大血管術後患者における術前認知機能はICU

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)11 : 20∼12 : 10 第 5 会場
(3F 303)【口述 内部障害!循環 3】
0815
大血管術後患者における術前認知機能は ICU!AD 発症に関連する
土川 洋平1),小林
貝沼 関志3),碓氷
聖典1),清水
章彦4)
美帆1),林
和寛1),安川
悠仁1),佐藤
直弘2),木村
宏之2),
1)
名古屋大学医学部附属病院 リハビリテーション部,
名古屋大学大学院 医学系研究科 精神医学分野,
3)
名古屋大学大学院 医学系研究科 麻酔・蘇生医学,4)名古屋大学大学院
2)
医学系研究科
心臓外科学
key words ICU−AD・術前MMSE・大血管術後
【はじめに,目的】
近年,ICU における鎮静,鎮痛,せん妄対策として PAD ガイドラインと The ABCDE Bundle が提唱され,早期離床の有用性が
明記されているが,一旦術後 ICU せん妄(ICU!
AD)を発症すると術後の離床自体が難渋するだけでなく,長期に及ぶ認知機能
低下や生命予後と関連することが報告されている。心大血管術後患者における ICU!
AD 発症の危険因子には年齢,高血圧,脳血
管疾患の既往があり,冠動脈バイパス術(CABG)と弁膜疾患術後患者を対象とした研究では術前認知機能との関連が報告され
ている。一方,大血管術後患者は ICU!
AD 発症の危険因子である人工心肺使用率が高く ICU!
AD を高率に発症することが予想
されるが,大血管術後患者における術前認知機能と ICU!
AD 発症との関連は明らかではない。本研究は,大血管術後患者におけ
る術前認知機能が ICU!
AD 発症に関連するか否かを検討した。
【方法】
対象は 2012 年 6 月から 2013 年 10 月までの期間に,当院で大血管手術を行った 60 歳以上の 74 例(73.4±6.1 歳)である。術後
ICU!
AD の診断は,DSM!
IV の診断基準に基づき当院精神科医,臨床心理士,理学療法士が後方視的に評価し,ICU!
AD 発症群
と非発症群で 2 群に分類した。認知機能評価は MMSE を用いた。年齢,術前 MMSE,人工心肺使用時間には Mann!
Whitney
AD 発症の有無を従属変数,
検定を用い, 高血圧と脳血管疾患の既往の有無には χ2 検定を用いて 2 群で比較した。 さらに ICU!
評価項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。解析は SPSS statistics 21 を用い,有意水準は 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,当院倫理委員会の了承を得た。
【結果】
対象例における ICU!
AD 発症は 21 例(28.3%)であった。ICU!
AD 発症群の術前 MMSE は非発症群と比べ有意に低値を示した
(25.2±2.3 点 vs 27.2±2.6 点,P <0.05)が,年齢や高血圧,脳血管疾患の既往の有無,人工心肺使用時間に関しては有意差を認
。
めなかった。 ロジスティック回帰分析にて ICU!
AD の予測因子は術前 MMSE が有意な独立変数として抽出された
(P <0.05)
また ROC 解析にてカットオフ値は 26.5 点(AUC 73%,95%CI ; 60.7!
85.2,P <0.05)であった。
【考察】
大血管術後患者においても CABG と弁膜疾患術後患者と同様に,術前 MMSE 低下が ICU!
AD 発症と関連していた。これは背景
に動脈硬化性疾患を有しており,かつ多臓器の酸素供給不足を来しやすい術中因子があることから,心大血管術後患者に共通し
た特徴と考えられた。また,年齢,高血圧,脳血管疾患,人工心肺使用時間で差がなく,MMSE において有意差を認めたことは,
ICU!
AD 評価には臓器障害や器質的要因よりも,術後日常臨床で使用される CAM!
ICU のような統合機能の評価尺度との関連
が高いことが考えられた。ICU!
AD 予測の MMSE カットオフ値は,23 点をカットオフ値とした日常臨床での認知症診断基準の
MMSE 点数よりも高い点数であった。この背景として,先行研究と同様に人工心肺使用時には,一過性に脳酸素運搬量が低下す
るため,大血管疾患患者に大侵襲が加わると認知機能面はより影響を受けやすい可能性が考えられた。今後は心大血管以外の症
例を対照として患者背景を調査することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
PAD ガイドラインと The ABCDE Bundle を遂行する際に,ICU!
AD 予防の観点から,大血管疾患患者においては術前 MMSE
を評価し覚醒・離床を促す必要があるように思われる。