日韓遠隔授業のための HD 画像伝送システムによる ビットレートの変化と画質の劣化に関する考察 101315 1. はじめに 現在、小・中・高等学校のインターネット接続率 は 99.8%である。さらに、インターネット接続の高 速化が平成 14 年から進み、光ファイバーやADS Lなどにより各普通教室,特別教室等からインター ネットにアクセスすることができるようになってい る。[1] 映像のデジタル化と圧縮技術の発展により、高精 細な動画をインターネットを通じて配信することが 可能になってきた。[2] 画像伝送システムとしてネットミーティングやイ ンターネットを利用して DV データを送受信する DVTS は有名である。しかし HD 画像伝送システム (デジタルハイビジョン映像の画像伝送システム)に ついては、ほとんど知られていない。実際に遠隔授 業に用いる場合ネットワークトラフィックが映像品 質に与える影響についても明らかにされていない。 そこで本研究では、HD 画像伝送システムの環境 の構築と、パケットロスと画質の劣化の関係を明ら かにすることを目的とした。 2. 研究方法 2.1 実験環境 図1は実験環境を示したものである。HD カメラ で撮影した映像は、Mpeg-2 に符号化(エンコード) され、送信用コンピュータへと IEEE1394 接続を用 いて転送される。送信用コンピュータに転送された データは、Robst(hdsend)[2]を用い、受信用コンピ ュータに向かって送信し、受信側コンピュータの Robst(hdrcev)で受信する。送信用コンピュータと受 信用コンピュータ間は 100BASE-TX のリピーター HUB で接続している。受信側コンピュータで受信 したデータはデコーダカードで、復号化(デコード) される。復号化されたデータは PDP に映し出した。 次に、同じネットワーク上にある負荷用 PC1 から 表1 負荷(Mbps) 送信側 (Send) 受信側 (receiver) Network (100BASE-TX) PDP MGHDB-3 負荷 負荷用PC1 (For load) 負荷用PC2 (For load) 図 1 実験環境 PC2 へ画像データに対して負荷となるトラフィッ クを発生させた。この負荷トラフィック発生には TCP の 性 能 評 価 の た め に 開 発 さ れ た DBS(Distributed Benchmark System)[3]を用いた。 Robst を用い HD カメラからの画像を PDP に表示 する際に、DBS によってネットワークに無駄パケッ トを流すことで、劣化画像を作成した。 2.2 実験条件 まず、ネットワーク負荷を実験条件とした。DBS を 用 い、 段階 的 にネ ット ワ ーク に負 荷 をか け、 Tcpdump(ネットワーク上を流れるパケットを情報 取得するツール)で Robst の帯域を測定し、パケット ロス率を算出した。パケットロスが発生した地点か ら、負荷を1Mbps ずつ増やし、パケットロスと画 像の関係について調べた。 次に、伝送形態として、FEC(前方誤り訂正符号) 使用・未使用、及び VLC[4]での受信を実験条件と した。これは FEC 使用による画像劣化の変化に着 目したものである。 VLC とは様々なオーディオ・ビデオファイル、ス トリーミングプロトコルに対応したオープンソース のメディアプレーヤーである。 負荷と劣化の関係 FEC 未使用時 変化なし 21~38 直輝 映像データ IEEE1394 FEC 使用時 ~20 VLC での受信時 変化なし 音のとぎれ ブロックノイズ フレーム落ち 39 40 HDカメラ 西山 音のとぎれ ブロックノイズ フレーム落ち 1 分ほどで止まる 変化なし 横ノイズ 音のとぎれ ブロックノイズ フレーム落ち 20 秒ほどで止まる 音声の途切れ 41~44 音のとぎれ ブロックノイズ フレーム落ち 数秒で止まる 45~59 60~61 62~63 音声のとぎれ 64~67 フレーム落ち ブロックノイズ 音声のとぎれ まったく映像は出ない 68 69~ フレーム落ち ブロックノイズ 音声のとぎれ 停止 まったく映像は出ない エラーにより停止 3. 結果および考察 負荷が0のとき Robst の帯域は 20Mbps を示した。 4. まとめ 本研究では HD 画像伝送システムによるビットレ ートの変化と画質の劣化の関係を明らかにすること 3.1 パケットロスの範囲 実験環境によってネットワークに負荷をかけ、 Robst の帯域を測定した。負荷 21Mbps 以上のとき を目的とした。 その結果、以下のことがわかった。 • FEC 使用時は未使用時より、負荷に対してエラ パケットロスが発生した。FEC 使用時・未使用時、 ー訂正を行うので、1%パケットロスするまで および VLC で受信した3つの場合において、負荷 は受信した映像に影響が起こらない。 とパケットロスの関係に違いは見られなかった。 • パケットロスが多すぎると、FEC でのエラー訂 3.2 • FEC 未使用時は、パケットロスが発生した段階 正は完全に行われない。 FEC 使用時の画質に与える影響 表から分かるように、負荷が 21~61Mbps の間は パケットロスしているのにもかかわらず、変化は見 られなかった。 61~62Mbps の間は、音声のとぎれが見られた。 で音質、画質が低下する。 • VLC で受信した場合、FEC 未使用時と同様にパ ケットロスが発生した段階で音声、画質が低下 する。 61Mbps では 1 分に 1 度くらい音声のとぎれが発生 した。62 Mbps では 30 秒に 1 度の頻度である。 64~67 Mbps 間では、音声の途切れとは別に、フ レーム落ちとブロックノイズが起こった。64 Mbps と 65Mbps ではほとんど映像に変化は見られなかっ たが、66 、67 Mbps というように負荷が増えるに 応じて頻度は増えていった。 68 Mbps を超えるとフレーム落ち、ブロックノイ ズ、音声のとぎれの発生頻度が多く、Robst の受信 側(hdrcev)にエラーが起き、止まってしまうケース 図 2 ブロックノイズ FEC 未使用時 負荷 40Mbps(Robst) が発生した。 負荷が 69 Mbps を超えると同様なエラーが続出 し、受信側(hdrcev)はすぐ止まってしまい、映像と して出力されない場合もあった。 3.3 FEC 未使用時の画質に与える影響 表から分かるように、21~38 Mbps 間のフレーム 落ち、音のとぎれ、ブロックノイズは負荷の増加に 応じて増えた。 3.4 VLC での受信 図 3 横長のノイズ 負荷 68Mbps(VLC) 表から分かるように、劣化の範囲は FEC 未使用 時と同じであった。 しかし、劣化の仕方に違いが見られた。Robst で 参考文献 [1] 文部科学省:「学校のコンピュータ整備及びイン 受信した画像は動いている部分にブロックノイズが ターネット接続について」 発生するのに対し、VLC で受信した場合は、画面の 内容にかかわらずノイズが発生した。ノイズもブロ http://www.mext.go.jp/ [2] 広島大学情報メディアセンター ックノイズではなく、画面に横長に発生するちらつ http://net.ipc.hiroshima-u.ac.jp/robst/ きであった。エラーにより停止が起こり始めたのは [3] DBS: Distributed Benchmark System 60Mbps であった。このノイズの状態を図 2、図 3 http://www.ai3.net/products/dbs/ に示す。 [4] VLC http://videolan.org
© Copyright 2024 ExpyDoc