「書くこと」から始める英語 「書くこと」から始める英語

「書くこと」から始める英語
私 た ち 日 本 人 は 英 語 を 「 書 く こ と 」 を 習 っ て い な い 。「 英 作 文 」 と 呼 ば れ て い
るのは、短文の英訳にすぎない。翻訳業界でも、和文英訳はネイティブでなけれ
ば通用しないのが普通である。話すのと違い、書かかれたものは、間違いや稚拙
さが明確に現れる。英語で書かれた論文をいつも読んでいる学者でも、英語で論
文 を 書 け る 人 と い う の は 少 数 で あ る ( 自 然 科 学 の 学 者 は 除 く )。
しかし、いま私たち日本人に求められているのは、自分の意見を英語で伝え、
海外に向けて情報発信する能力である。国際会議においても、相手の理解もさる
ことながら、こちらの意見を通すことがより重要である。
こうした情報発信は、口頭で行われる場合と文書による場合とある。今日、コ
ミュニケーションの主体は、電話からメールに代わっている。書くことが正しく
話すことにつながる。講演にも、原稿が必要である。
もし中学生の頃から、英語を書くことから始めていたら、ずいぶんと日本人の
英語力は違っていたであろう。明治以来、英語学習は西洋文明の知識を理解し、
導入することに主目的があった。しかし、いまは日本のことを世界に伝え、私た
ちの意見を述べることに目的を転換しなければならない。
では、どのようにして英語を書くことを教えればよいのか。英文和訳なら、文
法の知識と辞書で済む。しかし、書くこと(話すことも同じ)を教える確固たる
方法論はない。間違いを直すのも難しい。英文和訳と和文英訳とでは根本的に違
う。英文は直訳しても、意味は通じるが、和文英訳はそうはいかない。
英語を書く練習によく勧められるのが、英語で日記をつけることである。しか
し、これは日本語でさえなかなか続けられない。それに内容的に単調である。そ
れなら、日常、仕事などで出しているEメールを英訳するのがベストである。ツ
イッターでもよい。英文でツイターを発信すれば、外国人からフォロアーのコメ
ントが届くかもしれない。これがコミュニケーションである。日常英語を話す機
会はなかなないものだが、メールであればいくらでもチャンスはある。英語のあ
る環境をつくるならこれにかぎる。日本人が英語力で劣るのは、英語を使う環境
がないことに理由がある。
しかし、英文を書くのは、かなりに英語力があってもなかなか自信の持てない
も の で あ る 。TOEIC に も 書 く こ と( 話 す こ と も だ が )の 問 題 は な い 。英 語 を 書 く
ことに自信のない人はどうするのか。短い文章を書くのに1時間もかかるのでは
実用にはならない。多忙な人には無理である。話せれば書けるはずだが、そうは
いかない。
そこで登場するのが、自動翻訳を支援ツールに使うというアイデアである。
理想的には、頭の中にある伝えたいメッセージがあり、それを直接英語で表現
できることである。あるいは、日本語を書いて、それを英語にすればよい。しか
し、難しい内容の日本語を英語にできるという人は限られる。それなら、コンピ
ュータに訳してもらったらどうか。
自動翻訳ソフトを使って英訳するのでは、本当の英語力ではないし、邪道だと
いう人も少なくないであろう。だが、計算の仕事をするのに、電卓を使うのは誰
も疑問には思わない。便利なツールがあれば、使うのは当然であろう。辞書を使
ってはいけないという人はいない。
しかし、既存の自動翻訳ソフトは、和文英訳の場合4割近くの誤訳率であり、
実用にはならない。誰もがひどい英語になることを経験している。だが、英訳す
る 日 本 語 を ま ず 英 語 的 な 構 造 の 日 本 語 に 直 し て お け ば 、語 訳 率 は 5 % 以 下 に な る 。
日本語的発想のメッセージをいくら正確な英語に訳しても、相手に理解されな
い恐れがある。英語にする前に、英語的思考あるいは表現形式の日本語に直して
おけば、単に文章の構造だけでなく、発想や論の展開も英語的にアレンジするこ
と可能にするのである。
どのように日本語を直しておけばよいかを次に示しておこう。自動翻訳はいず
れ も Yahoo が 提 供 し て い る も の で あ る 。
【原文】
昨日のミーティングで、次回は私が当番で話をすることにきまりましたが、
どのようなテーマがよいか、迷っています。ご関心のあるテーマがありま
したら、教えていただけませんか?
【自動翻訳】
In the yesterday's meeting, the next time was fixed at my talking in a
turn, but what kind of theme is good or hesitates. If there is a theme
with the interest, would you tell me?
指導した受講生は次のように書き直した。それぞれ自動翻訳の英文を付けた。
受講生A
私が次回のミーティングでスピーチすることが、昨日のミーティングで決まりま
した。私はどのようなテーマについてスピーチするか決めることができません。
あなたの興味のあるテーマを教えてください。
It was decided that I gave a speech in a next meeting in the yesterday's
meeting. I cannot decide what kind of theme I give a speech about.
Please tell me the theme with your interest.
受講生B
次回は、私が当番で話をすることになりました。それは昨日のミーティングで決
まりました。私は、どのようなテーマがよいか、迷っています。もしあなたが関
心のあるテーマがありましたら、私に教えてください。
On the next time, I will talk in a turn. It was decided in the yesterday's
meeting. I am at a loss what kind of theme is good. Please tell me if
there is the theme that you are interested in.
受講生C
昨日のミーティングで、私が次回話しをすることになりました。私はどんなテー
マがよいか考えています。あなたの興味のあるテーマを私に教えてください。
In the yesterday's meeting, I will talk on the next time. I think what
kind of theme is good. Please tell me the theme with your interest.
模範的な E Jを示そ う 。
昨日のミーティングにおいて、次回のミーティングの話者として私が当番で指名
されました。私は何について話すべきか。私は迷っています。あなたが興味を持
つ話題は何ですか。あなたのアドバイスを私は感謝するでしょう。
【自動翻訳】
In the yesterday's meeting, I was appointed with a turn as a speaker of
the next meeting. What should I talk about? I am at a loss. What is the
topic that you are interested in? I will thank for your advice.
これに手を入れて、ナチュラルな英語にした結果は次のようである。
At the yesterday’s meeting, I was appointed as a speaker of the next
meeting in my turn. I’m wondering what I should talk about. Do you
have any topic that you may be interested in? I will appreciate your
advice.
英 語 的 な 構 造 を 持 つ 日 本 語 を E J (Englic Japanese)と 名 づ け た 。E J を 書 く こ
とが英語学習の訓練になるだけでなく、コンピュータが訳した英語の間違いを直
し、よりナチュラルな英語に直すことは大いに学習効果がある。
学習のためだけでなく、上級者が実際に英文を書く際にもこれは役立つ。
EUでは、参加国の各国語が公用語になっており、その翻訳や通訳に他大の費
用を要している。これの解決策として、発言者の英語は各国語に翻訳するが、話
者が話すのは英語に限定する方策をとった。おそらくこれが今後の国際会議の標
準になるであろう。
書 か れ た も の を 理 解 す る に は( 聞 く の も 同 じ )、相 手 の 語 彙 力 、考 え は 無 限 に 開
いている。だからこれを理解するのは至難である。しかし、書く(話す)のであ
れ ば 、自 分 が 伝 え た い メ ッ セ ー ジ が あ り 、そ れ を 3,000 語 程 度 の 語 彙 が あ れ ば 十
分伝えられる。英語を書くのは読むよりも難しいというのは誤解である。
英 会 話 が 重 視 さ れ て い る 。し か し 、外 国 語 の 場 合 、話 せ れ ば 書 け る は ず で あ る 。
かなりの長さの内容のあることを話すには、書くことが基本である。
今度、国際会議に出席して英語で説明する機会はますます増えるであろう。通
訳を使うというのは、費用だけでなく、時間も無駄である。通訳の言葉では感情
が 伝 わ ら な い 。簡 単 な 英 語 で よ い か ら 、通 訳 な し で 話 す こ と は ま す ま す 多 く な る 。
人に訳してもらった英語では、英語は立派でも、心がない。国際会議で説明す
る内容を日本語で書く。それをEJにする。そしてコンユータに訳させた英文を
よ り よ い も の に 仕 上 げ る 。こ れ が こ れ か ら の 英 文 を 書 く 主 流 に な る か も し れ な い 。
会議中に、発言したいと思う。その内容を、机に置いたラップトップですばや
く日本語をEJで書き、自動翻訳させる。それを見ながら話せばよい。
自動翻訳は、電卓と同様に便利な道具になる日がくるだろうと思う。
平田
周
2014/03/03