Printable Electronics 2014 特集号 vol.4 【印刷法による有機トランジスタ作製とフレキシブル有機集積回路応用】 有機半導体材料は、溶液からの塗布により薄膜が形成できるため、低コスト・低環境負荷 の電子デバイス作製が可能であると期待されている。印刷技術を用いて、直接、電子デバ イスの作製を行うプリンタブルエレクトロニクス技術の開発がこれと並行して進んでいる。 山形大学有機エレクトロニクス研究センターの時任静士卓越研究教授ら研究室チームは、 有機材料を活用した柔らかい電子デバイス「フレキシブル有機エレクトロニクス」の研究 分野の開拓に取り組んでいる。 ここでは同研究室の研究成果として「印刷法による有機トランジスタ作製とフレキシブル 有機集積回路応用」について紹介する。 ●銀ナノ粒子インクの微細パターン化 デバイスの印刷に使える材料としてどのようなものがあるか。ディスプレイを想定した場 合の印刷材料を見てみると、電極(銀ペースト、銀ナノインキ、銅ナノインキ)、半導体 (TIPS-Pentacene、 Alkyl-BTBT、 Alkyl-DNTT、 DF-TESADT) 、ゲート絶縁層(ポリイミド、 ポリオレフィン、Crosslinked-PVP、ポリメチルシルセスキオキサン)、平坦化層(ポリオレ フィン、Crosslinked-PVP)、バンク(ポリイミド) 、OLED などがある。 印刷法でデバイスを作製するために欠かせない材料が、塗布成膜で電極を形成できる金属 ナノ粒子インクである。中でも銀ナノ粒子は、他の物質には見られない光学的、電気的、 熱的特性をもち、各種デバイスの導電性インクやペースト、充填剤に用いられており、そ の高い電気伝導率や安定性、低い焼結温度などの性質が利用されている。有機材料は印刷 プロセスとして使いやすく、銀とコンビネーションしやすい。プロセスが低温であり、ロ ーコストなプラスチックフィルム上にデバイス化できるメリットもある。 同研究室が主として使用している銀ナノ粒子インクは、①低温焼成タイプのインク(山形 大学が特許を有する、溶剤:アルコール) 、②DIC の「JAGLT」 (溶剤:水)、③ハリマ化成の 「NPS」 (溶剤:ハイドロカーボン)の 3 種類である。それぞれのインクは適性があり、デ バイスによって使い分けている。 ●親撥液性制御による微細パターン化 銀ナノインクのパターニングには、インクジェット法、グラビアオフセット印刷を使用し ている。その他に、表面処理で親撥液性制御を行うことによる銀ナノインクの微細パター ン化技術も検討している。これは、基板上に撥液部と親液部を作って、銀インクをコーテ ィングし、親液部にインクを留めてパターニングする。 表面処理として、酸素プラズマによる親撥液性制御を行う。そのプロセスは、まずガラス 基板上にアルミニウム膜、その上にテフロン膜を形成する。テフロンは撥液性であるが、 マスクを使って酸素プラズマを照射すると、プラズマがあたった部分が親液性になる。親 液度はプラズマの RF パワーや時間でコントロールできる。プラズマを当てるとダメージが でるので、弱いパワー、短時間で処理することで、表面ラフネスを 1nm 以下にとどめてい る。銀ナノインクをスピンコーティングすると、撥液部に残渣は残らず、自動的にきれい にパターニングできる。 他の方法として、AGC が提唱している撥液性レジストを用いた微細パターン化も行っている。 このフォトレジストを用いて露光と現像のみで簡単にパターニングできる。銀ナノインク をコーティングすると親液部にしか銀ナノインクが残らない。実際に高精細銀電極パター ンを作製したところ、ソース・ドレイン電極において、チャネル長 5μm、100ppi のテスト パターンが得られた。また、この発展系として、紫外線を使って親撥液性制御を行う方法 も検討している。 ●インクジェット法による銀ナノ粒子インクの印刷 実際にインクジェット法による銀ナノ粒子インクの印刷を見てみよう。粘度調整した銀ナ ノインク「NPS」を用い、富士フイルムのインクジェットプリンタ「DMP-2800」で印刷する。 プラスチック基材の上にドロッピングスペース:5~250μm、ステージ温度:60℃、液滴量: 10pl などの条件で行ったところ均一な細線が引けた。微細銀電極線の形成では、L/S=31/27 μm、ソース・ドレイン電極でチャネル長 6μm を実現した。 低温焼成型銀ナノインクによる微細印刷では、 「DMP-2800」を用い、山形大学開発のインク をベースにした DAICEL インクによって L/S=80μm、100℃でも抵抗 8μΩ・cm を実現した。 また、超微細印刷銀電極線の形成としては、SIJ テクノロジのスーパーインクジェットプリ ンタを用いて超微量液滴の印刷も行っている。銀ナノインクとしては、ハリマ化成の 「NPS-J」を使用している。 ●有機トランジスタの作製と電子回路応用 有機トランジスタの作製をオール印刷で行った。印刷法にもよるが、問題になるのが、薄 いインクを用いるとコーヒーステイン効果が出て配線の中央部がへこみ、平坦なものがで きないことだ。ゲート電極を作製した場合、大きな問題になる。あるインクに関してはそ の形状が制御できることを見出した。DIC「JAGLT」 (溶媒:水系)を用い、乾燥する工程で 湿度を変えると配線の断面形状が変わる。30℃の乾燥で湿度を上げていくと、きれいに台 形からかまぼこ型になる。湿度 85%で乾燥させ、140℃で焼成すると、線幅 100μm で抵抗 率~30μΩ・cm を実現した。このプロセスをゲート電極の形成に用いた。 印刷型有機トランジスタの作製プロセス(装置およびインク材料)は、以下の通りである。 ①PEN(125μm)基板上に平坦化層(スピンコーティング) :C-PVP(Aldrich) ②ゲート電極(インクジェット) :JAGLT(DIC) ③ゲート誘電体(スピンコーティング) :C-PVP、D207(Merck) ④ソース・ドレイン電極(インクジェット) :NPS-JL(ハリマ化成) ⑤SAM トリートメント(浸液) :PFBT、M001(Merck) ⑥バンク形成(ディスペンサ) :Teflon(Aldrich) ⑦有機半導体(ディスペンサ) :PB16TT(Merck)、S1200(Merck) 有機半導体として用いた S1200(Merck)は、印刷できる低分子系半導体であり、100℃で焼成 できる。全体のプロセス温度も 120℃程度であり、一番高くても②の工程の 140℃である。 PEN フィルムでは問題ない温度である。このプロセスで作製したデバイスの特性は、チャネ ル長:40μm、移動度:1.1cm2/Vs、Vth:-0.5V、電流の On/Off 比:107と良好であった。印 刷電極と半導体とのコンタクト抵抗も 1.8kΩ・cm と有機トランジスタではきわめて低い数 値である。 ●フレキシブル有機エレクトロニクスの実現を目指す オール印刷法で1トランジスタの 10×10cm のフレキシブルディスプレイを作製した。有機 トランジスタアレイの仕様および特性は、基板:PEN フィルム(125μm) 、ピクセルコンタ クト:30×30=900(トランジスタ数) 、チャネル長:20μm、W:1000μm。移動度は、平均 0.81 cm2/Vs、最大 1.5cm2/Vs である。しきい値はほぼ零(Vth:0.01V)である。オール印刷でこれ ほど均一なのはめずらしい。バイアスストレスに対する安定性も確認した。実際の回路と して、p型半導体で擬 CMOS インバータ回路、ロジックとして擬 CMOS 型 NOR 回路、擬 CMOS 型リングオシレータ回路などを作製している。 インクジェット単体だけでは細線化は 100μm ぐらいが限界であり、 位置精度の問題もある。 微細化としてグラビアオフセット印刷で 10μm、さらに微細化として反転印刷法で1μm の パターニングも検討している。次のステップとして、来年度末に有機エレクトロニクス研 究センターに世界最先端の設備を入れる計画である。光アシストによるマスクレス露光機 で位置精度と微細化をさらに向上させる。量産時の作製プロセスを考慮したフィルム幅 90cm のロール・ツー・ロールの設備である。 最終目標は、印刷法で作製するフレキシブルディスプレイ、RF-ID タグ、生体センサなどの フレキシブル有機エレクトロニクスを実現し、安心・安全な社会実現に貢献することであ る。 ●Printable Electronics 2014 の出展の見どころ Printable Electronics 2014 では、プリンタブルエレクトロニクス向けの材料や製造装置 の最新製品・技術が出展され、それが見どころの一つとなっているのでいくつか紹介する。 山形大学では、前述した有機トランジスタ関連では、全印刷型のTFTバックプレーン基 盤技術とセンサへの応用を目指して、1μm 極薄フィルム上へ印刷法で形成した有機回路を 展示する。有機ELでは、塗布型の4層積層型で世界最高レベルの高効率な素子や塗布型 のマルチフォトンエミション素子などの基盤技術と新しい有機EL照明の応用例を展示す る。また、有機薄膜太陽電池の高効率化、解析技術、プロセス技術などの高度化について も展示する。 【山形大学:6T-06】 長瀬産業では導電性材料の開発販売に注力している。プリンタブルエレクトロニクスで必 要となる低温プロセスにおいて、常温で硬化する金属ナノインクを開発している。またC NTについては高分散の水分散体も同時に出展する。 【長瀬産業:CO-03】 ニコンエンジニアリングは最先端の光学技術、精密技術をコア技術として、これらをイン テグレートする開発型の企業である。露光装置から、測定、検査機器、レーザ加工装置、 装置組み込み製品、再生医療関連装置まで幅広い分野でカスタマーの要望に応える。 【ニコンエンジニアリング:6R-01】 プラズマ装置は、従来から表面加工・修飾の際に幅広く用いられているが、加工時のゴミ が表面に再付着し、大きな問題となっていた。産業技術総合研究所ナノシステム研究部門 では、それを改善するために独創的な吸引型局所プラズマ加工法を開発した。これにより 最新半導体デバイスを無残渣で配線露出加工し、デバイスの不良解析分野に大きく貢献し てきた。本装置は、無機材料のみならず、プリンタブル材料系の表面改質にも利用できる 可能性を持ち応用範囲は極めて広い。 【産業技術総合研究所ナノシステム研究部門:6R-03】 松尾産業では、印刷試験機/テストコーターを出展・実演する。また、新製品のロール・ ツー・ロール式印刷試験機「VCML」をパネル出展する。併せて、樹脂硬化収縮率応力測定 装置、UV 硬化センサ、UV-LED 照射パネル付テストコーター、ロールミルも展示する。 【松尾産業:6T-07】 ミノグループでは、スクリーン印刷システムの総合メーカーとして、資材および機材を中 心としたトータルソリューションの提案と提供を行う。さらに、スクリーンオフセット工 法などの新規の工法の開発提案を具体化している。 【ミノグループ:6R-04】 Membrana/ポリポア(アメリカ)は、濾過や分離プロセスに使用する極めて特殊な高分子 ポリマー膜の開発、製造、販売に携わるリーディングカンパニーである。ラップトップパ ソコンや携帯電話のリチウムイオン電池用と、自動車のバッテリーなど運輸や工業用に使 われる鉛蓄電池用にセパレータを製造している。その他、血液透析、血液酸素化(人工心 肺) 、超純水のガス交換(脱気/ガス溶解)や濾過などのヘルスケアや工業用途で利用され る薄膜(メンブレン)を製造している。 【Membrana/ポリポア(アメリカ) :6Q-07】 富士フイルムグローバルグラフィックシステムズでは、富士フイルム産業用インクジェッ ト関連製品から、FUJIFILM Dimatix 社製の研究開発用インクジェット装置「マテリアルプ リンターDMP-2831」 、産業用インクジェットヘッド、各種プリントサンプルを展示する。 【富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ:6P-01】 リプス・ワークスは、レーザ微細加工に特化した会社である。エキシマレーザをはじめフ ェムト秒からピコ秒の超短パルスレーザを4台保有している。ファインセラミックス、ガ ラス、硝子、Si、高硬度金属、金属箔、高分子材料、PTFE などに、熱影響、バリのない高 精度な加工を高速で行う。 【リプス・ワークス:6S-04】 (技術ジャーナリスト 大島雅志) >> 展示会・セミナー詳細はこちらから http://www.printable-electronics.com/?art=0127 来場事前登録受付中!
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