●第 51 回日本人工臓器学会大会 Young Investigator’s Award 受賞レポート Cell differentiation therapy by the novel biodegradable nanoparticles to control histone modification * 1 首都大学東京大学院都市環境科学研究科分子応用化学域,* 2 国立成育医療センター研究所周産期病態研究部 浅羽 祐太郎* 1,朝山 章一郎* 1,中林 一彦* 2,川上 浩良* 1 Yutaro ASABA, Shoichiro ASAYAMA, Kazuhiko NAKABAYASHI, Hiroyoshi KAWAKAMI 1. 背景と目的 近年,エピゲノム解析が急速に発展したことで,多くの疾 患の発症メカニズムが明らかにされつつあるが,エピゲノ ムを工学的に制御する技術は未だ確立されていない。当研 図 1 EpC キ ャ リ ア を 添 加した HL60 細胞の 顆粒球への分化率 究室は,遺伝子発現を支配する DNA メチル化とヒストン修 飾を工学的に制御することにより,全く新しい遺伝子発現 制御に繋がるエピジェネティクス工学の確立を目的として いる。同時に,エピジェネティクス工学を通じて,疾患細胞 た細胞と比較してアセチル化ヒストン量が 1.5 倍程度増加 を正常細胞へ分化誘導させる,細胞分化治療の確立を目指 していた。さらに,日数を追うごとにアセチル化量の上昇 している。 が認められた(data not shown) 。これは,EpC キャリアの 本研究では,細胞分化治療モデルとして,ヒストンアセ 生分解性により,プラスミド DNA や TSA が持続的に放出 チル化酵素(CAF)を発現するプラスミド DNA と,ヒスト されたことに起因すると考えられる。細胞分化率評価の結 ン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤(トリコスタチン A, 果を図 1 に示す。培養 8 日目において,TSA のみを添加す TSA)を同時封入可能な新規生分解性ナノ粒子(エピジェ ると,36%の細胞が分化した。このとき,プラスミド DNA ネティクスコントロールキャリア:EpC キャリア)を用い (CAF)と PLA のみを添加した細胞では,分化は確認されな て,ヒト骨髄性白血病細胞(HL60)の顆粒球への分化誘導 かった。一方,EpC キャリアを投与した細胞の分化率は を試みたので報告する。 59%であった。これらの結果は,TSA が CAF と拮抗する 2. HDAC3 を含む種々の HDAC を阻害することで,相対的に 方 法 内在性ヒストンアセチル化酵素の機能が高まったことに加 EpC キ ャ リ ア は,ポ リ 乳 酸(PLA)・ カ チ オ ン 性 脂 質 え,プラスミド DNA より発現した CAF によるアセチル化 (lipid)・プラスミド DNA(CAF)・TSA を用いて調製した。 も強まり,高い分化率を示したためと考えられる。さらに, 得られた EpC キャリアを HL60 細胞に投与した後,細胞内 ウエスタンブロットの結果と同様に,EpC キャリアの持つ アセチル化ヒストン量を,ウエスタンブロット法により評 徐放性により,日数を追うごとに分化率が向上したことが 価した。顆粒球への分化率は,nitro-blue tetrazolium(NBT) 示された。 染色から算出した。 3. まとめ 4. 結果・考察 本研究より,EpC キャリアがヒストンアセチル化制御お ウエスタンブロットの結果,EpC キャリアを投与した よび細胞分化治療に有用であることが示された。現在,エ HL60 細胞は,プラスミド DNA(CAF)や TSA のみを投与し ピジェネティクス修飾の網羅的な制御を行い,様々な疾患 に対する治療への応用を目指し,さらなる研究を行ってい ■著者連絡先 首都大学東京大学院都市環境科学研究科分子応用化学域 (〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1) E-mail. [email protected] 50 る。 本稿の全ての著者には規定された COI はない。 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年
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