2014 年 12 月 11 日 No.11 数学を学ぶ (微分積分2)・授業用アブストラクト §11. 有界閉集合上の重積分 この節では、必ずしも長方形でない有界閉集合上での重積分を定義する。後半では、特に、 x-軸 に平行な 2 直線と2つの 1 変数関数 y = h(x), y = k(x) のグラフで囲まれた領域 (これ を縦線領域と呼ぶ) 上での重積分を考え、その値を 1 変数関数の定積分を2回行うこと (累次積 分) により求める方法を説明する。また、面積の定義を与える。 ● 11 - 1 : 有界閉集合 R2 d の部分集合 D が有界であるとは、D を含む長方 y R 形領域 R = [a, b] × [c, d] が存在するときをいう。 R2 の部分集合 D が閉集合であるとは、D 内の点列 {Pn }∞ n=1 が収束するときはいつでも、その極限 lim Pn n→∞ が D の中にあるときをいう。 D a R2 の有界な閉集合を有界閉集合という。 b x c 例 11 - 1 - 1 (1) D1 = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 > 1 } は有界でも閉集合でもない。 (2) D2 = { (x, y) ∈ R2 | y ≥ |x| } は有界でないが閉集合である。 (3) D3 = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 ≤ 1 } は有界閉集合である。 (4) D4 = { (x, y) ∈ R2 | − 1 < x ≤ 1, −1 ≤ y ≤ 1 } は有界だが閉集合ではない。 ● 11 - 2 : 有界集合上で定義された関数の重積分 D を R2 の有界な部分集合とし、f (x, y) を D 上で定義された関数とする。このとき、D の 外側では 0 と定義することにより、関数 f (x, y) の定義域を R2 全体に広げることができる: { f (x, y) ((x, y) ∈ D のとき) (11 - 2 a) f0 (x, y) = 0 ((x, y) ̸∈ D のとき) 例 11 - 2 - 1 √ D = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 ≤ 1 } 上の関数 f (x, y) = 1 − x2 − y 2 に対して、 {√ 1 − x2 − y 2 (x2 + y 2 ≤ 1 のとき), f0 (x, y) = 0 (x2 + y 2 > 1 のとき). 定理 11 - 2 - 2 D を R2 の有界な部分集合とし、f (x, y) を D 上で定義された関数とする。(11 - 2 a) のよ うに定義される R2 上の関数 f0 (x, y) が D を含むある長方形領域 R0 上で積分可能ならば、 D を含む任意の長方形領域 R 上で積分可能であり、 ∫ ∫ (11 - 2 b) f0 (x, y) dxdy = f0 (x, y)dxdy R R0 が成り立つ。 – 61 – そこで、 f0 (x, y) が D を含むある長方形領域 R0 上で積分可能なとき、f (x, y) は D 上で 積分可能であるといい、(11 - 2 b) の値を ∫ (11 - 2 c) f (x, y)dxdy D によって表わす。これを f (x, y) の D における重積分という。 ● 11 - 3 : 縦線領域・横線領域 閉区間 [a, b] 上で定義された連続な関数 h1 (x), k1 (x) が、すべての x ∈ [a, b] に対して、 h1 (x) ≤ k1 (x) を満たすとき、曲線 y = h1 (x), y = k1 (x) および直線 x = a, x = b で囲まれた 領域 D1 = { (x, y) ∈ R2 | a ≤ x ≤ b, h1 (x) ≤ y ≤ k1 (x) }. (11 - 3 a) が定義される。このような R2 の有界閉集合を縦線領域と呼ぶ。 同様に、閉区間 [c, d] 上で定義された連続な関数 h2 (y), k2 (y) が、すべての y ∈ [c, d] に対し て、h2 (y) ≤ k2 (y) を満たすとき、曲線 x = h2 (y), x = k2 (y) および直線 y = c, y = d で囲ま れた領域 D2 = { (x, y) ∈ R2 | c ≤ y ≤ d, h2 (y) ≤ x ≤ k2 (y) }. (11 - 3 b) が定義される。このような R2 の有界閉集合を横線領域と呼ぶ。 k(x) d D h(y) D h(x) a k(y) c b ● 11 - 4 : 累次積分による重積分の計算 [定理 10 - 6 - 1] と同様に次が成り立つ。 定理 11 - 4 - 1 (1) D1 を (11 - 3 a) のような縦線領域とし、f (x, y) を D1 上で定義された連続関数とする。 このとき、f (x, y) は D1 上で積分可能であり、次が成立する: ∫ ∫ b (∫ k1 (x) ) (11 - 4 a) f (x, y)dxdy = f (x, y)dy dx. D1 a h1 (x) (2) D2 を (11 - 3 b) のような横線領域とし、f (x, y) を D2 上で定義された連続関数とする。 このとき、f (x, y) は D2 上で積分可能であり、、次が成立する: ∫ ∫ d (∫ k2 (y) ) (11 - 4 b) f (x, y) dxdy = f (x, y)dx dy. D2 c – 62 – h2 (y) 例 11 -4 -2 D = { (x, y) ∈ R2 | ≤ x ≤ π2 , 0 ≤ y ≤ x } は縦線領域であり、f (x, y) = cos(x+ ∫ π2 (∫ x ) 1 y) は D 上で連続であるから、 cos(x + y) dxdy = cos(x + y)dy dx = · · · = − . □ π 4 D 0 3 ∫ π 3 ● 11 - 5 : 有界集合の面積 D を R2 の有界な部分集合とする。このとき、D 上で 1 の値をとり、それ以外では 0 の値 をとる R2 上の関数 χD (x, y) が考えられる: { 1 ((x, y) ∈ D のとき) (11 - 5 a) χD (x, y) = 0 ((x, y) ̸∈ D のとき) 関数 χD (x, y) を D の特性関数という。D の特性関数が D で積分可能なとき、D は面積確 定であるといい、その積分値を µ(D) で表わし、D の面積という: ∫ (11 - 5 b) µ(D) = χD (x, y)dxdy. D 例 11 - 5 - 1 (11 - 3 a) で与えられる縦線領域 D1 および (11 - 3 b) で与えられる横線領域 D2 はいずれも面積確定であり、その面積は次で与えられる: ∫ b ( ) (11 - 5 c) k1 (x) − h1 (x) dx µ(D1 ) = a ∫ (11 - 5 d) µ(D2 ) = d( ) k2 (y) − h2 (y) dy c 例 11 - 5 - 2 a, b > 0 を定数とする。有界閉集合 ( x )2 ( y )2 { } (11 - 5 e) D = (x, y) ∈ R2 + ≤1 a b は面積確定であり、その面積は µ(D) = abπ である。 実際、閉区間 [−a, a] 上で定義された関数 h(x) を √ ( x )2 h(x) = b 1 − a によって定義すると、D は、 y b D a -a D = { (x, y) ∈ R2 | − a ≤ x ≤ a, −h(x) ≤ y ≤ h(x) } x -b のように表わされるから、縦線領域である。したがって、面積確定である。その面積 µ(D) は ∫ a ∫ a ∫ a√ ( x )2 ( ) dx 1− µ(D) = h(x) − (−h(x)) dx = 2 h(x)dx = 2b a −a −a −a ∫ 1√ = 2ab 1 − t2 dt −1 により与えられる。この積分を t = cos θ とおいて置換積分で計算することにより、µ(D) = abπ □ とわかる。 ● 11 - 6 : 面積確定集合と重積分可能性 次の定理が知られている。 – 63 – 定理 11 - 6 - 1 面積確定な有界閉集合 D 上で定義された連続関数は D 上で積分可能である。 ● 11 - 7 : 重積分の性質 [定理 10 - 7 - 1] と同様に次が成り立つ。 定理 11 - 7 - 1 f (x, y), g(x, y) を面積確定な有界閉集合 D 上で定義された連続関数とする。このとき、 (1) (線形性) ∫ ( ∫ ∫ ) (i) f (x, y) + g(x, y) dxdy = f (x, y)dxdy + g(x, y)dxdy. D ∫ (ii) 任意の α ∈ R に対して、 D ∫ D αf (x, y)dxdy = α D f (x, y)dxdy. D (2) (単調性) 任意の (x, y) ∈ R に対して f (x, y) ≤ g(x, y) ならば、 ∫ (11 - 7 a) f (x, y)dxdy ≤ ∫ D g(x, y)dxdy. D (3) (加法性) D が2つの面積確定な有界閉集合 D1 , D2 の和集合であって、かつ、D1 , D2 の 共通部分の面積が 0 ならば ∫ (11 - 7 b) ∫ f (x, y)dxdy = D ∫ f (x, y)dxdy + D1 f (x, y)dxdy. D2 – 64 – 2014 年 12 月 11 日 No.11 数学を学ぶ (微分積分2) 演習問題 11 11-1. 次の各積分の値を求めよ。 (1) D = { (x, y) ∈ R2 | 1 ≤ x ≤ 2, x ≤ y ≤ x2 } のとき、 ∫ D (2) D = { (x, y) ∈ R2 | 1 ≤ y ≤ 2, 0 ≤ x ≤ log y } のとき、 ∫ y dxdy x3 ex dxdy D y 11-2. D = { (x, y) ∈ R2 | − 3 ≤ x ≤ 1, 1 ≤ y ≤ |x2 − 4x| } とおく。 (1) D を図示せよ。 (2) D の面積を求めよ。 – 65 – 数学を学ぶ (微分積分2) 通信 [No.11] 2014 年 12 月 11 日発行 ■ 第9回の学習内容チェックシート Q1 と Q3 について Q1 の意味の欄に、ヘッシアン判定法 (= :::::::::::::::::::::: ヘッシアンを用いて、関数が極大値・極小値をとる のかを調べるための方法 ) を書いている人がいますが、ここにはヘッシアン (Hf )(a, b) の定義 ::::::::::::::::::: だけを書いてください。 Q3 はヘッシアンを使っても、(a, b) で極値をとるかとらないかが判定できないときには、ど んな手段でそれを調べればよいかを答える問題です。(0, 0) 付近での関数 f (x, y) の様子を直接 調べる、x 軸上で極値をとるかどうかを調べる、などの答えが多かったのですが、(a, b) が原点 (0, 0) であるとは限らないので、そういったことを調べても (a, b) で極値をとるかとらないか は判定できません。(a, b) 付近での関数 f (x, y) の様子を調べる必要があります。闇雲に調べる のは大変なので、(a, b) を通る直線や曲線のうち、関数 f (x, y) が簡単になりそうなものを選ん で、その直線や曲線上での f (x, y) の変化の様子を調べます ([例 9 - 2 - 3] や演習 9 - 2 の解答例を 参照)。定義により、もし、ある直線や曲線上に、(a, b) のいくらでも近くに f (x, y) > f (a, b) と なる点 (x, y) が見つかり、別の直線や曲線上に、(a, b) のいくらでも近くに f (x′ , y ′ ) < f (a, b) となる点 (x′ , y ′ ) が見つかれば、関数 f は (a, b) で極値をとらないことがわかります (比較する 値は 0 ではなく、f (a, b) であることに注意しましょう)。 ■ 演習 10-2 について ∫ 0∫ (1) において、 −1 1 ∫ 2 (1 − y 2 )dxdy という記述が見られました。このような記述は、重積分 ∫ b∫ と、1 変数関数として積分を 2 回繰り返す累次積分 [a,b]×[c,d] d との差がよく分かってい a c はな ないことが原因であると思われます。両者は結果として等しくなるのであって、 端 から等しい ∫ (1 − y 2 )dxdy を 1 変数関数の積分に書き換えて計算す のではありません。重積分 [1,2]×[−1,0] るんだ、という意識を強く持って、 ∫ ∫ ∫ 0(∫ (1 − y 2 )dxdy = [1,2]×[−1,0] −1 ∫ 2 (∫ (1 − y 2 )dxdy = 1 [1,2]×[−1,0] 2 1 0 −1 ) (1 − y 2 )dx dy あるいは ) (1 − y 2 )dy dx のように、括弧をつけて書いてください。 ∫ 0(∫ 2 ) (1 − y 2 )dx dy から書き始められた解答もありましたが、問われているも いきなり −1 1 ∫ (1 − y 2 )dxdy にしなければなりません。 のは重積分の値ですから、書き出しは [1,2]×[−1,0] ■ 次回予告 縦線領域や横線領域とは限らない有界閉領域上での重積分を計算するには、変数変換を行い、 領域を縦線領域や横線領域に直してから計算します。次回は、変数変換の中でも最も基本的な 一次変換による重積分の変数変換公式を導き、その計算方法を学びます。 – 66 – 2014 年 12 月 11 日 数学を学ぶ(微分積分2)第 11 回・学習内容チェックシート 学籍番号 氏 名 Q1. 下図に描かれた、R2 の部分集合 D1 , D2 , D3 のそれぞれについて、有界かどうか、閉集合 かどうか、有界閉集合かどうかを判断してください。但し、実践上の点は含まれ、破線上の点 は含まれないとします。 解答は下の表に○×で記入してくだ さい。 D1 D2 D3 有界 D1 (y ≥ 0 の部分) D2 D3 閉集合 有界閉集合 Q2. D を R2 の有界な部分集合とします。次の表を完成させてください。ページ欄にはその言 葉の説明が書かれているアブストラクトのページを書いてください。 ページ 意味 D 上で定義された関 数 f (x, y) が重積分可 能であるとき、 その重 p. ∫ 積分 f (x, y)dxdy とは? D D の面積 µ(D) とは? p. Q3. D を D = { (x, y) ∈ R2 | a ≤ x ≤ b, h(x) ≤ y ≤ k(x) } によって定められた縦線領域と するとき、次の表を完成させてください。 解決方法・方針 縦線領域 D 上で定義された連 続関数 f (x, y) の重積分を計算 するには? 縦線領域 D の面積を計算する には? Q4. 第 11 回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし たら、書いてください。
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