My Challenge 循環器内科 尼崎中央病院 心臓血管センターのご紹介

My Challenge 循環器内科
尼崎中央病院
心臓血管センターのご紹介
尼崎中央病院心臓血管センター長 小松 誠
尼崎中央病院心臓血管センター特別顧問 児玉和久
問題点と改善点
①民間病院は研究費が得られにくい
→研究において費用のかからない方法を考え出す
②新しい発想を学んだり実践する教育の場がなかなかない
→臨床と研究の間に距離はない。考える習慣をつけ、学会、論文発表まですすめていく
③常に最新機器が手に入るとは限らない
→機器に頼らない研究をする
当科の特徴
われわれは、血管内視鏡、心臓CTという 2 つの大きな画像診断モダリティを専門とし
ている。血管内視鏡は vulnerable plaque を明瞭に描出できるモダリティである。また心
臓CTにおいては新技術を次々に国内外に情報発信している。たとえば、心臓CTでは「4ml
という世界最小量の心臓 CT」やこれまでできなかった、
「染まりを調節できる心臓 CT」
という独自の方法を作ってきた。「これまでの常識」にとらわれることなく、しかもこれら
を、お金をかけずに考え出していくというやりかたで、循環器科専門病棟設立 4 年にして、
院内でも放射線技師をはじめとするコメディカルともども一丸となったまとまりをみせ、
その独自なカラーを近隣や全国の先生方からご評価いただいている。研究するのは大学や
大学院時代だけではない。受験時代から今までに至るまで、ユニークな発想を実現させる
教育はほとんどなかったことはこれまでの経験からご存知であろう。こういった経験をぜ
ひ若い先生に実感していただきたき、われわれとともに医学を発展させていただきたい。
病院紹介によくある「XX年に創立し」云々という過去の話はホームページを見てもらえ
ば分かるので割愛する。過去成長していても現在はそれほどでもないという施設も見聞き
するし、その逆もあろう。症例をどれだけ大事に扱うかは、症例数には表れるものではな
い。今何を活発に行っているかが重要である。
1
当科の特筆すべき特徴
当科は一通りの循環器診療が可能である。それだけでなく、当科にご紹介されたことの
ある先生方はすでにご存じであるが、不安定狭心症が疑われる症例はできるだけその日に
結論が出るように、空き時間に心臓 CT を行うようにしている。また、多くの場合、夜間
でも緊急で撮影できる撮影が整っている。早ければすぐに、遅くても夕方までには撮影し、
1 時間以内に説明している。これは、当たり前のようで各コメディカルの理解と協力が必要
なことで、むしろできるところは極めて少ない。低侵襲の心臓 CT のためにわざわざご紹
介くださる大学病院レベルの施設の先生方もいらっしゃる。
また、院内の患者さんへの掲示物や配布物には、こんな本を出版しました。こんな学会
で発表しましたなどと色々なところに書いてある(図1)
。そのため、われわれが探究的な
目で診療していることを患者さんはよく理解をしてくれて、
「学会気をつけて行ってらっし
ゃい」だとか、
「アメリカはどうでしたか?」などと声をかけてくれる。臨床と研究の間に
距離はないとわれわれは考えている。血管内視鏡などの画像も患者さんに見せている。プ
ラーク破たんの像は説得力があり、病識を向上させるのにも役立っている。
JR 尼崎は JR 大阪駅から新快速で 7 分程
(図1)扉一面貼られたその年の発
表や論文など。
度、伊丹空港(大阪国際空港)から車で
20 分の近い距離にある。また、JR 尼崎
駅からはペデストリアンデッキが病院の
ごく近くまでつながっている。再開発で
人口が急速に増加し、夜間でも安全であ
る。
2
血管内視鏡の啓蒙と工夫
ご存知の通り、冠動脈プラークを観察するモダリティはさまざまなものがあるが、血管
内視鏡は現在日本だけで使用できる。われわれは NPO 血管内映像化機構主催でTCIF
(Trans Catheter Imaging Forum)を毎年 5 月に大阪で開催しているが、そのなかで、
これらのモダリティ(Gray-scale IVUS, VH-IVUS, OCT, 血管内視鏡)を比較している。
このなかで、どれにもみえなかった鮮やかなプラーク破たんが血管内視鏡だけで観察され
る症例が毎年登場する。それらの比較において第一線の先生方のディスカッションは大変
勉強になると、冠疾患学会でビデオライブとして特集され、また日本心臓CT研究会でも
コラボセッションが開催されるなど様々な学会で紹介されている。次回は 2014 年 5 月
30 日(金)-31 日(土)に大阪国際会議場で開催される。
非阻血型の血管内視鏡は比較的安全ではあるが、血液を完全に排除することが時にむつ
かしいことがあった。血流が豊富なときなどは視野を得るのに苦労した。現在我々は独自
の工夫で、
「血液が邪魔をして視野が得られない」ということはほとんどなくなった。血管
内視鏡を用いたいくつかの臨床研究が進行中である。この分野は若い人材が求められてい
る。
研究するのに最新の機器が必要か
最新の機器をどのタイミングで導入するかは経営者の先見の明によるところが多いが、
その施設が常に最新の機器を持ち続けることは通常ほとんど困難である。機器は通常の 64
列CTという最新の機械でないものを使用しているが、最新でないから研究できないとい
うことはないと考えている。むしろ、われわれは世界最小量の心臓 CT やトップレベルの
低被ばくでの心臓 CT を行っている。最新の機器がやや有利で発表しやすいのは間違いが
ない。ホームページにこの地域で初、という宣伝文句が書けて、
「XXXの初期経験」ぐら
いの演題が出せるからである。ただ画像診断をはじめとした機器ならば高価である。次々
買い替えられるとも限らない。それに依存していては、
「新しい物好き」のユーザーにすぎ
ない。
「CTはどのようなものをお使いですか?」という質問でその施設の文明度を推し量
ることなどできないのである。
たとえば、CTのワークステーションは普通に買えば 1000 万円以上するが、実際に使
用していると、メーカーの担当者も答えられないバグや原因不明のエラーが頻繁に出るこ
とを経験するであろう。2012 年に大阪で開催されたライブデモンストレーションである
Trans Catheter Imaging Forum (TCIF)で呈示されて驚いたことだが、同じ画像を違う
ワークステーションで結果を比較してみると、同じ患者の冠動脈病変の狭窄度の数字がす
べて異なった結果であった。他人を信じるとそういうことになる。ワークステーションや
その会社を非難するつもりはない。
「解析する根拠はよくわからないが結果がこういう値を
示している」という脆弱な理屈の上に結果は成り立ちにくいのである。
3
「4ml での心臓 CT」
これを聞いた場合、よく、その量なら、まだほとんどが注入機のチューブ内に残ってい
るはずなのにどうやって染まるのですか?という質問を受ける。これまでの心臓 CT の研
究は「ノイズがこれ以下ではないといけない」という独自のルール、さらに「腕から心臓
に至る静脈は XXml なので」という理屈がこれまでの低侵襲を縛ってきた。目的は、病気
のあるなしを診断できればいいのである。そういうといい加減な印象を受ける先生方もい
るかもしれないが、私がかつて留学していたドイツのエアランゲン大学循環器科のアッヘ
ンバッハ先生は画質にうるさい人であった。Dual Source CT の発表を良くされていたの
で、最新鋭のCTがすぐ見られるかと思ったら、私が留学した時は循環器科には専用の 64
列CTしかなく、患者さんを同じ大学の医工学教室に連れて行って撮影していた。(同じ大
学といっても、車で 5 分以上はかかっていたと思うが。
)64 列CTでは、心拍コントロー
ルを厳密に 55-65 bpm の間で撮影することが良い画質を得る絶対条件であるとうるさく
言われた。ぶれがなければ、安心して診断できるのである。さらに、冠動脈が心筋に埋ま
っていなければ、心電図同期をかければ染まっていない単純CTでも curved MPR 画像が
出来上がる。それなら、思いつく最小の量で狭窄のない画像が出せればいいわけである。
80kVにすればCT値は上がる。
「80kV は石灰化やステント患者といった、全員に適
応できないではないか。
」という批判もあったが、たとえば石灰化がひどければやっても仕
方ないとCTを途中でやめる場合もあり、そもそも心臓CTをふくめどの検査も全てのひ
とに適応できないのである。一部の人にしか適応できない方法を作ることはよくないよう
に思われるが、
「今はたとえ一部の人にしか適応できなくても」将来を見越した発展の布石
を敷くということが重要である。
最初は感覚的なものである、この人はこれぐらいでできる、と 15ml, 12ml, 10ml, 8ml,
6 ml, 毎日低侵襲造影剤の記録であった。5mlでのテスト造影で大体の染まりが予想でき
るので、80kVでの染まりは予想できる。そしてついに 4mlの心臓CTができた
(Komatsu S, Kamata T, Imai A, Ohara T, Takewa M, Ohe R, Yoshida J, Kodama K.
Coronary computed tomography angiography using ultra-low-dose contrast media:
radiation dose and image quality. Int J Cardiovasc Imaging, 2013 Aug;29(6):1335-40.)。
こ れ は 2013 年 カ ナ ダ の モ ン ト リ オ ー ル で 開 催 さ れ た SCCT ( Society of
Cardiovascular Computed Tomography)での学会ハイライトでも世界最小量と紹介
された(図2)
。
(図2)
4
すべてのステップの理論づけ
これらのすべてのステップについて、「根拠をもつ」ためのあらゆる検討をした。また、
聞きかじりの先入観を持たず、自分たちのデータのみ信用した。これはあたかも基礎実験
で、ここにこの物質を混ぜる手順はこうするためであり、その量が多すぎるとこうなり効
果が落ち、少なすぎるとこうなりやはり効果が落ちるなどと理解していくことに似ている。
たとえば、
「あと押しの水 20ml なら心臓までこういう流れ方をし、40mlならそれとど
う異なる」などどの質問をされても答えることができる。5ml のテスト造影、30mlの本
造影、10mlのテスト造影、50mlの本造影という群に分け、染まり(CT値)が直線的
に増加していくかというと、30-50ml の間で頭打ちになる。したがって、50ml の付近で
は造影剤量の予想はできない、いいかえれば、50ml かそれ以上の造影剤を必要としていた
64 列CT以前の時代には造影剤の予想などそもそもできないが、撮影時間の短くなった現
在の時代では、体に造影剤が到達したピークをとらえれば予測できるはずである。そうし
て、CT Number-controlling system が出来上がった。5mlのテスト造影をした後で、
体表面積とテストの到達時間、テストでの上行大動脈でのピークのCT値でそれが予想で
きる。現在他のベンダーでも確認中である。
症例報告を書く
「これは珍しいからよく調べて、地方会にでも出しなさい」といわれることがあるであ
ろう。症例は出発点である。ただ、ゴールは本来学会ではない。論文である。その経験、
その病状が将来のどこかの国の患者さんを助ける可能性があるからだ。といっても、どう
取り組んでいかわからないであろう。「よく調べて」、「論文を書いて」をどれくらいの速度
ですべきか。確かに競争相手は少ないだろうが、学会の締め切りと違って、論文を書く期
限というのはなく、書かずにやり過ごしても誰を困らせるものでもない。たとえばカテの
時、興味あることがあったとして、カテが終わって少しして検討会、時間などないから夜
終わってから調べよう、あるいはまた翌日、としているうちに、また緊急や急変、トラブ
ルなど発生し、経験したときの強烈なインパクトも薄れてしまう。仕事の約 3 割は本人の
予定とは別の突発的なものであると言われる。
われわれの検討会では、その場で Pubmed も含めて疑問点を調べることができる環境に
している。
先日われわれが経験した症例では、
その直後から空き時間に Pubmed を検索し、
これは英文症例報告にする価値があると考えた。その 2 日後に症例報告を完成、英文校正
に出し、土日をはさんだ約 6 日で帰って来た。その修正をし、共著者のサインを翌日まで
にもらい、9日後に投稿し、1カ月後に accept をいただいた。鉄は熱いうちに打て!であ
る。
5
若い先生の進路について
研修医から数年の間は体で技術を習得して、というが、われわれはそれだけではなくそ
の時期に考える癖もつけるほうがよいと考えている。症例をきっかけとして、文献検索を
して新しいことをさがし、まとまったスタディを組んで種をまき始め数年かけて刈り取る、
大量のデータを処理する、このプロセスは若い時に実際に経験していないとアレルギーが
出る。最初はなにも思いつかないことが苦痛でも、いつの間にか愉しみにかわっていくも
のである。受験や学生時代と同じアプローチをとるなら、熱心に文献を読むだろうが、人
の仕事ばかり集めることになる。意欲が続かなければ、耳学問の評論家となる。自分のデ
ータを得る苦労がわかれば、自分の極めたことと、そうでないこととを区別できるように
なり謙虚になるが、耳学問を続けると知らないことが恥ずかしいと思い、冗長に話すよう
になる癖がつく。
インターネットを見ると様々な医師募集がある。初期の臨床研修制度では、個人的に職
場を探さないといけないわけで、病院を経験すればするほど経験豊かになると勘違いする
ぐらいである。基礎でも臨床でも赴任してからその施設で市民権を得て、物が言えるよう
になるまで約 3 年は最低かかる。留学から戻ってきたときに特に感じたのだが、その施設
の土壌や作法も違うのでいくらばたばたしても 1 年間は施設の作法に慣れるための時間で
ある。ばたばたしないともっと時間がかかる。したがって、2 年以内で替わるというのは、
その半分以上を足踏みで過ごすということになる。それを続ければ、その人の本領は発揮
されない。個人の事情もあり一概には言えないが。
有名な研修病院でもできないことや弱点はある。さらにそれより小さな病院なら、さら
に大きくないから、施設が充実していないからと言い訳を言いたくなるだろう。現状に不
満があればどこに行っても同じである。循環器すべての分野ができる病院はほとんどない
し、それだけ大規模であれば、自分が触ることができないものが多く存在する。すべての
手技をどれもこれも極めることができる人はほとんどいない。むしろ一つのことをある程
度極めれば、それを基に他の手技も考えることができる。こういった考え方に賛同する後
期研修医以降の若い先生を歓迎する。
ここで変わった!私のブレークスルーポイント
好きなことを深めることと、苦手なことを克服して他の分野と同じレベルに引き上げるこ
とでは、後者に比較して前者のエネルギーははるかに大きいものです。その適性を見極め
ることが一つ重要であり、目標を高く持った仕事観を持つ職場に属して、それに追いつこ
うとすることは、後々の財産になります。
6
レジデント募集(後期研修医)
筆者もこれまで色々な先生方に啓蒙されてきました。全部が理解できなくても、感覚的に
鼓舞されたと感じるならあなたはこういった環境が望ましいと思われます。気軽に連絡し
てください。研修医のころは何でも素直に吸収しますので、最初の環境が重要です。
若い先生に対するわれわれのコンセプトは
http://www.chuoukai.or.jp/_herz/herz_message.html
にも書いています。
(連絡先
小松 誠
[email protected])
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