2-06

新規血漿カリクレイン阻害剤のプロセス開発研究
アステラス製薬(株)
○平澤
俊、髙村義徳、角田
隆、高橋
工
概要
血漿カリクレイン阻害剤 1 は、血管透過性亢進抑制作用に伴う遺伝性血管浮腫発作治療、及び心手術時の
輸血量/輸血機会低減を適応症とした開発候補化合物である。構造上の特性として、アミジン、アミン、カル
ボン酸といった高極性官能基を有している。分子特性に基づいたプロセス開発により、メディシナル合成法
における問題を克服し、高収率且つ高純度で 1 を与える大量合成法を確立した。プロセスの堅牢性を 100 g
スケール合成によって検証した。本発表では主に最終 2 工程におけるプロセス開発研究の詳細を報告する。
O
O
N
N
OH
CHO
O
CHO
2
O
H2N
O
O
NH2
N
H
NH2
2HCl
・ジオキサン使用
・水分量制御
O
N
NH
N
H
・低収率
O
3
O
NH
4
O
・逆相カラムクロマトグラフィーが必要
O
NH
N
H
N
HCl aq.
逆相カラムクロマトグラフィーの回避
N
H2N
O HN
RO
8
体 9 は後の工程での除去が困難である
NH
H2N
4HCl
O
N
1) HCl aq.
2) acetone
crystallization
74%
O
N
N
OH
O
O
O HN
O
O HN
O
N
H
OH
O
+ H2N
O HN
N
H
3HCl
O
N
OH
O
H2N
ROH
Cl
た反応で副生するアミジンの加水分解
NH
HCl aq.
O
N
H
であった。7 は非常に極性が高く、ま
マトグラフィーは、コスト、生産性、
Cl
1
N
O
O
であり、結晶化による単離精製は困難
った。大量合成法においてカラムクロ
N
H
HCl
2H2O
Cl
O
O HN
7
O
N
NH
合成法で得ていた 3 塩酸塩 7 は非晶質
マトグラフィーによる精製が必須であ
65%
OH
O
メディシナル合成法および主な課題
Scheme 1
ことから、本工程での逆相カラムクロ
N
H2N
N
H
3HCl
(MeCN-H2O)
89%
NH
acetone aq.
O
O HN
O
N
OH
O
H2N
逆相カラムクロマトグラフィー
6
脱保護工程において、メディシナル
N
dioxane
N
H
Cl
5
NH
O
O HN
Cl
O
N
O
O
O
N
H
Cl
Cl
7
amorphous
9
-NH3
hydrolysis
O
N
NH
N
N
H
OH
O
RO
O HN
O
N
H
Cl
11
crystal
Cl
10
Scheme 2
4 塩酸塩 11 の単離
環境負荷および設備制限の観点から避けることが望ましい。特に、含水溶媒を用いる逆相系のカラムクロマ
トグラフィーは水の濃縮を行うため、さらに非効率的、非経済的であり、最も回避すべき操作の一つである。
まずは 9 の副生を抑制するべく、反応条件検討を行った。メディシナル合成法で使用していたジオキサン
は、作業者と環境への負荷が大きいため、溶媒をアルコール系へ変更し、種々検討したが、アミジンの加水
分解を抑制することはできなかった。HCl aq./n-BuOH 系と HCl aq./IPA 系における 9 の副生量を比較すると、
HCl aq./n-BuOH 系で 9 を多く与えることが分かった。このことより、アルコールがアミジンを求核攻撃し、
生じたイミデート 10 が加水分解されることで 9 が副生したものと考えられた。そこで、求核性の弱い水のみ
を溶媒にするため、8 の水溶性向上を試みた。塩基性の低い窒素もプロトン化すべく、大過剰の HCl aq. (20
当量) を用いて反応を行ったところ、アミジンの加水分解はほぼ抑制され、目的物が結晶として析出するこ
とが判明した。さらに、反応終了後アセトンを貧溶媒として加えることにより、目的物を高品質の結晶とし
て単離することができた (Scheme 2)。得られた結晶は、メディシナル合成法にて得られていた 3 塩酸塩 7 で
はなく、4 塩酸塩 11 であった。副生成物を抑制した反応条件を構築し、結晶化により単離精製可能な新規塩
形態を見出したことで、逆相カラムクロマトグラフィーを回避することができた。
pH 制御による 1 の晶析法の開発
晶析条件を設定するに当たり、まずは 80%アセトン水溶液
溶媒中における、pH と 1 の溶解度の相関を調べた (Fig. 1)。
pH 5.0 以下となると溶解度が急激に上がり、pH 6.0 以上では
結晶多形が混入することが分かった。これより、結晶多形の
混入がなく、安定した溶解度を与える pH として 5.5±0.2 を設
結晶多形混入
定した。
4 塩酸塩 11 のアセトン水溶液を pH 5.5±0.2 に調整後、
晶析液の pH を経時的にモニタリングしたところ、結晶の析出
とともに、徐々に pH が下がっていく現象が確認された。
Fig. 1
O
N
NH
N
OH
O
H2N
O
O HN
N
acetone aq.
NH
(n+1)HCl
OH
O
H2N
N
H
Cl
N
O
O HN
N
H
2H2O
Cl
+ nHCl
HCl
1
n = 1-3
1 の溶解度
溶液中で目的分子は 2-4 塩酸塩とし
O
て存在すると考えられるが、結晶は 1
塩酸塩 2 水和物 1 として析出するため、
結晶の析出に伴い、塩酸が遊離する
(Scheme 3)。低収率であった原因は、pH
Scheme 3
1 の結晶化と塩酸の遊離
が酸性側に傾いたことによる溶解度の
上昇であることが判明した。
pH 5.5±0.2 に安定するまで複数回 pH 調整を行うこと
で、遊離した塩酸が中和され、平衡が右に傾き、収率向上
が見込めると考え検討を行った (Fig. 2)。pH 5.5 に調整後、
20 °C で終夜熟成させると pH は 4.9 まで低下した。結晶多
形が混入しないよう pH 6.0 以下を確認しながら、pH 調整
と熟成を 3 度繰り返したところ、管理値の pH 5.5±0.2 に
安定化した。濾過、乾燥を経て、収率 89%で 1 を得るこ
とができた。本プロセスにより、上澄み濃度が安定化し、
収率 90%程度で再現よく 1 を得られるようになった。
Fig. 2
晶析検討
乾燥条件の開発
1 は 2 水和物であるが、乾燥条件により結晶水が遊離するこ
とが分かっていた。結晶水を離した 1 に対して、吸湿を行い、
2 水和物へ変換させることは困難と想定されたため、直接 2 水
和物を取得可能な乾燥条件を開発することとした。まず自動
蒸気吸着量測定装置を用いて 25 °C および乾燥温度の 50 °C の
水分吸脱着量を測定した (Fig. 3,4)。25 °C の条件で、通常湿度
条件下 (相対湿度 50-60%) では約 2.1 分子の水含量であるこ
とが判明したため、2.1±0.2 分子の水含量を目標値と設定した。
Fig. 3
水分吸脱着曲線 25 °C
Fig. 4
水分吸脱着曲線 50 °C
乾燥温度 50 °C での脱着曲線において水含量が目標値の範囲
となるのは、相対湿度 6%から 85%であった。50 °C の飽和水
蒸気圧は 12.3 kPa であるから、
その 6%、
85%はそれぞれ 0.7 kPa、
10.5 kPa に相当する。すなわち、50 °C の乾燥条件では、減圧
度を 0.7-10.5 kPa に管理することで、目標とする水含量の結晶
が得られることとなる。減圧度調節による水含量の制御プロ
セスは、100 g スケールの検証実験でも再現性が確認された。