t=x+(A+x^2)

§0 t = x +
√
A + x2 の置換積分
∫ √
1 + x2 dx
この不定積分の計算は,t = x +
√
(1)
1 + x2 で置き換えれば上手くいきます.
√
t = x + 1 + x2 とおくと,
√
t − x = 1 + x2
(t − x) = 1 + x
2
2
(2)
(3)
(t − x > 0)
(4)
t − 2tx + x = 1 + x
2
2
2
t − 2tx = 1
1
1
x = (t − )
2
t
dx
1
1
= (1 + 2 )
dt
2
t
√
以上で∼dx を∼dt に変える準備が終わりました.次に 1 + x2
√
1 + x2 = t − x
1
= t − (t −
2
1
1
= (t + )
2
t
(5)
2
(6)
(7)
(8)
を t を用いて表します.
(9)
1
)
t
(10)
(11)
(9) は (2) の式,(10) は (7) の式を利用しました.
∫ √
∫
1
1 dx
1 + x2 dx =
(t + ) dt
2
t dt
∫
1
1 1
1
=
(t + )・ (1 + 2 )dt
2
t 2
t
∫
1
2
1
=
(t + + 2 )dt
4
t
t
1 1 2
1
= ( t + 2 log |t| − 2 ) + C (C は積分定数)
4 2
2t
1 2
1
1
= log |t| + (t − 2 ) + C
2
8
t
1
1
1
1
= log |t| + (t + )(t − ) + C
2
8
t
t
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
大詰めですね.あとは (2),(7),(11) を利用して t を x に戻すのみです.
√
1
log (x + 1 + x2 ) +
2
√
1
= log (x + 1 + x2 ) +
2
=
1 √
・2 1 + x2・2x + C
8
1 √
x 1 + x2 + C
2
というわけで,無事に不定積分を求めることができました.しかし,なぜ t = x +
で上手くできたのか.今回はこの疑問の答えを考えていきます.
1
(18)
(19)
√
1 + x2 で置き換えること
URL
http://www.geocities.jp/y_white_math/
CONTENTS
§0 t = x +
§1
√
A + x2 の置換積分
双曲線関数
1.1 双曲線関数とは
1.2 三角関数の(複素数上での)定義
1.3 双曲線関数の性質
1.4 双曲線との関連
§2
逆双曲線関数
2.1 関数
2.2 逆関数の定義
2.3 全射と単射
2.4 sinh x の逆関数
§3
§4
置換積分・第二の方法
x+
√
A + x2 の正体
あとがき
記号の意味
(定義)…「∼とは…である」と定めたこと.
(定理)…定義から真であると証明された命題のこと.(命題:真偽を判定できる式や文章)
(例)…理解を深めるために具体的に考えます.
∴ …「ゆえに」という意味を持つ記号です.
∵ …「なぜならば」という意味を持つ記号です.証明を開始するときや,理由を説明するときに使います.
// …証明終了の記号として使います.
2
§1 双曲線関数
1.1 双曲線関数とは
(定義)双曲線関数
ex − e−x
2
ex + e−x
cosh x =
2
ex − e−x
tanh x = x
e + e−x
sinh x =
(20)
(21)
(22)
ただし e は自然対数の底.
§0の疑問を解決するためにはどうしてもこの定義の導入が必要になります.なお,読み方は上からハイパ
ボリックサイン(hyperbolic sine)
,ハイパボリックコサイン(hyperbolic cosine),ハイパボリックタンジェ
ント(hyperbolic tangent)です.一見するとこれらは三角関数の仲間と思われる….しかし定義は三角関数
のような図形ではなく,自然対数の底を用いた数式ですね.さらに名前から双曲線に関わることが推測でき
ます.
1.2 三角関数の(複素数上での)定義
(定義)三角関数.定義域(x のとる値)を複素数全体に拡張すると…
eix − e−ix
2i
eix + e−ix
cos x =
2
sin x
tan x =
cos x
sin x =
(23)
(24)
(25)
実は複素関数の世界では三角関数はこのように定義されています.したがって三角関数の仲間という見方は非
常に良い推測だったということになります.実際,cos ix = cosh x,sin ix = i sinh x(*)ですね.なお,こ
の定義を認めれば加法定理は実に簡単に証明できます.さらに,オイラーの公式(eix = cos x + i sin x)やオ
イラーの等式(eπi + 1 = 0)も示せます.
∵(*)を証明しておきます.
ei ・ ix + e−i ・ ix
2
e−x + ex
=
2
= cosh x
cos ix =
sin ix =
ei ・ ix − e−i ・ ix
2i
3
(26)
(27)
(28)
(29)
e−x − ex
2i
i(e−x − ex )
=
−2
(ex − e−x )
=i
2
= i sinh x
=
(30)
(31)
(32)
//
(33)
1.3 双曲線関数の性質
§0の疑問を解決するために最低限必要な性質を証明していきます.
1)相互関係
sinh x
cosh x
cosh2 x − sinh2 x = 1
1
1 − tanh2 x =
cosh2 x
tanh x =
(34)
(35)
(36)
∵ (35) のみ示す.
ex + e−x 2
ex − e−x 2
) −(
)
2
2
e2x + 2 + e−2x
e2x − 2 + e−2x
=
−
4
4
e2x + 2 + e−2x − e2x + 2 − e−2x
=
4
2+2
=
=1
//
4
cosh2 x − sinh2 x = (
(37)
(38)
(39)
(40)
2)半角
cosh (2x) + 1
2
cosh (2x) − 1
2
sinh x =
2
cosh2 x =
(41)
(42)
∵ (41) のみ示す.
ex + e−x 2
)
2
e2x + 2 + e−2x
=
4
1 e2x + e−2x
= (
+ 1)
2
2
cosh (2x) + 1
=
2
cosh2 x = (
4
(43)
(44)
(45)
//
(46)
3)微分
(cosh x)′ = sinh x
(sinh x)′ = cosh x
(47)
(48)
∵ (48) のみ示す.
ex − e−x ′
)
2
ex + e−x
=
2
= cosh x
(sinh x)′ = (
(49)
(50)
//
(51)
4)加法定理
sinh (α + β) = sinh α cosh β + cosh α sinh β
sinh (α − β) = sinh α cosh β − cosh α sinh β
(52)
(53)
cosh (α + β) = cosh α cosh β + sinh α sinh β
cosh (α − β) = cosh α cosh β − sinh α sinh β
(54)
(55)
∵ (52),(53) を示す.
(右辺)= sinh α cosh β + cosh α sinh β
(56)
eα − e−α eβ + e−β
eα + e−α eβ − e−β
=
・
+
・
2
2
2
2
eα eβ + eα e−β − e−α eβ − e−α e−β
eα eβ − eα e−β + e−α eβ − e−α e−β
=
+
4
4
2eα eβ − 2e−α e−β
=
4
e(α+β) − e−(α+β)
=
2
= sinh (α + β)
cosh (−x) = cosh x,sinh (−x) = − sinh x より (53) は明らか.
(57)
(58)
(59)
(60)
(61)
//
以上の4つの性質が§0の疑問を解決するうえで重要になります.なお,和積の公式など三角関数に似た性質
は他にもあります.もし気になったら調べてみたり,自力で導いたりすると面白いかもしれません.
1.4 双曲線との関連
θ を媒介変数(パラメータ)として,x = cos θ,y = sin θ とおくと,cos2 θ + sin2 θ = 1 であるから
x2 + y 2 = 1(半径 1,原点が中心の円)を表します.これと同じ発想で,x = cosh θ,y = sinh θ とおくと,
√
cosh2 θ − sinh2 θ = 1 より x2 − y 2 = 1(漸近線が y = ±x,焦点が (± 2, 0) である双曲線)になりますね.
なお,双曲線関数の場合 θ が角度を示すわけではないのでご注意を.
5
§2 逆双曲線関数
2.1 関数
ここからは,先ほど定義した双曲線関数の逆関数を考えていきます.しかし,今回どうしても必要なものは
sinh x の逆関数のみなので,他は割愛します.
そもそも関数は「一方が決まったらもう一方も決まる」という約束がありました.したがって,一方が決まっ
てももう一方が決まらなかったら,関数とは呼べないということになります.
(例)
y = 3x
y = ±3x
(62)
(63)
(62) の場合は,x = 2 と決まれば y = 6 と決まるように,x の数字が決まれば必ず y の数字が決まります.そ
れなのでこれは関数です.しかし,(63) の場合は,x = 2 と決まっても「y = 6 または y = −6」の2通りが考
えられるので,関数ではない,ということになります.したがって,これから逆関数を定義するうえで,「こ
れは本当に関数になっているのか?」という考察は不可欠なものとなるわけです. 2.2 逆関数の定義
ここからは,
「そもそも逆関数って何なんだ」という話です.今後,x,y(定義域と値域)は指定がない限り実
数とします.
(例)
y = 5x + 10
(64)
これは x = 1 ならば y = 15,x = 2 ならば y = 20…のように x にどんな実数を入れても y の値がただ一つ必
ず定まるので関数ですね.これを x について解いてみると,
5x + 10 = y
5x = y − 10
y − 10
x=
5
この場合,y =
f
−1
(x) =
x−10
5
x−10
5 ((67)
(65)
(66)
(67)
の x と y を入れ替えて得た式)も関数になっています.そこで,f (x) = 5x + 10,
と書くことにすると,この 2 つの関数の素晴らしい性質がよく見えてきます.
15 − 10
= 1 つまり,f −1 (f (1)) = 1
5
20 − 10
= 2 つまり,f −1 (f (2)) = 2
f (2) = 20,f −1 (20) =
5
25 − 10
f (3) = 25,f −1 (25) =
= 3 つまり,f −1 (f (3)) = 3
5
f (1) = 15,f −1 (15) =
6
(68)
(69)
(70)
f (x) で得られた値をそのまま f −1 (x) に代入すれば元に戻っていますね(x と y を入れ替えたのだから当然と
言えば当然)
.というわけでこのような「元に戻す関数」に逆関数という名前をつけることにします.
(定義)逆関数
関数 f (x) について,g(f (x)) = x となる関数 g(x) が存在するとき,g(x) を逆関数と言い,f −1 (x) と
書く.
なお,読み方はエフ・インバース(inverse)
・エックスです.
2.3 全射と単射
関数の中には,逆関数を持たないものがあります.ここでは,どんなときに逆関数を持つのかを考えていきま
す.
(例)※下のイラストも併せてご覧ください.
y = x2
2
(71)
(x ≧ 0)
(72)
y = x2 (x ≧ 0,y ≧ 0)
(73)
y=x
√
(71) を x について解くと,x = ± y となるので,これは逆関数を持たない例となります.この関数の問題
点は,y = 9 のとき「x = 3 または x = −3」のように,帰り方が 2 通りになってしまうことです.したがっ
て逆関数を持つためには,f (3) = 9,f (−3) = 9 のように行き先がかぶってしまったら困る,ということに
なります.つまり,x の値が異なれば,その行き先である y の値も必ず異なる値をとらなければならない(*),
ということです.
(71) の考察を踏まえて,(72) では「x は 0 以上である」という制約を追加しました.これで,x2 = y ,x ≧ 0
√
より x = y となるので,先ほどの条件はクリアしました.しかし,これも問題があります.y = −1 などで
は x に帰る術が無いからです.したがって y がどんな値をとっても,必ず x に帰って来られる(**) ことが必
要になります.
(73) は,x ≧ 0 なので行き先がかぶることがなく,最初の条件を満たしています.そして,y ≧ 0 なので y はど
√
んな値をとっても x に帰ってくることができます.したがって,y = x2 (x ≧ 0) の逆関数は y = x (x ≧ 0)
となります.
7
上記の 2 つの性質は逆関数を考えるうえで重要なので名前があります.
(定義)全射・単射・全単射
(*) を満たすことを単射,(**) を満たすことを全射,(*),(**) を同時に満たすことを全単射と言う.
2.4 sinh x の逆関数
ここからは,sinh x の逆関数が存在することを示して,その関数に名前を付けることが目標です.そのため,
関数 y = sinh x は全単射であることを確かめていきます.
ex − e−x
2
x
e
+
e−x
y ′ = cosh x =
>0
2
y = sinh x =
(74)
(75)
さらに,極限値も調べておきます.
ex − e−x
=∞
x→∞
x→∞
2
ex − e−x
lim sinh x = lim
= −∞
x→−∞
x→−∞
2
lim sinh x = lim
(76)
(77)
以上より,sinh x は単調増加で,しかもその増加が 最後まで衰えたりせず(※),−∞ < sinh x < ∞ であるこ
とがわかりました.したがって,y = sinh x は全単射であるので,その逆関数が定義できます.
ちなみに,y = sinh x のグラフは以下のようになります.
(※)例えば y = − x1 (x > 0) は,y ′ =
1
x2
> 0 のため単調増加ですが,その増加の勢いは徐々に衰えていきま
8
す.実際,
lim −
x→∞
1
=0
x
(78)
なので,全射でないことがわかります.(例えば,y = 1 に対応する x が存在しない.)
(定義)f (x) = sinh x の逆関数
f (x) = sinh x の逆関数を f −1 (x) = arsinh x と書く.即ち,y = sinh x のとき x = arsinh y である.
読み方はエリアハイパボリックサインでしょうか.(正直わからないです.)
sin x の逆関数は arcsin x と書いてアークサイン (arc sine) と読むので,アークハイパボリックサインと読み
たくなるところですが,arsinh x の“ar”はエリア(area)の略なんだそうです.
§3
置換積分・第二の方法
今までの知識を総動員して,新たな方法で§0の計算をします.
∫ √
1 + x2 dx
§0では t = x +
(79)
√
1 + x2 で置き換えましたが,ここでは (35) の変形である
cosh2 x = 1 + sinh2 x
(80)
を利用するために,x = sinh t で置き換えることにします.(48) より,
dx
= cosh t
dt
(81)
であるから,
∫ √
1 + x2 dx =
∫ √
∫ √
=
1 + sinh2 t cosh tdt
(82)
cosh2 t cosh tdt
(83)
∫
cosh2 tdt
=
(84)
∫
1 + cosh (2t)
dt
2
1
1
= t + sinh (2t) + C
2
4
1
1
= t + ・2 sinh t cosh t + C
2
4
1
1
= t + sinh t cosh t + C
2
2
=
(85)
(86)
(87)
(88)
(83) で (80) の式を利用しています.
√
(84) のところは,本来ならば cosh2 t = | cosh t| としなければならないですが,(75) で確認したように cosh t
は負になり得ないので,絶対値を省略して OK です.
9
(85) は半角の公式 (41) を利用しています.
(87) は加法定理 (52) を利用しています.(∵ sinh (2t) = sinh (t + t) = 2 sinh t cosh t)
√
√
あとは,sinh t = x,t = arsinh x,cosh t = 1 + sinh2 x = 1 + x2 を利用して t を x に戻します.
∫ √
1
1 √
1 + x2 dx = arsinh x + x 1 + x2 + C
(89)
2
2
この方法は§0よりも計算が少なくて,比較的スマートに結論に辿り着きました.しかし,若干結論の式が
違っていることに気付くと思います.
§4
x+
√
A + x2 の正体
§0の結論
∫ √
√
1
1 √
1 + x2 dx = log (x + 1 + x2 ) + x 1 + x2 + C
2
2
(90)
と,§3の結論
∫ √
1
1 √
1 + x2 dx = arsinh x + x 1 + x2 + C
(91)
2
2
√
を見比べると,§0では log (x + 1 + x2 ) となっているのに対し,§3では arsinh x になっているというこ
とに気付きます.どちらかが誤っているのか…と考えたくなるところですが,実は
log (x +
√
1 + x2 ) = arsinh x
(92)
であるため,どちらも正解なのです.ここでは,これを確かめておきます.
∵ y = arsinh x とおくと,
x = sinh y =
2x = ey − e−y
ey − e−y
2
(93)
(94)
ここで,Y = ey とおくと,(Y > 0)
1
Y
2xY = Y 2 − 1
2x = Y −
(95)
(96)
0 = Y − 2xY − 1
√
Y = x + x2 + 1
√
ey = x + x2 + 1
√
y = log |x + x2 + 1|
√
= log (x + x2 + 1)
2
(97)
(98)
(99)
(100)
//
√
(98) についてですが,Y > 0 なので,Y = x − x2 + 1 は不適です.
√
そして (101) は,x + x2 + 1 > 0 であるため,絶対値を外すことができます.
10
(101)
ということで,log (x +
√
1 + x2 ) = arsinh x であることが示されました.
最後に,§0の疑問を解決しましょう.§3の置き換えの式 x = sinh t を t について解くと,
x = sinh t
(102)
√
t = arsinh x = log (x + 1 + x2 )
となります.したがって,x = sinh t で置き換えても,t = log (x +
(103)
√
1 + x2 ) で置き換えても,やっているこ
とはそれほど変わらないということになります.ただし後者は高校の知識で十分です.実際,
t = log (x +
√
1 + x2 ) とおくと,
√
e = x + 1 + x2
1
∴ x = (et − e−t )
2
1
dx
= (et + e−t )
∴
dt
2
t
√
さらに, 1 + x2 = et − x = et −
1 t
(e − e−t )
2
(104)
(105)
(106)
(107)
(108)
1 t
(e + e−t ) より,
(109)
2 ∫
∫
√
1
1 t
(e + e−t )・ (et + e−t )dt
1 + x2 dx =
(110)
2
2
1
1
= t + (e2t − e−2t ) + C
(111)
2
8
1
1
= t + (et + e−t )(et − e−t ) + C
(112)
2
8
√
√
1
1
= log (x + 1 + x2 ) + x 1 + x2 + C
(113)
2
2
√
となります.ここで上の操作の中で (105) に注目すると,T = et として,最初から T = x + 1 + x2 とおい
√
たとしても差し支えないことがわかると思います.というわけで,§0の t = x + 1 + x2 を導くことができ
=
ました.
あとがき
高等学校数学の知識で解くためには,x = sinh t という置き換えの式を工夫しなければなりません.そこで,
√
1 + x2 ) となり,双曲線関数を知らな
√
くても大丈夫になりました.さらにこの式から log をはずすと,§0と同じ置き換えの式( t = x + 1 + x2 )
この式を t について解いてみたら,(92) より t = arsinh x = log (x +
になり,それによる置換積分は見事に結論まで導くことができました.
しかし,この事実は良くない一面も持っています.もし,高校までの知識で「なぜ,t = x +
√
1 + x2 ってお
けば解けるのか?」を考えたとすると,答えを出すことが不可能だからです.そして,「こういうもんだから
覚えておこう」という結論に至ってしまいます.
Y.White は,なぜかを考えず方法や命令に従うことを嫌っています.命令通りに計算したとしても,それは
人間が高機能計算機やコンピュータの真似をしているに過ぎず,人間が計算力でそれらに及ぶことはあり得な
いからです.…いや,それ以上に,その人の感情や思考,可能性を捨てる行為だと思うからです.誰かの命令
に限らず,人はあらゆる現象や主張に対して「正しい」
「美しい」
「おかしい」
「納得いかない」といった感情を
抱いて,思考を巡らすはずです.そして,それに基づいて「おかしいぞ」と主張したり,美しき学問や芸術を
11
追及したりすると思います.
考えず命令に従うというのは,このような感情や思考を働かさずに,むしろ抑えながら行動することになりま
す.もし時が流れ,命令する人がいなくなったらどうなるでしょうか.コンピュータは電源を押さないと動か
ない.これと同様に,全く行動できなくなってしまうと思いませんか.
Y.White は,全ての家庭環境,友達関係,社会が「なぜですか」
「おかしいぞ」と言えるようになることを願っ
ています.そのためには,癇癪を起こしたり,自身の力を濫用したりせず,他者の主張をよく聞けるようにし
て,自分の主張に自信と根拠を持つ事だと思います.そうすれば,「思考できず行動できない」ということは
なくなり,進んで追求し,生産性のある世界が作れるのではないかと思います.
最後まで読んで頂き,ありがとうございました.
2014 年 6 月
12
Y.White