在宅医療関係者必見!褥瘡治療とケアのアン・ドゥ・トロワ - フィブラスト

第16回 日本褥瘡学会学術集会ランチョンセミナー
司会 金沢医科大学形成外科学 教授
昨今,高齢者人口の増加に対応するため在宅医療推進の方針が打ち出されており,在宅で
川上 重彦氏
の褥瘡の治療・看護の重要性はさらに増すと考えられる。本ランチョンセミナーでは,札幌皮膚
科クリニック副院長の安部正敏氏が在宅での褥瘡
の治療とケアをテーマに講演。褥瘡治療に関して
在宅医療関係者から寄せられることの多い代表
的な3つの疑問をベースに進められた。
なお,司会は金沢医科大学形成外科学教授の
演者 医療法人社団廣仁会
札幌皮膚科クリニック 副院長
褥瘡・創傷治癒研究所
川上重彦氏が務めた。
安部 正敏氏
在宅現場からの疑問
図1 創傷治癒のイメージ
周囲が白くなった褥瘡が治らない?
周
(安部正敏氏提供)
上皮化促進には良好な肉芽組織が不可欠
皮膚は表皮と真皮から構成され,表皮は上から順に角層,顆
粒層,有棘層,基底層の4層から成る。最下層の基底層の細
胞が19日に1回分裂し,各層の細胞が順次押し上げられること
で,皮膚はおよそ45日周期で生まれ変わる。皮膚が創傷を負っ
た場合,肉芽組織があることで表皮細胞が増殖,遊走し上皮化
が起こる。疑問点として提起された褥瘡の例では,
創辺縁が白っ
ぽくなっているだけでなく,肉芽組織の増生が不十分なため表皮
が丸まり,創の内側に入り込む,いわゆるアンダーマインが起こっ
ている。この状態では,最上層は死んだ細胞である角層で覆わ
れるため,表皮細胞の遊走が進行しにくくなり,上皮化が起こら
なくなる。そのため,まずは創辺縁を覆っている表皮を切除する
必要がある。表皮の切除は外科的に行うべきであり,メスやハサ
ミ
(クーパー)
,安全カミソリで実施する。
上皮化の促進に関係する因子としては適切な酸素分圧,ヒト
塩基性線維芽細胞増殖因子
(b F G F)
などの増殖因子の発現,
栄養などがあるが,さらに安部氏は,真皮肉芽組織の糖蛋白※1
※2
ても全く変化は生じないが,糖蛋白であるコラーゲンをコートしたプ
とプロテオグリカン に着目し,これらの細胞外基質をレールにた
レート上に表皮細胞を播種して,bFGFを添加した場合には細胞
とえ,レール
(良好な肉芽組織)
に沿って電車が走り
(表皮細胞が
の形態が変化し,遊走することが確認されている
(図2)
。すなわ
遊走し)
,創傷治癒が進むとした
(図1)
。
ち上皮化には,表皮細胞が遊走するための良好なレールとなる
表皮細胞の遊走に肉芽組織や細胞外基質が必要であること
肉芽組織が必要不可欠である。
は,同氏らのグループが行った実験で明らかになっている。何も
※ 1コラーゲン,
フィブロネクチンに代表される。線維を安定化させる働きを持つ
コートしていないプレート上に表皮細胞を播種し,bF G Fを添加し
※ 2 軸蛋白にムコ多糖(グリコサミノグリカン)が多数結合した分子 Fiblast_16th_JSPU_LS.indd 1
プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
201410_000043
2014/10/28 14:31
図 2 プレート上に播種した表皮細胞の形態
成熟期で上皮化は完了するが,コラーゲン産生とコラゲナーゼ
活性のバランスが悪いと肥厚性瘢痕やケロイドを残すことがある。
コラーゲンコートプレート
bFGF 製剤は冷蔵庫で2週間保存可能
FGFは1974年にウシの脳下垂体から,線維芽細胞の増殖を著
コントロール
bFGF
1ng/mL 添加
10%表皮細胞
角化細胞増殖因子
10ng/mL 添加
しく促進する蛋白質として発見され,1986年にヒトbFGF 遺伝子
の全DNA配列が解明された。その後の遺伝子組み換え技術の
進歩により大量製造が可能となり,2001年に臨床導入された。
従来,b F G F のような増殖因子は蛋白質であるがゆえ極めて
不安定な物質であり,研究室で利用するような−80℃のディープ
何もコートしていないプレート
フリーザーで保存するのが当然であった。それが bFGF 製剤で
〔Sogabe Y, Abe M, et al.
2006; 14
(4): 457-462〕
あるフィブラストⓇスプレー(トラフェルミン)は溶解後も冷蔵庫で
2週間保存できるように開発されており,安部氏は発売当初,
bFGF が線維芽細胞や血管内皮細胞の増殖,
b F G F が初めて製剤化されたことに加え保存方法にも驚愕を覚
遊走を促進
えたという。
さらに同氏は,
トラフェルミンの1日薬価と用法・用量にも触れ
良質な肉芽組織はどのように形成されるのか。皮膚の創傷治
た。トラフェルミンは薬価が高いと考えられがちであるが,1日薬
癒過程は血液凝固期,炎症期,細胞増殖期
(肉芽形成期)
,成
価は他の治療剤とあまり変わらないこと
(表1),用法・用量であ
熟期
(組織リモデリング期)
の4段階に分類される。血液凝固期
る1日1回,創面から5 c m 離して5回噴霧することの重要性
には血 小 板が止 血を行うだけでなく,血 小 板 由来 増 殖 因 子
を強 調。 噴 霧する位 置,回数をしっかり守ることで,創 面の
(PDGF)
を放出する。これが創傷治癒の端緒となる。
bFGF濃度が適切になるよう設計されていると述べた。また,噴
炎症期には血小板から形質転換増殖因子
(TGF)
などが放出
霧後は30秒静置し,なじませた後に被覆することも遵守すべき
されるとともに,好中球やマクロファージなどの炎症細胞が創部に
注意点であるとした。一方,bFGF 製剤の効果を減弱させる因
遊走し,マクロファージからはFGFが分泌される。
子として壊死組織の存在,創部の感染,軟膏抗菌薬使用後の
FGFは分子量約18∼25kDaの1本鎖ポリペプチドで,
ファミリー
噴霧などを挙げた
(表2)。同氏は,
「在宅医療では,患者の家
として20種類以上の分子が知られている。マクロファージの他,
族が処置をするケースもあり,トラフェルミンのようなスプレー剤は
線維芽細胞,内皮細胞などからも分泌され,線維芽細胞,血管
直接患部に触れることがなく使いやすい一方,使用,保存方法
内皮細胞の増殖や遊走活性を促進する作用がある。代表的な
などの指導が重要になる」
とまとめた。
FGFであるbFGFは,各種細胞外基質関連蛋白の産生を増強す
ることで,表皮細胞の遊走を促進することが明らかにされている1)。
在宅現場からの疑問の解答
細胞増殖期には血管内皮細胞が創面の血管新生を促進する
ことで,栄養や血液,酸素が供給される。また,増殖した線維芽
創周囲の白くなった部分は表皮が内側に回り込んで
細胞が創の中に入りレールに当たるコラーゲンやフィブロネクチンな
いる可能性が高いので,外科的処置が望まれます!
どの細胞外基質を産生し,肉芽組織が形成される。さらに,線維
その後,良好な肉芽組織を盛り上げていきましょう。
芽細胞は筋線維芽細胞に分化し,創を収縮させて治癒を早める。
表 2 bFGF 製剤の効果を減弱させる因子
表1 bFGF 製剤の1日薬価と用法・用量
薬価(円)
トラフェルミン 500
トラフェルミン 250
11,108.0/5mL
8,410.3/2.5mL
因 子
壊死組織
用法・用量
1日薬価
【潰瘍の最大径が6cm以内の場合】
創面から5cm離して1回5噴霧,1日1回
【潰瘍の最大径が6cmを超える場合】
同様に1回5噴霧し,最初の噴霧面からずらして噴霧する
1回5噴霧の場合
0.3mL 666 円
0.3mL 1,009 円
1回10 噴霧の場合
0.6mL 1,332 円
0.6mL 2,018 円
5mL
2.5mL
規格
(安部正敏氏提供の図より作成,2014年4月現在)
Fiblast_16th_JSPU_LS.indd 2
プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
創部の感染
軟膏抗菌薬使用後の噴霧
薬剤の失活
対 策
デブリードマン
(外科的,物理的,化学的)
消毒薬,軟膏抗菌薬により感染をコントロール
(全身性の感染の場合は経口抗生物質を投与)
使用順序の変更(bFGF製剤が先)
使用期間の確認,保存方法の改善,
併用薬剤の確認
(安部正敏氏提供の図より作成)
2014/10/28 14:31
在宅現場からの疑問
在宅現場からの疑問
感染創にはどう対応するの?
感
在宅でのスキンケアは?
感染創には抗生剤ではなく無機系抗菌薬を
虐待 を疑われる恐れがある 高齢者の「スキンテア」と「スキンケア」の重要性
創傷治療の現場では,
消毒の是非も検討する必要がある。一
部では全ての創傷について,
消毒は肉芽形成を促進する線維芽
安部氏は,在宅患者に行うスキンケアについても解説した。
細胞などへ悪影響を及ぼすため行ってはいけないという意見もある
昨今在宅スキンケアの現場においては,高齢患者の皮膚がむ
が,
日本皮膚科学会の創傷・熱傷ガイ
ドラインでは,
「感染に移行しつ
けてしまう「スキンテア
(皮膚裂傷)」が注目されている。この裂
つある状態や感染が成立した状態では,
多少の組織障害が生じ
傷は,加齢による皮膚の菲薄化および表皮と真皮の結合の減
2)
るとしても消毒を行い感染を抑えることが必要である」
としている 。
弱によるものだが 3),ケアする側の虐待が原因ではないかと疑わ
こういった指針を踏まえて安部氏は,消毒薬が線維芽細胞に
れる恐れがある。
悪影響を与えるかどうかを検討した実験について紹介した。実
スキンテアの予防のためにも,在宅現場で高齢患者に保湿薬
験は,線維芽細胞が入った培養液を吸い出した後の容器に消
を用いることは非常に重要で,同氏は推奨される保湿薬として
毒および洗浄を行い,線維芽細胞の活性を調べるという方法で
表3に示す薬剤を挙げた。セラミド含有外用薬と入浴剤は保険
実施された。その結果,消毒薬は線維芽細胞に悪影響を及ぼ
適用外のためやや高価だが,他の薬剤はいずれも安価であると
さないのではないかという印象を受けたという。そのため同氏は,
いう。
クリティカルコロナイゼーションや感染が成立した場合,ポビドン
ワセリンは白色ワセリンがよく使用されるが,不純物が気にな
ヨード液やクロルヘキシジングルコン酸塩液,ベンザルコニウム塩
る場合は精製して眼科用軟膏の基剤としても用いられている製
化物液などで消毒を行い,十分に生食もしくは水で洗浄し,長
品も選択できる。プラスチベースⓇは,流動パラフィンにポリエチ
期に消毒薬が残らないようにしている。
レンを5%の割合で混合しゲル化した炭化水素ゲル基剤で,温
また同氏は,在宅医療の現場では時として抗菌薬と抗生剤を
度による変化をあまり受けない。親水クリームは最近ハンドクリー
混同する例が見られると指摘。抗菌薬は細菌などの病原体に
ムの基剤としても用いられるようになった水中油型のクリームで,
対し殺菌的もしくは静菌的に作用するが,抗生剤は主に微生物
多量の水を含有する特徴があるという。
から産生され微量で他の細胞の発育を阻止する化学物質であ
このように種々の保湿薬を紹介した同氏は,
「経済的で安心,
り,その乱用は耐性菌の増加を招く。そうした観点から感染創
安全,簡単に使いやすい薬剤を在宅でのスキンケアにうまく導
には抗生剤ではなく,抗菌性金属を各種の無機物担体に担持し
入することが重要である」
とまとめた。
た無機系抗菌薬(ヨウ素製剤や銀製剤など)が推奨されるとし
在宅医療は患者にとって安らげる場で過ごすことができる一
た。無機系抗菌薬は有機系抗菌薬と比べ安全性が高く,抗菌
方,医療者側が管理しづらい,治療に制限があるなどの問題点
スペクトルが広域で,耐久性や耐熱性にも優れているという。
もある。最近では,洗浄と保湿の両方の効果を兼ね備えた製品
加えて,褥瘡の治療では湿潤を保つことが常識になっている
も発売されており,
「少しでも指導,治療,ケアが患者にプラスに
が,例外的に「乾燥させるべき褥瘡」
として踵の褥瘡を挙げた。
なるよう効果的でより簡便な方法を提示していただきたい」
と同
同氏は,
「踵骨部では硬い壊死組織自体が創を保護するため,
氏は締めくくった。
踵においては安易な湿潤療法を行ってはならない」
と指摘した。
在宅現場からの疑問の解答
家族に分かりやすい消毒を適切に用い,抗菌作用を
分か
有する製剤をうまく使う。 抗生剤にあらず。
在宅現場からの疑問の解答
安価な外用薬は保湿の強い味方。家族が使用しても
皮膚に刺激を与えない製品や使い方が簡単な洗浄剤
をうまく提示することが肝要です。
表 3 在宅治療において推奨される保湿薬
●白色ワセリン
●プラスチベースⓇ
●尿素軟膏
●親水クリーム
●ヘパリン類似物質含有軟膏
●セラミド含有外用薬
●入浴剤
1)Sogabe Y, Abe M, et al. Wound Repair Regen 2006; 14(4): 457-462
2)
「日本皮膚科学会ガイドライン創傷・熱傷ガイドライン委員会報告− 1:創傷一般」
( https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/
1372912942_1.pdf)
(安部正敏氏提供)
3)Malone ML, et al. J Am Geriatr Soc . 1991; 39(6)
: 591-595
発行:科研製薬株式会社
編集・制作:株式会社メディカルトリビューン
Fiblast_16th_JSPU_LS.indd 3
プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
2014/10/28 14:31
第
2014年11月作成
FGF233-14K-10-MT1
Fiblast_16th_JSPU_LS.indd 4
プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
2014/10/28 14:30