第 9 回レポート問題 注:いつもは授業終了時にレポートを提出して

第 9 回レポート問題
注:いつもは授業終了時にレポートを提出してもらっているが、このレポート問題の答案は(こ
のレポートの答えの一部を第 10 回授業中に示してしまう関係上)第 10 回授業の開始のときに教
室で提出してください。
以下、V を体積、p を圧力、T を絶対温度とする。
[1]
微小可逆変化 (T, V ) → (T + d T, V + d V ) で起こる吸熱 d Q(r) は
d Q
(r)
= nCV dT +
∂E
∂V
T
+ p dV
(1)
と表せることは、第 5 回授業プリントの式 (10) で示した。ここで、CV は定積モル比熱、n はモル
数、したがって nCV は定積熱容量である。
一方、n モルのファンデアワールス気体の内部エネルギー E は、
E(V, T ) = n
状態方程式は
p=
T
T0
CV (T )dT −
n2
a
V
n2
nRT
− 2a
V − nb V
(2)
(3)
とそれぞれ表される。ここで R は気体定数、a, b は気体の種類によって決まる定数。式 (2) で、T0
は定数であり1 、また、理想気体と同様に CV が T のみで決まる T の 1 変数関数 CV = CV (T ) に
なる2 。(2) で T は積分変数として用いる温度であり、T は積分の範囲 (T0 から T ) を表す温度で
ある。
この n モルのファンデアワールス気体についての以下の文章の(ア)、(イ)、(ウ)に当てはま
る式を V, n, a, b, R, T, VA , VB のうち必要なものを用いて表せ。ただし、(ウ) は自然対数の対数関数
を用いて示すこと。
(本授業では底の表示を示さない log は自然対数と約束する。自然対数を表す記号としては、こ
の他に ln があるがこの ln は板書やプリントでは使わないことにする。自然対数以外の対数は本授
業ではほとんど使わないが、第 15 回授業でもしかすると情報理論との関連で、2 を底とする対数
も扱うかもしれない。)
(2) より
∂E ∂V
T
= (ア) が求まるが、これと (3) を (1) に代入すると、
d Q(r) = nCV (T )dT + (イ) dV
が求まる。これと第 9 回プリントで示したエントロピー S の定義より、
S(VB , TB ) − S(VA , TA ) = n
TB
TA
CV (T )
dT + (ウ)
T
(4)
が求まる。ここで S を V, T の関数として S = S(V, T ) と表した。
参考: 本レポート [1] は第 5 回レポート [2](1 mol の ファンデルワールス気体の準静的断熱変
化) とも関連深い問題なので、比較せよ。
1 式 (2) で、定数 T をゼロに選んだ (T = 0) 式を示したこともあったかもしれないが、T の選び方が任意なのは、第
0
0
0
9 回プリントの [9-2-1] の定数 C の選び方が任意なのと同様である。T0 = 0 と選んだときの式 (2) と T0 = 0 と選んだと
Ê T0
きの式 (2) は定数 n 0 CV (T )dT の差があるが、この定数の差は E の変化 (dE やΔE と表記) に影響しない。
2 p.202-203 のエネルギー方程式の説明の際に示す予定。理想気体やファンデルワールス気体以外の一般の物質につい
ては、CV は T だけでは決まらず、CV (T, V ) や CV (T, p) や CV (V, p) など 2 変数関数になる。すなわち、T を一定に
しても圧力 p によって物質の密度が変化し、それに伴い CV も変化する。しかし、理想気体やファンデルワールスの状態
方程式が成り立つ場合は、T が一定ならば CV も一定。
状態 (VA , TA ) から状態 (VB , TB ) へ準静的断熱変化が起こる条件は (4) で S(VB , TB )−S(VA , TA ) =
0 となることである(’ 準静的’ 断熱変化ではエントロピーは一定)。
[2]
教科書 p.127 の図 4.12 (b) の状態 A,B のエントロピーをそれぞれ SA , SB と表す.状態 A から
状態 B への準静的等温等圧変化 [T 一定、p = p˜(T ) も一定。p˜(T ) は温度 T のときの蒸気圧] でお
きるエントロピー変化 SB − SA を、p.127-128 の L と T を用いて表せ。
[3]
教科書 p.89-90 のジュールトムソンの実験でおきる気体の変化(体積 V1 、温度 T1 、圧力 p1 から
体積 V2 、温度 T2 、圧力 p2 への変化)をジュールトムソン過程と呼ぶ.ジュールトムソン過程と呼
ばれるための必要条件の一つは断熱変化であることである(p.89 図 3.6 で気体の入っている容器
やピストンは断熱材で出来ている)。
ここで「断熱変化」とは「系の外部からの」熱の出入りが遮断されていることであり、また、
「系」
とは容器中で2つのピストンの間にある気体全体である。したがって「系の内部での」熱の移動、
例えば細孔栓中の熱の移動、は断熱変化でもおこってよい。
ジュールトムソン過程でおこるエントロピー変化は、増加、不変のうちいずれなのかを、第 9 回
授業の板書の (# r) と (# ir) のどちらかひとつを用いて示せ。下に示す、[3] の参考 1,2,3 もよく
読むこと。
なお、この問題を答えるのに必要な条件は、上述の (# r) と (# ir) のどちらかひとつ「だけ」で
あり、それ以外の面倒な微分積分の式は一切不必要。(そのような面倒そうな微分積分の式が答え
にあった場合、それがよく読めば正解とみなせる場合だったとしても、問題の出題意図に合ってい
ないということで、間違いにする可能性あり。)
(なお、p.89-90 にある「エンタルピー」は、「エントロピー」と発音は似ているが全然別のも
の。記号は「エンタルピー」には H 、
「エントロピー」には S を用いるのが慣例。エンタルピー H
については後日説明する。)
[3] の参考 1
教科書 p.89 の「ジュールートムソンの細孔栓実験」は、式はすべて正しいが文章中に用語の使
い方に関して間違いがある。この間違いは [3] を答えるときに気がつく必要がある。なお、この間
違いはこれまでの授業の説明だけでわかる間違いである(他の資料を調べる必要はない) が、下の
参考 2,3 を読んでよく考えてみること。これについての説明は [3] の答えを示す際に、それと一緒
に示す。
なお、1 を変化前、2 を変化後として、p2 < p1 (変化後の方が圧力低い)はジュールトムソン過
程で一般的に成り立つが、一方、T2 < T1 や V2 > V1 は成り立つこともあれば成り立たないことも
ある(ケースバイケース)。つまり、T2 > T1(変化後の方が温度高くなる)のジュールトムソン過
程も存在する。ジュールトムソン過程で温度が高くなる(T2 > T1 ) か低くなる(T2 < T1 ) かいず
れになるかを決める条件として「逆転温度」があるが、これについては後日(多分、第 14 回に)
説明する予定。図 3.6 中にある T2 (< T1 ) はジュールトムソン過程では必ず温度が下がるような印
象を与えてしまうので、そういう意味ではこれも間違いだが、前段落で述べた「間違い」はこれと
は別の間違い。
[3] の参考 2
第 4 回授業の復習をすると、外圧を pe 、系の圧力を p、微小変化で系が外から受ける仕事を d W
とすると
d W = −pe dV − −−(% 1)
この微小変化が可逆変化(準静的変化)のときは p = pe より d W = −pdV
− −−(% 2)
p.89 で気体が左側ピストン 1 から受ける仕事が p1 V1 > 0 、右側ピストン 2 から受ける仕事が
−p2 V2 < 0 となる。この仕事の計算で、(% 2) を使っているようにみえるかもしれない。しかし、
「(% 2) は可逆変化(準静的変化)でのみしか使えず、不可逆変化では (% 1) しか使えない」と述べ
た理由は、不可逆変化中の各瞬間では’ 系’ の内部で高圧部と低圧部の空間的ムラが生じ’ 系’ の圧
力 p が定義できなくなるためであり、[3] の参考 3 述べるように今の問題(木綿の栓の両側含めた
気体全体が考えている’ 系’)ではそのような不可逆変化になっていることに注意。したがって、前
述の仕事の計算は以下のように (% 2) ではなく (% 1) を使って求めていると解釈するべきである。
すなわち、ピストンが 1 と 2 の2つあることに伴い外圧 pe も2つあり、1 から受ける外圧が p1 、2
から受ける外圧が p2 で変化中はそれぞれ一定値。1,2 によっておこる体積変化がそれぞれ −V1 と
V2 である(全体の体積変化は V2 − V1 ) 。これは、ピストン断面積を A として、ピストン 1,2 の移
動距離がそれぞれ V1 /A と V2 /A という意味。1,2 に外側(気体のある方を内側とする)からかか
る外力の大きさはそれぞれ p1 A と p2 A、外力の方向は各ピストンの移動方向に対して 1 では同じ
向き、2 では逆向き。外力が一定の直線運動の場合、(外力)×(移動距離)=(外力のした仕事)
で、この仕事の正負は(外力の方向)と(移動方向)が同じならば正、逆ならば負になる(これは
力学波動の授業で勉強したはず)ことを思い出すと、本段落の始めに述べた仕事の計算になる。
[3] の参考 3
p.89 の式 d Q = dE + pdV 中の p は、図 1 に
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示した系の圧力 p では なく 系にかかっている外
圧 pe と解釈すること。[3] の参考 2 も参照。変
化「前」は両側とも外圧は p1 で p = pe = p1 の
平衡状態。次に左側の外圧 pe は p1 に保ち、右側
の外圧 pe だけ p2 に下げると左から右(高圧側か
ら低圧側)への気体の移動が始まる。このように
変化「中」は外圧 pe が左と右で異なること、お
よび、図 1 に示すように系内の圧力 p は「位置
によって」変化しており「時間を止めてみても一
つに定まらない」ことに注意。左のピストンが木
p
p
1
p2
z
綿の栓に達したら、左側の外圧も右側の外圧と同
じ p2 にし、変化「後」の状態 p = pe = p2 にな
る。その後、十分時間がたてば変化後は平衡状態
図 1: 変化「中」の、系(容器内の気体全体)
になる。このように、変化の「前」と「後」は平
の圧力 p の空間変化の模式図。z 軸はピストン
衡状態だが、変化「中」は非平衡。
の運動方向にとった。木綿の栓で圧力勾配が
生じる。変化「前」(p = p1 ) や「後」(p = p2 )
は圧力の空間変化がない平衡状態だが、変化
中は平衡ではない。