MRSA・緑膿菌の感染率の推移(プロセス)

MRSA・緑膿菌の感染率の推移
当院では、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と緑膿菌をターゲットとして感染率の動
向を平成 14 年より開始し、経年的にデータ蓄積を行っています。データ蓄積とチェックはICT(感
染対策チーム)が毎月行い、院内感染対策委員会に報告する事を通して、医療関連感染(院内感染
など)を早急に発見し適切な対処を行ってきました。
これまでにも、MRSAの院内感染を疑うグラフが認められ、適切な対処を行う事で拡大を防げ
た例があります。
MRSAと緑膿菌の感染率の推移を示したグラフを掲載します。グラフの見方に関しては、後述
の説明をご覧下さい。
1.20
(感染率)
MRSA感染率
UCL(上方管理限界:CL+3SD)
上方警告限界+2SD
CL(中心線)
LCL(下方管理限界:CL-3SD)
1.00
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
MRSA感染率の推移 平成14年~
(年月)
1.00
(感染率)
緑膿菌感染率
UCL(上方管理限界:CL+3SD)
上方警告限界+2SD
CL(中心線)
LCL(下方管理限界:CL-3SD)
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
緑膿菌感染率の推移
平成14年~
(年月)
当院にて使用しているグラフ(管理図)は、自動車産業向け品質マネジメントシステムのツール
のひとつである、統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)の「P 管理図」というものです。
工場の作業工程において、
「不良品」が出現することは少なからずあり、この不良率を管理していく
ために行われている方法です。
これを、感染対策管理のツールとして当院では使用してきました。工場で作られる「製品」とそ
の中から発生する「不良品」の割合を管理するものですが、病院においては「製品」→「患者数(延
べ患者数。感染する機会(暴露環境)を 1 日として算出します。
)」、「不良品」→「感染」と捉え、
当院で作成したエクセルファイルに入力して使用しております。
(感染率)
1.20
MRSA感染率
CL(中心線)
UCL(上方管理限界:CL+3SD)
LCL(下方管理限界:CL-3SD)
1.00
上方警告限界+2SD
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
MRSA感染率の推移
(年月)
グラフを作成するにあたり、延べ患者数の積算(上記グラフならば、2002/11 から 2012/05 まで
の延べ患者数)と延べ感染数の積算(2002/11 から 2012/05 までの感染数)を行います。このデータ
によって CL(中心線)が算出されます。
平均感染率(CL:中心線)=総延べ感染数/総延べ患者数×1,000・・・・・・
(緑色線)
次に不良(感染)が「たまたま発生したもの」か「原因があって発生したものか」の境界線を設
けるため、平均感染率より標準偏差(バラツキ)を算出します。境界線として標準偏差の 2 倍 sd ラ
イン(2SD:青色線)
・3 倍 sd ライン(3SD:赤色線)を設定しています(エクセルファイルを参照
下さい)
。
次に、グラフの見方について説明します。以下の項目を注視しながら分析を進めています。
(1) 感染率が 2SD・3SD のラインより上方にプロットされていないか?
(2) 2SD ラインより以下であっても、CL(中心線)より上方、または 2SD ラインの近似で継続
してプロットされていないか?
(3) 一定の間隔で周期的に動いていないか?
2SD ラインは「注意報ライン」
、3SD ラインは「警報ライン」と位置付けしています。2SD ライン
の近似または、下方にプロットされていれば、この月の感染は「たまたま発生した感染である(構
造的な問題はないなど)」と捉えます。しかし、2SD ラインの近似にプロットされた場合は、次月の
感染率がどの位置にプロットされるか注視しています。一度でも 3SD ラインより上方にプロットさ
れた場合は、警報として原因の追及が必要となります。
<例>
① グラフの「緑枠緑色塗り」は、3SD ライン近似にプロットされ、さらに 2SD ライン近似
にプロットされていることから、院内感染警報と捉え、院内感染防止対策として「手洗
いの徹底指導」
「研修会」などを集中的に実施しました。感染率は一時期に低下しました
が、その後も 2SD ライン近似のプロットが継続しており、院内感染防止対策の効果がグ
ラフ上に表出されるまでには約 3 年の期間が必要となりました
② グラフの「赤枠赤色塗り」は、2SD ラインより下方にプロットされていますが、5 回連続
して 2SD ラインの近似にプロットされました。3 回継続したことで、院内感染防止対策
として同様に「手洗いの徹底指導」
「研修会」などを集中的に実施し、感染率は低下しま
した。
当院では併せて、緑膿菌も同様にグラフ化しておりますが、感染率は MRSA/緑膿菌とも同じよう
なカーブでデータ推移を示しており、このツールは感染対策を進めていく上で有用なものと考えて
おります。