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圏論と選択公理
alg-d
http://alg-d.com/math/ac/
2014 年 9 月 28 日
※ 圏論については『圏論の基礎』や http://alg-d.com/math/category/ を参照.
この PDF では「圏」と書いたら「小さい圏」を表すものとする.
{Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする.圏 X, Λ を次のように定める.
• まず Λ は離散圏とする.即ち Ob(Λ) := Λ で
{
1 (λ = ν)
|HomΛ (λ, ν)| =
0 (λ =
̸ ν)
∪
• X については Ob(X) := λ∈Λ Xλ として
{
|HomX (x, y)| =
1 (あるλ ∈ Λについて x, y ∈ Xλ となるとき)
0 (それ以外)
関手 L : X −→ Λ を Lx :=「x ∈ Xλ となる λ ∈ Λ」で定める.このように定義すれば,
{Xλ }λ∈Λ の選択関数とは L の右随伴関手のことである.
. .
. ) L ⊣ R : X −→ Λ とすれば,任意の x ∈ X, λ ∈ Λ に対して Homλ (Lx, λ) ∼
=
HomX (x, Rλ) である.ここで x ∈ Xµ とすれば Homλ (µ, λ) ∼
= HomX (x, Rλ),即ち
µ = λ ⇐⇒ Rλ ∈ Xµ である.よって Rλ ∈ Xλ となり,R は選択関数である.
逆に R を選択関数とすれば Homλ (Lx, λ) ∼
= HomX (x, Rλ) が分かる.
故に,随伴関手の存在に関する定理から選択公理を導くことができる.
定理. 次の命題は (ZF 上) 同値.
1. 選択公理
1
2. C, D を圏,F : C −→ D を関手とする.任意の d ∈ D に対して F から d への普
遍射が存在するならば,F は右随伴を持つ.
3. C を余完備な圏,D を圏,F : C −→ D を余連続な関手とする.F は solution
set condition を満たすとする.このとき F は右随伴を持つ.(General Adjoint
Functor Theorem)
4. C を余完備かつ co-wellpowered で,generator を持つ圏,D を圏,F : C −→ D
を余連続な関手とする.このとき F は右随伴を持つ.(Special Adjoint Functor
Theorem)
5. 関手 F : C −→ D が圏同値 ⇐⇒ F が忠実充満かつ本質的全射
6. C, D, U を圏,F : C −→ D,E : C −→ U を関手として,各 d ∈ D に対して余極
E
限 colim(F ↓ d → C −
→ U ) が存在するとする.このとき F に沿った E の左 Kan
E
拡張 F † E が存在し,F † E(d) ∼
→ U ) である.
= colim(F ↓ d → C −
証明. 1=⇒2,1=⇒3,1=⇒4,1=⇒5,1=⇒6 は省略する.
(2 =⇒ 1) {Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする.C, D, F として,上で定義した
X, Λ, L を取る.λ ∈ Λ とすると,任意の x ∈ Xλ に対して一意な射 Lx −→ λ が普遍射
である.よって L が右随伴を持つ.
(3 =⇒ 1) {Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする.どの Xλ にも含まれない元 0, 1
を取っておく.0, 1 ∈
/ Λ としてよい.圏 C, D を次のように定める.
• Ob(C) :=
∪
λ∈Λ
Xλ ∪ {0, 1}



 1 (あるλ ∈ Λについて x, y ∈ Xλ となる)
• |HomC (x, y)| =
1 (x = 0 または y = 1)


 0 (それ以外)
• Ob(D) := Λ ∪ {0,
{1}
1 (x = 0 または y = 1 または x = y)
• |HomD (x, y)| =
0 (それ以外)
関手 F : C −→ D を

 0 (x = 0)
1 (x = 1)
F x :=

λ (x ∈ Xλ )
で定める.このとき C は余完備,F は余連続で solution set condition を満たす.故に
右随伴 G : D −→ C が存在する.すると x ∈ Xµ ,λ ∈ Λ に対して HomD (F x, λ) ∼
=
HomC (x, Gλ) だから,Gλ ∈ Xλ となり,G は選択関数である.
2
(4 =⇒ 1) 3=⇒1 と同じ圏を使用すればよい.
(5 =⇒ 1) {Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする.上で定義した圏 X, Λ と
L : X −→ Λ を考える.明らかに L は忠実充満かつ本質的全射である.故に仮定 5 から
圏同値 X ∼
= Λ が成り立つ.よって関手 R : Λ −→ X で RL ∼
= idX ,LR ∼
= idΛ となるも
のが存在する.このとき λ ∈ Λ とすれば,L(Rλ) ∼
= λ だから Rλ ∈ Xλ が分かり,R が
{Xλ }λ∈Λ の選択関数である.
(6 =⇒ 1) {Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする.C, D, F として,上で定義した
X, Λ, L を取る.また U := X ,E := idX と定める.
1
λ
Λ
L† idX
L
L↓ λ
X
X
idX
id
任意の λ ∈ Λ に対して余極限 colim(L ↓ λ → X −
→ X) は明らかに存在する.よって
L† idX : Λ −→ X が存在する.λ ∈ Λ を取る.Xλ ̸= ∅ だから,x ∈ Xλ が取れる.この
とき Lx = λ である.自然変換 η : idX =⇒ (L† idX ) ◦ L から射 ηx : x −→ L† idX (Lx) =
L† idX (λ) が得られる.よって圏 X の定義から L† idX (λ) ∈ Xλ でなければならない.
X op = X ,Λop = Λ であるから,選択関数は L : X −→ Λ の左随伴関手であることも
分かる.よって,先の命題の双対も選択公理と同値である.
定義. 圏 C が骨格的 ⇐⇒ f : c −→ d が同型射ならば c = d.
定義. 圏 C の骨格的な充満部分圏 S ⊂ C で「任意の c ∈ C に対してある s ∈ S が存在し
てc∼
= s となる」を満たすものを C の骨格という.
定理. 次の命題は (ZF 上) 同値.
1. 選択公理
2. 任意の圏は骨格を持つ.
3. 圏の骨格は (もし存在するならば) 同型を除いて一意である.
証明. (1 =⇒ 2) C を圏とする.選択公理により,商集合 Ob(C)/∼
= の完全代表系 S を取
る.S を充満部分圏 S ⊂ C と見なせば,S が骨格である.
(2 =⇒ 1) {Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする.上で定義した圏 X の骨格 S を
取れば,明らかに Ob(S) が {Xλ }λ∈Λ の選択集合である.
3
(1 =⇒ 3) C を圏,S, T ⊂ C を骨格とする.s ∈ S とすると,T が骨格だから F s ∈ T
が一意に存在して s ∼
= F s となる.このとき As := {f : s −→ F s | f は同型射 } ̸= ∅ で
∏
ある.よって選択公理により (fs )s∈S ∈
As を取ることができる.f : s0 −→ s1 に対
s∈S
して F f : F s0 −→ F s1 を F f := fs1 ◦ f ◦ fs−1
により定めれば,F : S −→ T は関手で
0
ある.
s0
fs0
F s0
f
s1
Ff
fs1
F s1
この F が圏同型である.
(3 =⇒ 1) 選択公理と同値な次の命題を示す.
非空集合の族 {Xλ }λ∈Λ は全ての Xλ の濃度が等しいとする.
このときあるλ0 ∈ Λと写像の族 {fλ }λ∈Λ が存在して
「各λ ∈ Λに対して fλ : Aut(Xλ0 ) −→ Aut(Xλ ) は群同型」を満たす.
※ 証明は集合に関する命題を参照.
{Xλ }λ∈Λ を非空集合の族で,λ ̸= µ に対して |Xλ | = |Xµ | であるとする.λ0 ∈ Λ を一
つ取る.圏 C を Ob(C) := Λ × {0, 1} で

Bij(Xλ0 , Xλ0 )




Bij(X

λ , Xλ )
Bij(Xλ0 , Xλ )
HomC (⟨λ, i⟩, ⟨µ, j⟩) =


Bij(Xλ , Xλ0 )



∅
(i = j = 0, λ = µ)
(i = j = 1, λ = µ)
(i = 0, j = 1, λ = µ)
(i = 1, j = 0, λ = µ)
(それ以外)
但し,Bij(X, Y ) := {f : X −→ Y | f は全単射 }
により定める.i = 0, 1 に対して Ci := Λ × {i} と置けば,明らかに C0 , C1 ⊂ C は
骨格である.故に仮定 3 により圏同型 F : C0 −→ C1 が存在する.関手 F から全単射
Fλ : Aut(Xλ0 ) −→ Aut(Xλ ) が得られる.
4