新潟大学脳研究所 「脳神経病理標本資源活用の先端的共同研究拠点」 共同利用・共同研究報告書 LA 遺伝子の発現制御と精神・神経疾患 研究代表者 筒井 研1) 研究分担者 宮地まり 2),古田良平1),細谷 修 2),筒井公子 2) 研究協力者 桑野良三3) 1) 岡山大学自然生命科学研究支援センター,2)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 3) 新潟大学脳研究所 研究要旨 申請者らは,神経細胞の発達・分化や機能発現に関与する一群の遺伝子(接着分子,イオンチャ ンネル,受容体など)のゲノムポジション,GC 含量,遺伝子長の間には密接な関連があり,その 一部(LA 遺伝子と命名)の転写誘導には DNA トポイソメラーゼ IIβ(以下トポ IIβ)が必要で あることを見いだしている.本研究では脳疾患のゲノム病態解明を目的として新潟大学共同利用 設備次世代シークエンサー(イルミナ GAII)を利用し,トポ IIβ作用点の高密度マッピングと共 に,その標的となる神経関連遺伝子の発現動態と核内での近接ゲノム領域のマッピングを共同研 究によって行う. A.研究目的 ポ IIβ作用点の3D 分布地図を作成する. 神経細胞終末分化の過程でトポ IIβにより転 写が誘導される遺伝子のカタログ化とトポ II B.研究方法 β標的部位のマッピングは,DNA アレイを用い 申請者らは精神・神経疾患で発現異常が推定さ て概略を終えている.脳疾患ゲノムの解明には、 れる一群の神経関連遺伝子(LA 遺伝子)を同 さらに高密度なマッピングが必要である.本研 定している.トポイソメラーゼ IIβ(トポ II 究は桑野と連携して,1)新潟大学脳研究所設 β)による LA 遺伝子の転写誘導メカニズムを 備(イルミナ GAIIx)を利用して大規模シーク 明らかにするには,トポ IIβ作用部位を三次 エンシングを行うことにより,トポ IIβ作用 元的核構造の上にマップする必要があり,その 点を示す,より細密なゲノム地図を得る.2) ために新規の方法論(eTIP-PES)を開発中であ 新たな手法(eTIP-PES)を開発し,核内でのト る.試行錯誤の繰り返しであったが,本共同研 究により平成 22・23 年度に行われた実験で, ード数が十分に得られないという問題がある. eTIP-PES 法の全工程を実施することができた. そこで,中間体をビーズから遊離させた後に低 残ったいくつかの問題点は,平成 24 年度継続 複合体濃度でライゲーションを行い,さらにシ 期間中に解決の見込みであり,年度末にはほぼ ーケンス反応時に総リード数を増加させると 完成できると考えている. いう方策を考えている. C.研究結果 E.結論 eTIP-PES の基本プロトコルに関して次の成果 未だ eTIP-PES 法の完成には至っていないが, を得た.1)トポ IIβ反応中間体に結合する 平成 24 年度中には完成させ,ヒト凍結脳組織 DNA 断片の間のライゲーションで,マッピング を用いた LA 遺伝子の発現解析に応用可能な基 の鍵となるキメラ産物を効率よく生成・選択す 礎データを得る. る条件を見出した.2)シークエンサーにかけ るまでに行う断片化や PCR の最適化を行った. F.研究発表 3)シークエンサーからの配列データ(リード) を効率よくオンライン転送する態勢を作った. 1)Nuclear protein LEDGF/p75 recognizes 4)総リードから様々なノイズを除去して有効 supercoiled DNA by a novel DNA-binding なリードを抽出する手順を確立した.5)ペア domain. Tsutsui, K.M., Sano, K., Hosoya, O., エンドの解析から得られる情報を網羅し,ペア Miyamoto, T., Tsutsui, K. Nucleic Acids Res., エンドをゲノム上にマッピングする方法を確 39, 5067-5081 (2011) 立した.6)対応がついたペアエンドを二次元 2)Transcriptional induction of neuronal genes マトリックス上に表示して相互作用マップを by targeted action of DNA topoisomerase II. 作成した.7)以上により,eTIP-PES 法を用 Tsutsui, K.M., Miyaji, M., Furuta, R., いてトポ IIβ作用部位の三次元地図を作成す Kawano, ることが可能になった. Conference S., Tsutsui, on K. International Advances in DNA Topoisomerase and Chromosome Dynamics D.考察 eTIP-PES 法の各ステップ(IP された DNA 断片 へのビオチン化アダプターのライゲーション, 末端アダプター間のライゲーション,末端ビオ in Taipei 10/14 (2011) Invited Speaker 3)細谷修, 筒井研, 筒井公子;網膜視細胞 の終末分化における DNA トポイソメラー ゼ IIβの役割 第 34 回 会年会 12/13-16、2011 横浜 日本分子生物学 チンの除去,内部にアダプター連結部をもつビ オチン化断片の濃縮)に関する一応の条件検討 は終わった.しかし,免疫沈降ビーズ上で隣接 するトポ IIβ—DNA 複合体との間にできるキメ ラ DNA 断片(トランスキメラ)の生成によって, 目的の複合体内キメラ(シスキメラ)の有効リ 4)古田良平、宮地まり、佐野訓明、桑野良 三、筒井公子、筒井研;DNA トポイソメラ ーゼ IIβによる遠隔ゲノム部位間の相互 作用 第 34 回 日本分子生物学会年会 横浜 12/13-16、2011
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