Title 言語材料の記憶における動機づけの効果 : 動機づけ条件と 動機関係語との関係 Author(s) 石黒, 釤二 Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[10] p.[88]-[101] Issue Date 1974 Rights Version 岐阜大学教養部心理学研究室 (Faculty of General Education, Gifu University) URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/45990 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 88 言語材料の記憶 にお け る動機づ けの効果 動機づ け条件 と動機関係語 との関係 石 黒 彭 二 岐阜大学教養部心理学研究室 ( 1974年 9 月30日受理) E ffects of M otivation on M emory of V erba1 M aterial s R elation between M otivational Conditions and M otive- relevant W ords Sanji lshiguro Gi佞 Un屁e781咄 T his study aims to verify the difference of reproductions brought on w ith the inter action of subjects intention or set t0 1earning and motive- relevant pr oper ties of lear ning mater ials. F oI low ing 3 experiments compared the results of paired- associate learning under 尚 various motivational situations using the following material s; food- relevant words ( FW) , seχ-relevant words ( SW) and neutral words ( NW) . E xper iment l … ‥compared repr oduction about 21 pairs of w ords, containing 3 kinds of 7 pairs respectively; NW - St ( stimulus) - N W - R e and N W - St- N W - R e. SW - Re ( response) , SW - St ln this case response of N W - St SW - R E kept the hi ghest score. E xper iment I I ‥‥‥compared hungry subjects ( H - G r. ) with satiated ( S-Gr. ) about retention of food- relevant words. ln the case of FW - St H- Gr. subjects N W - R e, is superior to S- Gr. E xper iment I I I ‥… compared N W - St N W - St- SW - Re and N W - St NW - Re about learning of 3 groups under the fonowing F W - RE W ith instructions respectively, ( a) concentrate on the learning of SW, ( b) concentrate on the lea「n叫 of F W and ( c) non- concentrating instruction. the highest score. U nder F W But F W - R e under F W instruction F W U nder S W instruction SW - R e kept were learned faster instruction is inferior to S W - R e under S W than other s. instruction。 T his result proves that effects of intentional learning is affected by some kinds of motive- relevant properties of materials. 1 言語材料 の記憶におけ る動機づけ の効果 89 序 こ の研究は, 実験事態に導入す る教示に よ っ て作 り出 され る被験者の学習への意図あ るい は構え と, 材料の動機的 ・ 感情的性質, た と えば性 ・ 飢え な どの動機に関係のある単語な ど, に よ っ て誘発 さ れ る被験者 の促進的 あ るいは禁止的反応 と の相互作用に よ っ て, 言語材料の 記憶が受け る影響を 実験的に究明 し よ う とす る も ので あ る。 実験事態への導入の教示が, 実験者 と被験者の人間関係や被験者への社会的文化的圧力あ るいは被験者の過去経験 ・ 習慣 ・ 目標 ・ 価値観そ の他パー ソナ リテ ィ に関す る要因な どに よ っ て誘発 さ れ る 自我の防衛, 緊張, 情 緒的状態 な どのた めに, しば しば実験者 の予期 し な い 反応を 被験者に引 き起 こ さ せ る こ と は, す で に一般に認め られて い る と こ ろ で あ る。 そ して それが動機を取 り扱 う幾多の研究にお いて, 結果の不一致を もた らす一つの重要な原因で あ る と も いわれ て い る。 そ こ で従来, こ の よ う な意 図あ る い は構え を 統制 し よ う とす る操作的手続 と して , 意 図的 学習 と偶然的学習を 区別す る と い う よ う な方法が, 学習の研究のために し ば しば用い られて きた ので あ る。 しか し, Postman, L . ( 1964j) が指摘す る よ う に, そ,の よ う な 区別 はそ の実 験の 目的に便宜的に役立て られ るだ け であ っ て, それに よ っ て被験者におけ る教示 の効果を 保証す る こ と にはな らな いのである。 教示のない と こ ろ で起 こ る学習において も暗 々裡に 自 己教示のある場合があ り, 逆に明ら かな教示のも と で も, 与え られた手がか りを 被験者が利 用 し な い こ と ,も あ る か ら で あ る。 したがっ て, 教示の効果を保証す る ための手続 きを考案す るに当た っ て は, まず教示の被 験者 に及ぼす効果が, どの よ う な状況 で, どの よ う な要因に よ っ て左右 さ れ るか, そ の状況 あるいは要因を 明確に把握 してお く 必要がある と思われる。 た とえば, 当面の課題が(1)実験 者の期待す る動機 とは別の変数の関与のも とに遂行されている こ とはないか, (2)課題の具備 し て い る性質 ・ 特徴が, そ の課題の実 行におけ る被験者 の動機を 変容 さ せ る こ と はな いか, な どの点を 究明す るこ と な どが必要 と され る ので あ る。 こ こ で と りあげる記憶の問題に限定 して いえば, 対教師適応度の高い生徒が低い も のよ り 学習と把持においてまさることを立証した研究殿(1)に属するものであり, 課題の困難度と偶 然的学習の関係を究明した Spielberger, C. C. et al. ( 1958?) の研究, 記憶材料と被験者の 価値観が再生に及ぼす影響を調べた Edwards, A. L. (1942?)および北野(1955ツ ) の研究, あるいは選択的記朧に関するTaft, R. (1954? Kam ano, D. K. etal(y ) (1961) その他の 研究な どは(2)に属す る ものである。 また性に関係のある単語 (性関係語) の記憶における実 験者と被験者の性別の影響を調べたさきの実験胤 (1)と(2)の奴方に関与する研究である。 こ の実験で, 女子の被験者は性関係語が反応 であ る と き, 男子の実験者の も と で 明 らか な 再生の禁止を示 した。 しか し異性の被験者に対す る女子の実験者力し 実験後に提示材料の再 生を 求め られ る (偶然的学習) と, 性 関係語の再生に対す る選択的禁止でな く , む し ろ他の 材料を 含む全体の再生抑制 と な って あ らわれた。 また方法はい く らか違 う が, 飢え の動機に 関係のあ る単語 ( 食関係語) を用い た対連合学習で, Epstein, S. et al. ( 1962) は, 飢え た被験者が食関係語を 刺激 とす る中性 の反応語を , 中性語刺激に対応す る食関係反応語 よ り も よ く 再生 した と報告 して い る。 こ の よ う に一致 しな い結果を, すべて 自我の防衛に 由来す る鋭敏化 と禁止に よ っ て説明で きる だ ろ うか。 も し で き る と して も, 不一致を もた らす要因 がそれぞれの実験に関与 し て い るはず であ る。 それはおそ ら く 上述の 2 つ の観点か ら の追究 に よ っ て よ丿 明確に さ れ る こ と で あ ろ う。 2 90 石 黒 彭 二 こ の研究は こ の点を 吟味 し究明す るためにな さ れ る も のであ る。 こ のため次の三つ の問題 が提起 さ れ る。 そ② (1) Epstein, S。は生述のように飢えた被験者は刺激としての食関係語を反応としてのそれ よりよく再生するというが, 梅本洛印象語は刺激よりも反応のときによく再生されるという。 こ で性関係語 の把持につ いて調べ, これ ら と の異同を 検討す る。 R . G. et al. ( 1958ダ は 系 列 言 語 学 習 で 飢 え と 食 物 語 の 記 憶 と の 関 係 を 調 べ , L erner Epstein, S. は対連合学習で 同様の関係を調べて, ほぼ似た結果を 得て い る。 そ こ で性関係 語の実験 と 同 じ 方法で, 食関係語の対連合学習を さ せ, かれ ら の結果 と対照す る。 (3) 食関係語と 性関係語を含む材料の対連合学習において, 教示に よ りそ のいずれかの単語 の学習を 強調 し , 意 図的に焦点づけをす る こ と に よ っ て, 異な る動機に関係す る単語の記憶 におけ る分化的 反応 ( differential response) の異同を 確かめ る。 実 目的 験 1 丿 性 に 関 係 の あ る 単 語 ( 性 関 係 語) を 刺 激 語 ま た は反 応 語 と す る 対 連 合 学 習お よ び把 持においては, それが危機語あ るいは印象語 と して選択的反応を 引 き起 こす こ と が期待 され る。 これを 中性 語のそれ と の関係において比較検討す る。 方法 (1) 被験者 大学生男子69名。 すべて心理学を受講 しは じめたばか りの一年次生で あ る。 小柳恭治ら (1959yの日本語3音節名詞の熟知価の表から, 熟知価3.00~ (2) 記憶材料 表 1. 刺 類 激 連 別 記憶材料 と連想語数 ( 1 人平均) 語 想 反 語 応 数 連 提 示 語 想 提 示 語 中 性 性 関 係 合 計 中 語 性 語 性 関 係 数 合 計 中 き は く 1. 13 0 . 03 1. 16 め か け 0 . 13 1. 17 1 . 30 装 刺性 ほ と け 1 . 43 0 .0 5 1. 48 せ し 0 . 78 0 . 53 1. 31 て あ か 1 . 30 0 1. 30 ふ う き 0 . 45 0 . 73 1. 18 け い か 1. 08 0 1. 08 ら た い 0 . 15 1. 13 1. 28 ふ す 1. 37 0 1. 37 り こ 0 . 15 1. 13 1 . 28 愕 ち 震 応 性 関 係 語 い ん ひ た い 1. 32 0 . 03 1 . 35 ち か ん 0 . 12 1. 15 1. 27 ぬ い め 1. 20 0 . 05 1. 25 や も め 0 . 15 1. 05 1 . 20 み れ ん 0 . 18 1 . 07 1. 25 に つ け 1 . 12 0 . 07 1 . 19 い ろ け 0 . 17 1. 10 1. 27 う る 1. 43 0 1 . 43 し せ い り 0 . 68 0 . 65 1. 33 1 ふ ん き 1. 15 0 1 . 15 刺中 よ う し 0 . 21 1 . 02 1. 23 か の う 1. 23 0 1 . 23 激性 さ い し 0 . 18 1 . 05 1 . 23 ゆ う ひ 1. 48 0 . 02 1 . 50 み あ い 0 . 12 1 . 18 1. 30 う ね り 1. 37 0 . 02 1. 39 ふ に ん 0 . 80 0 . 50 1. 30 む え き 1 . 13 0 1. 13 あ や め 1. 28 0 . 02 1 . 30 れ い か 1. 25 0 1 . 25 ま め 1. 12 0 . 05 1. 17 よ き ん 1. 25 0 1. 25 た わ 1. 38 0 1. 38 よ ね ん 1. 10 0 1 . 10 ヽ 才a ん 1. 03 0 1. 03 や と い 1 . 17 0 . 02 1 . 19 き ん 1. 23 0 1 . 23 こ い る 1. 30 0 1 . 30 い ろ 1. 30 0 . 02 1 . 32 は ら ん 1 . 13 0 1. 13 ふ さ く 1 . 37 0 . 05 1 . 42 ひ や け 1 . 43 0 . 03 ゛ 1 . 46 ¦語 反 応 応 に 諮 かに 竹 震わ し 応 3 言語材料の記憶におけ る動機づけの効果 91 3。49の名詞63語を抽出 し, 上述の被験者以外の同年次の大学生男子30名, 女子30名, 合計60 名について, これ らの語に対す る連想検査を実施 した。 連想語の記入上の細かな基準は梅本 尭夫ら (1955yに従った。その結果に基づいて, 性に関係のある連想語数の多いもの(性関 係語) 14語 と そ の よ う な連想語を ほ と ん ど もた な い も の ( 中性語) 28語, 合計42語を選 び, 21対 の記憶材料を 作成 した。 こ の中には性関係語を刺激語 と し 中性語を反応語 とす る も の, 中性語を 刺激語 と し性関係語を 反応語 とす る も の, 中性語を 刺激語お よび反応語 とす る もの をそれぞれ7対ずつ含む。 この材料はさきの実験岑使用したものであるが, 便宜上表1に再 録 してお く 。 (3) 実験手続 全被験者を 1教室 で同時に行な う ( 団体実験) 。材料は発音め明瞭な女声に よ り, テ ープ レ コ ーダーを 用いて聴的に提示す る。 提示時間は 1語 1 秒, 1対 2 秒 と し, 間 隔時間を 3 秒おいて連続的に提示す る。 提示材料の配列は ラ ン ダムと し, 毎回順序を 変 え る。 各回 と も21対全部の提示が終了 した あ と, 直ち に回答用紙を 配 り, 適中法に よ る再生検査を 行 な う。 回答用紙には21個 の長方形 のマ スが, 番号を 付 し て 印刷 さ れて お り, 再生検査 では 順次刺激語を 聴的に 1秒提示, そ のあ と 9 秒間で反応語を 記入 さ せる と い う手続を反復 して 21対の再生を 求め る。 再生検査の刺激語提示順序 も学習時のそれ と変え る。 再生検査終了後 7 名の助手に よ り速かに回答用紙を 回収 し て, す ぐに次の提示 に移 る。 以上の手続 きで学習 と再生検査を 3 回繰返す。 終 りの再生検査終了後, 実験者は実験の終了を宣言 し, こ の実験 と 内容上全 く 関係のない 心理学の講義を す る。 把持検査の予告は しな い。 次いで10分後に把持検査を 実施す る。 回答 用紙はさ きに用いた も の と 同 じ型式 で あ るが, 回答型式は 自由再生法に よ り, 「順序に関係な く , 刺激語 と反応語の正 し い対を で き るだけ多 く 想起 して記入す る こ と, また組合わせの不 確かな も の, 対の一方だけ想起で き た も のは, 刺激語で も反応語で もすべて記入す る」 よ う に教示 し た。 再生記入の許容時間は 7 分 とす る。 (4) 教示 単語の記憶材料 と して の難易度を調査す るために行な う ものであるが, また こ れは心理学の実験手続を体験 し習得す るための実習で あ る と説明 し, そのため実験上の注意 を よ く 守 り, 記憶にあた っ て も特別 な構えを と ら ない よ う に と要求 した。 結果 (1) 学習における材料別正答の比較 3 回にわたる学習後の再生検査の結果を 集計 した も のが表 2 であ る。 提示 さ れた 時の刺激語 と結合 して正 し く 再生 さ れた も のを 正答 とす る。 これを 各回お よび 1 ~ 3 回全体 につ いて, それぞれ記憶材料 3 ×被験者69の要因に よ り 分散分析す る と, 表 3 のよ う に, 第 3 回を 除 き, すべて 1% 水準で材料差が有意であ る。 す なわち 中性語刺激一性関係語反応が正答率最 も高 く , 性関係語刺激一中性語反応が最 も 低い のであって, この傾向はさきの実験結果と一致している。 表 2. (2) 把持における材料別正答の比較 反応語類別正答率 自由再生で あ るか ら, 刺激語 と 反応 1 ~ 3 試 行回数 1 2 3 S 中- R 性 16 . 8 37 . 7 53 . 2 35 . 9 S 性 - R 中 6 .0 26 . 1 47 . 2 26 . 4 S 中- R 中 13 . 5 26 . 5 47 . 9 29 . 3 12 . 1 30 . 1 49 . 5 30 . 3 合 計 語が と も に再生 さ れて い る。 そ の再生 語にお いて刺激語 と 再生語が正 し く 結 合 し て い る場合を 完全正答 と す る。 再 生語が正 し く 再生 されて い るが, 刺激 語 と 反応語 の組合わせが誤 っ て い る場 合, 組合わ された再生語の一方だけが 計 注. s : 刺激語, a : 反応語, 中 : 中性語, 性 : 性関係語 4 正 し い場合, お よび単独で刺激語 また は反 応 語 だ け 再 生 さ れ た 場 合 はす べ て 92 石 表 3. 試 行 回数 V 黒 2 MS MS F * 2 10 . 28 13 . 71 個 体 差 68 1. 50 2 . 00 0 . 75 * 差 136 全 体 206 3 F * 記憶材料 残 一 一 記憶材料の正答率の分散分析 1 df 彭 1 ~ MS * F 3 MS F 71 . 66 10 . 62 16 . 02 2 . 37 * * 14 . 63 8 . 76 3 . 69 2 . 36 ・ 2 . 09 1. 25 3 . 35 2 . 15 * * 6 . 67 * * 1. 56 * * 6 . 75 注。 * * 1% 水準, * 5 % 水準で有意 不完全正答 と す る。 完全正答 と不完全正答を 合わせて正答 と 呼ぶ こ と にす る。また提示語( 刺 激語 と反応語) にな い語が再生 された場合, 3 文字で な く , 2 文字 または 4 文字か らな って いる も の も含めて誤答 と す る。 1:文字だけ の記入, あ る いは何 も記入 さ れて いな い場合を 無 答 とす る。 こ の基準に従 っ て集計 した も のが表 4 で あ る。 表4. 把持におけ る正答 ・ 誤答 ・ 無答 ( % ) 完 全 正 答( C) 刺激語 反応語 不完全正答( I ) 刺激語 反応語 正 答 ( C十 I ) 刺激語 反応語 S 中- R 性 29 . 6 29 . 6 13 . 7 21 . 8 43 . 3 51 . 4 S 性 - R 中 31 . 1 31 . 1 12 . 6 10 . 1 43 . 7 41 . 2 S 中- R 中 36 . 0 36 . 0 15 . 5 8.1 51 . 5 44 . 1 32 . 2 32 . 2 13 . 9 13 . 3 46 . 1 45 . 5 計 注。 刺激語 と 反応語を 分けて% を 算出 し たので 全体の計は200% にな る。 誤 答 (刺十反) 無 答 (剌十反) - - - - - - 13 . 4 105 . 0 ∧ これを 完全正答, 正答 ( 刺激語, 反応語) に分けて, 記憶材料 3 ×被験者69の要因に よ り 分散分析す る と表 5 の通 りで あ る。 表 5. 完 V df MS 完全正答 と 正答 ( 刺激語 ・ 反応語) の分散分析 全 正 正 答 刺 F 答 激 語 MS 反 MS F * 記憶材料 2 3 . 83 3 . 58 差 68 2 . 57 2 . 40 残 差 136 1. 07 全 体 206 * 個 体 7 . 49 * 5 . 24 ● 2 . 48 1 . 43 * * 1 . 73 応 語 F * 8 . 44 12 . 60 4 . 26 6 . 36 * * * * 0 . 67 完全正答では中性語刺激一中性語反応の対が最 も多 く 差が有意であ る。 不完全正答を 含め た正答では, 刺激語の場合には中性語刺激一中性語反応の対が最高で あ るが, 反応語の場合 には, 学習直後 と 同様に中性語刺激一性関係語反応の対の性関係語の再生が最 も多 く , その 差は と も に有意 で あ る。 性関係語刺激一中性語反応の対が完全正答で も, 不完全正答で も, 比較的低い正答率を示 している こ とが注 目される。 これは性関係語刺激が中性語反応の有効 な手がか り ( Cue) と し て働 いて いな い こ と を 示す も ので あ っ て, 性関係語反応の正答率の 高い こ と と結びつ けて これを どの よ う に説 明で き るかが問題で あ る。 な お性関係語反応 には 5 言語材料の記憶におけ る動機づけ の効果 93 不完全正答が多 く , 対提示 さ れた 中性語 と の対連合が必ず し も強固で な い こ と を 示 し て い る。 そ こ で次に個 々の提示語につ いて, 完全正答お よび正答を 調べてみる と, 表 6 の よ う にな る。 表 6. 類別 刺 激 き は く 21. 7 中 ほ と け 73 . 9 て あ か け い 賃 刺性 係 語 刺中 激性 ¦語 反 応 正 答 応 語 27 . 5 め か け 21 . 7 39 . 1 81 . 2 せ い し 73 . 9 82 . 6 29 . 0 72 . 5 ふ う き 29 . 0 37 . 7 か 15 . 9 24 . 6 ら た い 15 . 9 62 . 3 ふ す 29 . 0 43 . 5 り こ ん 29 . 0 52 . 2 ひ た い 5. 8 11 . 6 ち か ん 5.8 21 . 7 ぬ い め 31. 9 42 . 0 や も め 31 . 9 63 . 8 29 . 6 43 . 3 29 . 6 51 . 4 計 性 関 完全正答 反 弩 ち 震 応 語 各 提 示 語 の正答 率 計 完全正答 正 答 み れ ん 1. 5 10 . 1 に つ け 1. 5 17 . 4 い ろ け 50 . 7 55 . 1 う る し 50 . 7 59 . 4 せ い り 37 . 7 55 . 1 ふ ん き 37 . 7 43 . 5 よ う し 36 . 2 49 . 3 か の う 36 . 2 43 . 5 さ い し 42 . 2 60 . 9 ゆ う ひ 42 . 2 62 . 3 み あ い 30 . 4 49 . 3 う ね り 30 . 4 37 . 7 ふ に ん 18 . 8 26 . 1 む え き 18 . 8 24 . 6 31. 1 43 . 7 31 . 1 41 . 2 計 計 あ や め 62 . 3 87 . 0 れ い か 62 . 3 60 . 9 に ま め 39 . 1 70 . 0 よ き ん 39 . 1 49 . 3 か た わ 50 . 7 56 . 5 よ ね ん 50 . 7 60 . 9 に ね ん 14 . 5 30 . 4 や と い 14 . 5 24 . 6 き ん 8. 7 17 . 4 こ い る 8.7 21 . 7 い ろ 55 . 1 68 . 1 は ら ん 55 . 1 63 . 8 さ く 21. 7 31 . 9 ひ や け 21 . 7 27 . 5 36 . 0 51 . 6 36 . 0 44 . 1 害 箇 肘 し わ 笠 応 ふ 計 計 熟知価 ・ 連想価においてほぼ同等 とみ られ る単語を選んだのであ るが, 正答率においては 著 し く 高い もの, 低卜も のがあ って, かな り広範囲に分布 して い る。 したがっ て これ ら の結 果を動機に関係づけ られた単語の性質だけで説明す る こ と は困難であ る。 おそ ら く 各単語 ・ 各対の間の意味的な相互関係や被験者の共通の経験や習慣 な ど も そ の原因 と な っ て い る であ ろ う。 なお刺激語は, こ の検査方法 に よ る と, 反応語の 2 倍提示 さ れ る こ と にな る。 しか し, 中 性語刺激一中性語反応はこれ と対応する よ うに刺激語の再生がよいけれ ども, 中性語刺激― 性関係語反応で は反応語の再生がかえ っ て よ く な っ て い る。 これは明 らかに反応語の動機関 係的性質に起因す る と みて よかろ う。 実 日的 験 2 食 に 関 係 の あ る 単 語 ( 食 関 係 語 ) を 刺 激 語 ま た は反 応 語 と す る対 連 合学 習 に お い て , 絶食群は飽食群よ り払 食関係語を刺激とする中性語の反応に高い正答率を示す とい う Epstein。 6 94 石 黒 彭 二 (9) S. ら の報告があ る。 これを 実験的に検証 し て, 実験 1 の性関係語の場合 と 比較対照す る。 方法 (1) 被験者 大学生男子18名, 女子16名, 合計34名。 すべて 1年次お よび 2年次の : 飽食群 ( 男子 9 名, 女子 8 教養課程の学生であ る。 これを 絶食群 ( 男子 9 名, 女子 8 名) 名) の 2 群 に分け る。 (2) 記憶材料 小柳恭治 ら ( 1959y の日本語 3音節名詞の熟知価の表から, 熟知価3. 50~ 3。99の名詞 126 語を抽 出 し, 被験者 と 同年次の大学生男子50名, 女子50名合計 100 名につ い て, 実験 1 の材料の場合 と 同 じ手続 きで連想検査を実施 した。 そ の結果に基づいて, 食に関 係のあ る連想語数の多卜 も の ( 食関係語) 14語 と そ の よ う な連想語を。ほ と ん ど も た な い もの ( 中性語) 28語, 合計42語を選び, 実験 1 の場合 と 同様 の構成に よ り表 7 に示す よ う な21対 の記憶材料を 作成 した。 表 7. 刺 類 激 連 別 中 ¦語 反 応 想 語 反 性 食 関 係 合 応 数 連 計 語 想 語 数 提 示 語 中 性 食 関 係 合 計 け い と 1 . 68 0 1. 68 さ う 0 . 28 1. 32 も り 1 . 33 0 1. 33 す る め 0 . 22 1 . 18 か た 1. 73 0 . 01 1. 74 お や つ 0 . 29 1 . 17 1. 46 せ ん ろ 1 . 55 0 1. 55 さ 0 . 12 1 . 32 1 . 44 と し み 1 1 . 6 0 1. 40 も つ 1. 46 0 1. 46 か れ い 0 . 44 0 . 88 1. 32 ら い 1 . 31 0 1. 31 こ め や 0 、30 0 . 73 1. 03 ら い 1 . 39 0 . 01 1. 40 ゆ の み 0 . 19 1. 25 1. 44 お は ち し た 激性 語 提 示 語 aで お 瓢 ゆ 門 に 震わ 応 食 関 係 語 刺中 記憶材料 と連想語数 ( 1人平均) 0 . 27 0 . 76 1 . 03 ひ と み 1 、42 0 1. 42 る こ 0 . 11 1. 28 1. 39 き せ つ L 34 0 . 04 1 . 38 い わ 1. 64 し 0 . 28 1 . 08 1. 36 た い や 1 、64 0 ら む ね 0 . 18 1. 23 1. 41 か わ 1 . 28 0 1. 28 あ ら れ 0 . 45 0 . 95 1 . 41 ら い と 1 、37 0 1. 37 か い し や 0 . 34 0 . 86 1. 20 ぬ り え 1 . 44 0 . 01 1. 45 に も の 0 . 17 1. 19 1. 36 す あ し 1 . 50 0 1. 50 す み れ 1 . 50 0 . 02 1 . 52 か お く 1 . 25 0 1. 25 さ り 1 . 29 0 1. 29 の は ら 1. 60 0 1. 60 に す 1 . 55 0 . 01 1. 56 こ 1. 43 0 . 01 1. 44 虎 く 薪 て 竹 ま 箆 え 応 と り な っ 1. 68 0 . 04 1. 72 り え き 1. 25 0 1 . 25 ほ ん 0 . 98 0 . 07 1. 05 ふ く ろ 1 . 15 0 . 09 1. 24 ほ ん 1 . 32 0 1 . 32 あ と む 1. 60 0 1. 60 は や し 1 . 32 0 . 07 1. 39 い ん き 1 . 50 0 1. 50 み (3) 実験手続 全被験者を I 教室で同時に行な う ( 団体実験) 。材料は発音の明瞭 な女声に よ り, テ ー プ レコ ーダーを 用いて聴的に提示 し, それにあわせ て, 36×26cmの大 き さ の白紙 に 1対ずつ 縦書に した材料を 1枚ずつ示す。 1対の提示時間は 3 秒, 間隔時間は 3 秒 とす る。 21対 の全部 を 提示 した あ と , 直 ち に再生検査を 行な う。 再生検査は適中法に よ り, テ ープ レ コ ー ダーで 刺激語を 聴的に提示す るのに合わせて, 学習時 と 同様の白紙に刺激語だけ記 した ものを見せる。 そのほかの手続きは全く 実験 1 と同じ。 ただ し学習と再生検査は3回反復す るが, 把持 検査は行なわな い。 なお飢え の動機を 統制す るため, 次の条件を 設定 した。 全被験者が午前 8 時 までに朝食を 7 言語材料 の記憶におけ る動機づけの効果 95 と り, 絶食群の被験者は昼食を と ら な い。 飽食群 の被験者は必ず昼食を と り, 次いで 3 時20 分 ( 実験開始前) にパ ソ 1個を摂食。 絶食群に対 しては実験終了後摂食 させ る こ と を約束 し た。 実験開始は午後 3 時40分 と した。 したがっ て絶食群は 7 時間40分以上絶食 した こ と にな る。 こ の間絶食群の被験者は飽食群 と 同様 日常の課業に服 して いた。 絶食群 と飽食群の被験 者の選定は, 学生の 自由意志に よ っ た。 絶食群の予定者で誤 って昼食を と っ たため除外 した 被験者が 2 名あ った。 また飽食群の予定者で睡眠不足あ る いは胃腸の不調を 訴え る も の 3名 も除外 した。 (4) 教示 空腹時と満腹時の記憶能力の変化を調査す るための実験であるが, 心理学実験 の手続 きを体験 し習得す るための実 習であ る と説 明 して, 実験への協力を 求めた。 結果 (1) 食関係語 と中性語の正答の比較 提示 された時の刺激語 と結合 して正 し く 再生 さ れた も のを 正答 とす る。 再生検査 の結果を 正答につ いて 集計 した も のが, 表 8 で あ る。 実 表8. 験 1 の場合 よ り も正答率が高いのは, 材料の 絶食群 と飽食群の正答率 試行 回数 1 2 3 1 ~ 熟知価が 1段階高 く な っ て い る こ と, 聴的提 示に視的提示を 併用 した こ と な どに よ る と思 3 計 S 中- R 食 31 . 1 66 . 4 88 . 2 6 1. 9 われ る。 実験 1 の場合 と のも う 1つ の違 いは, S 食 - R 中 32 . 8 71 . 4 90 . 8 65 . 0 第 1 回の再生検査か ら一貫 し て 中性語刺激一 S 中- R 中 38 . 7 84 . 0 95 . 8 72 . 8 絶 食 中性語反応の正答率が最 も高 く 両群 に共通 し 群 計 34 . 2 74 . 0 91 . 6 66 . 6 て い る こ と, しか も食関係語刺激一中性語反 応の正答率が飽食群 よ り絶食群につねに高 く S 中- R 食 30 . 3 70 . 6 92 . 4 61 . 9 S 食 - R 中 19 . 3 64 . 7 87 . 4 57 . 1 そ こ で 1 ~ 3 回合計正答数 につ い て, 実験 S 中一R 中 43 . 7 82 . 4 98 . 3 74 . 8 条件 2 ×記憶材料 3 ×被験者 17の要 因に よ っ 31 . 1 72 . 6 92 . 7 65 . 5 て分散分析す る と , 表 9 の よ う に材料差 が有 表われて い る こ と で あ る。 飽 食 群 計 意なだけ で な く , 実験条件 と記憶材料の交互 表9 作用が有意であ る。 したがっ て絶食群が飽食 絶食群 ・ 飽食群の正答率の分散分析 df V MS F 群 と は記憶材料に対 して異な る反応 を 示 して P 卜る こ と にな る。 これが材料に対す る鋭敏化 実験条件 A 1 1. 41 記憶材料 B 2 70 . 01 18 . 14 0 . 01 実験1あるいは, さらにさきの実験監みられ 2 12 . 73 3 . 30 0 . 05 た性関係語への影響 と はい さ さ か異な る性質 差 32 28 . 88 7 . 48 0 . 01 の も ので あ る と み な けれ ばな ら な い だ ろ う。 差 64 3 . 86 A 個 X 体 誤 T B - あ る い は防衛のた めの抑圧で あ る と し て も√ (2) 誤答 さ きの実験(t 同 じ基準に よって, 両群の誤答を 比較 してみ よ う。 刺激語 と反応 101 語を 誤 っ て結合 した も の, 意味のあ りな しに 関係な く 3 音節の提示語にな い単語 は誤答 とす る。 2 音節 また は I 音節の も の, お よび無記 入の も のは無答 とす る。 こ の誤答を 3 回 まで全部集計 し て分類 し た も のが表10で あ る。 誤答の総数が少ないので, 十分な手がかりとはならないが, さきの実験苓みられた男女差 ほ どに明瞭 な差が絶食群 と飽食群の間にはみ られな い。 実 日的 験 3 性 関 係 語 と 食 関 係語 反 応 を 含 む 材料 の対 連 合学 習 に お い て , 性 関 係 語 あ る い は食 関 係語に と く に重点を 置いて学習す る よ う 指示 し た場合に, こ の被験者の意図あ る いは構えを 8 96 石 表10. 誤 黒 彭 二 誤答 と 無答の類別出現度数 ( % ) 答 類 別 絶 食 群 飽 食 群 中性語 と対にな っ た食関係語 0.8 1. 0 食関係語 と対に な っ た中性語 1. 1 1. 5 中性語 と対にな っ た 中性語 0 .4 0 .2 刺激語に も反応語に もな い単語 1. 7 1. 9 無 答 29 . 4 29 . 9 合 計 33 . 4 34 . 5 50 . 0 61 . 1 中性語 100 に対す る食関係語の出現数 ( 理論値 = 50) あ る材料に焦点づけ よ う とす る教示の再生に及ぼす効果を , それのな い場合 ( 統制群) と比 較 し検討す る。 方法 (1) 被験者 能力ほぼ同等 とみ られる男子お よび女子短大の学生。 男子13名, 女子 13名, 合計26名か らな る被験者群を 3群構成 し, 性関係語重視 ( A) 群, 食関係語重視( B) 群お よび統制 ( C) 群 と す る。 (2) 記憶材料 小柳恭治ら ( 1959y の日本語 3音節名詞の熟知価の表から, 熟知価3. 00~ 3。49の名詞189語を 抽出 し, 被験者 と 同 じ大学 の学生男女それぞれ50名, 合計100名につ いて 実験 1 お よび実験 2 の材料 と 同 じ手続 きで, 性関係語 ・ 食関係語お よび中性語を 選び, 表11 表11. 刺 類 激 語 連 別 性 害 ふ 鉛 かゆ 弩 う む 震 応 応 食 中 計 語 連 提 示 語 想 語 性 食 い ろ け 1. 20 0 . 07 0 . 10 1. 37 り ろ ん 1. 25 0 0 . 14 1 . 39 中 計 し 0 0 . 12 1. 33 1 . 45 ん き 0 0 1 . 06 1. 06 の う 0 0 1. 36 1. 36 さ い し 1. 10 0 0 . 15 1. 25 う ひ 0 . 03 0 1. 64 1 . 67 み あ い 1 . 23 0 . 02 0 . 16 1. 41 ち わ 0 0 . 02 1 . 45 1 . 47 め か け 1 . 22 0 0 . 10 1. 32 0 0 1. 16 1. 16 ら た い 1. 17 0 0 . 14 1. 31 り え 0 . 01 0 . 01 1. 34 1. 36 や も め 1. 12 0 . 01 0 . 17 1 . 30 き は く 0 . 02 0 1 . 20 1 . 22 ら い つ 0 1. 44 0 . 11 1 . 55 ほ け 0 . 04 0 . 01 1 . 57 1. 62 か つ お 0 1 . 12 0 . 34 1 . 46 よ く 0 0 1. 03 1. 03 も な か 0 . 01 1. 23 0 . 13 1. 37 た い 0 . 06 0 1. 40 L 46 さ か や 0 . 02 1. 17 0 . 28 1 . 47 害 瓢 ひさ 喉 ぬ か 萱 応 と い め 0 . 04 0 1. 38 1. 42 す い か 0 1. 12 0 . 57 1 . 69 ん な 0 0 . 02 1. 48 1. 50 に つ け 0 . 04 1. 20 0 . 07 1. 31 き ん 0 0 1. 33、 1. 33 か ら 0 1. 24 0 . 07 1. 31 や と い 0 . 03 0 1. 16 1. 19 し き ん 0 0 1. 08 1. 08 い る 0 0 1 . 18 1. 18 わ い ろ 0 . 02 0 1. 40 1. 42 は ら ん 0 . 04 0 1. 15 1. 19 ゆ み や 0 . 04 0 1. 37 1. 41 1. 80 よ 反 応 反 語 え き い 刺 激中 ¦性 語 想 提 示 語 う る 中 性 語 記憶材料 と 連想語数 ( 1 人平均) こ し ひ や け 0 . 03 0 1. 59 1. 62 つ み き 0 . 01 0 1. 79 け tヽ か 0 0 1 . 02 1. 02 へ い や 0 . 01 0 1. 05 1. 06 あ や め 0 . 02 0 1. 51 1. 53 て い き 0 0 . 01 1. 47 1. 48 か た わ 0 0 1 . 33 1. 33 よ そ う 0 . 05 〔) . 02 1. 14 1. 21 9 言語材料の記憶におけ る動機づけの効果 97 に示す よ う な21対の記憶材料を 作成す・る。 こ の場合, 刺激語はすべて 中性語で; 反応語に性 関係語, 食関係語お よび中性語を それぞれ 7 語ずつ含んで い る。 (3) 実験手続 男女別, 各群別に, 13名ずつの集団に よる団体検査。 材料の提示方法 (聴 的 ・ 視的提示併用 な ど) , 再生検査の方法な ど, す べて実験 2 と 同 じ。 た だ し学習 と 再生検査 は 5 回反復す る。 (4) 教示 被験者の学習への構えを統制す るため, 次の教示を与え る。 すなわち 3群 と も まず 「この検査が連想能力と記憶力を調べる知能検査の一種である」 と説明し, 続いて各群 にそ れ ぞれ次 の教 示 を す るo 教示 A I゛ 男女両性 に関係のあ る単語 の再生 に対 し て 2 倍 の評点を 与 え る ので, と く に重点 を お いて学習す る こ と 。 ( 性関係語重視群) 教示 B 飲食 に関係のあ る単語の再生に対 し て 2 倍 の評点を 与え る ので, と く に重点を お いて学習す る こ と。 ( 食関係語重視群) 教示 C 付加的な教示 は何 も与え な い。 ( 統制群) 結果 (1) 3群 における正答の比較 提示 された刺激語 と結合 して正 し く 再生 した場合を 正答 とす る。 5 回 まで の全体 ( 2! 対) の正答率の進歩を 示 した も のが図 1 で あ る。 A ( 性関 係語重視) 群, B ( 食関係語重視) 群, お よび C ( 統制) 群が と も に非常に近似 し た学習曲 線を 示 し て い る。 す なわち教示の相異に も かかわ らず, 3 群 は全体 と して はほぼ等量の学習 を して い る こ と にな る。 そ こ で次に各材料別に正答率を 比較 してみる。 第 4 回以後は正答率 が平均90% を 超 え る ので, これか ら の比較分析 で は除外す る。 第 3 回 まで各回の材料別正答 率を 示す と 図 2 a- cの よ う にな る。 これを 通 覧す る と, 各群 と も性関係語 の正答率が最初 ( 第 1 回) に最 も高 く , 回を 重ね る に従 っ て重視す る学習材料の正答率が高 く な る。 統制群 で も 3 回 目には性関係語の再生がやや低下 し て 中性語の再生が最高 と た っ て い る。 これを 各 回毎に, 教示条件 3 ×記憶材料 3 ×被験者26の要因に よ り分散分析七だ結果は表12のよ う に な る。 表12. 試 行 回 数 1「 df V MS 2 2 1 . 50 記憶材料 M 2 5 . 24 4 . 81 4 2 . 11 1. 94 差 75 5 . 46 5. 01 誤 差 150 1. 09 全 体 233 個 体 F 0 . 62 0 . 06 20 . 81 20 . 20 0 . 01 3 . 27 3 . 18 9 . 81 9 . 52 - O・. 01 3 MS P F 教示条件 I I X M 各回正答率の分散分析 0 . 01 1. 03 P MS F P 6 . 42 8 . 23 0. 01 0 . 05 4 . 58 5 . 87 0 . 01 0 . 01 5 . 52 7 . 08 0 . 01 0 . 31 0 . 78 第 1 回には性関係語が各群 で最高 の正答率を 示す こ と に よ っ て, 材料差は有意で あ るが, 教示条件 と記憶材料 と の交互作用は有意 でな い。 第 2 回以後教示条件 と材料 と の交互作用が 有意 と な り, 上述の一般的傾向か統計的に も裏付け された。 な お第 2 回以後は交互作用が有 意で あ るか ら, そ の差が主 と して どの 2 群間に顕著で あ るかを 確かめ るため, 比較検定 して み る と, 第 2 回で は B群対 C群の間で のみ交互作用が有意で あ る ( F = 5. 88, df= 2: 100, P = 0. 01) が, 材料差はすべての比較群に有意で あ る。 第 3 回では交互作用はすべて に有意で あ るが, 材料差 は B ・ C両群 の間で のみ有意 で な い ( F = 1. 26, ・df= 2: 100) 。 す な わち A群 10 石 98 図1 黒 彭 一 一 図 2a 全体 の正答 率 第 1 回 成 績 一一χ-一一 A群 - 一心 -- - B群 100 一一) く一一 A群 一一心 一一- B群 - O一 一 C群 100 べ )一 一 C群 0 9 0 a 0 8 0 Q 0 t o 70 正 0 Q 60 正 答 50 答 50 率 率 40 40 0 n 0 3 0 N 0 9` 0 1 10 % 0 % 2 1 4 3 学 習 0 5 回 S中 - R中 注. 図 2b 第 2 回 成 績 S中 - R性 S : 刺激語 R : 反応語 中 : 中性語 食 : 食関係語 性 : 性関係語 図2C 第 3 回 成 績 0 0 1 100 0 9 O 9 0 8 ヽ0 8 . / &へ 。 0 7 70 0 { n y 正 正 60 答 50 答 50 率 40 率 40 30 30 20 20 10 % S中 - R食 回 数 10 % 0 S中 - R中 S中 - R食 0 S中 - R中 S中 - R性 11 S中 - R食 S中- R性 言語材料 の記憶におけ る動機づけ の効果 99 では学習のは じめか ら性関係語め正答率が高いが, そ の後 も他の材料 と の関係を 変え る こ と な く 上昇す る に対 して, B群では初めは最 も低い正答率であるが後には他の材料に比べて, 有意 と はいえ な いけれ ど も最高の正答率を 示す よ う にな る。 こ こ に同 じ動機関係語 であ るけ れ ども, 飢え の動機 と性の動機の, 単語の対連合学習 と再生への関与の しかた が異な る こ と が明白と な っ たわけ であ る。 おそ ら く 両者の要求の発現形式や充足の方法の違 いか ら生ずる だけ で な く , それに対す る社会的文化的な統制な い し圧力, あ る いはそれ に基づい て形成 さ れた生活習慣な どに依存す る と こ ろ も大 きい も のがあろ う。 しか し反面, 学習への意図を統 制す る教示に対す る反応 と して, こ の結果を みる と き, 実験事態への導入前に形成 された と み られ る性関係語 と食関係語への指向的傾 向が異な る に もかかわ らず, こ の教示に よ って材 料に対す る新た な分化的反応 ( differenfial response) を 引 き起 こ した こ と は十分認めなけ ればな ら な い。 こ こ に また教示の一 つ の効果 を み る こ と がで き る ので あ る。 (2) 誤答 誤答については, 実験 2 と同 じ基準で, 3 回までに限定 して集計 し比較 した。 出現数が少な いので, 刺激語 と の誤 っ た結合は一括 して誤連合 と し, 刺激語に も反応語に も な い再生語を 侵入語 と し て表示す る と, 表13の通 りで あ る。 性関係語重視群 に侵入語がやや 表13. 多 く , 食関係語重 第 3 回まで に現われた正答 ・ 誤答無答 ( % ) 視群 に誤連合語が 群 答 誤連合 性関係語重視群 ( A) 53 . 0 1. 3 5.5 40 . 2 100 れ も信頼で き るほ 食関係語重視群 ( B) 53 . 9 2.6 4 、0 39 . 5 100 どの増加 と はみ ら 統 51 . 5 1. 6 4.9 42 . 0 100 れ な い。 制 正 群 ( C) 侵 入 結 無 答 計 やや多い が, いず 論 実験 1 の結果 は, 把持において, 刺激 と反応の正 しい結合を 問わな い と き, 性関係反応語 は他の組合せの反応語よりまさり, 梅本(1951yの印象語の結果と一致し, Epstein, S. (1962?) の結果と一致しない。なお梅本は刺激語よりも反応語の方がよく再生されるという が, 本実験の中性語刺激一中性語反応の対の刺激語は反応語 よ り, また他の刺激語 よ り よ く 再生 さ れて い る。 これは中性語の中に印象語 と な る よ う な単語が含 まれて い る ため と み る こ と も で き よ う が, 刺激語で あ る性関係語を 凌駕す る正答率 と な って い る原因は これだけ では よ く わ か ら な い。 Sears, R. R. ( 1936y が, 「不快 刺激 の提 示 だ け で は 防衛 を ひ き起 こ す 条件 とはな らない. 被験者が自尊心 と、 意識的習慣に関係す る高い動因と コ ンフ リ ク ト の状態に 、‥ ・. ‥ . ‥ _ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ _ ‥ ‥ . 、 ‥ ‥ . ‥ ( 9 ) ある こ と が必要であ る」 と述べて い る こ と を 考慮すれば, 本実験の場合に, Eptein, S丿の 場合 よ りそれが弱い とみる こ と に よ っ て, 再生の禁止があ らわれなか っ た と 解す る こ と がで き よ う。 さ きの実験 で男子実験者の も と での女子被験者に再生禁止があ らわれ, しか し女子 実験者の偶然的学習で はそれがみ られなか っ た こ と を 考え る と, こ こ で用 いた性関係語が危 機語あ るいは禁忌語 と して の性質を それぼ ど強 く 含んで いない とみる こ と も で き るか も しれ な い。 個 々の単語の正答率を 調べた 中で, みれん ( 刺激語) , ち かん ( 反応語) か と く に低か 147 a ったが, これ らが著 し く 高い情動価を 含んで い るために禁止が働いた とみ る こ と はいかに も 1 9 も っ と も ら しいが, それを支持す る資料が他にな いので, 今後の検討に まつほかはない。 実験 2 の結果 は, Epstein, S?) や Lerner, R. G? め結果 と, 食関係証刺激に対す る反応 語の再生の増加がみられる点で一致している。ム をれはGibson, E. J. (1940yのいうように, 飢え の動機が食関係語を 他の語か ら分化 さ せ る働 きを も って いる と解す る こ と も で き よ う し, ㈲ A I lport, F . H . ( 1955) , のい う よ う に, 飢 え た 生活体 が食物 に関す る語 に注意 す る 構 え を 作 12 石 100 黒 彭 一 一 た被験者は全体 と して飢え て いな い被験者 よ り も速やかに学習 した と いい, それが高め られ た動因の働 き に よる も のだ と して い。るが, 本実験 において は, そ の よ う な現象は認め られな か っ た 。 E pstein(9レ) 被 験 者 は 4 - 5 時 間 の 絶 食 で あ る が , 本実 験 の被験者 は 7 - 8 時間 の絶 食であることも何らかの要因として働いているかもしれない。 また, Epstein (9ぽ飢えが食関 係語の再生の増加を もた らすが, その反面中性語の減少を その代償 と して も った と し, 選択 的構え が他の材料う の不注意を も た らす と述べて い る。 本実験で はこ の点 も それほ ど顕著に は認め られ な い。 実験 3 の結果は, 教示に よる特定の材料の学習への焦点づけを 明瞭 に示 して お り, 性関係 語重視 と食関係語重視の教示が分化的反応を意図的に作 り出す こ と に有効で あ っ た こ と がわ かる。 しか し性関係語重視群の性関係語の再生は学習の初期か ら最高で あ っ た のに対 し て, 食関係語重視群の食関係語の再生は, 学習の初期に低 く , 学習の進むに従 っ て進歩す るが, 他の語 よ り明確に ま さ る と はいえ な いほ どで あ っ た。 これは前述の よ う に動機の発現形式や それ と社会的文化的圧力との関係の差異に よる ものであろ う。 き きの実験(8)( 性関係語 と異性 実験者 の関係) と 本研究の実験 2 の差異 も そ の よ う な要因に基づ く も の と 思われ る。 と にか く ここ に学習材料の動機関係的性質の差異 ( 動機価 : motivational マalue) の意図的学習と 把持に及ぼす効果の一端を確証 しえた と考えて も よいであろ う。 しか し こ こ で取 りあげた材 料り 動機関係的性質を, 強 さ と方向を含み, 質的に も量的に も取 り扱い う る よ うに考案す る なノらば, そ の関係はよ り明確に と らえ る こ とがで き る よ うにな るであろ う。 それは今後に残 さ れた 問題で あ る。 ダ 参 (1) 考 文 献 Postman, L. 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