11/13 の講義中に CH3CH(CH3)CH2O−の IUPAC 命名に関して、2-methylpropan-1-oxide と説明したが、HP の命名法ファイルにある通り、2-methylpropan-1-olate の方がより正しい。 (2-methylpropan-1-oxide もいまだに IUPAC で通用しているが・・・)古い人間は種々の雑音まで 覚えているので、ときどきそれが表面化してしまう。次回類似のことがあれば、遠慮なく講義中 に指摘してもらいたい。 有機化学Ⅱ平常テスト⑦(2014.11.13)標準解答 1 (1)と(2)は慣用名と IUPAC 英名を、(3)と(4)は IUPAC 英名を示せ。 (1) HOCH2CH2OH (2) CH3OCH(CH3)2 (3) KOCH2C(CH3)3 H (4) (CH3)2CH 慣 ethylene glycol 慣 isopropyl methyl ether potassium 2,2-dimethyl- IU ethane-1,2-diol IU 2-methoxypropane (CH2)4CH3 O propan-1-olate (R)-3-cyclohexyloxy-2-methyloctane (1)の ethylene は、CH2=CH2 ではなく、-CH2CH2-という二官能性基を意味する。Glycol は多価アルコールを意 味する。(gly:甘いという意味。多価アルコールは、なめると甘く感じるから慣用命名に使われる) (4)の下線部、 正しくは(cyclohexan-1-yloxy)だが、通常は右上のように言い習わしている。ACS だと cyclohexyloxy を cyclohexoxy と略するが、IUPAC では認めていない。 2 次の反応式を示せ。ただし(1)では、必要な試薬は明記して任意に補え。 (1) 「アルコール,ハロアルカン,無機試薬」の何れか、または全部を用いて(CH3)3COCH(CH3)2 を合成する。 この生成物は、 『K+[(CH3)3CO]−+BrCH(CH3)2』または『(CH3)3CBr+K+[(CH3)2CHO]−』の何れかの SN2 反応 (Williamson 反応)で得られるのではないかと考えると、間違い。どちらの反応についても、二級または三級 ハロアルカンの E2 反応が主体となり、目的の ether は得られない。SN1 反応を利用する。二通り示しておく。 Case1 (CH3)3COH+H2SO4 → (CH3)3CO+H2 → (CH3)3C+ ――(+HOCH(CH3)2)→ (CH3)3C-O+-CH(CH3)2 + HSO4−+H2O H + HSO4−+H2O → (CH3)3C-O-CH(CH3)2 +H2SO4(HHSO4)+H2O 水が副成する反応なのであるから、たとえば CH2Cl2 中などのなるべく水の少ない条件で行う。H2SO4 はプロト ン触媒の意味であり、プロトン源が HBr や HCl であると、対イオンの Br−や Cl−が(CH3)3C+に付加する反応も 競合するので、H2SO4 などを用いる。もちろん(CH3)3CBr や(CH3)3CCl が生成してもすぐにイオン解離するが、 目的反応の進行が遅くなる。H2SO4 であると、対イオンの HSO4−は付加しにくい大きなアニオンで、たとえ (CH3)3C-HSO4 が生成しても、HSO4−は三級炭素から極めて容易に脱離する。(CH3)3CO+H2 からの H2O 脱離は 常温程度でも迅速に進行する。一方、(CH3)2CHOH にプロトン付加して(CH3)2CHO+H2 ができたとしても、水 が脱離して二級の(CH3)2CH+が生成する過程は高温でないと非常に遅い。したがって、上記の SN1 反応のみが優 先的に進行する。なお、(CH3)3C+に HOC(CH3)3 が攻撃する反応は、立体障害のため進みにくい。実際の反応は、 CH2Cl2 中、(CH3)3COH と(CH3)2CHOH を等物質量(ないし後者を若干過剰に)混合しておき、触媒量の H2SO4 を加えて常温~60℃程度で反応させる。 Case2 ハロアルカンも使用可なので、(CH3)3CBr or Cl を用いる。普通の SN1 反応。 (CH3)3CBr → (CH3)3C+―(+HOCH(CH3)2,1mMKOCH(CH3)2)→(CH3)3C-O-CH(CH3)2 +KBr + (CH3)2CHOH +Br− (2) (CH3)3COCH2 に、それと等物質量の「KI+H3PO4」を反応させる。 Phenyl 基(C6H5-)=Ph と略記する。 I− KI+H3PO4 → HI+KH2PO4,(CH3)3COCH2Ph+HI → (CH3)3C-O+−CH2Ph → (CH3)3COH+ICH2Ph H HI は、空気中の酸素によって容易に酸化を受けるので(4HI+O2→2H2O+2I2)、必要とされるときに KI+H3PO4 により「その場(in situ)」発生させる。 【注意】過剰に HI を供給すると、生成した(CH3)3COH がさらに HI と反応して、オキソニウム中間体 (CH3)3COH2+・I−を経た SN1 反応(常温程度で進む)により(CH3)3CI+OH2 になる。 3 次の生成物を得る反応式を示せ。ただし、出発の有機試薬としてはエタノールとメタノールしか与えられて いない。その他、必要な無機試薬や溶媒類は、明記すれば任意に用いてよい。 (1) (CH3)3COCH3 このエーテルの原料はメタノールと tBuOH なので、先ずは tBuOH を作らねばならない。 CH3 CH3-C-OH の構造を考えれば、CH3-C 骨格に CH3 と CH3 を接合する「増炭」反応が必要なことは明瞭。 CH3 CH3CH2OH → CH3CHO −(CH3−の付加,加水分解)→ CH3CH(OH)CH3 → CH3C(=O)CH3 −(CH3−の付加, 加水分解)→ (CH3)3COH という道筋になる。(CH3)3COH と CH3OH のエーテル化反応は、2(1)Case1 が参 考になる。 ①CH3CHO は、エタノールの PCC 酸化で得られる ②R−は Grignard 試薬ないし有機 Li 試薬とすればよい。そのためには ROH を RBr に変換せねばならない。 CH3CH2OH+PCC → CH3CHO[A]+PyH+・Cl−+CrⅣ(=O)(OH)2 CH3OH+PBr3 → CH3Br ――(+Mg)→ CH3MgBr[B],A+B → CH3CHCH3 ――(+H2O)→ (CH3)2CHOH (MgBr)+O− +HOPBr2 + Mg(OH)Br ――(+PCC)→ CH3C(=O)CH3[C] ――(+B)→ (MgBr)+[(CH3)3CO]−――(+H2O)→ (CH3)3COH[D]+ Mg(OH)Br, +PyH+・Cl−+CrⅣ(=O)(OH)2 D+CH3OH――[+H+触媒(H2SO4)]→ (CH3)3COCH3+H2O+H+ なお、Mg にかえて Li を用い、CH3Br+2Li → CH3Li+LiBr によって得た CH3Li を B のかわりに用いて A と 反応させても良い。最終段の H+触媒は、HCl などではなく H2SO4 のような共役塩基(HSO4−)が付加しにくい 酸を用いる。 (2) CH2=CH-CH2CH3 CH3CH2OH+PBr3 → CH3CH2Br ――(+Mg)→ CH3CH2MgBr[E], +HOPBr2 A+E → CH3CHCH2CH3 ――(+H2O)→ CH3CH(OH)CH2CH3 ――(+PBr3)→ CH3CH(Br)CH2CH3 (MgBr)+O− + Mg(OH)Br +HOPBr2 D+K → K+[(CH3)3CO]−,CH3CH(Br)CH2CH3+K+[(CH3)3CO]− → CH2=CHCH2CH3+D+KBr 最終段の反応は KOCH3 や KOCH2CH3 などを用いた Saytev-E2 反応であると CH3CH=CHCH3 になってしまう。 したがって Hofmann-E2 反応とせねばならないので、(1)で合成した D より K+[(CH3)3CO]−を作成して用いる。
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