実習書

生物学実験 IIIAB
アポトーシス細胞における DNA ラダーの検出
担当:鎌田
真司
細胞は極度のストレス条件(紫外線、放射線、酸化ストレス等)下に置かれ
た場合やデスレセプター(Fas 抗原レセプター、TNF レセプター等)が細胞死
のシグナルを受け取った場合に、速やかにアポトーシスを起こす。様々な細胞
死誘導刺激は最終的にはカスパーゼと呼ばれる蛋白質分解酵素の活性化を引き
起こし、活性化したカスパーゼが細胞内の様々な蛋白質を切断することにより
アポトーシス細胞の特徴を示すようになる。アポトーシス細胞の特徴としては、
細胞質の縮小と断片化、クロマチンの凝縮、核の凝縮と断片化等が挙げられる。
これら形態学的特徴は光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡を用いて観察でき
る。また、これらの変化を示す過程で生化学的な変化を伴っており、細胞膜構
成成分であるアネキシン V の細胞外への露出や DNA の断片化を解析すること
によりアポトーシスが起きたかどうか判断することができる。本実習ではアガ
ロースゲル電気泳動法を用いて、アポトーシス細胞の生化学的指標である DNA
の断片化を検出する。アポトーシスが起こっていれば DNA は 180~200bp の整
数倍のラダーとして検出される。
1日目
・ 実習内容の説明
・ 試薬の調製
・細胞より断片化 DNA の抽出
2日目
・断片化 DNA 抽出の続き
・アガロースゲルの作製
・アガロースゲル電気泳動
・泳動結果の撮影
1
注意点
・本実習では Jurkat 細胞をエトポシド刺激によりアポトーシスを誘導した細胞
(刺激後0、3、6時間)から DNA を抽出する。また、HeLa 細胞(Histone H2B
が GFP と融合しているため核は緑色を示す)を Fas を介してアポトーシスを誘
導し、0時間から18時間までタイムラプス撮影したビデオファイルを用意し
ておく(http://www.research.kobe-u.ac.jp/brce-kikkawa/jikken)。両者は刺激は
異なるが、細胞内では最終的に共通した経路を通ってアポトーシスに至る。実
験結果とビデオでの細胞の変化を良く観察し、細胞内で起こっている変化を考
察しレポートを作製する。
(A)
(I)
DNA 断片の抽出
試薬の調製
・ 細胞溶解バッファー
1M Tris-HCl (pH 7.5)
0.01 ml
(最終濃度 10mM)
0.5M EDTA (pH 8.0)
0.02 ml
(最終濃度 10mM)
10% Triton X-100
0.05 ml
(最終濃度 0.5%)
1M Tris-HCl (pH 7.5)
0.1 ml
(最終濃度 10mM)
0.5M EDTA (pH 8.0)
0.02 ml
(最終濃度 1mM)
DW で Total 1 ml とする
・ TE バッファー
DW で Total 10 ml とする
・ RNase A 溶液
TE バッファーに 10 mg/ml に溶解
(DNase 不活性化を要するときは、100℃、15分間加熱処理)
100μl ずつ小分けにして、−20℃保存、解凍後4℃保存
・Proteinase K 溶液
DW に 10 mg/ml に溶解
100μl ずつ小分けにして、−20℃保存、解凍後4℃保存
・ 4M NaCl
2
(II)
方法
1)1 x 106 細胞を 200 x g、5分間遠心し、上清を除去後、200μl の PBS(-)
に懸濁する。
2)250 x g、10分間遠心後、上清を除去する(この段階で−80℃で保存可能)。
3)ボルテックスにより細胞ペレットを浮遊させた後、細胞溶解バッファー
を 100μl 加える。
4)氷上に10分間置き、時々ボルテックスをかけ DNA 断片を抽出する。
5)15000 rpm、10分間遠心し、上清(DNA 断片を含む)を新たな 1.5 ml
チューブに移す。
6)RNase A 溶液を 2 μl 加え、37℃で1時間インキュベーションする。
7)2μl の Proteinase K 溶液を加え、50℃、30分間インキュベーション
する。
8)25μl の4M NaCl と125μl のイソプロパノールを加え、−20℃で
一晩置く。
9)15000rpm、15分間遠心し、上清を除去する。完全にイソプロパノール
を除くために、再度2分間遠心し注意深く上清を除去する。
10)10分間室温に放置し、軽く乾燥させる。
11)TE バッファー20μl を加え、ボルテックスをかけて DNA を溶解させ
る。
(B)
(I)
アガロースゲル電気泳動
試薬の調製
・50 X TAE バッファー
242g Tris base
57.1 ml 酢酸
100 ml 0.5 M EDTA (pH 8.0)
DW で Total 1000 ml とする
・ 10 X ゲルローデイング液
1% SDS
50% グリセロール
3
0.05% ブロモフェノールブルー
(II)
方法
1)アガロース 2 g に 1 X TAE バッファー100 ml を加え、電子レンジで加温
溶解させる。
2)少し冷えたらゲルメーカー板に流し、直ちにコームを差し込む(Mupid
用ゲルメーカーで厚さ 4 ~ 5 mm のゲルを作製)。アガロースが完全に固
まるまで待ち、コームを外す。
3)(A)で調製した DNA 溶液にゲルローデイング液を 1 X となる様に加え
る。
4)1 X TAE バッファーを入れた Mupid 電気泳動槽にゲルをセットする。
5)上記試料(各10μl)をウエルに入れる。左端のウエルには DNA 分子
量マーカー100 bp ladder marker を入れる。
6)100 V で泳動し、マーカー色素が先端付近に来たら終了する。
7)エチジウムブロマイドを加えた DW に浸し、20分間放置する。
8)DW で軽く洗った後、UV トランスイルミネーターで DNA の蛍光を検出
し、カメラで撮影する。
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