EI と自閉症スペクトラム指数の関係

EI と自閉症スペクトラム指数の関係
○小松佐穂子 1・箱田裕司 1
(1 九州大学大学院人間環境学研究院)
キーワード:情動性知能(EI)
自閉症スペクトラム指数(AQ)
Emotional Intelligence and Autism-Spectrum Quotient
Sahoko KOMATSU1 and Yuji HAKODA1
1
( Facaulity of Human-Environment Studies, Kyushu University)
Key Words: Emotional Intelligence (EI)
目 的
情動性知能 (Emotional Intelligence: EI) とは,Salovey &
Mayer (1990)によって定義された新しい知能の概念であり,自
分や他者の感情状態を読み取ったり,コントロールしたりす
るなど,感情に関わる知能のことである。EI は,IQ で表現さ
れる一般的な知能 (Intelligence) に比べて,対人コミュニケー
ション場面において重要であると考えられている。
自閉症について,社会的・コミュニケーション障害の程度
という連続体(自閉症スペクトラム)を想定し,自閉症障害と
健常状態を両極に位置付ける自閉症スペクトラム仮説がある
(Baron-Cohen, 1995)。一般健常者の中にも自閉症傾向の個人差
が存在することが明らかにされており,自閉症傾向は,
Baron-Cohen et al. (2001)の自閉症スペクトラム指数
(Autism-Spectrum Quotient: AQ)として表現される。
EI と自閉症傾向は,いずれも対人コミュニケーション能力
に関わる概念であり,したがって,両者は関連していること
が考えられる。しかし,これまでに EI と自閉症傾向の関係は
検討されていない。
そこで本研究は,AQ を用いて,EI と自閉症傾向の関係に
ついて検討することを目的とした。
方 法
参加者 19 歳から 45 歳の大学生,大学院生および大学職
員 81 名(男性 26 名,女性 55 名)であった。平均年齢は 23.1 歳,
SD は 5.58 であった。
EI 質問紙 箱田・小松・中村 (2010)で作成された EI 質問
紙を用いた。“自己感情の表現”“他者感情の認知”“自己感情の
制御”の三つの EI を各 4 項目で測定し,計 12 項目で構成され
た。“自己感情の表現”とは,自分自身の感情を認識し,表現
できるかという EI である。“他者感情の認知”とは,他者の感
情を認知できるか,共感できるかという EI である。“自己感
情の制御”とは,自分自身の感情をコントロールできるかとい
う EI である。各項目の評定尺度は 4 段階尺度であった。
AQ 質問紙 若林・東條・Baron-Cohen・Wheelwright (2004)
の日本語版 AQ 質問紙を用いた。自閉症の症状を特徴づける
五つの領域(“社会的スキル”“注意の切り替え”“細部への注
意”“コミュニケーション”“想像力”)を各 10 項目で測定し,計
50 項目で構成されている。また各項目の評定尺度は,4 段階
尺度であった。“社会的スキル”は社会的場面で他者と関わる
方かといった対人スキル,“注意の切り替え”は容易に別の対
象に注意を切り替えられるかという傾向,“細部への注意”は
数字など細部へのこだわりの傾向,“コミュニケーション”は
対人コミュニケーション能力,“想像力”は小説やフィクショ
ンなどに対する想像力である。
手続き 調査は個人ごとに行われた。参加者は EI 質問紙に
回答した後,AQ 質問紙に回答した。
Autism-Spectrum Quotient (AQ)
結果と考察
質問紙得点の算出 EI 質問紙では“自己感情の表現”“他者
感情の認知”“自己感情の制御”について,それぞれを測定する
4 項目の平均値を尺度得点として算出した。AQ 質問紙では若
林ほか(2004)に従い,各項目で自閉症傾向を示すとされる側
に回答をしている場合に 1 点を与え,AQ 総合得点と五つの
領域の得点を算出した。
相関分析 EI と AQ 得点の関係について検討するため に,
EI の三つの因子と AQ 総合得点および五つの領域の得点
の間の相関分析 (Pearson の積率相関係数)を行った(表 1)。
分析の結果,三つの EI 因子と AQ 総合得点の間に,0.3
程度の有意な負の相関係数が得られた。各 EI 能力が高い
と,自閉症傾向が低いことが明らかになった。また,自閉
症傾向の五つの領域と EI 因子との相関分析の結果,社会
的スキル,注意の切り替え,コミュニケーションでは有意
な相関係数が得られたが,細部への注意,想像力では相関
係数は有意ではなかった。したがって自閉症傾向の種類に
よって,EI が関連するものとそうでないものが存在すると
考えられる。
表1
EI と AQ 得点の相関係数
自己感情の表現
他者感情の認知 自己感情の制御
AQ総合得点
-0.366 **
-0.305 **
-0.268 *
社会的スキル
注意の切り替え
細部への注意
コミュニケーション
想像力
p <.01 **, p <.05 *, p <.10
-0.345 **
-0.336 **
-0.069
-0.284 *
0.038
-0.348
-0.225
0.212
-0.358
-0.153
-0.266 *
-0.249 *
0.069
-0.223 *
-0.102
**
*
+
**
+
引用文献
Baron-Cohen, S. (1995). Mindblindness; an essay on autism and theory of
mind. Boston: MIT Press-Bradford Books.
Baron-Cohen, S., Wheelwright, S., Skinner, R., Martin, J., & Clubley, E.
(2001). The Autism-Spectrum Quotient (AQ): Evidence from Asperger
syndrome/high-functioning autism, males and females, scientists and
mathematicians. Journal of Autism and Developmental Disorders, 31,
5-17.
箱田裕司・小松佐穂子・中村知靖 (2010). 情動的知能とは何か?―
情動的知能の主観的・客観的測定法による結果とストレスコーピン
グとの関係― 第 14 回日本情報ディレクトリ学会全国大会研究報
告予稿集,7-10.
Salovey, P., & Mayer, J. D. (1990). Emotional intelligence, Imagination,
Cognition and Personality, 9, 185-211.
若林明雄・東條吉邦・Baron-Cohen, S・Wheelwright, S. (2004). 自閉症
スペクトラム指数 (AQ) 日本語版の標準化―高機能臨床群と健常
成人による検討― 心理学研究, 75, 78-84.