「エル・システマ」にみる文化としての音楽教育デザイン

学生によるポスター発表会「教育デザイン」
学生発表会
「エル・システマ」にみる文化としての音楽教育デザイン
教育デザインコース 音楽領域
山本 奏恵
1. 本研究の背景と目的
つある人が生活する環境を見るとき、一つ一つの行動場
現在、学校教育における音楽科の授業時数削減や、音
面を切り離してみるのではなく、いくつかの行動場面の
楽教育への予算の削減など、音楽教育が日本社会から「価
相互関係を見ることが重要であるとした。彼はこうした
値あるもの」として捉えられているとは言いがたい。音
行動場面の相互関係こそが発達に対して決定的な影響を
楽教育関係者の間でも、将来、学校教育から音楽の科目
及ぼしうると述べている。
が消滅するのではないかと危機感を抱き、音楽を教育す
エル・システマの音楽教育は、子どもの発達に重要な
る意義について研究を行っている研究者も少なくない。
以下の四つのレベルすべてに、一貫性を持って働きかけ、
今後の我が国の音楽教育のあり方を考えていくにあたっ
彼らを取り巻く環境を変えていくことにより、子どもの
て、社会と人間と音楽はどのように関係し、音楽教育は
人間的発達を促していることが明らかになった。
社会と人間にどのような影響を与えるのかを問うことは
非常に意義のあることであると考える。
そこで本研究では、ベネズエラにおいて、社会変革活
動の一環として行われている「エル・システマ」の音楽
教育実践をケーススタディとして取り上げ、我が国にお
いて、「どのような音楽実践が、どのような環境で行わ
れるべきか」を考察し、これからの我が国の音楽科教育
あり方を示すことを目的としている。
2. 発表の概要
ベネズエラにおけるエル・システマは子どもたちに無
料で音楽の知識や楽器の演奏技術を教え、オーケストラ
や合唱などの音楽活動に参加する機会を与える国家規模
の音楽教育システムである。このエル・システマは子ど
もたちを音楽活動に参加させることにより、自立した人
間として育っていく場を提供し、音楽によって貧困や犯
罪から子ども達を救い出す社会変革を展開してきた。エ
ル・システマにおいては、音楽教育が音楽的発達だけに
とどまらず、人間的成長の場として見なされており、そ
のことが社会全体に影響を与えている要因である。
今回の発表ではエル・システマの音楽教育の構造とそ
れが子どもたちに与える影響をアメリカの発達心理学者
ブロンフェンブレンナー(1996)の人間発達の生態学
の理論を用いて分析を行い、紹介した。ブロンフェンブ
レンナーは、人間の発達は成長しつつある個人としての
人間と環境との相互作用であるとし、そうした発達しつ
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図1:エル・システマの音楽教育の構造
以上のことから、我が国の音楽科教育も、学校教育
の枠組みでその他の音楽活動から切り離されるべきで
はなく、生涯的な人間発達の視点から、学校教育と社
会教育の音楽活動の連携の可能性を探る必要があると
結論づけ、発表を終えた。
3. 成果
今回のポスター発表会では、音楽領域以外の大学院
生や教授の方から意見をいただくことができた。これ
らの意見は建設的なものが多く、今後の研究に反映さ
せていきたい。