信号機で感電する恐怖の町

北
朝鮮ほど酷くはないにし
であり、発電所を仕切っている。
ろ、プノンペンの電力事情
彼の周りには彼と発電機を守るた
もお粗末なものである。漏
めの、目つきの悪いボディガードた
電していた信号の柱に触って1m近く
ちが、ロケットランチャーや機関銃
も吹っ飛ばされたり、公称220Vの
を手に、ゴザを敷いて横になってい
家庭用コンセントも、計ってみると
る。それでも、町の住人が使えるの
電圧が30V単位で上下している。そ
は白熱灯が1つか2つという有り様。
れが220Vより低ければ問題ない(?)
もっとも、ベトナム占領軍による社
が、高い場合はつないだ電気製品そ
会主義の時代が終わると、貿易で潤
のものが火を吹く。
うこの町には外国からカネが大量に
というわけで、これまでにもBOSE
のアンプやらSONYのラジカセやら
入り、まともな発電施設ができたら
しいが…
毎日何かが壊れるので、修繕屋の前には修理待
ちの機械が山積みに
一度、不覚にも日本から持ってき
プレステやら、色々なものを壊して
そんなわけで、プノンペンの電気
きた。日本だったら電気会社を相手
店には、渋谷や広尾ではまず見かけ
220Vに突っ込んで爆発させたとき、
にカネでもふんだくれるところだが、
ることのない、死体の蘇生に使えそ
たまたま近所の修理屋が目に入った
ここは国営。弁償しろと迫っても、
うな巨大で意味不明の機械がズラリ
ため、そこに修理を依頼した。
と並んでいる。
ちょっとした田舎
でも電気は来ていな
いので、テレビを見
たラジカセ(100V専用)を間違えて
そして5時間後… 修理を終えて
戻ってきたラジカセは、ほとんど原
型を留めていなかった。
同じ部品が入手できなかったため、
るにも車用のバッテ
巨大な別の部品を組み合わせて代用
リーを使う。そこ
したよとのこと。それは構わないの
で、バッテリーの交
だが、テープを巻き戻すとCDが回り
流を直流に変換する
だし、CDを聴こうとすると、音量が
機械(チャージ機能
上がり出す…というように、操作ボ
付 き 、 40ド ル )。
タン系をパズルのようにされてしま
そして、220Vの
い、途方に暮れた。一体どうやった
電源が例え250V
らそんなことができるんだよ!
に上がっても、
150Vに下がって
も一応オーケーなよ
直っているいないは別にして修繕作業に勤しむ修理マン(ベトナム人)
うに、電圧を一定
に保つスタビライザ
社員に払う給料すら困っている始末。
鼻で笑われた後、逆ギレされるだろ
う。
ー。そして無停電装置。
これらの機械を使えば、パソコン
やラジカセを壊さなくて済むかとい
首都ですらこんな感じなので、プ
うと、一概に保証はできない。高温
ノンペン以外の都市など、マンガの
多湿に舞い上がる赤土の埃、水道管
原作にできそうなほど現実離れして
が破裂して、朝起きたらベッドの周
いる。いまから4年前、友人の1人が
りがすべて水没していたり…(おまけ
タイ国境の海の町に行き、その町の
に水には電気が通っていた)、この町
発電所を見学したことがあった。
で油断することは、すなわち死を意
発電所には、ロシアから運ばれた、
味する。
軽油で動く超巨大な発電機が20台ば
そんな感じで、市民たちが死ぬ思
かり、グウオオオオーと、恐ろしい
いで買ったテレビやラジカセが次々
うなり声を上げて動いており、見と
と壊れるので、プノンペンの町には
れている間にも戦艦大和が主砲をぶ
電気製品の修理屋が異常に多い。た
っ放したような轟音が響いて、端か
だ、同じような看板を掲げていても
らバタバタ壊れていく。
職人の腕はピンキリで、変な店に修
この発電機を修理できる唯一の男
が、すなわち、この町最大の金持ち
理を依頼すると、とても面倒臭いこ
とになる。
文・クーロン黒沢