群 馬 県 立 産 業 技 術 センター研 究 報 告 (2013) X線 CTによる計 測 技 術 の維 持 ・向 上 に関 する研 究 髙橋勇一・中村哲也* A s t u d y o n r e l i a b i l i t y i m p r o v e m e n t o f The X-ray Computed Tomography. Yuichi TAKAHASHI , Tetsuya NAKAMURA X 線 C T 装 置 の 多 く は 内部欠陥等の有無の判定を行う検査機という位置づけであるため、規格化 が進められている寸法計測は行えないお恐れがある。本研究は上記のX 線 C T 装 置 の活用を目的とし て、断面画像を計測可能なデータへ変換するため、サンプルの中心を基準としたスケーリング、板厚を 考慮したオフセットを行う校正器を開発により外観形状の計測精度の向上を目指すものである。 キ ー ワ ー ド : X線 CT、 三 次 元 計 測 The X-ray Computed Tomography (CT) can provide detailed insight into complex shapes. CT images often suffer from artifacts caused by misaligned scanner geometry of CT system. X-ray CT systems must be traceably calibrated to give true etrological performance.The calibration kits in order to achieve high accuracy of the data is made by the number of spheres is selected to have a scale similar to sample the quality of the X-rays have been developed. Keywords: X-ray Computed Tomography,r e l i a b i l i t y , calibration kit 1 まえがき 産業用X線CT装置を計測に利用するた め、欧州、主にドイツにおいて、三次元計 測器メーカによる三次元計測を目的とした X線CT装置が開発されている。 一方、日本において、X線CT装置を 「ものづくり」に生かした取り組みの件数 では、日本は世界一であるといわれている が、クラックや内部欠陥の良/不良、可/ 非の判定を行う検査機としての用途が主流 であり、寸法精度にかかわる三次元計測を 目的としたものはまれである。そのため、 日本国内の企業、大学、公設試に導入済み のX線CT装置では、現在規格化が進んで いるX線CT装置による寸法計測が行えな い恐れがある。 既 存 の X 線 C T 装 置 で は 、 断 面 画 像 ( CT データ)から作成したボリュームデータや STL デ ー タ 等 の 校 正 は 計 測 を 行 う 上 で 重 要 生産システム係 *技術支援係 な技術であるが、試料の形状等に対応して、 ゲージの寸法の確認が、三次元計測機によ り適切に出来ない場合もあり得ることが分 っている。 そこで、本研究では接触式三次元測定機 により、必要に応じていつでも校正器の、 各部の寸法の実測が可能な校正器の開発を 行った。 図1 X線 CT装 置 概 略 図 2 研究内容 図 1 に産業用X線CT装置概略図を示す。 使用した装置は、株式会社島津製作所製マ イ ク ロ フ ォ ー カ ス X 線 CT シ ス テ ム SMX225CT-SV」、 計 測 に 使 用 し た ソ フ ト ウ ェ ア 、 Volume Graphics GmbH 社 製 「 VGStudio max2.2」 及 び Siemens 社 製 「 Imageware V13.0」 で あ る 。 断面画像の倍率はこの比で決まるが、 SDD/SRD の 位 置 決 め 精 度 、 タ ー ン テ ー ブ ル や検出器の傾きが寸法精度に影響を及ぼし、 最 大 ±5%の 誤 差 を 生 じ さ せ る こ と が 知 ら れ ている。 本研究ではこの誤差を、以下に示す①、 ②により補正を行うこととする。 ① 輝度を変化させても、断面画像の 球の中心位置は変化がないことに 着目し、スケーリングを行う。 ② 物質の厚さと密度に対して強度が指 数関数的に変化する X 線の特徴から、 同一素材で大きさを変えた球により 輝度の閾値を設定し、オフセットを 行う。 3 (a) X方 向 研究結果 3.1 スケーリング 産業用X線CT装置における測定領域全 体をルビー球の球間距離を用いて寸法精度 を求めた。評価に使用したフォレストゲー ジを図 2 に示す。 フ ォ レ ス ト ゲ ー ジ は 25 個 の ル ビ ー 球 、 カーボン(シャンク)、ネクセラ(基盤) から構成される。 (b) Y方 向 Z X Y (c) Z方 向 図2 フォレストゲージ 図3 測定領域の偏差 図 3 に、産業用X線CT装置の測定領域 の X、 Y、 Z の 各 方 向 の 偏 差 を 求 め た 結 果 を 示す。縦軸は偏差、横軸は原点からの距離 である。座標系の原点をフォレストゲージ 中央のルビー球の中心とし、各ルビー球の 中心間の距離を球間距離とする。偏差は、 X線CT装置による測定値(各ルビー球の 中心でベストフィットを行った結果)と、 接触式三次元計測機による計測値との比較 により求めた。 X 偏 差 、 Y 偏 差 で -50mm~ 50mm、 Z 偏 差 0mm~ 30mm で グ ラ フ の 傾 き ほ ぼ 一 直 線 と な り、この範囲では、等倍のスケーリングが 可能であると考えられる。 3.2 オフセット X 線管球から放出される X 線には、連続 X 線であるため、物質を透過する際、波長 の長い(エネルギーの低い)ものがより多 く吸収され、X 線の波長は短くなりエネル ギーは高くなる。これを、ビームハードニ ングと呼ぶ。 ビームハードニングが寸法精度に及ぼす 影響として、図 4 に示すような本来均一な セル値を示す試料について周辺に比べ中央 のセル値が低下するカッピング効果が知ら れている。 ビームハードニングの影響を確認するた めに、図 5 に示すステップシリンダによる 評価を行った。 断面画像から作成したボリュームデータ、 ボ リ ュ ー ム デ ー タ か ら 作 成 し た STLデ ー タ ( 図 6) か ら 寸 法 を 測 定 し 不 確 か さ を 求 め た。 図5 (a) ボ リ ュ ー ム デ ー タ (b)STLデ ー タ 図6 ステップシリンダの形状データ 図7 図4 ビームハードニング (カッピング効果) ステップシリンダ 不確かさの評価結果 図 7に 、 横 軸 を 段 数 、 縦 軸 を 不 確 か さ と したグラフを示す。この結果から、単純な オフセットだけでは、厚みに関しての補正 にはならないことが明らかになり、ビーム ハードニング対策を行う必要があることが 分かった。 3.3 校正器の開発 3.1、3.2の結果をもとに開発す る 校 正 器 は そ れ ぞ れ 図 8、 9の よ う に な る 。 今回の研究ではさらにこの二つの校正器を 合 わ せ た 図 10の よ う な 校 正 器 を 考 案 し た 。 図 11に 図 10を 元 に 形 状 を 再 検 討 し 、 作 製 し た校正器を示す。 図8 スケーリング 用校正器 図9 オフセット 用校正器 図 10 ス ケ ー リ ン グ とオフセットを同時 に行える校正器 具 体 的 な 校 正 の 手 順 は 図 12に 示 す と おりである。 ① 校 正 器 の CTス キ ャ ン を 行 う 。 ② 断面画像から三次元形状データを 作成する。 ③ 各球の中心を求め、あらかじめ三 次元計測機により値付けを行っておい た球の中心と比較することにより、撮 像空間の歪みを明らかする。 ④ X軸 、 Y軸 、 Z軸 方 向 の 各 成 分 の 寸 法からスケーリングを行う。 ⑤ あらかじめを三次元計測機により 値付けを行っておいた校正球の直径と 三次元形状データの直径を比較し、オ フセットを行う。 この歪み成分から求めた校正値によ り、工業製品一般の形状データを校正 可能し、形状計測の精度を向上させる。 4 図 11 まとめ X線CT装置による寸法計測の精度 向上のため、校正器を開発した。校正 に使用するルビー球の直径および球間 距離は接触式三次元測定機により、必 要に応じていつでも寸法の実測が可能 という特長を有する。 校正器の形状および校正方法につい て特許出願を行った。(出願番号:2 013-68701) 校正器 ④ ③ ①、② 校正前 校正後 工業製品のスケーリング X軸 、 Y軸 、 Z軸 方 向 の 各 成 分 の 寸法からスケーリングを行う 校正器 校正器の 形状データ ⑤ 校正球の直径からオフセット 図 12 校正の手順 工業製品のオフセット
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