●第 51 回日本人工臓器学会大会 奨励論文賞(代謝領域)受賞レポート Blood glucose control using an artificial pancreas reduces the workload of ICU nurses * 1 高知大学医学部附属病院看護部,* 2 高知大学医学部麻酔科学講座,* 3 同 外科学講座外科 1 壬生 季代* 1,矢田部 智昭* 2,花 和弘* 3 Kiyo MIBU, Tomoaki YATABE, Kazuhiro HANAZAKI 1. 化量をもとに,アルゴリズムに基づいて目標血糖値に調整 目 的 されるように,インスリンやグルコースが自動的に静脈注 周術期の患者は,インスリン抵抗性の増悪により高血糖 入される血糖管理装置である(図 1)。 になりやすく,高血糖は感染のリスクを高め,予後を不良 にすることが知られている 1),2) 。厳重な血糖管理をすれば 予後が改善することが報告されて以来,多くの施設で血糖 比較項目は,平均血糖値,インスリン使用量,低血糖発 作(血糖値 40 mg/dl 以下)を起こした患者頻度,作業時間, 採血回数 , ダブルチェック回数,医師コール回数とした。 管理に関する臨床研究が行われるようになった 3) 。しかし, さらに,血糖管理についてのアンケート調査を ICU 看護 一般に行われている間歇的な血糖測定である sliding-scale 師 20 人に実施した。回答は視覚的アナログスケールを使 法による血糖管理では,低血糖発作の危険性と,頻回な血 用し,①血糖管理に対する意識,②血糖管理の労働負担, 糖測定に伴う過酷な労働負担やインシデントの増大が問題 ③安全性を両群で比較した。 となっている。こうした問題を克服するために,closedloop 式人工膵臓(STG ® -22,日機装)を用いた血糖管理法を 導入し 4),その有用性を従来法と比較検討した。 2. 3. 結 果 両群間の背景因子については,ICU 滞在時間を含めて有 意差はなかった。インスリン使用量は AP 群で有意に高く 方 法 (AP 群 vs. SS 群:136±135 vs. 25±25 単 位,P = 0.001) , 2007 年 10 月∼ 2010 年 3 月までに ICU に入室した外科術 平均血糖値は AP 群で有意に低かった(123±34 vs. 198± 後患者 45 名を対象とした。ICU 入室直後より人工膵臓を 60 mg/dl,P < 0.001) 。 低 血 糖 発 作(0 vs. 5.3 %,P = 装着し,血糖管理を行った人工膵臓群(AP 群:目標血糖値 0.001),採血回数(1.3±1.4 vs. 8.9±8.1 回,P < 0.001) ,ダ 80 ∼ 110 mg/dl,26 例)と,sliding-scale 法または持続イン ブルチェック回数(1.0±1.4 vs. 9.8±8.5 回,P < 0.001) ,医 スリン静注法で血糖管理を行った従来の血糖管理法群(SS 師コール回数(0.6±1.1 vs. 2.2±1.8 回,P = 0.001)は AP 群 群:目標血糖値 150 ∼ 200 mg/dl,19 例)の 2 群に分け,比 で有意に少なかった。また,ICU 入室 1 回あたりの血糖管 較検討した。Closed-loop 式人工膵臓 STG ®-22 は,1 時間に 理 に 要 し た 時 間 は AP 群 で 有 意 に 短 か っ た(9.0±1.3 vs. 2 ml ずつの経静脈持続採血を行い,グルコースセンサーを 27.0±1.8 分,P = 0.003)。 介して血糖を連続的に測定する。その血糖値と血糖値の変 本受賞レポートの対象論文は J Ar tif Organ 誌に掲載されて います。Mibu K, Yatabe T, Hanazaki K. J Artif Organs 15: 71-6, 2012 アンケート調査結果(図 2)では,血糖管理への意識は, 人工膵臓使用後に有意に増加した(AP 群 vs. SS 群:76± 14 vs. 54±17,P < 0.001) 。血糖管理に関する労働負担は, 人工膵臓使用で有意に軽くなり(33±21 vs. 68±25,P < 0.001) ,安全性も高いと感じられ(62±22 vs. 37±19,P < ■著者連絡先 高知大学医学部附属病院看護部 (〒 783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮) E-mail. [email protected] 0.001) ,より大きな安心感を与えた。 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年 23 図 2 血糖管理についてのアンケート調査 図 1 Closed-loop 式人工膵臓(STG®-22)の基本原理 4. n = 20 。AP 群:人工膵臓群,SS 群:sliding-scale 法または持続インスリン静 注法。 減でき,ICU での血糖管理法の改善に有用であることが示 まとめ 唆された。 人工膵臓は低血糖を回避しながら厳密な血糖管理が可能 である。また,血糖変動をリアルタイムに把握することで 頻回な採血を必要とせず,管理する看護師に安心感を与え, 労働負担を明らかに軽減できる有効なデバイスといえる。 また,患者ごとに費やされる血糖管理時間は 1 日あたり約 30 分短縮し,血糖管理に要する労力を他の看護ケアに充て ることができ,医療全体の質の向上とインシデント発生リ スクの軽減に貢献できると思われた。さらに,当院 ICU 5 床を想定した場合,看護師の人件費で 1 年あたり約 100 万 円のコスト削減が可能となる。 5. 独創性 人工膵臓は,ICU 看護師の血糖測定に伴う労働負担を軽 24 本稿のすべての著者には規定された COI はない。 文 献 1) Lipshutz AK, Gropper MA: Perioperative glycemic control: an evidence-based review. Anesthesiology 110: 408-21, 2009 2) Hanazaki K, Maeda H, Okabayashi T: Tight perioperative glycemic control using an artificial endocrine pancreas. Surg Today 40: 1-7, 2010 3) van den Berghe G, Wouters P, Weekers F, et al: Intensive insulin therapy in critically ill patients. N Engl J Med 345: 1359-67, 2001 4) Yatabe T, Yamazaki R, Kitagawa H, et al: The evaluation of the ability of closed-loop glycemic control device to maintain the blood glucose concentration in intensive care unit patients. Crit Care Med 39: 575-8, 2011 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年
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