「比較劣位」下の競争優位の考察: 常石造船を中心に 1.研究の背景

2014/3/19
1.研究の背景
「比較劣位」下の競争優位の考察:
常石造船を中心に
経営学部 今井雅和
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2014.3.18 @経営研究所
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• 比較優位→競争優位?
• 先進国は市場規模も一定以上(ニッチの存在),
経営資源も多様なため,可能性は高そう。新興国
はどうか。
• ロシアにおけるグロリアジーンズ,ノキアン・タイ
ヤ(フィンランド)の存在とその背景に個人的関心。
• ユーラシア新興市場の当該企業の発掘と深耕が
現下の研究テーマ。その準備も兼ね,造船,繊維
縫製,農業,自転車(台湾)に焦点を当てた調査
を開始。
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「比較劣位」の造船?
邦船系受注比率(輸出)
• 輸出入統計(船舶類:2004年-2013年の10年間)
輸出 ¥17,841.3bn; 輸入 ¥338.7bn
収支 ¥17,502.6bnの黒字・・・比較優位?
• リーマン前後で世界が変わった?
貿易収支 2010年¥2,239.9bn;2011年¥2,044.7bn
2012年¥1,728.4bn;2013年¥1,450.2bn・・・黒字
• 仕向国(2013年)
パナマ59%;リベリア11%;シンガポール10%
• 2003年度 72%; 2004年度 77%; 2005年
度 78%; 2006年度 78%; 2007年度
78%; 2008年度 90%; 2009年度 84%;
2010年度 85%; 2011年度 77%; 2012年
度 52%; 2013年4-12月 51%
• 2000年前後:世界の造船業界で日本が韓国
に#1の地位(受注量,建造量,受注残量)を
譲った時期
• 造船はGlobal産業ではない!
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竣工量シェア推移
2006→2009→2012年
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•
3カ国の特徴(2012年末)
手持工事量:実質船主別;船主別
日本:35%→25%→18%
韓国:36%→37%→33%
中国:15%→29%→41%
ボリュームとしては,2010年代に入り,中国勢
が韓国勢を凌駕。
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• 日本:日本 41%(不明38%);バルクキャリア61%,
LNGタンカー7%
• 韓国:ギリシャ25%,韓国7%,ノルウェー7%(不
明6%);コンテナ34%,LNGタンカー21%
• 中国:中国21%,ギリシャ11%(不明16%);バルク
キャリア45%,コンテナ19%,オイルタンカー9%
→「日本の造船業は比較劣位」というのはいい過
ぎだが,少なくとも比較優位によってすべてのプ
レーヤーが平均以上の経営成果を得られるわけ
ではない!
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2.造船業
• 商品開発→基本設計→詳細設計→ブロック
建造・先行艤装・溶接・塗装→進水→船内艤
装工事→検査・試運転
• 艤装(outfitting)工事:
(1) 職種別:船体艤装(操舵,係留,荷役・・・),
機関艤装,電気艤装(配線,照明,レーダー)
(2) 工程:先行艤装,船内艤装
• 3つのステーション: (1)船殻部,(2)機関部,
(3)居住区
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造船・海洋事業売上高(億円)
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現代重工業
大宇造船海洋
サムスン重工業
STX造船海洋
今治造船
三菱重工業
三井造船
大連船舶重工業
フィンカチェリ
常石造船
ユニバーサル
IHI
大島造船所
新来島どっく
川崎重工
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3.ツネイシHLDS・造船事業
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2012年
約$8bn,世界シェア15%,部門社員1万人
建造量日本シェア26%
2,554 (2011年同社2620億円)
3,212 (2011年同社3186億円)
2,523
3,346 (Jマリン・ユナイテッド)
903 (2011年1,135億円)
出所:各社発表
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新型TESS58開発
概要(2012年12月期)
• 売上高 3234億円
うち 造船 2523億円
海運 648億円
環境・エネルギー・サービス 467億円
• 連結対象25社,3802人(2012年末)
• 過年度推移 2008
2009 2010
2011
売上高(億円) 2862
2574 3009
3009
経常利益率(%) 7.3
9.7
12.7
9.8
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2011年
韓国
15,920
韓国
9,694
韓国
8,914
韓国
7,037
日本
4,186
日本
3,116
日本
3,096
中国
3,035
イタリア
2,351
日本
2,351
日本
2,146
日本
1,762
日本
1,526
日本
1,504
日本
出所:海事プレス
• TESS:Tsuneishi Economical Standard Ship
• 機能(低燃費)と斬新なデザインを両立
• 推進力の一部を使用する軸発電により,通常
航海中は発電機を使用せず,船内電力をま
かなう(バルクでは初)
• 若手技術者による設計で,2012年末に開発
完了
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造船所概要
PSPO活動(2006-2011)
• 機関室のモジュール化推進プロジェクト
• 開発テーマ:①品質保証,②メンテナンスレス,
③短納期,④省エネ(発電機周波数変更)
• 舶用メーカー9社(三井造船,ダイハツ,日立造
船,大阪ボイラー・・・)が参加。
• マリタイムイノベーションジャパン社設立(2013年
6月):造船,海運,舶用メーカーが共同出資し,
省エネ,低コストの技術開発を行う。
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• 2012年新造船 62隻(舟山20隻,セブ19隻,常石
12隻,多度津11隻)
• 常石:1942年設立,従業員760人,協力会社58社,
1000人
• 多度津:今治造船への売却決定済(2014年末引
き渡し),従業員160人,協力会社34社,800人
• 舟山(中国・浙江省):2003年設立,従業員1000
人,協力会社3800人
• セブ:1994年設立,従業員740人,協力会社45社,
11000人,2011年売上660億円,12年790億円,
日本人派遣者49人,出張者50人
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生産分業体制
THI(Cebu)概要
• パートナーは現地のAboitiz地方財閥,マニラ麻
と海運ビジネスで財形成。現在は不動産業が太
宗。
• Aboitizは1970年代150mドックを完成させ,技術
教育が必要,常石が訓練受け入れ。神原家と
Aboitiz家の関係継続
• 1980年後半に海外進出プロジェクトの中にセブ・
バランバランが候補として入っていた。1994年設
立。設立時の3か月以上の長期出張者だけでも
300人以上が参加。
• THIに2割出資,No voice。THIの土地はTHIが8割
出資の不動産会社が所有。
• THI敷地はPEZA(経済特区)
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• 常石:8.2万トンバルク
• 舟山:5.8万トン・8.2万トン・9.8万トンバルク,
1020TEUコンテナ船
• セブ:2.3万・2.8万・4.5万・5.2万・5.8万・8.2万・
18.0万トン(ケープサイズ)バルク,自動車運
搬船,10万トンタンカー(アフラマックス)
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常石・セブ役割分担
Dash Engineering(セブ市)
• 1992年設立,三井造船(MES) 完全子会社
• プラント,造船,舶用ディーゼルエンジン,回転機,
港湾クレーンなどの3D CADによる詳細設計(プラ
ント7割,造船2割,クレーン・ディーゼル1割)
• 従業員数:515人
• 派遣者:駐在6人,出張ベース10-15人
• 設計:MES,国内外注先,DASH間で役割分担
• プラント・造船部門:日本では別々だが,DASHで
は両部門間で相互学習が可能。5年前からモデ
ルレビューというプラント部門の手法を造船でも
取り入れる。
• 常石:商品開発・基本設計,営業,調達
• セブ:詳細設計・生産
• 設計人員数
常石:基本設計50人弱,詳細設計100人
セブ:詳細設計250人
舟山:詳細設計100人
• 資材,機材(含生活物資)はすべて日本から調
達。2週間に1回の回航。
• 各地で技能オリンピック開催,QC全社大会も継
続的に開催
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三井造船=Mitsui Engineering & Shipping
造船所労働力:ほとんど協力会社
仕入れ原価:8割程度か
機関部も舶用メーカーからの調達
建設会社,Engineering会社,プラント設計会
社と同様か
• THI河野社長は詳細設計は現場マスト,Dash
は詳細設計(プラントかも?)もセブに実施。
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4.まとめと今後の課題
造船は製造業か?
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「常識」を疑おう。
比較劣位を疑う。
“Global”の多用を反省。
国レベル,産業レベルではなく,企業レベルの検
討。就中,経営学徒。
高付加価値化は正解だが,唯一の解ではない。
商品価値とコストのバランス向上が重要。
製品・工程の再分析とそのなかで自社が担える,
担当すべき(競争環境の中)分野は何かの再検
討。自社の存在意義の再確認の重要性。
大企業(大手)の造船「再参入」に期待。メーカー
ではなく,エンジニアリング会社として。
設計職能の実態解明が次の課題
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