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省エネ補助金の費用対効果の推計
業務・産業部門の補助事業に対する自己申告法による評価
Estimation of the cost-effectiveness of subsidy programs for energy efficiency
○木村
宰 *・ 大 藤
建 太 **
Osamu Kimura, Kenta Ofuji
1.はじめに
わが国では,省エネ推進に対する補助事業は,温暖化対策の主要施策として推進されて
お り ,近 年 は 直 接 補 助 金 だ け で お よ そ 1,000億 円 の 予 算 が 投 じ ら れ て い る 。し か し ,こ れ ら
の 補 助 事 業 の 費 用 対 効 果 は ほ と ん ど 評 価 さ れ て い な い 。本 稿 で は ,NEDO が 過 去 に 実 施 し た
業務・産業部門における代表的な省エネ補助事業を事例として,米国の省エネプログラム
評価で用いられている手法を参考に,補助事業による追加的な削減量(ネット削減量)を
推 計 し た 上 で , 削 減 費 用 と 便 益 /費 用 比 を 推 計 す る 。
2.分析方法
省エネプログラムの効果推計手法としては,大別して統計的手法と工学的手法がある。
前者は信頼性が定量化可能という利点がある一方,データ入手やサンプル数の点で制約が
ある。本稿では,分析対象である業務・産業部門のプログラム評価に適した工学的手法を
用 い る 。 工 学 的 手 法 に よ る 省 エ ネ プ ロ グ ラ ム の 効 果 推 計 で は , フ リ ー ラ イ ダ ー ( FR: 仮 に
補助金がなくとも省エネ設備を導入したであろう事業者)の存在が問題となる。そこで本
稿 で は , 米 国 で 広 く 用 い ら れ て い る 自 己 申 告 法 に よ り FR 率 推 計 を 行 い , FR を 控 除 し た ネ
ット削減量を推計した。自己申告法とは,例えば「仮に補助金がなければ同じ省エネ設備
を 導 入 し た か 」な ど の 質 問 へ の 回 答 か ら FR 率 を 算 出 す る 手 法 で あ る 。回 答 バ イ ア ス を 抑 え
る た め 多 面 的 に 質 問 を 行 い , 複 数 の 回 答 に 基 づ い て FR 率 を 推 計 し た 。
NEDO 事 業 の 補 助 対 象 者 へ の ア ン ケ ー ト 調 査 は 2013年 12月 に 実 施 し た ( 配 布 数 927, 有 効
回 答 率 54.6%)。ア ン ケ ー ト 調 査 か ら FR 率 を 推 計 し た 上 で ,下 記 式 に よ り プ ロ グ ラ ム 運 用 者
費 用 ( PAC), 総 資 源 費 用 ( TRC) お よ び 便 益 /費 用 比 を 推 計 し た 。
PAC 
CRF  B
,
1   E g
TRC 
CRF  IC  PC 
1   E g
L
た だ し CRF : 資 本 回 収 係 数 r 1  r  , r : 割 引 率 , L : 省 エ ネ 効 果 の 持 続 年 数 , B : 補 助 予 算
1  r L  1
PC : 補 助 事 業 運 営 費 , IC : 設 備 投 資 額 , E g : 事 業 に よ る グ ロ ス 削 減 量 , α : FR 率
*
電 力 中 央 研 究 所 社 会 経 済 研 究 所 Socio-economic Research Center, Central Research
Institute of Electric Power Industry 〒100-8126 東 京 都 千 代 田 区 大 手 町 1-6-1 TEL
03-3201-6601 E-mail: [email protected]
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会津大学 コンピュータ産業学講座 准教授
3.分析結果
FR 率 の 推 計 結 果 お よ び そ れ に 基 づ く ネ ッ ト 削 減 量 と 費 用 便 益 の 推 計 結 果 を 表 1に 示 す 。
FR 率 は 事 業 に よ り 大 き な 差 が な く , 52~ 56%と な っ た 。 こ れ は 諸 外 国 の 省 エ ネ プ ロ グ ラ
ムにおける推計値と比べるとやや高く,抑制策を講じる必要があると考えられる。なお,
自 己 申 告 法 に よ る FR 推 計 に は さ ま ざ ま な 回 答 バ イ ア ス が 入 り 得 る た め ,こ こ で の 推 計 値 は
不確実性のある値として理解されるべきである。ただし,インタビュー調査の結果等を踏
まえると回答は特定の方向に偏っていたとは考えにくく,回答間の矛盾も少なかった。
ま た , プ ロ グ ラ ム 運 用 者 費 用 ( す な わ ち 政 府 視 点 か ら の 費 用 ) は 1万 ~ 4万 円 /原 油 換 算
kL お よ び 5,000~ 2万 円 /t-CO2程 度 , 総 資 源 費 用 ( 補 助 対 象 者 の 設 備 投 資 も 含 め た 全 費 用 )
は 2万 円 ~ 6万 円 /原 油 換 算 kL お よ び 7,000~ 3万 円 /t-CO2程 度 と な り , 事 業 実 施 当 時 の 資 源
価 格 と 同 程 度 か ら や や 低 い 水 準 で あ っ た が ,排 出 権 価 格 と 比 べ る と や や 高 い 水 準 で あ っ た 。
便 益 費 用 比 は 合 理 化 補 助 金 ・ BEMS 補 助 金 に つ い て は 1を 上 回 っ た が , 建 築 物 補 助 金 に つ い
て は 1を 下 回 っ た 。た だ し ,こ れ ら の 事 業 目 的 に は ,直 接 的 な 削 減 効 果 だ け で な く 先 端 的 技
術導入による波及効果も含まれるため,一視点による評価である点に注意が必要である。
表1
事業名
政府予算
略称
[億 円 /年 ]
評 価 対 象 と し た 補 助 事 業 の FR 率 お よ び 費 用 便 益 の 推 計 結 果
FR 率
年間削減量 プログラム運用者費用
総資源費用
TRC に よ る
[万 kL/年 ] [万 円 /kL] [万 円 /t-CO ] [万 円 /kL] [万 円 /t-CO ] 便 益 /費 用 比
2
2
合理化
181
0.56
16.9
1.4
0.5
1.8
0.7
2.3
建築物
15
0.50
0.3
4.2
2.0
6.2
3.0
0.7
BEMS
23
0.52
1.0
2.1
1.0
3.0
1.5
1.4
注 )「 合 理 化 」 = エ ネ ル ギ ー 使 用 合 理 化 事 業 者 支 援 事 業 ,「 建 築 物 」 = 住 宅 ・ 建 築 物 高 効 率 シ ス テ ム 導 入
促 進 事 業 ( 建 築 物 に 係 る も の ),「 BEMS」 = 住 宅 ・ 建 築 物 高 効 率 シ ス テ ム 導 入 促 進 事 業 ( BEMS 導 入 支
援 事 業 )。い ず れ も 推 計 対 象 期 間 の 年 平 均 値( 合 理 化 2005~ 2008 年 度 ,建 築 物 ・ BEMS 2002~ 2007 年
度 )。 kL は 1 次 エ ネ ル ギ ー 原 油 換 算 。 便 益 は 回 避 原 価 と し , 本 稿 で は 簡 単 の た め 資 源 価 格 と し た 。
4.結論
本 稿 で 採 用 し た 工 学 的 な FR 率 推 計 お よ び ネ ッ ト 削 減 量 推 計 の 手 法 は ,特 に 統 計 的 手 法 に
よる推計が困難な場合において有効な手法と考えられる。
一 部 の 補 助 事 業 で 費 用 便 益 比 が 1を 下 回 っ た こ と は ,事 業 設 計 に 改 善 の 余 地 が あ る こ と を
示 し て い る 。本 稿 で は 業 務・産 業 部 門 の 3事 業 を 対 象 と し た が ,例 え ば 家 電 エ コ ポ イ ン ト 事
業 な ど 家 庭 部 門 の 事 業 で は さ ら に 便 益 /費 用 比 が 低 い も の も 報 告 さ れ て い る ( Arakawa &
Akimoto 2014)。今 後 も 省 エ ネ・ 温 暖 化 対 策 の 補 助 予 算 は 増 額 が 予 想 さ れ る こ と か ら ,貴 重
な財源が効果的に活用されるためには評価体制の充実と事業設計の改善が必要と考えられ
る。