1. 心臓検査におけるArtida搭載 Activation Imaging(AI

インナービジョン
第 29 巻 第 3 号(通巻 336 号)
2014 年 3 月号抜き刷り
特集
領域別超音波最新動向
アプリ&プローブ,モバイル活用法
Ⅱ 最新アプリ&プローブ活用法
1.心臓検査における Artida 搭載
Activation Imaging(AI)の
活用法について
石津 智子 筑波大学医学医療系臨床検査医学
Ⅱ 最新アプリ&プローブ活用法
1.心臓検査における Artida 搭載
Activation Imaging(AI)の
活用法について
石津 智子 筑波大学医学医療系臨床検査医学
心臓は,1 日 10 万回拍動を続ける臓器
左心室の ECC
である。心臓は電気的興奮と,それに引
き続く心筋変形によって圧力を生み出し,
収縮タンパクであるアクチンとミオシン
1)
相互作用が開始して心筋細胞長は 15%
縮小し,細胞幅は 8%増大する。心筋線
血液を駆出する。電気信号が機械的収縮
図 1 に示すように,心筋細胞の膜電位
維は心内膜下で縦走,心筋中層で横走,
へと変換される過程は,興奮収縮連関
の脱分極と再分極からなる心周期の変
さらに心外膜層で縦走に配列しており,
(excitation-contraction coupling:ECC)
化は,心筋細胞の収縮と進展に対応し
さらに約 6 心筋細胞ごとに心筋シートを
と称される。ECC の異常は,不整脈疾患
ている。臓器レベルでは,左室の電気的
形成している。心筋細胞の変形とともに
だけでなく,虚血性心疾患,拡張型心筋症,
興奮は,刺激伝導系である His 束および
心筋シート間は相互にスライドし,心尖
肥大型心筋症,二次性心筋疾患,心臓弁
左 右の脚 内の P u r k i n j e 細 胞 間を
部から心基部へ絞り出すようなねじれ変
膜症,先天性心疾患など,心臓病のほと
200 cm/s の高速で,房室結節から心尖
形とともに左室壁は長軸方向へ 20%短
んどの病態において認められる。ECC には,
部まで伝導する。左室長径を 80 mm と
縮し,厚み方向へ 40%増大,心内圧を
細胞内のカルシウムハンドリングなど微視
すると,40 ms で房室結節から心尖部に
最大 1500 mmHg/s のスピードで上昇さ
的観点と,臓器としての心臓機能から見
電 気 信 号 が 到 達 する。心 筋 細 胞は,
せ,収縮の開始から約 300 ms 後には左
た巨視的観点がある。近年の心臓再同期
Purkinje 細胞から細胞膜電位の脱分極
室容積を 60%減少させる。この巧妙な
療法や高周波アブレーション治療の進歩
の信号を受け取り,隣り合う筋細胞間
ECC によって,左室は 1 分間に 5 L の血
によって,巨視的な観点から電気的興奮
の細胞長軸端にある Gap 結合を介して,
液を全身へと駆出する。この機構のどこ
伝播の異常を是正し,心機能を改善させ
次々と細胞膜電位脱分極の伝播を介し
かに異常を生じると,最終的な血液駆
る治療法が誕生した。これを受けて近年,
て,通常 100 ms 以内に心室収縮筋細胞
出に支障を来す。
ECC の巨視的診断が注目されている。心
全体の脱分極に至る。心筋細胞の膜電
エコー“Activation Imaging(AI)
”
(東芝
位の脱分極は,電位依存性ナトリウムチャ
社製)は,このような時代の要請を受け登
ネルの開放と,それに引き続くカルシウ
場した,まったく新しい無侵襲的収縮伝
ムチャネルの開放をもたらす。細胞内カ
東芝社製超音波診断装置「Artida」
播三次元マッピング法である。
ルシウム濃度が上昇し臨界点を超えると,
の三次元スペックルトラッキング心エコー
AI の原理
法では,三次元超音波信号を送受信す
る体表面探触子を用いて,1 心周期の左
電気機械カップリング
室を心電図同期 6 心拍加算することに
よって,時間分解能 30 ms の高時間分
解能の三次元情報を取得できる。拡張
興奮収縮連関
末期左室心内膜面を用手的に決定し,
excitation-contraction
coupling(ECC)
%shortening
mV
心内膜および心外膜面を専用ソフトに認
識させる。後はワンクリックで,ソフト
3 D wall motion tracking が関心領域の
a:電気的興奮
図 1 興奮収縮連関
b:機械的収縮
細胞膜電位の電気的興奮(a)は,筋細胞の機械的収縮(b)と共役している。
2 INNERVISION (29・3) 2014
超音波信号パターンをフレームごとに
三次元空間で自動追従し,心臓局所変
形の時間変化率が自動算出される(図 2)。
拡張末期を基準とし,心筋内膜面の面
領域別超音波最新動向
特集
アプリ&プローブ,モバイル活用法
(%)
circum. strain
Time:305ms
5.0
0.0
-5.0
-10.0
-15.0
-20.0
-25.0
-30.0
-35.0
-40.0
-45.0
-50.0
-55.0
(ms)
-50.05
図 2 収縮率時間曲線
左室 16 分画の心内膜面の三次元トラッキング法によ
り求められた平均収縮率時間曲線。心電図の QRS 波
形の立ち上がり点である,拡張末期を基準とした局
所収縮率をパーセント表示している。
(%)
0.0
0.08
-20.0
Time:91ms
(ms)
-11.35
-40.0
area
tracking
-60.0
図 3 AI 法 3)
-68.36
-80.0
0
305
(ms)
左室心内膜面積変化率の最大値の 25%に達す
るまでの時間を AI(ms)と定義し,カラー表示
する。図の例では,最大面積変化率− 68 . 36
の 25%である− 11 . 35 に達する時相 A I は
90 ms となる。図下のカラーマップに示すように,
本症例では,収縮時間 305 ms までの時相をカ
ラー表示に対応させている。
積変化率である area tracking,左室
ルシウム濃度の上昇が臨界点に達しない
電図(図 5 c)によって推定されるが,心
長軸方向の変化率 longitudinal strain,
と収縮が開始されないことと,超音波に
電図による側副伝導路局在診断精度は
短軸円周方向変化率 circumferential
内在する時間および空間分解能,信号
せいぜい 7 割程度である。側副伝導路か
s t r a i n,短軸壁厚方向変化率 r a d i a l
ノイズ比などの制約によると考えられる。
ら房室弁輪の近傍にある心筋へと膜電
strain を算出し,その時間変化を得るこ
臨床的な検討では,侵襲的心内膜電位
位脱分極が伝導すると,収縮心筋が機
とができる 2)。これらは,左室三次元左
マッピング法であるカルトシステムをゴー
械的収縮をする。図 4 に示す症例では,
室内膜面モデル,あるいは bull’
s eye 平
ルドスタンダードとすると,AI では,局
左室前壁基部に最早期収縮を示す暖色
面上にマッピングされる。従来の三次元
所面積収縮率がその最大値の 25%に達
信号が分布している(図 4 b)。図 5 に示
スペックルトラッキング心エコーでは,
する時相を表示する設定が,最も電気
す高周波アブレーションの側副伝導路
局所心筋の収縮分布を表示する。一方,
的興奮伝播と機械的収縮伝播との相関
焼灼成功部位は,AI 像での最早期収縮
AI は,収縮率の大きさではなく,その
が強かった (図 3)。このようにして,
部 位と完 全に一 致している。さらに,
時相をカラー表示するマッピング法であ
無侵襲で左室心筋全体の収縮伝播様式
図 4 a で示すように,側副伝導路の走行
1)
る。表示する時相は,最大収縮率を基
を三次元画像表示して直感的に理解で
は僧帽弁輪から左室中部に及んでいるこ
準として,任意の収縮率に至った時間
きるようになった。
ともわかる。図 4 c,d のアブレーション
を設定表示することができる。先の ECC
に基づくと,心筋細胞が無収縮でなけれ
ば,細胞膜の興奮の伝播と心筋収縮の
WPW 症候群の AI
後の AI 像では,焼灼された側副伝導路
の部位に一致して,寒色信号で示す収
縮遅延が生じていることがわかる。それは,
伝播はほぼ一致する。したがって,理論
顕性 WPW(Wolff-Parkinson-White)
Cardiac Memory として知られる電気生
的には収縮開始時相から興奮開始時相
症候群では,側副伝導路と呼ばれる異
理学的現象であり,異常興奮が治療さ
を検出できる。しかし,収縮時間曲線
常伝導路が心房心室間に存在して,房
れた後も,しばらく興奮収縮に異常が残
は膜電位時間曲線とは異なり,立ち上
室結節をバイパスする先天的疾患である。
存する病態に一致すると考えられる。
がりが緩やかである。これは,細胞内カ
側副伝導路の局在は,通常は 12 誘導心
INNERVISION (29・3) 2014 3
a
b
c
d
図 4 WPW 症候群症例の側副伝導路焼灼術前後
の AI 像
術前の三次元立体像(a),および bull’
s eye 平面像(b)
と,それぞれの術後(c,d)画像。a,b では,オレン
ジで示される心基部前壁 2 時半の部位の収縮時相が
早く,この部分に早期収縮を来す側副伝導路が存在
することがわかる。c,d では,最早期興奮部位は水
色の軽度遅延収縮部位に変化している。
アブレーション部位
b:Schematic of LAO view
a:X 線透視左側斜位像
c:12 誘導心電図
図 5 WPW 症候群症例の心電図および X 線透視画像
左前斜位像(a)ではアブレーション部位(*)は模式図(b)で示す僧帽弁輪(Mitral annulus:MA)2 時半
の部位(*)であり,図 4 の Activation Imaging で示された最早期収縮部位と一致している。心電図(c)
は右脚ブロック型の WPW 症候群 TypeA を示す。
◎
らに,AI を用いた臨床研究によって,
Activation Imaging(AI)は,無侵
これまで実験的に生理学的現象としてと
襲で左室収縮伝播様式を三次元表示で
らえられていた興奮収縮関連(ECC)の
きる革新的画像診断法である。本法は,
異常が,個々の臨床例においてどのよう
心臓の電気的異常を治療する際の診断
な意義を持つのか,新たに明らかとなる
に大きく貢献することが期待される。さ
可能性がある。
4 INNERVISION (29・3) 2014
●参考文献
1)Opie, L.H. : Heart Physiology ; From cell to
circulation. Riverwoods, Lippincott Williams
and Wilkins, 119 ~ 185, 2003.
2)Shiota, T. : 3D Echocardiography. Boca
Raton, CRC press, 219 ~ 232, 2013.
3)Seo, Y., et al. : Left ventricular activation
imaging by 3-dimensional speckle-tracking
echocardiography. Comparison with electrical
activation mapping. Circ. J. , 77, 2481 ~
2489, 2013.
東芝メディカルシステムズ株式会社 http://www.toshiba-medical.co.jp/
2763-①