新しいIFチャープ掃引を使った 高速掃引による スプリアス・サーチの高速化

新しいIFチャープ掃引を使った
高速掃引による
スプリアス・サーチの高速化
Application Note
はじめに
測定速度は、商用無線から航空宇宙/防衛まで、さまざまなRF/マイクロ波製
品に共通の課題で、あらゆる業界の生産コストに影響を与えます。このため製
造メーカは、測定速度を改善する方法を模索しています。
改善しなければならない重要な問題の1つに、スプリアス・エミッションのサー
チがあります。このテストは、広い周波数範囲にわたって高い感度で測定を行
う必要があるため、非常に困難で時間がかかります。スプリアス信号測定は高
調波測定とは異なり、事前に正確な存在範囲がわからないため、ほとんどの場
合、分解能帯域幅を狭めて広い周波数スパンを掃引するしかありません。さら
に、スプリアス信号の振幅が測定ノイズ・フロアと近接している場合も珍しく
なく、このような場合は測定確度と再現性に問題が生じます。
このような測定に最も広く使用されている機器は、RF/マイクロ波スペクトラ
ム・アナライザやシグナル・アナライザです。最近は、アナライザのテクノロ
ジーが進化し、高速なスプリアス測定ができるようになりました。例えば、高
速AD変換とデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)により、アナログ・テク
ノ ロ ジ ー が デ ジ タ ル 中 間 周 波 数(IF)セ ク シ ョ ン と デ ジ タ ル 分 解 能 帯 域 幅
(RBW)
フィルタに置き換えられています。
デジタル・フィルタは、特に、スプリアス測定のように狭いRBWで広いスパ
ンを掃引する場合に優れています。例えば、現在のデジタル・フィルタのシェー
プ・ファクタは非常に優れているため、同等のアナログ・フィルタよりも数倍
も高速に掃引しながら高い確度を維持できます。この手法をオーバスイープと
呼びます。
AgilentのPXA/MXA/EXA Xシリーズ シグナル・アナライザには新しいIF
チャープ掃引と呼ばれるデジタル信号処理テクノロジーが採用され、最先端の
信号処理により掃引速度が大幅に向上しています1。この新しいフィルタによ
り掃引速度は最高50倍も高速になっていますが、振幅/周波数の確度が悪く
なることはありません。このアプリケーション・ノートでは、この新しいテク
ノロジーに焦点を当て、これを用いたスプリアス測定をご紹介します。
1.
高速掃引フィルタ手法は、すべてのPXA/
MXA/EXAシリーズで、オプションMPB、
DP2、B40を搭載すれば使用できます。
2
スプリアス測定に
おける現在の問題と
測定方法
混雑したスペクトラム環境の中では、不要なエミッションを厳しく制限する必
要があり、高速通信と広い帯域幅が要求されるため、RFの性能要件はますま
す厳しくなっています。共有されるスペクトラムの密度が高くなるにつれて、
不要なスプリアス信号と高調波信号の両方が問題になっています。
一般的な製品のライフサイクルにおけるRFテストを最適化する方法として、
研究開発、デザイン検証、製造という3つのステージにプロセスを分ける方法
があります。研究開発で行われるRFテストは、通常、数個のプロトタイプを
手動で測定するだけなので、速度はほとんど問題になりません。
デザイン検証では、数十個から数百個のユニットを試験的にテストする場合が
あります。これらのユニットの特性評価で行われるスプリアス測定
(周波数/
振幅)では、RBWを狭く設定し、設定された掃引時間で目的のスパンを測定し
ます。スパンが基本波周波数から10次高調波までを含む場合も少なくありま
せん。広い周波数にわたって確認すれば、製品から発生するすべてのスプリア
スに関する正確な情報が得られます。
現在、実際に行われているスプリアス特性評価のプロセスでは、目的の全周波
数範囲に対して1パスで測定し、スペクトラム・アナライザの仕様に基づいて
正確な測定が確実に行えるように標準の掃引速度を設定しています。しかし、
この掃引速度は遅く、測定時間に影響するため、製品が製造工程に移行する際
には問題となります。
効率の高い製造プロセスでは、数千から数百万の製品が組み立てられ、リミッ
ト値に対する合否判定テストが広いスパンにわたって最高の速度で行われま
す。多くの場合、このリミット値は公表されているスプリアス・フリー・ダイ
ナミック・レンジ(SFDR)仕様によって決まりますが、スペクトラム・マスク
またはスペクトラム・エミッション・マスク(SEM)の項に記載されているこ
ともあります。SFDR仕様が非常に厳しい場合、スプリアス信号とノイズを明
確に分けなければならず、狭いRBWを設定する必要があるため、テストに時
間がかかります。RBWフィルタの掃引速度はRBWの2乗に反比例するため、
分解能を高くするほど掃引速度は遅くなり、測定時間も長くなります。
3
スプリアス測定の
高速化
この20年で、多くのスペクトラム・アナライザがデジタル手法を用いるよう
になり、特に、DSPによって測定速度と性能が向上しました。デジタルIFフィ
ルタと前述のオーバスイープに加えて、ノイズ・パワーを除去する仕組みを備
えたものもあり、広帯域ノイズの影響を減らして低レベル信号を測定できます。
Agilent PXA Xシリーズ シグナル・アナライザのノイズ・フロア低減(NFE)
機能により、手動でも自動でもノイズ・パワーを除去できます。1
これらの信号処理テクノロジーを利用すれば、高いコストをかけてアナログ回
路を改善しなくても、ミッドレンジの高性能シグナル・アナライザを拡張でき
る利点もあります。高度なテクノロジーにより、あらゆるクラスのアナライザ
の性能曲線を拡張して、測定速度、確度、再現性などのトレードオフを最適化
し、これまでにないレベルの生産性を実現できます。
最先端の信号処理では、新しいIFチャープ掃引と呼ばれるデジタル信号処理テ
クノロジーが採用されていて掃引速度が大幅に向上しています。新しいフィル
タにより掃引速度は最高50倍も高速になっていますが、振幅/周波数の確度
が悪くなることはありません
(各トレースの右下に表示されている掃引速度を
ご覧ください)。
図1a. 左は、スペクトラム・アナライザの最大周波数範囲26.5 GHzをRBW 30 kHzで掃引。旧来のデジタル・フィルタ手法で掃引時間は35.49 s。
図1b. 右は、同じ掃引を新しいIFチャープ掃引で行ったもの。掃引時間は717 msで49倍以上、速度が向上。
スプリアス・サーチのようなアプリケーションでは、広いスパンを数kHz以下
の分解能帯域幅で掃引する必要があるため、新しいテクノロジーにより非常に
大きな利点が得られます。この高速化の利点を最も活かせるのはおそらくスペ
クトラム測定ですが、広い周波数スパンを狭いRBWで測定しなければならな
い場合、例えば、ノイズ・フロアを低減したり、近接した信号を識別したりす
る場合にも、速度の大幅な向上が期待できます。
1.
アプリケーション・ノート『Using Noise
Floor Extension in the PXA Signal Analyzer』
(カタログ番号5990-5340EN)をご参照くだ
さい
4
旧来のオーバ
スイープと
2パス法の使用:
部分的な測定
ソリューション
デジタル・フィルタを内蔵していても高速なIFチャープ掃引テクノロジーを備
えていない既存のアナライザでスプリアス・テストを高速化する手段として、
オーバスイープの速度を活かして何回も掃引を行う方法があります。この場合、
オーバスイープにより誤差が発生するので、問題のある周波数範囲で設定とテ
スト・リミットを変更して2パス測定を行い、誤差を補償します。2パス測定
を行っても、通常の自動結合に設定された速度で1パス測定を行って正確な結
果を得るより、測定時間全体は大幅に短縮されます。
最初に、対象の周波数範囲を広いRBWでオーバスイープ測定を行います。オー
バスイープ測定では、自動結合の場合よりも数倍高速に広い周波数スパンを掃
引できます。これにより、以下の3種類の誤差が発生します。
• 振幅の低下:スプリアスなどの信号の表示振幅が真の値よりも低い値になり
ます。設定がアナライザの仕様外であるという警告が表示されます。
• 帯域幅の拡大:測定の有効RBWが設定値よりも非常に広くなります。
• 周波数のシフト:スプリアスなどの信号の表示中心周波数が真の値よりも
高い値になります。設定がアナライザの仕様外であるという警告が表示さ
れます。
図2は、自動結合測定とオーバスイープ測定の例です。
図2. オーバスイープにより、周波数/振幅の誤差、帯域幅の拡大が生じます。周波数誤差は計算に
より補正できます。
この1回目の測定は、自動結合に設定されたRBWで掃引した場合より、はるか
に高速に実行でき、スプリアス信号の周波数位置を効果的に検出できます。ス
ペクトラム・アナライザのDSPにより周波数シフト誤差が補正されるので、信
号周波数は正確に測定できます。
5
しかし、振幅誤差と帯域幅の拡大はオーバスイープ設定のままでは補正できま
せん。正確な測定結果を得るには2回目の測定が必要です。それ以外にも、振
幅低下誤差を考慮して1回目のスプリアス・テストではリミットを低く設定す
る必要があります。
2回目の掃引測定では、より狭いRBWを設定して、自動結合に設定された掃引
時間を使用して、スプリアス信号と高調波を切り分けます。アナライザは、1
回目のリミットで不合格になったもののみを測定できるように設定します。最
後に、高調波を別のリミットに対してテストします。リミット・テストで不合
格になった成分のみをスパンを狭めてテストするので、2パス法の測定時間は、
狭いRBWと自動結合に設定された掃引時間を使用する1パス法よりも短くなり
ます。2パス法の例を、図3a、図3b、図3cに示します。
図3a. 2パス法では、1回目に何回もオーバスイープを行って高速掃引でスプリアス信号を検出しま
す。この測定は、300 kHz RBWでオーバスイープを10回行ったものです。オーバスイープによる振幅
表示の低下を考慮してリミット・ラインを5 dB低く設定しています。
図3b. オーバスイープにより測定誤差が生じるため、最初の掃引測定で検出されたスプリアスを2回
(30 kHz)を自動結合に設定すれば、
目の設定で正確に測定します。10 MHzスパンで、掃引時間とRBW
掃引に73.73 msかかります。RBWが狭くなり掃引が遅くなったことで測定ダイナミック・レンジと確
度が向上しています。これに伴い、リミット・ラインを5 dB高く設定しています。
6
図3c. 比較用に、このトレースには、確度が保証される従来の1パス測定を表示しています。
測定時間は12 sで、図3a/図3bの2パス法よりも非常に長い時間を要しています。
このように掃引測定を複数回行う手法を使用すれば、テストが非常に高速にな
りますが、テストの設定/実行は複雑になります。テスト・リミットのカスタ
マイズと、特定のスプリアス周波数のトラッキングも必要になります。
高速に掃引できる誤差のないRBWフィルタを使用すれば、1パスでも高速に測
定できるはずです。この高速掃引フィルタと測定手法の利点については、これ
からご紹介します。
7
新しいIFチャープ
掃引:Agilentの高速
掃引手法
RBWフィルタによる
高速掃引
再現性の向上
Agilentの高速なIFチャープ掃引テクノロジーの最大の利点を理解していただ
くために、2つの手法
(スペクトラム・アナライザ/シグナル・アナライザのIF
処理と、DSPでIF性能を拡張する手法)の概要を説明します。
優れたDSPを搭載しているシグナル・アナライザは、アナログの最終IF信号
に対して分解能帯域幅フィルタリングをデジタル的に行います。信号は最初に、
アナログのプリ・フィルタを通過して振幅が調整され、その後、高い分解能と
優れたリニアリティでデジタイズされます1。高品質なデジタルIF信号には、
さまざまな利点があります。第一に、分解能帯域幅を厳密に設定できるため(ア
ナログ・フィルタでは±10 ∼ 20 %単位)、アナライザの表示平均雑音レベル
(DANL)と掃引速度をより適切に制御できます。第二に、分解能帯域幅やスパ
ンを狭くした場合、アナライザは自動的に局部発信器(LO)を固定またはステッ
プに切り替えてFFT処理を行い、確度を維持したまま掃引速度を高速化できま
す。スパンや分解能帯域幅が、狭い場合はFFT解析、広い場合は掃引解析、と
いう組み合わせにより、掃引を最適化して最高速の測定が行えます。
旧式のスペクトラム・アナライザでは、すべての掃引速度に対して固定の
RBWフィルタを使用していました。この場合、アナライザはLOの掃引を遅く
してオーバスイープを防止する必要があり、常に信号の振幅と帯域幅を正確に
検出できました。現在は、高速掃引中でも掃引速度に基づいてRBWフィルタ
の位相応答が調整され、オーバスイープの影響が補償されています。これによ
り、高速掃引でも検出信号の振幅と帯域幅を正確に測定できます。
IFチャープ処理により高速掃引を実現している場合、同じ掃引回数で測定の再
現性が向上するという別の利点があります。掃引時間を変えずに狭いRBWで
CW信号を測定すれば、測定のばらつきが減少します。これは狭いフィルタに
より、多くの広帯域ノイズが除去されるためです。
掃引をかなり短時間で行っても確度は同じなので、掃引時間によってスペクト
ラム測定の再現性が変わることがほとんどなくなります。図4は、2種類の測
定の違いの代表的な例で、1つが従来の掃引、他方がIFチャープによる高速掃
引です。測定時間(掃引時間)を変更しながらCWスプリアス測定を行っていま
すが、再現性の違いは明白で、狭いRBWによってSN比が向上した利点がはっ
きりとわかります。
再現性(CW)
高速掃引
標準偏差(dB)
従来の掃引
掃引時間(ms)
1.
アプリケーション・ノート150
「スペクトラム解析の基礎」
(カタログ番号5952-0292JAJP)の34ページ
をご参照ください
図4. 従来の掃引とIFチャープ高速掃引の比較。青いデータ・ポイント(高速掃引)の方が値が低くス
ロープが緩やかなことから、再現性が向上し、掃引時間に対して変動が小さくなっていることがわか
ります。
8
再現性は、測定確度に対しても、測定に要する時間に対しても、重要な要素で
す。例えば、再現性が高ければ、掃引時間によって再現性が変わることがほと
んどなくなるため、測定速度を上げて測定ルーチンのデザインを簡素化できま
す。図4では、Agilentの高速掃引手法により、広範囲の掃引時間にわたって
再現性が約2 ∼ 3倍(dB単位)向上していることがわかります。
以上のように、Agilentの高速掃引手法で得られる主な利点は4つあります。
• スパンを広く、RBWを狭く設定する必要がある測定で掃引時間が大幅に短
縮されます。
• 確度および周波数選択度を維持しながら、一貫性のある帯域幅で測定スルー
プットの向上が可能です。
• 高速掃引速度により、測定の再現性が向上します。
• 再現性は、ダイナミック・レンジと掃引速度の両方に依存するのではなく、
ほとんどダイナミック・レンジのみで決まるため、適切なダイナミック・レ
ンジと再現性を両立するために必要なRBWを簡単に選択できます。
9
高速なIFチャープ掃引
テクノロジーによる
スプリアス・テスト
前述の2パス法の例では、1回目にRBWとスパンを広く設定して高速に掃引し、
その後、RBWを狭くして厳密な測定を行う必要がありました。2回目の掃引測
定は複数のスプリアスの振幅を正確に測定して高調波と区別するために行うの
で、1回目と2回目の掃引測定は別々に適切なリミットを設定して行う必要が
あります。オーバスイープによる振幅誤差もあるので、2つの掃引測定それぞ
れに異なるリミット・セットが必要になります。
Agilentの高速なIFチャープ掃引テクノロジーでは振幅誤差を補償しながら何回
もオーバスイープを行えるので、速度、確度、分解能のトレードオフが変化し
ます。広いスパンに狭いRBWを設定し、1つのテスト・リミットに対して1回行
うだけで信頼性の高いスプリアス特性が50倍も速く行えます。
スプリアス・テストと関連する高調波歪み測定が、より高速化し簡素化されま
す(図5参照)。RBWをより狭い値に設定して再測定を行わなくても、スプリア
ス信号を高調波と区別できます。一般に、1本のリミット・ラインはスプリア
ス信号向けなので、高調波が不合格に判定された場合は無視し、高調波自体の
測定はリスト掃引または専用の高調波測定ルーチンで行います。
図5. 高速なIFチャープ掃引テクノロジーにより、従来は2回必要だった掃引測定が1回で済み、必要
なスプリアス・リミットも1つだけになります。
10
内蔵測定機能
パワー・スイートのビデオ
Agilent Xシリーズ シグナル・
アナライザのパワー・スイー
ト機能を使用した強力なワン
ボタン測定を、YouTubeのビデ
オでご覧ください
Agilent Xシリーズにはパワー・スイートが内蔵され、ワンボタンでチャネル・
パワー、高調波歪み、スプリアス・エミッションなどを測定できます。スプリ
アス・エミッション・モードでは、最大20個の周波数範囲を設定でき、周波
数範囲ごとに、ピークしきい値、ピーク変位、振幅リミット、トレース・ディ
テクタ、RBWを個別に設定できます。
2種類のディテクタを各範囲で同時に使用できるので、同じ範囲で異なるタイ
プのスプリアスを測定したり、スプリアスごとに異なる統計ディテクタを使用
できます。測定の終了後に、各スプリアスを確認して関連するトレースを表示
できます。
結果表示では、すべての測定範囲を1つのトレースに連結して表示できます。こ
の表示機能を使用すれば、時間と手間をかけて、広いスパンを連続掃引したり
複数のスパンを手動でステップ掃引する必要がなくなります。図6は、複数の周
波数範囲に異なる測定帯域幅を設定して行った自動スプリアス測定の例です。
http://www.youtube.com/
watch?v=hFYDcQOXXU0&fea
ture=share&list=PL3F7498EA
3A432151
図6. Xシリーズのワンボタン・スプリアス測定により、複数の周波数範囲に異なる測定パラメータ
を設定して測定できます。測定範囲ごとの結果は個別に表示することも、1つのトレースに連結する
こともできます(このトレースにはレンジ6が表示されています)。
11
自動スプリアス測定の
最適化
多くの場合、スプリアス・テストは、周波数範囲をデバイスの動作周波数の10
次高調波まで広げて行われ、基本波周波数や10次を超える高調波は除外され
ます。これらの高調波信号の中にはスプリアスよりもかなり振幅が高いものも
あるため、スタート周波数、ストップ周波数、入力アッテネータを厳密に調整
して、スプリアス測定に最適な速度とダイナミック・レンジを確実に設定する
必要があります。
高調波の測定を避けるには、一般に、掃引のスタート周波数とストップ周波数
におけるRBWフィルタのスカート内に高調波信号が入るようにして、隣接す
る2つの高調波の内側を掃引し、これを繰り返します。この手法では、1 GHz
のデバイスを測定するには、中心周波数を9回変更して10回掃引する必要があ
ります。効率的な測定に重要なのは、できるだけ高速に掃引を行いながら、
DUTの合否を決める信頼区間に対応する測定統計処理を行うことです。
基本波のパワーは別に測定します。最終的な目標は、低レベルのスプリアス信
号をできるだけ正確かつ効率的に測定することです。したがって、アナライザ
の入力ミキサにおけるパワーは、基本波ではなく最大高調波に基づいて設定し
なければなりません。さらに、シグナル・アナライザによる高調波歪みは
DUTの基本波の高調波の位置に表示されるため、アナライザに起因する高調
波歪みはスプリアス測定時には無視できます。
アナライザの高調波歪みが問題にならない場合でも、アッテネータ値を設定し
ないとアナライザの入力におけるパワーが高くなって代表値を超える可能性が
あります。アナライザの入力ミキサにおけるパワー・レベルを最大
(+5 dBm)
にすれば、入力圧縮や高調波歪みが発生する場合がありますが、高調波歪みは
無視でき、入力レベルが高いほどスプリアス測定に対するアナライザの感度と
ダイナミック・レンジが向上します。
アッテネータの設定値は、以下の簡単な式によって定義できます。
(キャリア・パワー)−(アッテネータ値)=+5 dBm
この手法では、基本波のハイ・パワーによるADCの過負荷が問題になること
があります。この過負荷を防止するには、スタート周波数を基本波よりわずか
に高い値に設定し、シグナル・アナライザのIFステージにアナログ・プリフィ
ルタを使用してADCにおけるキャリア・パワーを減衰します。プリフィルタ
により、IF信号をデジタイズする前に信号を減衰できます(図7参照)。
ピーク、
負ピーク、
平均、
サンプル
バンドパス
デジタルRBW
フィルタ
アナログ・
プリフィルタ
エンベロープ・
ディテクタ
デジタルVBW
フィルタ
表示
ディテクタ
デジタルIF
図7. アナログ・プリフィルタの位置を示すシグナル・アナライザのIFセクションのブロック図。プリフィルタとバンドパス・フィルタにより帯域外信号が
減衰し、ADCの過負荷を防止できます。これにより、ADCの入力レンジを低い値に設定できるので感度が向上します。
12
ストップ周波数を2次高調波よりもわずかに低い値に設定する必要もあります。
これを行うには、ストップ周波数からRBW/2を減算します。設定により基本
波と2次高調波を除外すれば、測定結果に含まれるのは必要なスプリアス周波
数範囲のみになり、スプリアスのリミット・ラインで有効な合否判定ができま
す。2番目、3番目…の2本の高調波間で残りのスプリアス・サーチを行うには、
中心周波数のみを再設定する必要があります。
この手順の詳細な例は、この冊子の付録に掲載します。
ディテクタ、帯域幅、
掃引時間の設定
シグナル・アナライザの入力感度をスプリアス信号に対して最適化するだけで
なく、ピーク・サーチ、DANL、S/N比、掃引時間も最適化することが重要です。
スプリアス信号のサーチを行う場合には、常にピーク・ディテクタ
(トレース・
ディテクタの一種)を選択し、確実にピークを検出して、CWパワーをアナラ
イザの測定トレースの各ディスプレイ・ビンに正確に表示できるようにします。
次に、DUTのSFDR仕様と必要な測定の再現性を実現できる測定ダイナミック・
レンジが得られるようにRBWを設定します。スプリアス信号は小さくノイズ・
フロアに近い場合も多いので、振幅測定でノイズが高くなって再現性が問題に
なります。
スプリアス・サーチ測定の再現性はダイナミック・レンジに依存し、ダイナミッ
ク・レンジは分解能帯域幅を狭めれば向上するため、再現性を向上しようとす
ると測定時間が大幅に長くなります。しかし、高速掃引を使用した場合、掃引
速度はほとんどRBWに依存しないため、測定時間を犠牲にしなくても再現性
を向上できます。
まとめ
高度な信号処理を使用すれば、測定速度、再現性など、デジタルIFセクション
を備えたシグナル・アナライザの基本的なパラメータのさらなる向上が期待で
きます。PXAシグナル・アナライザでは、高速掃引手法により、掃引速度が
振幅/周波数/帯域幅に与える影響を補償しながらスプリアス測定を高速化で
きます。
掃引が非常に高速になれば、シグナル・アナライザの性能曲線が向上し、製造
で使用できるトレードオフが変化します。多くの場合、高速掃引を使用すれば、
何回も行っている掃引測定を、より高速で簡単な1パス法に変更できます。
特に興味深いのは、高速掃引手法により測定の再現性も向上する点です。この
向上により、測定時間が短縮され、決められている測定の信頼区間を達成でき
ます。
広い周波数スパンと狭いRBWが必要なあらゆる測定に高速掃引機能を利用す
れば、DANLを低減して、近接した信号を識別/測定できます。
13
付録:スプリアス
測定用設定の最適化
これらの高調波信号の中にはスプリアスよりも振幅が大きいものもあるため、
スタート周波数、ストップ周波数、入力アッテネータを厳密に調整して、スプ
リアス測定に最適な速度とダイナミック・レンジを確実に設定する必要があり
ます。これらの手順は手動でもプログラミング制御でも行えます。
基本波を測定する設定を行ったアナライザで測定した例を図A1に示します。
この場合、基本波のパワー(1 GHz、+10 dBm)を扱うためにアナライザの入
力アッテネータを26 dBに設定し、掃引は基本波から2次高調波まで行ってい
ま す。 基 本 波 と2次 高 調 波 は デ ィ ス プ レ イ の 両 端 に 表 示 さ れ て い ま す。
":CALC:DATA:PEAK?"コマンドにより両方ともスプリアスとしてレポートさ
れ、測定器には、DUTのテストが不合格であることが表示されています。
図A1. 周波数とアッテネータの設定が表示されています。測定はスプリアス・テスト・リミットに
対して不合格になっています。また、アッテネータをスプリアス信号測定に最適化していないため、
スプリアスは検出されていません。この測定では、アナライザは「正確な」掃引時間設定に設定され
ました。「正確な」掃引時間設定により、掃引速度が遅くなる代わりに保証された測定が行われます。
高速掃引は「正確な」掃引時間設定の掃引速度も改善します。詳細は、Xシリーズ アナライザの仕様
ガイドを参照してください。
アッテネータの設定を下げてアナライザを最適化すれば、"Input Overload"
と警告が表示されます(図A2右下)。アナライザの入力ミキサに対するパワー
は現在+4 dBmで、アッテネータ値を下げたため測定ノイズ・フロアが大幅
に低下しています。しかし、基本波と2次高調波がまだ測定スパンの内側にあ
るため、基本波の振幅の読み値は過負荷により不正確になっています。
14
図A2. 入力アッテネータの設定をスプリアス測定に最適化すれば、測定周波数スパンに信号の基本
波が含まれている場合、入力過負荷が生じます。
IFの過負荷を回避するには、スタート周波数を図7のバンドパス・プリフィル
タの阻止帯域内に設定します(下の図A3参照)。スタート周波数を1.005 GHz
に変更すれば、IF過負荷は解消し、基本波がスプリアス・サーチに含まれなく
なります(図A4)。
ピーク、
負ピーク、
平均、
サンプル
バンドパス
デジタルRBW
フィルタ
アナログ・
プリフィルタ
エンベロープ・
ディテクタ
デジタルVBW
フィルタ
表示
ディテクタ
デジタルIF
図A3. アナログ・プリフィルタとバンドパス・フィルタにより帯域外信号が減衰し、ADCの過負荷を防止できます。これにより、ADCの入力レンジを低い値
に設定できるので感度が向上します。
図A4. 基本波より上にスタート周波数を変更すれば、測定から基本波を除外して減衰できます。
これにより、アッテネータ値を下げることができ、結果として、スプリアス感度が向上します。
15
次に、ストップ周波数からRBW/2を減算して2次高調波を測定から除外しま
す。RBWは30 kHzなので、ストップ周波数を1.999985 GHzに変更します。
測定結果に含まれるのは必要なスプリアス周波数範囲のみになり、スプリアス
のリミット・ラインで有効な合否判定ができます(図A5)。
図A5. ストップ周波数をRBW/2だけ減らして、2次高調波を測定から除外します。アッテネータ値
と測定周波数スパンがスプリアス測定に最適化され、スプリアス信号に対してのみリミット・テスト
の合否判定が行われます。実際のストップ周波数は1.999985 GHzですが、表示では2.0000 GHzに丸め
られています。
2番目、3番目…の2本の高調波間で残りのスプリアス・サーチを行うには、中
心周波数のみを再設定する必要があります。スプリアス信号を識別するには、
プログラムから、":INIT:IMM:"と":CALC:DATA:PEAK?"のコマンドを送信し
ます。
関連情報
• Application note、『スペクトラム解析の基礎』、
カタログ番号5952-0292JAJP
• Application note、『Spectrum and Signal Analyzer
Measurements and Noise』、カタログ番号 5966-4008E
• Brochure、『N9030A PXA Xシリーズ シグナル・アナライザ
N9030A』、カタログ番号5990-3951JAJP
• Brochure、『MXA Xシリーズ シグナル・アナライザ N9020A』、
カタログ番号5989-5047JAJP
• Brochure、『EXAシリーズ シグナル・アナライザ N9010A』、
カタログ番号5989-6527JAJP
• Brochure、『N9000A CXA Xシリーズ シグナル・アナライザ』、
カタログ番号5990-3927JAJP
16
www.agilent.co.jp
www.agilent.co.jp/find/sa
myAgilent
myAgilent
http://www.agilent.co.jp/find/myAgilent
お客様がお求めの情報はアジレントがお届けします。
www.lxistandard.org
LXIは、Webへのアクセスを可能にするイーサネット・ベースのテスト・
システム用インタフェースです。Agilentは、LXIコンソーシアムの設立
メンバです。
Agilent Assurance Plans
www.agilent.com/find/AssurancePlans
Five years of protection and no budgetary surprises to ensure your instruments
are operating to specifications and you can continually rely on accurate
measurements.
www.agilent.com/quality
Agilent Electronic Measurement Group
DEKRA Certified ISO 9001:2008
Quality Management System
契約販売店
www.agilent.co.jp/find/channelpartners
アジレント契約販売店からもご購入頂けます。お気軽にお問い合わせ
ください。
アジレント・テクノロジー株式会社
本社〒 192-8510 東京都八王子市高倉町 9-1
計測お客様窓口
受付時間 9:00-18:00(土・日・祭日を除く)
TEL ■■ 0120-421-345
(042-656-7832)
FAX ■■ 0120-421-678
(042-656-7840)
Email
[email protected]
電子計測ホームページ
www.agilent.co.jp
●
記載事項は変更になる場合があります。
ご発注の際はご確認ください。
© Agilent Technologies, Inc. 2014
Published in Japan, May 16, 2014
5991-3739JAJP
0000-00DEP