(補足資料3)共役せん断応力

2014/12/12
技術者のための構造力学
補足資料
補足資料③
資料③ 共役せん断応力
三好崇夫
加藤久人
応力は単位面積当たりに働く力を意味する.応力はテンソル表示によれば σij のように 2 つの指標で表
され,最初の指標 i は応力の発生面を意味し,次の指標 j は応力の作用方向を表す.図-1 は部材の内部
の 6 面体微小要素に生ずる応力を示している.ただし,微小要素の質量や外力によってその重心には x,
y,z 軸方向と平行な力(体積力と呼ばれる)Fx,Fy,Fz が生じているものとする.6 面体微小要素の各
面の大きさは非常に小さいものとする.微小要素の面に対して垂直な応力は直応力,面に平行な応力は
せん断応力と呼ばれる.応力の符号については,x,y,z 軸方向の正側の面において各軸に対する正の
向きの応力を正とする.表-1 には応力のテンソル表記とベクトル表記の対応関係を示した.
微小 6 面体要素内の体積力の影響により,例えば,座標原点側の 3 つの面に(σxx, σxy, σxz)
,
(σyx, σyy, σyz),
(σzx, σzy, σzz)が生じていれば,それらの反対側の 3 つの面にはそれぞれ微小量変化した(σxx+(∂σxx/∂x)dx,
σxy+(∂σxy/∂x)dx, σxz+(∂σxz/∂x)dx ),( σyx+(∂σyx/∂y)dy, σyy+(∂σyy/∂y)dy, σyz+(∂σyz/∂y)dy ),( σzx+(∂σzx/∂z)dz,
σzy+(∂σzy/∂z)dz, σzz+(∂σzz/∂z)dz)が生ずることになる.
図-1 に示した応力のうち,直応力 σxx,σyy と σzz は引張方向に作用するものを正,および圧縮方向に
作用するものを負とする.残りのせん断応力 6 成分 σxy,σyx,σyz,σzy,σzx と σxz は,図-1 に示す各座標
軸まわりのモーメントの釣り合い条件によって,後で述べるように,2 つのせん断応力成分間の共役性
が示されるため,独立な成分は 3 成分となる.
一例として,微小要素の x-y 面内に生ずるせん断応力の共役性について説明するため,図-1 の+z
軸方向から見た微小要素の x-y 面を図-2 に示す.同図中に示すように,微小要素の x,y,z 方向の長
さをそれぞれ dx,dy,dz とし,その中心を m とする.それぞれ x-y 面に生ずる応力(σzx, σzy, σzz)と
(σzx+(∂σzx/∂z)dz, σzy+(∂σzy/∂z)dz, σzz+(∂σzz/∂z)dz)に断面積 dxdy を乗じたものは,x-y 面に生ずる軸力また
はせん断力となる.それらの作用点はいずれも m 点(重心点)であり,後述の重心点まわりのモーメン
dy
dx
σzx+(∂σzx/∂z)dz
σxy
σyx
σyy
σxx
σx
σyy
σy
σzz
σz
σxy
τxy
σyx
τyx
せん断
σyz
τyz
応力
σzy
τzy
σzx
τzx
σxz
τxz
直応力
σyy+(∂σyy/∂y)dy
σxz+(∂σxz/∂x)dx
σyx+(∂σyx/∂y)dy
σxy+(∂σxy/∂x)dx
σxx+(∂σxx/∂x)dx σzx
σzy
正の面 z
(y 方向)
正の面
(x 方向)
x
図-1 3 次元応力状態
1
応力のテンソル表記と
ベクトル表記の比較
テンソル表記 ベクトル表記
σyz+(∂σyz/∂y)dy
Fy
σzz
正の面
(z 方向)
σxx
σxz
Fz
Fx
σyz
dz
表-1
σzz+(∂σzz/∂z)dz
σzy+(∂σzy/∂z)dz
y
2014/12/12
技術者のための構造力学
dy
σxx
τxy
z
y
x
τyx
τyx+(∂τyx/∂y)dy
σyy
m
Fy
dx
σyy+(∂σyy/∂y)dy
Fx
z 軸方向の高さ dz
τxy+(∂τxy/∂x)dx
σxx+(∂σxx/∂x)dx
図-2 微小要素の x-y 面
トの釣り合い式には無関係となるため,図-2 には示していない.同様に,y-z 面,z-x 面に生ずるせ
ん断応力 σxz,σxz+(∂σxz/∂x)dx,σyz,および σyz+(∂σyz/∂y)dy についても x-y 面内の m 点まわりのモーメン
トの釣り合い式には無関係であるため省略している.したがって,
図-2 には,直応力 σxx,σxx+(∂σxx/∂x)dx,
σyy,σyy+(∂σyy/∂y)dy,せん断応力 σxy(=τxy),σxy+(∂σxy/∂x)dx(=τxy+(∂τxy/∂x)dx),σyx(=τyx),σyx+(∂σyx/∂y)dy
(=τyx+(∂τyx/∂y)dy)を示した.これらの直応力に微小要素の断面積 dzdx または dydz を乗ずると軸力とな
るが,それらの作用線はいずれも微小要素の重心点 m を通過する.また,体積力 Fx,Fy のいずれも重
心点に作用する.よって,これらは m 点まわりのモーメントはもたらさないため,モーメントのつり合
い式から省略できる.
図-2 の微小要素において,時計回りを正とする重心 m 点まわりのモーメントのつり合い式は,
− τ xy dydz
∂τ
∂τ

dx 
dy 

dx
dy
=0
+ τ yx + yx dy dzdx − τ xy + xy dx dydz + τ yx dzdx
2 
∂y
2 
∂x
2
2


(1)
式(1)を dxdydz で除すと,
2τ yx − 2τ xy +
∂τ yx
∂τ
dy − xy dx = 0
∂y
∂x
(2)
式(2)において,dx → 0,dy → 0 の極限をとれば,次の関係の成立することが明らかである.
τ =τ
xy
yx
(3)
y-z 面内のせん断応力 τyz,τzy,z-x 面内のせん断応力 τzx,τxz に関しても同様にモーメントのつり合
いを考えることによって次の関係が得られる.
τ =τ
zy
(4)
τ =τ
xz
(5)
yz
zx
式(3)~(5)は共役せん断応力の法則と呼ばれている.
2