経済統計Ⅱ 第11回:国民経済計算(2) ─ 国民経済計算を用いた経済分析 2014年12月22日 石田和彦 [email protected] 「国民経済計算」を用いた経済分析 ・ 「国民経済計算」(主としてGDP統計)を用いた経済の現状分析 ① 景気動向、経済活動水準の分析: GDPの水準、GDPの変化(率)=経済成長率) ⇒実質/名目、前年同期比/季節調整済前期比 ② 景気変動要因の分析 → GDP成長率の寄与度分析 ③ 物価動向(インフレ/デフレ) → GDPデフレーター ・ 「国民経済計算」(GDP統計)を中心とした経済予測 ① マクロ計量経済モデル ② 段階的接近法による予測 2 GDPの推移(実質) 出所: 内閣府「月例経済報告主要経済指標」平成26年11月 3 GDPの推移(名目) 出所: 内閣府「月例経済報告主要経済指標」平成26年11月 4 GDP伸び率の寄与度分解 出所: 日本銀行「金融経済月報2014年11月」 5 (復習) 前年同期比や前期比の要因分析:「寄与度分解」 ・ 「寄与度分解」の考え方: 幾つかの項目の合計値である経済指標が、そのうちどの要因に よって増減したかを分析(要因分解)する ・ 仮設例: 今月の生活費:25,000円 うち 食費:14,000円 うち 光熱費: 8,000円 教養娯楽費: 3,000円 先月の生活費: 20,000円 食費: 10,000円 光熱費: 5,000円 教養娯楽費: 5,000円 ・ 生活費合計の増加=(25000/20000)×100-100=25% 食費の増加:40%、光熱費の増加:60%、教養娯楽費の増加:-40%(減少) ・ 生活費の増加要因の分析 生活費の増加分(5,000円)=食費の増加分(4,000円)+光熱費の増加分(3,000円) +教養娯楽費の増加分(-2,000円) ⇒ これを、先月の生活費20,000円で割ると: 生活費の増加率(25%)=食費の寄与度(20%)+光熱費の寄与度(15%) +教養娯楽費の寄与度(-10%) ── 生活費の増加は、食費の増加が主因であることがわかる 6 (復習) GDP成長率の寄与度分解 ・ Y=C+I+CG+IG+X-M → どの要因(支出項目/需要項目)によってYの成長率が実現したか → 景気を主導しているのは何か ・ 仮設例 Y=C+I+CG と単純化 2012年 Y=500 C=300 I=100 CG=100 (兆円) 2013年 Y=550 C=330 I=130 CG=90 (兆円) → 2013年のGDP成長率 (550/500)*100-100=10% 個人消費 Cの成長率 設備投資 Iの成長率 (330/300)*100-100=10% (130/100)*100-100=30% 政府消費 CGの成長率 (90/100)*100-100=-10% → GDPの増加(50兆円)=個人消費の増加(30兆円)+設備投資の増加(30兆円) +政府消費の増加(-10兆円) ⇒ GDP成長率(10%)=Cの寄与度(6%)+Iの寄与度(6%)+CGの寄与度(-2%) 7 GDPデフレーターとその寄与度分解 出所: 日本銀行「金融経済月報2014年11月」 8 内需デフレーターとその寄与度分解 出所: 日本銀行「金融経済月報2014年11月」 9 計量経済モデル ・ 計量経済モデル: 経済の様々な変数の間の関係を、連立方程式で表したもの ① モデルに登場する変数: 内生変数と外生変数の区別 ── 内生変数: モデル内でその値が決定されるもの ── 外生変数: 予め、モデルの外から値が与えられるもの ② モデルに登場する式: 構造方程式と定義式(恒等式)の区別 ── 構造方程式: (原則として)経済理論が示している、様々な経済変数の間の関 係を、式の形に表したもの ── 構造方程式には、通常、未知のパラメータが含まれている ── 定義式: 変数間の定義的な関係を示す式(未知パラメータは含まれない) ・ 計量経済モデルの推定: 構造方程式に含まれる未知のパラメータを、実際の経済統計 データから推定する作業 ── 但し、推定結果が、構造方程式の背後にある経済理論を支持しないこともある → 理論(仮説)の再構築が必要・・・ 10 最も簡単な計量経済モデルの例 ・ GDPの決定に関する以下のような連立方程式モデル: ① Y=C+I : GDPに関する定義式(総生産=総支出) ── Y:国内総生産(GDP)、 C:消費、 I:投資 ② C=a+bY : 消費関数 ── 「消費は所得で決まる」という理論に基づく構造方程式 ── a、bは未知のパラメータ ③ I は外生変数 ・ ②式を①に代入すると、Y=C+I=(a+bY)+I → (1-b)Y=a+I → Y=a/(1-b)+1/(1-b)×I ・・・④ → I(投資)が外生的に与えられると、④式からYが決定される(1/(1-b):投資乗数) → Yが決まれば、②式からCも決まり、経済全体の変数が決定される 11 計量経済モデルの推定 ・ 計量経済モデルの推定: 構造方程式 C=a+bY (個人消費関数)に含まれる未知のパラ メータ(a、b)の値を、実際の経済統計データから推計する作業 ・ 未知パラメータa、bの値がわかれば、外生変数(I)を与えることにより、Y、Cが求められる → 例えば、来期の企業の設備投資計画(+公共事業予算)、等のデータから、外生変数 I の予測値を求め、それを上記④(→②式)に代入すれば、来期のGDPや消費の予測値 が得られる → 推定された計量経済モデルを用いた経済予測 ・ どのようにa、bの値を「推計」するのか? → Y、Cの実際の値は、「国民経済計算」統計により判明している → Y、Cという2つの実際のデータに1次式の関係を当てはめる → 「最小2乗法」による推定 12 GDPと消費 ── 1994/1Q-2014/1Qの実質GDPと実質個人消費の関係(単位10億円) 13 (復習) 最小2乗法のアイディア ・ 各点(観測値)の、当てはめられた直線からの乖離の「全体」が、なるべく小さくなる ように直線を当てはめるのが、良い方法であろう(常識的な判断) ・ n個の観測値(各点)を(xi、yi) i=1、2、・・・、n 当てはめる直線を y=a+bx とすると → 直線からの乖離: yi-(a+bxi) i=1、2、・・・、n ・ 乖離の「全体」? 1) ∑{yi-(a+bxi)}(単純和)→プラスの乖離とマイナスの乖離が相殺されてしまう 2) ∑|yi-(a+bxi)| (絶対値の和)→数学的取扱いが面倒・・・ 3) ∑ {yi-(a+bxi)}2 (2乗和)→数学的取扱いが容易 ⇒ 乖離の2乗和が最小になるように直線を当てはめる=最小2乗法 14 (復習) 最小2乗法のアイディア(図) (出典)中村・新家・美添・豊田「統計入門」(東京大学出版会) p77 Ⅳ-5図 15 (復習) 最小2乗法と回帰直線 ・ 乖離の2乗和を最小化するようなa、bは以下のように求められる ── 導出の詳細に関しては、標準的な統計学の教科書等を参照 ・ このようにして求められた1次式を「yのxへの回帰直線」、回帰直線の傾きbを「回帰 係数」と呼ぶ ・ 前出のGDPと個人消費の関係では、 C=1551+0.5697Y と求められる ── 回帰係数は、経済学的には「限界消費性向」とみなすことができる 16 回帰直線の当てはめ:GDPと消費 ── 1994/1Q-2014/1Qの実質GDPと実質個人消費の関係(単位10億円) 17 推定された計量経済モデルを用いた経済予測 ・ GDPの決定に関する連立方程式モデルが以下のように推定された: ① Y=C+I : GDPに関する定義式(総生産=総支出) ② C=1561+0.5697Y : 消費関数 ・ ②式を①に代入すると、Y=C+I=(1561+0.5697Y)+I → (1-0.5697)Y=1561+I → Y=1561/(1-0.5697)+1/(1-0.5697)×I ・・・④ → Y=3628+2.3240×I (投資乗数:2.324) → 投資が決まると、その2.324倍のGDPが生産される ・ 仮に来期(四半期)のGDP統計ベースの投資額を50兆円と予測したとする(この予測は外 生的に行う)と、内生変数であるGDPは116兆円、消費は66兆円と予測される → 投資が1兆円増加すると、GDPはどの程度増加するかも求められる 18 計量経済モデルの拡張(イメージ) ・ GDPの決定に関する連立方程式モデルの拡張: ① Y=C+I+G+X-M : GDPに関する定義式(総生産=総支出) ── Y:国内総生産(GDP)、 C:個人消費、 I:民間設備投資、 G:政府支出、 X:輸出、 M:輸入 ② C=f(Y、資産残高、消費者コンフィデンス、・・・) : 消費関数 ③ I=f(Y、企業収益、金利、・・・) : 設備投資関数 ④ X=f(海外経済動向、為替レート、・・・) : 輸出関数 ⑤ M=f(Y、資産残高、消費者コンフィデンス、・・・) : 輸入関数 ⑥ Gは外生変数 ⑦ さらに、「為替レート」、「企業収益」、等の変数も内生化することが考えられる ⇒ 中~大規模な日本経済のマクロ計量モデル(方程式数数十本~数百本) ── 連立方程式モデルの推定には、式ごとの単純な「最小2乗法」では不十分 → 連立方程式モデルの推定法(計量経済学の教科書へ) 19 計量経済モデルの実例 ・ 日本銀行: Q-JEM(Quarterly-Japanese Economic Model) ── 方程式数が約150本(うち推計式数は80本程度) ── 「ハイブリッド型日本経済モデル:Quarterly-Japanese Economic Model (Q-JEM)」、 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.09-J-6(2009年7月)参照 ・ 内閣府: 経済財政モデル(2010年度版) ── 方程式数 2345本(うち推計式数111本) ── 「経済財政モデル(2010年度版)資料集」、内閣府計量分析室(平成22年8月) 等を参照 ・ 内閣府経済社会総合研究所: 短期日本経済マクロ計量モデル(2011 年版) ── 方程式数 152 本(うち推定式数48 本) ── 「短期日本経済マクロ計量モデル(2011 年版)の構造と乗数分析」、内閣府経済 社会総合研究所(2011 年1 月)参照 20 計量経済モデルの実例:消費関数 内閣府経済社会総合研究所: 短期日本経済マクロ計量モデル(2011 年版) CP: 民間最終消費支出 HK:人的資本および家計保有の実 質純資産 YDV: 個人可処分所得 PCP: 民間最終消費支出デフレー ター NWCV: 純資産(家計保有分) 21 計量経済モデルの実例:乗数表 内閣府経済社会総合研究所: 短期日本経済マクロ計量モデル(2011 年版) 22 段階的接近法による経済予測 23
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