RNAアプタマーを用いた新規医用材料の開発

RNAアプタマーを用いた新規医用材料の開発
RNAアプタマーを用いた新規医用材料の開発
○野村祐介1,福井千恵1,戸井田 瞳1,新見伸吾1,宮川 伸2,金 玲2,中村義一2,3,蓜島由二1
(1国立医薬品食品衛生研究所、2株式会社リボミック、3東京大学)
【背景と目的】
鋳型DNAライブラリ
ライブラリ
鋳型
医用材料を生体内に埋植すると、材料表面に水やイオンが速やかに吸
着する。次いで生体蛋白質の吸着が起こり、それら蛋白質を足場として、
細胞が接着する。すなわち、同蛋白質は材料の機能発現や生体適合性
に大きく関与している。それ故、増殖因子等の生理活性物質を導入した材
料表面等の開発が多く進められている。一方、特定の蛋白質を特異的に
捕捉し、その活性を阻害するRNAアプタマー(RNA-AP)が医薬品として
上市化されている。試験管内分子進化法(SELEX法)によりRNA-APを検
索する際、活性を保持した状態で標的蛋白質を特異的に捕捉するRNAAPが多数ヒットする。すなわち、適切なRNA-APを医用材料上に固定化
することにより、特定の蛋白質を特異的に材料表面に吸着させ、その機能
を一定期間に渡り制御できる可能性が非常に高い(図1)。そこで、本研究
では、 RNA-APを固定化した新規医用材料の開発を目的とし、そのファー
ストトライアルとして塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を活性を保持し
た状態で捕捉し濃縮する材料表面を開発すると共に、同材料表面上で各
種細胞の増殖能を測定することにより、その有用性を評価した。
吸着する水や蛋白質が
医用材料の機能発現や
生体適合性に影響
プロモーター
転写
逆転写PCR
逆転写
(増幅)
細胞
本研究で用いたRNA配列
配列
本研究で用いた
40N: ランダム配列のRNA
bFA: bFGFの活性を阻害するRNA-AP
1p01,02,07: RNA Pool1より得られたRNA-AP候補
2p03,05,11: RNA Pool2より得られたRNA-AP候補
RNAプール
プール
(1014)
生体蛋白質
水やイオン
材料表面
結合したRNA
結合した
結合しなかったRNA
結合しなかった
選別
材料表面に
RNA-APを固定化
bFGFに結合し、
活性阻害しないRNA-APを選定
【実験】
・RNA-AP/bFGF及びRNA-AP/bFGF/FGFR1複合体形成能はSPR法により解析した。
全てのRNAは酵素を用いた試験管内転写法により合成。
・各候補のNIH3T3細胞に対するbFGF細胞刺激阻害能はERK及びFRS2のリン酸化
を指標としてWB法によって行った。
・RNA-AP固定化表面は、二官能性PEG(5k)を常法に従って金コートガラス板上に固
定化した後、カルボジイミド法により同RNA-APを導入して作製した。接触角測定及び
XPS解析は、それぞれG-1-1000及びESCA2000を用いて行った。RNA-AP固定化表
面上におけるhMSC及びNIH3T3細胞の増殖能はHoechst 33258染色後、BZ-9000
を用いて核数を計測することにより評価した。
ランダム配列 プライマー結合配列
細胞増殖促進
FGFR
bFGF-FGFR相互作用
bFGF
RNA-APによるFGF2の
特異的補足
RNA-AP
再生医療材料となりうる
PEGブラシによる
蛋白質の非特異吸着防止
PEG
材料表面
図1. bFGFに対するRNA-APを用いた新規医用材料の開発
【結果と考察①】SPR法によるRNA-AP/bFGF/FGFR1形成能評価
RU
RU
RU
RU
RNA-APとbFGFの相互作用が確認でき、FGFR1が添加されることでbFA,1p07以外のRNA-APからbFGFが脱離することが確認された(図2、3)。
RNA-AP/bFGF複合体形成が確認できた
複合体形成が確認できた。
複合体形成が確認できた。
bFGF/FGFR1相互作用を阻害
相互作用を阻害しない
候補が選定できた。
相互作用を阻害しないRNA-AP候補が選定できた
しない
候補が選定できた。
Time (s)
Time (s)
Time (s)
図2.RNAを固定化後,bFGFを添加(△).さらにFGFR1を添加した際(▲)のRU値.
上はヘパリン無し,下はヘパリン有
Time (s)
図3.RNAを固定化後,bFGFを添加(△).さらにFGFR1を添加した際(▲)のRU値.
ヘパリン存在下
9000
8000
【 結 果 と 考 察 ③ 】RNA-AP 固 定 化 材 料 上 で の
1p01, 1p02および2p03においてはFRS-2およびErkのリン酸化が確認されたこ
とから、これらRNA-APはbFGFによる細胞刺激を阻害しないことが示された(図
4)。
細胞内シグナル伝達を阻害しない
を
細胞内シグナル伝達を阻害しないRNA-APを
シグナル伝達を阻害しない
選定することができた
選定することができた。
することができた。
細胞増殖能
1p01および、陰性対照となるpoly dT(pdT)を固定
化した材料表面上で、細胞培養を行ない、細胞増殖
能を比較した結果、1p01を固定化した条件では細
胞数が優位に増加した(図5、6)。
bFGF補足型
補足型RNA-APは意図した機能
は意図した機能を発揮
補足型
は意図した機能 を発揮す
を発揮 す
ることが確認された。
ることが確認された。
RNA
bFGF
-
7000
6000
細胞数
【結果と考察②】bFGFによる細胞刺激阻害能評価
5000
4000
3000
2000
1000
0
NIH3T3
+
+
+
+
+
+
+
+
+
100
P-FRS2
90
C
80
図4.WBによるFRS2とErkのリン酸化の解析.
60
50
30
10
0
Gold
PEG5k
【本研究の利点と展望】
・RNA-APはあらゆる蛋白質に対して、得られる可能性があるため、組み合わせ
を変えることで材料表面上における、あらゆる細胞挙動の制御が可能となる。
様々な組織再生を誘導(血管新生や骨再生など)
様々な幹細胞の増殖、分化制御
再生医療促進につながる
再生医療促進につながる
N
P
40
20
・ 本 研 究 に お け る RNA-AP は 、 単 独 で は 生 理 活 性 を 示 さ な い 合 成 可 能 な
化学物質である。
薬事申請上、医薬品としての承認審査が不要である
O
PEG5k
接触角
70
PEG5k-dT
PEG5k-pdT
P-Erk
Actin
hMSC
図5. RNA-AP固定化材料が与える
NIH3T3およびhMSC細胞増殖能への影響
材料表面の接触角
RNA-PEG表面のXPS解析結果
図6. 接触角測定およびXPS解析による核酸固定化の確認
【今後の予定】
・RNA-AP固定化条件の最適化
・材料表面のbFGFの補足状況及び生体蛋白質の非特異吸着評価
・材料表面上での細胞挙動解析(遺伝子発現、蛋白質発現等)
・材料表面からのRNA-AP溶出量の定量および影響評価
・動物実験による同材料の有効性および安全性評価