積層 X 線トポグラフィによる CZ

積層 X 線トポグラフィによる CZ-Si 結晶中の転位の三次元観察
結晶物理学研究室 東本寛太
シリコンは電子基板や太陽光パネルに使用されており、現代社会においては重要な素材である。先の用
途でのシリコンは性能の制御や品質の向上のためにダッシュ・ネッキング法と呼ばれる手法を用いて無
転位状態で育成される。しかし、我々の実験による無転位結晶の転位分布の仕方は既存の無転位化機構
で説明することができない。なので、本研究では新しい無転位化機構の説明を提案することが最終的な
目的になる。
本研究の実験は SPring-8 で行われた。実験内容は[001]引上げの CZ 法(チョクラスキー法)育成シリコ
ン結晶の断面トポグラフを撮影した。得られたトポグラフを Image-J(画像処理ソフト)によって積層化し
た後に 3 次元化した。転位は既存の無転位化機構で考えられるよりも長い距離を伝播しており、ループ
を描いて終端して無転位になっている。
これまでの解析として無転位化直前の転位はすべり運動によって伝播し、交差すべりを起こしている
転位も多く存在している。このことから、転位が結晶内で伝播していくための運動はすべり運動のみで
あると考えていた。試料 WATA1 の転位 b と名付けた転
位(以下、転位 b)についても、これまではすべり運動に
よる二重交差すべりによって現在の形状になったと考え
ていた。しかし、共同研究者の川戸氏の実験によって決定
された転位 b のバーガースベクトルでは二重交差すべり
によって現在のような形状にはならない。このことから、
すべり運動以外の転位の伝播ついて考慮することになっ
た。現在は上昇運動と呼ばれる転位の運動について検討を
行っている。
図1
図2
WATA1 の転位 b の Image-J による 3 次元投影画像
転位 b を二重交差すべりであると仮定した場合の模式図
手前の黄緑色の面①を滑ってきた転位が水色の面②に交差すべり
図3
転位 b が実際に乗っている(11-1)すべり面と(1-11)
すべり面での模式図
を起こした後に、交差すべりをもう一度起こして奥のピンク色の面
シリコンはダイヤモンド構造をしているため転位は
③に乗り換える (黄緑色とピンク色の面は平行関係にある) 。交差す
{111}面を伝播しやすい。転位 b についても(11-1)すべり
べりを起こすならば、バーガースベクトルは[1-10](青矢印)でなけれ
面(手前と奥に位置する 2 面)と(1-11)すべり面(側面に位
ばならない。しかし、転位 b のバーガースベクトルは[011](緑矢印)
置する 2 面)に乗っている。転位が現在の形状で(1-11)面
である。よって、転位 b は二重交差すべりを起こしていない。
と(11-1)面に乗るためのプロセスを検討している。