様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 23 年 2 月 14 日現在 機関番号:13101 研究種目:若手研究(B) 研究期間:2009~2010 課題番号:21792117 研究課題名(和文)歯周組織再生を制御するマイクロ RNA 発現の網羅的解析 研究課題名(英文)The effect of bFGF on microRNA expression profiles in human periodontal ligament cells. 研究代表者 梶田 桂子(KAJITA KEIKO) 新潟大学医歯学総合病院・医員 研究者番号:40509543 研究成果の概要(和文): Micro RNAは、遺伝子発現を負に制御する機能を持つ。歯周組織再生を誘導する塩基性線維芽 細胞増殖因子で歯根膜細胞を刺激すると、miR-29b発現の増加及びその標的遺伝子のmRNA発現の 低下を認めた。しかしながら、miR-29bを過剰発現させても標的遺伝子のmRNAおよびタンパク発 現に変化はなかった。以上より、歯根膜細胞においてmiR-29bは微細な変動によりこれらの遺伝 子発現を調節している可能性、あるいはその関与自体が弱い可能性が示唆された。 研究成果の概要(英文): Micro RNAs act as negative regulators of variable gene expressions. Basic fibroblast growth factor (bFGF) is known to promote periodontal regeneration. By stimulating periodontal ligament (PDL) cells with bFGF, the expression level of miR-29b significantly increased and mRNA levels of miR-29b target genes decreased. However, miR-29b overexpression had little effect on mRNA and protein levels of miR-29b target genes in PDL cells. These findings suggest that miR-29b may act as a fine-tuner of FGF-induced gene expressions in PDL cells, or have little effect on this response. 交付決定額 (金額単位:円) 21 年度 22 年度 年度 年度 年度 総 計 直接経費 1,700,000 1,500,000 間接経費 510,000 450,000 3,200,000 960,000 合 計 2,210,000 1,950,000 4,160,000 研究分野:医歯薬学 科研費の分科・細目:歯学、歯周治療学 キーワード:bFGF, 歯根膜細胞、マイクロ RNA 1.研究開始当初の背景 近年、わずか20数塩基のタンパク質をコー ドしない小さなRNA分子であるmicro RNA (miRNA)がタンパク質合成を調節することが 分かってきた。miRNAは、ターゲットである messenger RNA (mRNA)に対して部分的相補的 に結合し分解を促進、あるいは翻訳抑制を誘 導することによりタンパク発現を調節して いる。1つのmiRNAが複数個のmRNAに作用し翻 制御する遺伝子ネットワークの鍵を握ると 訳を抑制する為、発生・細胞増殖・分化など 考えられるmiRNAを解析、さらに標的タンパク 多岐にわたる生命現象に関わっていると考 質の同定・機能実験をすることによりその生 えられている。 物学的機能を明らかにすることである。 歯周炎は、 歯周病原細菌感染による慢性炎症性 疾患であり、歯槽骨の吸収や結合組織性付着の 3.研究の方法 破壊を引き起こす。この失われた組織を再生さ 1)-1 歯根膜細胞の培養 せるために様々な増殖因子を用いた研究が進め 矯正便宜抜歯した歯を対象とし、インフォ られており、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic ームドコンセントの得られた患者より抜去 fibroblast growth factor; bFGF)もその一つで 歯を提供してもらう。酵素処理法にて歯根膜 ある。bFGFは歯根膜細胞の骨芽細胞への分化を 組織より細胞を単離・培養、歯根膜細胞とす 抑制し増殖を促進する(Takayama S et al., る。継代培養には、ウシ胎児血清および抗生 1997; S. Lossdorfer et al., 2008) ことで 物質のみを添加した基本培地を用いる。以後 治癒の場での歯根膜細胞の細胞密度を増加させ の実験には、継代数 3~6 代目までの細胞を る。その際、ヘテロな細胞集団である歯根膜細 用いる。 胞の中に含まれる間葉系幹細胞(Seo BM et al., 1)-2 miRNAアレイによる網羅的解析 2004)も分化能を有したまま増殖し、骨芽細胞 培養歯根膜細胞を高濃度 bFGF(100ng/ml)添 ・セメント芽細胞・線維芽細胞に分化すること 加培地および非添加培地にて 24 時間培養す によって歯周組織の再生が成し遂げられると考 る。miRNA を含む Total RNA を抽出・精製、2 えられている。従来、これら歯周組織再生機 群間の miRNA 発現を網羅的に比較解析する。 序(細胞増殖と分化)に関する多くの研究は (Agilent technologies 社製 human miRNA 、DNA・mRNA・タンパク発現に注目してなさ arrayRel12.0) れてきた。一方、エピジェネティックな機構 についての研究は殆ど成されておらず、 miRNA発現に関する論文報告は皆無である。 2)変動miRNAの検証 サンプル数を増やしてリアルタイムPCRにより 変動miRNAの発現を解析することで、ヒト試料に 2.研究の目的 iPS細胞をはじめとして幹細胞のリプログラ おける個体差の影響を検討かつアレイ結果の再 現性を検証する。 ミングや分化増殖機構の制御にはヒストンのア セチル化、DNAの脱メチル化、miRNAなどのエピ ジェネティックな機構が重要な働きをしている 3)-1 miRNAの標的タンパク質の検索 データベース(TargetScan Release5.1)を用 ことが明らかになってきている。歯周組織再生 いて変動miRNAの標的となりうる遺伝子を検 には幹細胞・前駆細胞の増殖とその後の分化が 索する。 時間的・空間的にコントロールされる必要があ 3)-2 標的 mRNA 発現の解析 る。bFGFは、上述のように歯根膜細胞の分化を 培養歯根膜細胞を高濃度bFGF(100ng/ml)添 抑制し細胞増殖を促進することが明らかになっ 加培地および非添加培地にて24時間培養し、 ており、そこにはmiRNAの関与が予想される。 total RNAを抽出・精製し、3)-1の結果を基に 本研究の目的は、歯根膜細胞の増殖・分化を 標的遺伝子のmRNA発現をリアルタイムPCR法 Relative miRNA expression to RNU44 (No stimulation = 1) 2) bFGF刺激がmiR-29b発現に与える影響 Real-time PCR (N=6) にて比較解析する。 4)-1 miRNA過剰発現による標的遺伝子のmRNA 発現解析 培養歯根膜細胞にmiRNAの特異的precursor またはControl precursorをトランスフェク トした際の標的遺伝子のmRNA発現をリアルタ イムPCR法にて解析する。 miR‐29b * 刺激なし 4)-2 miRNA過剰発現による標的遺伝子のタ ンパク発現解析 上記と同じ条件で、miRNA を過剰発現させた 際の標的遺伝子のタンパク発現をウェスタ bFGF bFGF刺激24時間後にmiR-29bの発現が有意に 増加していることが確認された。 * P<0.05 Wilcoxon順位符号検定 ンブロット法にて解析する。 4.研究成果 1) bFGF刺激がmiRNA発現に与える影響 miRNA array (N=2) 歯根膜細胞において検出されたmiRNAは、搭 載されていた851個のhuman miRNAのうち201 個であった。(at least 1 array)その中で bFGF刺激により2倍以上の増減を示したmiRNA は10個(Up=6/Down=4)であった。 Relative mRNA expression to GAPDH 3) bFGFがmiR-29b標的遺伝子のmRNA発現に与 Real-time PCR(N=6) える影響 COl1A1 COl3A1 Col1a1 4 * * 3 2 1 0 刺激なし bFGF 刺激なし bFGF 10 miRNAs (Fold Change ≥ 2) 15 miR‐29b miR‐34a 10 5 Relative mRNA expression to GAPDH Up↑ miR‐31* miR‐31 miR‐29b‐1* miR‐625 0 miR‐542‐3p 0 miR‐630 miR‐503 miR‐188‐5p 5 Down↓ 10 15 このうちmiR-29bに注目して以後の解析を行 った。 ELN HAS3 * 刺激なし bFGF 刺激なし bFGF miR-29bによる発現抑制のターゲットとなり うる遺伝子を既存のデータベース(Target Scan Release5.1)を用いて検索し、候補遺伝 子の中よりCollagen Type1 a1(COL1A1)、 Collagen Type3 a1(COL3A1)、Elastin(ELN) 、hyaluronan synthase3(HAS3)の発現を検討 した。 結果、bFGF刺激24時間後にCOL1A1, COL3A1, ELNのmRNA発現が有意に抑制されていること が確認された。一方、HAS3の発現に有意な変 化は見られなかった。 * P<0.05 Wilcoxon順位符号検定 4) miR-29b過剰発現が標的遺伝子のmRNA発現 及びタンパク発現に与える影響 Real-time PCR, Western Blotting (N=3) Control precursor Relative mRNA expression to GAPDH (No stimulation of control precursor = 1) miR‐29b 3500 3000 2500 2000 1500 1000 5 0 刺激なし bFGF COl3A1 刺激なし bFGF Relative mRNA expression to GAPDH (No stimulation of control precursor = 1) Relative miRNA expression to RNU44 (No stimulation of control precursor = 1) miR‐29b特異的precursor COl1A1 bFGF刺激により2倍以上変動するmiRNAの数は 少なく、最大の変動を示したものでも約3倍の 上昇であった。また、miR-29bの過剰発現が COL1A1, COL3A1, ELNのmRNA発現に及ぼす影響 は認められず、同様にCOL1A1のタンパク発現 に及ぼす影響も認められなかった。以上より 歯根膜細胞において、miR-29bはこれら遺伝子 発現に対して微細な調整をしている可能性、 あるいはその関与自体が弱い可能性が示唆さ れた。今後は、miR-29bのノックダウン試験を 行いその影響を検討する必要がある。 5.主な発表論文等 (研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線) 刺激なし bFGF ELN 刺激なし bFGF miR-29b特異的precursorの導入により、 miR-29bの著しい発現上昇が認められた。しか しながら、COL1A1, COL3A1, ELNのmRNA発現に 有意な変化は認められなかった。 同様に、COL1A1のタンパク発現にも有意な変 化は認められなかった。下記にその一例を示 す。 COL1a1 GAPDH miR-29特異的 control precursor precursor 5) 結果のまとめ及び考察 本研究では、歯周組織再生療法としての新た な臨床応用が期待されているbFGFが作用する ことによって、歯根膜細胞で生じるエピジェ ネティックなメカニズムをmiRNAに注目して 解析を行った。結果、歯根膜細胞において、 〔雑誌論文〕(計 1 件) 1) Nakajima T, Honda T, Domon H, Okui T,Kajita K, Ito H, Takahashi N, Maek awa T, Tabeta K, Yamazaki K. Periodo ntitis-associated up-regulation of s ystemic inflammatory mediatorlevel m ay increase the risk of coronary hea rt disease. J Periodontal Res. 2010 Feb;45(1):116-22. 査読あり 〔学会発表〕(計 6 件) 1) 梶田-奥井桂子、本田朋之、奥井隆文、 高橋直紀、土門久哲、宮内小百合、山崎和 久: bFGFがヒト歯根膜細胞のmicroRNA発 現に及ぼす影響、第 133 回日本歯科保存学 会、2010.10.29、岐阜 2) 本田朋之、高橋直紀、梶田-奥井桂子、 奥井隆文、中島貴子、多部田康一、山崎和 久 : Porphyromonas gingivalis LPS が microRNA発現に及ぼす影響、第 53 回日本 歯周病学会秋季学術大会、2010.9.19、高 松 3) 前川知樹、梶田-奥井桂子、奥井隆文、 中島貴子、多部田康一、山崎和久:歯周病 原細菌は血管内皮細胞において IL-6/sIL-6Rを介しCRP産生を誘導する、第 132 回日本歯科保存学会春季学術大会、 2010.6.4、熊本 4) 奥井隆文、米澤大輔、梶田-奥井桂子、 宮内小百合、青木由香莉、宮下博孝、本田 朋之、伊藤晴江、多部田康一、中島貴子、 山崎和久:SPT期活動性歯周ポケットに対 するシタフロキサシン経口投与有用性の 検討、 第 53 回日本歯周病学会、2010.5.14、 盛岡 5) 宮下博孝、米澤大輔、本田朋之、奥井隆 文、梶田-奥井桂子、前川知樹、高橋直紀、 伊藤晴江、中島貴子、多部田康一、山崎和 久 : 歯 周 炎 患 者 に お け る Porphyromonas gingivalis に対する抗体価と高感度CRPの 関連性、第 52 回日本歯周病学会秋季学術 大会、2009.10.11、宮崎 6) H. Miyashita, T. Honda, T. Okui, K. Kajit a-Okui, et al.:Antibody levels to Porphyro monas gingivalis and CRP in periodontitis patients. the IADR Pan Asian Pacific Fe deration, September 23, 2009. Wuhan, Chi na, 〔その他〕 ホームページ有 (http://www.dent.niigata-u.ac.jp/yamaza ki_labo/) 6.研究組織 (1)研究代表者 梶田 桂子(KAJITA KEIKO) 新潟大学医歯学総合病院・医員 研究者番号:40509543 (2)研究分担者 無し (3)連携研究者 無し
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