SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) Mg、O同時ドーピングされた六方晶BN薄膜の電子放出特 性 大谷, 伸二 Citation Issue Date URL Version 2013-06 http://hdl.handle.net/10297/7927 ETD Rights This document is downloaded at: 2015-01-30T23:34:14Z (課程博士・様式9) 審 査 要 旨 (1,000 字程度) 本研究は、大気中で安定に電子を放出するエミッターを開発し、この電子エミッターを用い た新しいコピー機を開発することを目的として実施されたものである。六方晶 BN(h-BN)は、 伝導帯のエネルギーが真空準位よりも高い位置に存在し、ダイヤモンドよりも熱的安定性に優 れているため、優れた電子エミッターとしての可能性がある。しかしながら、伝導帯に電子を 持つn型六方晶 BN は未だ実現されていない。そこで、本研究では、n型h-BN を得るため に、ドナーである酸素とアクセプタである Mg からなる複合体 MgOx( X>1 )を生成させ、 優れた電子放出特性を持つ h-BN 薄膜の作製と物性評価を行っている。 まず Mg 単独のドープの実験について最初に検討を進めている。Ar雰囲気で作製した薄膜 は、透過スペクトルの長波長シフトを引き起こし、大気中に保持すると白濁化が生じ、窒素雰 囲気で作製した薄膜も大気中の水分とも反応しやすく、安定した BN 膜が作製できないと結論 している。次に、単独の酸素ドープの実験についても検討を行っている。窒素と酸素の混合雰 囲気の作製では、少量の酸素により BO 結合が生成してしまい安定した BN 膜を作製できない が、Arと酸素の混合雰囲気下では、酸素が多い環境でも BN 膜を作製することができること を FTIR スペクトルの結果から推測している。また、透過スペクトルの吸収端のシフトから、 Ar雰囲気下での作製において、窒素欠陥の生成と窒素を置換した酸素によるドナー準位の生 成が起こることを見出している。Mg、O 同時ドープの実験では、窒素と酸素の混合雰囲気の 作製では、Mg と O をドープする事で、スパッタ雰囲気の酸素量が多い環境でも BN 膜を作製 できるが、この原因として、Mg、O の共存下では BO 結合が生成しにくくなる為と解釈して いる。Arと酸素の混合雰囲気の作製でも、Mg と O との同時ドープにより高い酸素添加条件 でも、h-BN 骨格の破壊が起こらないことを見出している。 Si 基板上に堆積させたh-BN 薄膜の真空中で電子放出特性を調べると、Ar雰囲気で Mg,O 同時ドープされた薄膜は低電界で電界放出を示し、FN プロットの傾きも著しく小さいことを 見出している。原子間力顕微鏡による表面形態観察から、Mg と酸素を添加したh-BN 薄膜 では大きな形態変化は認められず、この FN プロットにおける小さな傾きは、Mg と酸素を添 加したh-BN 薄膜が小さな仕事関数を持っているためであり、当初の予想通り、Mg と O の 同時添加により、高いエネルギーにドナー準位が形成されたと結論している。基板温度の影響 についても検討している。基板温度が 200 ℃で積層した場合は、殆ど電子放出が見られない。 これは局所的なh-BN の結晶性の低下によるものと推測している。しかし、300-400 ℃では 高い電子放出を得ている。逆に 500 ℃では、Mg、O のドープ量の効果が不明瞭になり炭素の 混入によるドープのクエンチが起こっていると結論している。 以上のように本論文は、従来困難であったh-BN の仕事関数の低減を Mg と酸素を同時ド ーピングすることにより実現し、低電界での電子放出を可能とするh-BN 電子エミッタ―の 開発に成功している。従って、本論文は博士(工学)の学位を授与するに十分な内容を有する ものと認める。
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