有機化学Ⅱ平常テスト③(2014.10.16)標準解答 1 次の化合物の IUPAC 英名を示せ。 (1) CH2Cl H (CH2)2C(CH3)3 (2) I (3) H CH2CH(CH3)2 CH2C(CH3)3 H CH(CH3)2 CH2Cl C(CH3)3 F (1S,2R,4S)-2-(1,1-dimethylethyl)-4-fluoro-1-iodocyclohexane (5S,6S)-5,6-bis(1-chloromethyl)-2,2,7-trimethyloctane (R)-4-cyclopentyl-2,2,6-trimethylheptane (1)は、右上炭素を 1-位とすると置換基位置は、2,2,5,6,7-位。左下炭素を 1-位にすると 2,3,4,7,7-位になり、下線 部の違いにより右上炭素が 1-位になる。(3)の cyclopentyl は、正しくは cyclopentan-1-yl。 2 3-chloro-1,3-dimethyl-4-(1-methylethyl)cyclohexane の2種類の異性体、すなわち、A:(1R,2S,3R,4R)- 体, B:(1S,2S,3S,4R)-体 それぞれに KOCH2CH3 を低温で反応させて E2 反応を施した時の反応式を、それぞ れ示せ。反応式中の構造式は絶対配置などが分かるように描け。 ごめん。この問題は出題をしくじっていて、出発物質は 2-chloro-1,3-dimethyl-4-(1-methylethyl)cyclohexane でなければならない。出題の通りの 3-chloro-1,3-dimethyl-4-(1-methylethyl)cyclohexane だと、2-位はキラルで なくなる。本問は採点対象外とし、全員に2点加点し、他の問題に残りの8点を振り分ける。ただし、本問以外 の部分で得点できていない者(要するに0点の者)には、加点措置を適用しない。また、本問をそのまま解いて 正解している場合は、当初の配点で採点する。 出発物質が 2-chloro-1,3-dimethyl-4-(1-methylethyl)cyclohexane だと考えて解いてみる。まず E2 反応と指定 されているので、Cl は必ず axial でなければならない。そこで cyclohexane 環を描いて、2-位の Cl を真っ先に axial に配置してしまい、残りの2つの-CH3 基, -CH(CH3)2 基を(R,S)の指定に矛盾しないように配置していく。 (⇔この作業が重要)Aについては次のようになる。また、教科書 p.338-339 に、Aの場合についての問題が載 っている。2-位の Cl と 3-位の H が axial で anti の配置にあり、E2 反応して相当する cyclohexene 化合物が出 来上がる【2,3-位から脱 HCl】。なお 1-位にも H はあるが、2-位の Cl を axial とした conformer を作ると、1位の H は equatorial 配置になるので E2 反応できない。 CH3 H A H (eq.) KOCH2CH3 (ax.) (CH3)2CH CH3 + KCl + CH3CH2OH 低温 (CH3)2CH CH3 Cl CH3 それではBはどうか? 2-位の S-配置は変わらないので、Aと同じように Cl を axial に配置できる。そうすると、 (1S,2S,3S,4R)-体は下記のようになる。今度は 3-位の H は equtorial 配置になり、反応できない。しかし同時に、 1-位の H が axial 配置になり、2-位の Cl とちょうど anti になるから、E2 反応可能になる【1,2-位から脱 HCl】 。 H (eq.) CH3 B CH3 KOCH2CH3 (CH3)2CH CH3 + KCl + CH3CH2OH 低温 (CH3)2CH H Cl CH3 (ax.) 次に、出発分子が 3-chloro-1,3-dimethyl-4-(1-methylethyl)cyclohexane であるとして解いてみる。ただし、 A:(1R,2S,3R,4R)-体, B:(1S,2S,3S,4R)-体となっているが 2-位は-CH2-なのでアキラル。したがって実際には、 A:(1R,3R,4R)-体, B:(1S,3S,4R)-体と考えることにする。 CH3 (eq.) Cl A KOCH2CH3 (ax.) (CH3)2CH CH3 + KCl + CH3CH2OH 低温 CH3H H (CH3)2CH CH3 H Aでは、Cl と anti の配置にある H または H、および H(メチル基水素のどれか一つは必ず anti 配置になる) の何れかが脱離できる。しかし、Saytev 則により、置換度の大きい二重結合化合物が選ばれるので、脱離する のは H ということになり、上記の生成物が得られる。 (eq.) CH3 CH3 B KOCH2CH3 (eq.) (CH3)2CH CH3 + KCl + CH3CH2OH 低温 (CH3)2CH Cl H H CH2 H Bでは、Cl と anti の配置にあるのは H(メチル基水素のどれか一つは必ず anti 配置になる)のみであり、Cl-H や Cl- H は「ねじれ」配置、Cl-H は「ゴーシュ」配置なので脱離しにくい。したがって上記の生成物が得られ る。なお「ゴーシュ」配置は全く脱離できないわけではない。他に可能性が無ければ、むりやりゴーシュ配置か ら脱離する。 3 (3S,4S)-3-bromo-3,4-dimethylheptane に、次のような条件で反応させた。主な化学反応の反応式をすべて 示せ。反応式中の構造式は絶対配置などが分かるように描け。 この3は比較的容易に解けるはずで、真っ先に着手して得点を稼ぐべき。三級のブロモアルカンなのだから SN2 反応は起きない。SN1,E1(加熱),E2(低温,強塩基)を判別すればよい。 (1) 1M KI の DMF 溶液中にて、40℃で反応させる。 三級のブロモアルカンで加熱しているから、Br−が解離して R+を生み、そこから SN1 and/or E1 反応が起きるは ず。しかし、I−は良い求核剤だが Lewis 塩基性は低く、H+を引き抜いて E1 反応を起こす能力は殆ど無い。した がって、SN1 反応のみが起きると考えてよい。 Me H Et Me Me Br (Δ) Pr H Et (+KI) Me Me Pr Me Pr + Br− H Et Me C+ ただし、Me-=CH3-, I H Et Et-=CH3CH2-,Pr-= CH3(CH2)2- Me I Pr 中間体のカルボカチオンは、平面構造で、空軌道の 2pz の上下 二方向から I−が攻撃するので、生成物は二種 + KBr (2) 1M KOtBu の DMF 溶液中にて、0℃で反応させる。 【三級ハロアルカン/強塩基性の求核試薬/低温】は、典型的な E2 反応条件。 @低温で活性化エネルギーを与えていないのでハロアルカンの解離は起きにくい。したがって SN1 と E1 反応は 起きにくい。 @求核剤が立体障害の大きい強塩基であり、しかも濃度が高いので、Hofmann 経路の E2 反応が起きる。すな わち、Me の3つの H のいずれかが抜ける。Newman 投影式を描くまでもなく、経路を特定できる。 CH2 H Me H Et Me Br Pr + KOtBu Me + KBr + tBuOH Et−C Pr ただし、Me- = CH3-,Et- = CH3CH2-,Pr- = CH3(CH2)2なお、Me ではなく、Et の-CH2-からプロトンが引き抜かれる Hofmann 経路もあり得るが、minor なので書か なくてよい。
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