カー型の非線形媒質層を含む導波路の光波伝搬特性に関する研究

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カー型の非線形媒質層を含む導波路の光波伝搬特性に関
する研究
榊原, 敏幸
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 12, p. 156-157
1991-03-25
http://hdl.handle.net/10297/1768
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氏名・(本籍)
榊 原 敏 幸(北海道)
学位の種類
工 学 博 士
学位記番号
工博甲第 5 0 号
学位授与の日付
平成2年3月 2 3 日
学位授与の要件
学位規則第5条第1項該当
電子科学研究科 電子応用工学専攻
学位論文題目
カー型の非線形媒質層を含む導波路の光波伝搬特性
に関する研究
藤 本
神 岡
授 授
教 教
夫 明 文
静 弘 敏
品 田 浦
水 池 杉
員 教
長授 授 授
︵
委教 教 助
論文審査委員
正 士
尚 道
論 文 内 容 の 要 旨
本研究は,複数層のカー型非線形媒質を含む誘電体スラブ導波路についてTEモードの伝搬特性を
解析し,検討することを目的としている。カー型の非線形媒質では,屈折率の光強度依存性により,
入射した光ビームの自己集束効果または自己発散効果,自己束縛,自己位相変調,楕円偏光面の自己
回転,自己パルス圧縮等の興味ある物理現象が知られている。さらに,カー型非線形媒質を光導波路
や共振器等に用いると,光増幅器,光双安定素子,光スイッチ,光論理演算素子,光メモリ,光パル
ス圧縮素子等の各種光デバイスへの応用が期待できる。光導波路構造の非線形光デバイスは,光ビー
ム断面を波長程度に小さくすることが可能であり,また導波路内への光閉込めによって回折による光
波の広がりがなく,長い相互作用長をとることができる点から,素子の低電力動作が期待できる。非
線形媒質を用いたこの種の光デバイスを考案するためには,非線形媒質を含む光導波路の伝搬特性を
知ることが,極めて重要である。
これまで,非線形媒質と線形媒質の単一界面,及びクラッド層が非線形媒質か,あるいはコア層が
非線形媒質の3層構造のスラブ導波路について多数の研究が報告されている。最近,半導体の多重量
子井戸構造(MQWS)からなる多層系が,光波に対してかなり速い応答速度で極めて強い非線形性
を示すことが注目されている。しかし,光波に対する損失もかなり大きいために,導波形の光デバイ
スへ応用するには,適切な設計が必要である。従って,複数層の非線形媒質を含む導波路の伝搬特性
は,今後これを応用した導波形光デバイスを考案するうえで重要な基礎データとなり,研究の進展が
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望まれる。
従って本論文では,2層あるいは3層のカー型非線形媒質を含む5層構造のスラブ導波路における
TE波について,その厳密な理論式を導出し,その伝搬特性の詳細な研究を行っている。非線形媒質
は,その屈折率が局所的な光強度に比例して増加する項をもっ,いわゆる自己集束型のカー媒質を対
象としている。
第1章では,非線形光学効果のうち3次の非線形効果の一つであるカー効果について概説し,カー
媒質中に入射した光ビームの自己集束効果,自己位相変調等の物理現象について述べ,さらにカー媒
質をファブリ・ペロー共振器内や導波路に用いた各種光デバイスについて記述する。また,現時点に
おける非線形性の大きなカー媒質の代表的な物質例について述べる。
第2章では,カー非線形媒質を用いた光導波路に関するこれまでの研究の概要と,線形媒質の導波
路とは異なる光波伝搬特性の特徴について述べる。次に,複数層のカー非線形媒質を含む光導波路の
研究の必要性と,本研究の目的について述べる。
第3章では,2層のカー型非線形媒質を含む5層構造のスラブ導波路について,界分布の対称性を
示すパラメータを導入し,TEモードの分散方程式,各層の電磁界表示式,伝搬電力の式を導出して
いるo TEo対称モード,TEl,反対称モード,及び非対称モードにおける,光強度に対する等価屈折
率の関係,等価屈折率に対する界分布の変化,分散曲線,伝搬電力の等価屈折率依存性を求め,詳細
に検討している。なお,非線形媒質層における電磁界表示には,ヤコどの楕円関数を用いている。そ
の結果,各モードの存在する領域が明らかにされている。さらに,TE。対称モードの分散曲線から分
岐する非対称モードは存在しないが,TEl反対称モードから分岐する非対称モードの存在が明らかに
されている。
第4章では,中央の層と最も外側の2層の3層がカー型非線形媒質である5層構造のスラブ導波路
について,界分布の対称性を表す三つの異なるパラメータを導入し,分散方程式,各層の電磁界表示
方式を導出している。ここでは,中央の非線形層の界表示に,未知数二つを含むヤコどの楕円関数を
用いて,厳密な定式化を行っている。対称モードと反対称モードの場合には,上記パラメータの一つ,
即ち外側と内側の非線形層界面における電界振幅比が4次方程式の根となり,対応する分散曲線が近
接する4本の曲線となることが示されている。また,その界分布は互いに異なる特徴を有することが
明らかにされている。対称モードの分散曲線は,周波数に対して極大値をもっ2曲線と,極大値をも
たずはば等しい等価屈折率値でカットオフになる2曲線からなることが示されている。それに対して
反対称モードの分散曲線は,周波数の増加と共に等価屈折率が単調に減少し,2組の曲線が各々は恵
等しい等価屈折率値でカットオフとなることが明らかにされている。また,各分散曲線に対応する界
分布の等価屈折率に対する変化も図示し,検討している。
第5章では,本研究を総括し,結論を述べる。
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