行った。なお、10 日間以上
60
Ox濃度(ppb)
欠測があった月は評価から除いた。
3 結果及び考察
40
20
図2に、2005年4月から2011年3月までの立山局
と小杉太閤山局のOx濃度月平均値の変化を示す。
0
立山局では、3~6月にOx濃度が高くなる傾向が
みられた。また、小杉太閤山局は立山局と類似した
図2 Ox濃度月平均値の変化
Ox濃度の変動パターンを示し、富山県では山間地、
平野部共に3~6月にOx濃度が高くなる傾向が
みられた。この期間のOx濃度平均経月変化を図3
80
立山局
に示す。小杉太閤山局は3~6月に濃度が上昇して、
小杉太閤山局
その後、夏季から秋季にかけて濃度が低下する一山
型(「春型」)の変動パターンであった。一方、立
山局は3~6月に濃度が上昇して、その後、夏季に
低下するが、10~11月に再び小さなピークがみられ
る2山型(「春+秋型」)の変動パターンを示した。
一般に、北陸地方の日本海側では「春型」が多く
観測されるが、立山局の変動パターンは中国地方の
日本海側や九州地方の変動パターン3、4)と同じ「春
Ox濃度(ppb)
60
40
20
0
月
図3 Ox濃度平均経月変化
(2005~2010 年度)
+秋型」であった。
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第 39 回 環境保全・公害防止研究発表会 (2012.11)
2006 年 4 月から 2007 年3月までの小杉太閤山
80
4月
局と立山局の月毎のOx濃度の平均日内変化を図
5月
6月
60
Ox濃度(ppb)
4と図5に示す。小杉太閤山局では、いずれの月
も日中にOx濃度が高くなり夜間に低くなる日内
変化を示した。これは、日中に光化学反応による
7月
8月
9月
40
10月
11月
12月
Ox生成が活発となることが原因の一つと考えら
20
1月
2月
れる。
3月
0
一方、立山局ではOx濃度の平均日内変化は 10
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時刻
~5月にはほとんどみられなかった。6~9月に
図4 Ox濃度の平均日内変化
は他の月に比べやや変動が大きかったものの、小
(小杉太閤山局:2006 年度)
杉太閤山局に比べて小さかった。これは、立山局
ではNO2濃度やNO濃度が平野部に比べて極め
80
て低く、Oxの生成や消費の反応が生じにくいた
4月
5月
めと考えられ5)、立山局は県内の人為的発生源の
6月
60
Ox濃度(ppb)
影響を受けにくく富山県でのOxのバックグラン
ド濃度を把握するのに適した地点と考えられる。
平野部でOx濃度が高くなる時のバックグラン
7月
8月
9月
40
10月
11月
12月
20
1月
ド濃度の影響を明らかにするため、小杉太閤山局
2月
3月
のOx最高濃度と立山局のOx濃度の関係を調べ
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時刻
た。立山局のOx濃度としては、光化学反応によ
図5 Ox濃度の平均日内変化
るOx生成が活発となる前の午前 6 時のOx濃度
(立山局:2006 年度)
を用いた。
図6に、2005 年4月から 2011 年 3 月の毎日の
立山局午前6時のOx濃度と小杉太閤山局Ox最
100
R² = 0.4796
高濃度の月平均値の関係を示す。両者には正の相
小杉太閤山局最高Ox濃度(ppb)
80
関関係(R2=0.4796)が得られ、立山局のOx濃
度が高い時に平野部のOx最高濃度が高くなる傾
向がみられた。
引用文献
40
20
0
0
1) Pakpong Pochanart et al., Atmos. Environ.,
10
20
30
40
50
60
70
80
90
立山局6時のOx濃度(ppb)
36, 4235-4250, 2002.
図6 立山局6時のOx濃度と小杉太閤山局の
2) 秋元肇、大気環境学会誌、35, A48—A51, 2000.
3)
60
Ox最高濃度の月平均の関係
大原利眞、国立環境研究所研究報告、203,
2010.
4) 光化学オキシダント調査検討会、光化学オキ
シダント調査検討会報告書、2012.
5) 近藤隆之ほか、第 50 回大気環境学会年会講演
要旨集、p471, 2009.
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