新規血漿カリクレイン阻害剤のプロセス開発研究 アステラス製薬(株) ○平澤 俊、髙村義徳、角田 隆、高橋 工 概要 血漿カリクレイン阻害剤 1 は、血管透過性亢進抑制作用に伴う遺伝性血管浮腫発作治療、及び心手術時の 輸血量/輸血機会低減を適応症とした開発候補化合物である。構造上の特性として、アミジン、アミン、カル ボン酸といった高極性官能基を有している。分子特性に基づいたプロセス開発により、メディシナル合成法 における問題を克服し、高収率且つ高純度で 1 を与える大量合成法を確立した。プロセスの堅牢性を 100 g スケール合成によって検証した。本発表では主に最終 2 工程におけるプロセス開発研究の詳細を報告する。 O O N N OH CHO O CHO 2 O H2N O O NH2 N H NH2 2HCl ・ジオキサン使用 ・水分量制御 O N NH N H ・低収率 O 3 O NH 4 O ・逆相カラムクロマトグラフィーが必要 O NH N H N HCl aq. 逆相カラムクロマトグラフィーの回避 N H2N O HN RO 8 体 9 は後の工程での除去が困難である NH H2N 4HCl O N 1) HCl aq. 2) acetone crystallization 74% O N N OH O O O HN O O HN O N H OH O + H2N O HN N H 3HCl O N OH O H2N ROH Cl た反応で副生するアミジンの加水分解 NH HCl aq. O N H であった。7 は非常に極性が高く、ま マトグラフィーは、コスト、生産性、 Cl 1 N O O であり、結晶化による単離精製は困難 った。大量合成法においてカラムクロ N H HCl 2H2O Cl O O HN 7 O N NH 合成法で得ていた 3 塩酸塩 7 は非晶質 マトグラフィーによる精製が必須であ 65% OH O メディシナル合成法および主な課題 Scheme 1 ことから、本工程での逆相カラムクロ N H2N N H 3HCl (MeCN-H2O) 89% NH acetone aq. O O HN O N OH O H2N 逆相カラムクロマトグラフィー 6 脱保護工程において、メディシナル N dioxane N H Cl 5 NH O O HN Cl O N O O O N H Cl Cl 7 amorphous 9 -NH3 hydrolysis O N NH N N H OH O RO O HN O N H Cl 11 crystal Cl 10 Scheme 2 4 塩酸塩 11 の単離 環境負荷および設備制限の観点から避けることが望ましい。特に、含水溶媒を用いる逆相系のカラムクロマ トグラフィーは水の濃縮を行うため、さらに非効率的、非経済的であり、最も回避すべき操作の一つである。 まずは 9 の副生を抑制するべく、反応条件検討を行った。メディシナル合成法で使用していたジオキサン は、作業者と環境への負荷が大きいため、溶媒をアルコール系へ変更し、種々検討したが、アミジンの加水 分解を抑制することはできなかった。HCl aq./n-BuOH 系と HCl aq./IPA 系における 9 の副生量を比較すると、 HCl aq./n-BuOH 系で 9 を多く与えることが分かった。このことより、アルコールがアミジンを求核攻撃し、 生じたイミデート 10 が加水分解されることで 9 が副生したものと考えられた。そこで、求核性の弱い水のみ を溶媒にするため、8 の水溶性向上を試みた。塩基性の低い窒素もプロトン化すべく、大過剰の HCl aq. (20 当量) を用いて反応を行ったところ、アミジンの加水分解はほぼ抑制され、目的物が結晶として析出するこ とが判明した。さらに、反応終了後アセトンを貧溶媒として加えることにより、目的物を高品質の結晶とし て単離することができた (Scheme 2)。得られた結晶は、メディシナル合成法にて得られていた 3 塩酸塩 7 で はなく、4 塩酸塩 11 であった。副生成物を抑制した反応条件を構築し、結晶化により単離精製可能な新規塩 形態を見出したことで、逆相カラムクロマトグラフィーを回避することができた。 pH 制御による 1 の晶析法の開発 晶析条件を設定するに当たり、まずは 80%アセトン水溶液 溶媒中における、pH と 1 の溶解度の相関を調べた (Fig. 1)。 pH 5.0 以下となると溶解度が急激に上がり、pH 6.0 以上では 結晶多形が混入することが分かった。これより、結晶多形の 混入がなく、安定した溶解度を与える pH として 5.5±0.2 を設 結晶多形混入 定した。 4 塩酸塩 11 のアセトン水溶液を pH 5.5±0.2 に調整後、 晶析液の pH を経時的にモニタリングしたところ、結晶の析出 とともに、徐々に pH が下がっていく現象が確認された。 Fig. 1 O N NH N OH O H2N O O HN N acetone aq. NH (n+1)HCl OH O H2N N H Cl N O O HN N H 2H2O Cl + nHCl HCl 1 n = 1-3 1 の溶解度 溶液中で目的分子は 2-4 塩酸塩とし O て存在すると考えられるが、結晶は 1 塩酸塩 2 水和物 1 として析出するため、 結晶の析出に伴い、塩酸が遊離する (Scheme 3)。低収率であった原因は、pH Scheme 3 1 の結晶化と塩酸の遊離 が酸性側に傾いたことによる溶解度の 上昇であることが判明した。 pH 5.5±0.2 に安定するまで複数回 pH 調整を行うこと で、遊離した塩酸が中和され、平衡が右に傾き、収率向上 が見込めると考え検討を行った (Fig. 2)。pH 5.5 に調整後、 20 °C で終夜熟成させると pH は 4.9 まで低下した。結晶多 形が混入しないよう pH 6.0 以下を確認しながら、pH 調整 と熟成を 3 度繰り返したところ、管理値の pH 5.5±0.2 に 安定化した。濾過、乾燥を経て、収率 89%で 1 を得るこ とができた。本プロセスにより、上澄み濃度が安定化し、 収率 90%程度で再現よく 1 を得られるようになった。 Fig. 2 晶析検討 乾燥条件の開発 1 は 2 水和物であるが、乾燥条件により結晶水が遊離するこ とが分かっていた。結晶水を離した 1 に対して、吸湿を行い、 2 水和物へ変換させることは困難と想定されたため、直接 2 水 和物を取得可能な乾燥条件を開発することとした。まず自動 蒸気吸着量測定装置を用いて 25 °C および乾燥温度の 50 °C の 水分吸脱着量を測定した (Fig. 3,4)。25 °C の条件で、通常湿度 条件下 (相対湿度 50-60%) では約 2.1 分子の水含量であるこ とが判明したため、2.1±0.2 分子の水含量を目標値と設定した。 Fig. 3 水分吸脱着曲線 25 °C Fig. 4 水分吸脱着曲線 50 °C 乾燥温度 50 °C での脱着曲線において水含量が目標値の範囲 となるのは、相対湿度 6%から 85%であった。50 °C の飽和水 蒸気圧は 12.3 kPa であるから、 その 6%、 85%はそれぞれ 0.7 kPa、 10.5 kPa に相当する。すなわち、50 °C の乾燥条件では、減圧 度を 0.7-10.5 kPa に管理することで、目標とする水含量の結晶 が得られることとなる。減圧度調節による水含量の制御プロ セスは、100 g スケールの検証実験でも再現性が確認された。
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