一関高専の震災復興事業の取組み経緯と成果事例 一関工業高等専門学校 ○佐藤清忠,郷 冨夫,菊地重人,飯坂順一,佐野 茂,佐藤昭規 1.まえがき 一関高専は 3.11 震災復興を目的とする多様な事 業に取組み,その中で 2 つの人材育成事業を実施し てきた.1 つは次世代モビリティ開発者の育成を目 的にした教育プログラム開発,もう1つは東北 6 高 専連携による人材育成である.いずれも産学連携で 取組み,成果が現れはじめている.本報告ではこの 事業の経緯を紹介し,主に電気自動車キットカー (Electrical Vehicle Kit Car, EV-KC)の教材開発に ついて報告する 1).この EV-CK 教材は,震災復興及び 自動車産業への参入間口を広める目的で 3 種類のユ ニットの提案を行った.その 1 つの導入ユニットで は,分解組立て作業を含め 12 コマの授業を提案した. この EV-KC の一連の教材内容と特徴を紹介する. 2.震災復興事業の経緯 はじめに震災復興事業の経緯を列挙する 2).H23 年度に「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開 発)東日本大震災対応・緊急研究開発成果実装支援 プログラム」に参加し,大船渡湾牡蠣養殖業の支援 活動を行った.この事業は H24 年度以降,JST 復興 促進事業で継承してきた.その後,H24 年度から複 数年に及ぶ復興事業の採択があった.その一覧を次 に示す.内容は事業名,主幹,実施期間,H25 年度 の本校分の事業経費,雇用者数の順で列挙する. 1)東北地域の産業復興を行う技術者人材育成(大 学等における地域復興のためのセンター的機能 整備事業,仙台高専主幹,H23 年度~H27 年度, 1300 万円,4 名雇用. 2)いわて環境と人にやさしい次世代モビリティ開 発拠点(地域イノベーション戦略支援プログラ ム),いわて産業振興センター主幹,H24 年度~ H28 年度,3000 万円,4 名雇用. 3)復興促進プログラム(産学共創),主幹は北里大, 水産加工応用分野の H25 年度事業費 2100 万円,1 名雇用.他マッチング促進事業 3 件,等. 3.震災復興事業の成果 2 節の事業のうち,1)と 2)は本校が機関として参 加したもので,目的は復興を担う人材育成であった. この目的は本校の技術者育成の教育目標に沿う内容 であり,図 1 の学内運営体制により,企画,調整, 統治を行ってきた 3).その結果,従来の COOP 教育に 似た取組みができ,学生向けに資格取得や単位認定 等,教務活動のひとつとして活用してきた. 図 1 復興事業の学校内マネジメント体制 各事業の成果として,2 節 1)の事業で実施した水 産加工分野では,雇用した研究員が被災地企業に就 職し,本校が開発した機能性食品変換技術を直接移 転している.この他,自然エネルギーの施設見学, 卒業研究への導入,学生支援による仮設住宅での ICT 技術指導が行われた.ICT 講習会では,入門及び 中級向けの指導プログラムを開発してきた. 次に 2 節 2)の事業は,2 つの事業部門で推進して きた.そのひとつ「設計・材料分析部門」では,本 校の COOP 教育に似た講義を行い,H25 年度には述べ 400 名を超える学生及び高専教職員の参加があった. また H25 年度は,高専学生 32 名の CSWA (Certified SolidWorks Associate)資格取得につながった.もう ひとつの「EV 部門」は次節で詳しく紹介するが,企 業技術者向けの講義や実習体験,また卒業研究での 取組みを背景に,多様な学校種へ導入可能な教材開 発を進めることができた. 4.EV-KC による教材開発 2節の事業は概ね人材育成が目的であるが,教育プ ログラム開発,すなわち具体的な教具と教授法の開 発が求められたのは,2)の事業であった.本報告の EV-KCはその成果のひとつである.この導入教材とし て位置付けたEV-KC本体の仕様を,図2に示す1).高専 教員はまず,事業目的に沿いEV-KCの機能,属性を講 習会や独自開催の作業演習で学んできた.この経験 をいかし,被災地域の学校に導入可能な学習時間や 指導内容の検討を重ねてきた.その教材の構造や授 業の想定例を以下に示す. 【連絡先】〒021-8511 岩手県一関市萩荘字高梨 一関工業高等専門学校 機械工学科 佐藤清忠 TEL:0191-24-4837 FAX:0191-24-2146 e-mail:[email protected] 【キーワード】震災復興,人材育成,教材開発 図 3 EV-KC による人材育成教材の構造 図 2 EV-KC 導入教材と EV の主な仕様 4.1 EV-KCによる導入教育の想定 図2の導入教育用のEV-KC本体,工具,作業マット 等は以下の方針をもとに構想した. 1) 既存の技術系学科で,講義6コマ,分解演習3コ マ,組立演習3コマで実施できること. 2) 狭い教室で安全にチーム作業が行えること. 3) 高専や工業高校等の学校種に導入でき,それぞ れの教育目標が達成できること. EV-KCは,被災地域の大学から工業高校までの学校 種で,自動車科のない既存学科で講義や演習を行う と考えた.このため短時間で指導する重点項目を選 び,初心者が安全に演習できることを狙った.また 設計者育成のために「安全,快適,地球環境」の視 点を全編通じて強調することにし,その視点による 部品選定や設計方法を解説することにした. 4.2 EV-KCによる開発研究活動の想定 上記の導入教育を経験した受講生は,図2とは別の 教材キットを使い,卒業研究等で部品変更や取付け 位置変更等で総合特性がどう変化するか学ぶものと した.この応用教育のひとつとして,総合性能を評 価する競技会への参加も検討している.また高専や 大学では,実証試験を含む研究開発ニーズがあり, その時,独自開発したセンサや計測器を,本EV-CK に搭載することが頻繁にあると考えた.その場合も, 長時間に及ぶ走行試験等に耐える作業スキルの指導 に配慮した. 4.3 EV-KCによる地域教育の想定 自動車技術に興味を持つのは,技術系の学生だけ ではない.工業技術に広く関心を高めるよう,地域 向けの指導を行う必要もある.この目的で,EV-KC を用いた子供向け指導キット,一般向け,展示活動, さらに企業技術者向け初心者研修等,EV-KCの教材の 幅広い分野の用途を想定し開発を進めている. 5.事業目標によるEV-KC教材の開発方針 図 2 の EV-KC は,震災復興を目的とする教育プロ グラムとして導入した.この EV-KC を中心においた 教材の構造を図 3 に示す.図 3 の縦軸は考察の規模 を表し,地球環境から個別部品の範囲を示す.横軸 は従来の学術分野を示し,文系から理系の分野範囲 を示す.講義や演習で指導する内容は,図の円形内 の要素全部とした.この要素は EV-KC の部品や応用 例を示すが,各要素の間が「安全,快適,環境」の 判断基準で配置されていることを,全ての授業場面 で指導することを狙った.この視点が次世代モビリ ティ設計教育の要点と考えた.この視点は自動車分 野だけでなく,復興を目指す被災地域のものづくり 産業が期待する目標でもある.本教材はその面で, 復興事業の象徴的な成果であると考えている. 6.まとめ 一関高専は多様な震災復興事業を行い,水産加工 では研究開発人材育成の成果が見られた.次世代モ ビリティ復興事業も多様な教育プログラムの開発を 行ってきた.本報告ではその成果のひとつ,EV-KC を用いた一連の教材の紹介を行った.本教材は,被 災地域の全学校種に普及する目的で開発したもので, 習得レベル別,また設計教育の側面で,開発成果の 事例を紹介した. 参考文献 1) 実践型トレーニングキット PIUS エデュケーショ ンバージョン http://www.pius-kitcar.com/ 2) 佐藤他,一関高専における震災復興に関するプ ロジェクトマネジメント,工学教育,62 巻 3, pp.67-71(2014) 3) 佐藤他:一関高専における次世代自動車産業振 興に関する人材育成の取組み,第 11 回産学連携 学会,2013.6
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