将来を見据えた防衛装備の開発態勢をめざして 防衛省大臣官房技術監 外園 博一 氏 〈聞き手〉 (一財)防衛技術協会理事長 高岡 力 ──明けましておめでとうございます。新年 両用技術と国際共同が全部一緒になったプログ 早々ではありますが、今年平成27年は安全保障 ラムということで、非常に画期的と思いました。 環境が大きな変化を迎えようとしています。そ 外園 これまでに培った、さまざまな開発手 れによって防衛技術基盤にも大きく影響が出て 法のメリットをうまく活かすということでは斬 くるのではないかと思われます。技術研究本部 新な試みになると思います。開発の多くの部分 の平成27年度予算要求を見ると新たな技術研 を民間ベースで進めていくことによって、安価 究の方向が明示されていて、そこには基本的な で早く開発できることがメリットなんですが、 考えが明確になっていると感じました。一つは 民−民間による民間機開発をベースとしている 各種事態への先進的・即応的な対応力の向上、 ので、どのようなシステムと管理方式でやって 要求がかつてないほど生々しくなっているので いけば、透明性を確保しつつそのメリットを最 はないかと思います。例えば大型艦艇、島嶼の 大限に活用できるかを考えているところです。 攻撃目標対処の弾頭をどうするかとか、パワー まさしく、それが来年度新しくできる防衛装備 ドスーツや EMP 装置の研究など、かなり面白 庁(仮称)で将来の新しい国際共同開発を行っ い内容になっていますね。 ていく際に大きな特徴の一つになると考えてい 外園 おっしゃる通り、近年わが国を取り巻 ます。 く安全保障環境は非常に厳しいものになってき ──三つめに、安全保障技術研究推進制度 ています。広い意味では大規模な自然災害の多 (ファンディング)というのがありますね。これは 発なども含めてこれまで以上に迅速に対応して 従来から取り決めや覚書に基づく大学、独立行 いける研究開発をしていかなければならないと 政法人との研究協力がありました。規模は小さ 思っています。その意味で平成27年度予算は、 かったと思いますが、今度の制度はそれと違うも 多少なりともそうしたところにシフトしたいと のになるのでしょうか。構想をお聞かせ下さい。 考えています。 外園 かなり違うものを狙っています。従来 ──また二つめですが、新多用途ヘリは国 の研究協力というのは研究目的が決まってい 内・国外企業の共同開発にすることになるわけ て、お互いに意見交換や情報交換してメリット ですね。民間技術の吸い上げというか、つまり がある場合に互いに協力していたわけです。研 2 防衛技術ジャーナル January 2015 外園 非常に基礎的な分野から、もう少し具 体的なターゲットのあるところまでですから、 規模は小さいながらそれに近いと思います。な お、この成果によって得られるものは、必ずし もすぐ防衛省の装備品に繋がらないかもしれま せん。ただ他府省と違うところは、研究さらに は開発に繋げるのは防衛省自身ですので、確固 たる出口戦略を示すことができると考えていま す。先日の防衛技術シンポジウムで講演された 政策研究大学院大学の角南篤教授もおっしゃっ ていましたが、他府省のファンドでは基礎的な 分野に投資をするものの、それを成果として活 用するのは民間企業等です。われわれのファン ドは、最終的に研究試作とか開発試作として、 われわれが出口まで引っ張っていきます。基礎 的な分野でわれわれの期待する成果を創出でき る制度を作ることによって、米軍のようにファ ンディングしていけるようになるわけです。 ──昔、私が AAM をやっていたとき、高出 力のパルスレーザを見つけようと国内を歩き 究資金のやり取りも行わないというものでし 回ったことがあります。それと同じようなこと た。 今 度 の 安 全 保 障 技 術 研 究 推 進 制 度 は、 をさせようというわけですね。それで研究試作 IMPACT のようにファンディングする側は対 になれば研究開発へと。 象となる科学技術分野を指定し、研究の手段や 外園 そうですね。それができればシステム ゴールは応募する研究者が設定するのではなく アップに繋がっていきます。例えば、指向性エ て、将来を見据えた装備品を作るためのハイレ ネルギーを用いた装備品を研究開発するにも、 ベルで具体的な課題を防衛省が設定をします。 そのエネルギー源として高出力レーザとか固体 その課題設定に対する解決手法は応募される方 レーザといったものがなければできません。そ から提案して頂き、その中から優れた方にファ ういった飛躍的なパワーをもったエネルギー源 ンディングして研究を推進して頂くというもの の研究を行っている研究者に投資して、もしそ を考えています。課題だけを提示してそれに対 れができればわれわれの防衛技術で指向性エネ する解決策を公募するため、各府省がやってい ルギー装備品に結びつけていけますからね。 る競争的資金や課題設定型のファンディングに 近いものですが、防衛省の目的にかなったター ゲットを設定するところで差別化を図るつもり です。 ──そうすると防衛省側の目利きをする人が 大事ですね。 外園 はい、それと技術の目利きをする人間 が必要なのは機微技術管理においても一緒で ──先日、米陸軍の研究所の人から聞いた話 す。欧米各国にはファンド制度があって、しか では、日本にサイエンス分野で投資しているそ も外国にある日本の企業にもファンドができる うです。それよりも軍事寄りのところで設定す んです。そのときにわれわれがファンド制度を る感じなのでしょうか? もっていなければ、防衛省で優先的に確保した 3 味を示されているので、ODA などと併せて適 切にコントリビューションしていくことが必要 だと思います。 ──ところで新しくできる防衛装備庁(仮称) では枠組みが変わってくるのでしょうね。そう すると国内の防衛関連企業へのインパクトとい うのはどうなるのでしょうか? 例えば三原則 が変わったり、国際共同が増えたりすると米国 の巨大企業との対応とか、研究分野で高度化多 外園技術監に話を聞く高岡理事長 様化に対応していかなければならないなど。し かしながら予算の制限もありますからね。そこ いと思った技術があってもどんどん海外に流れ で企業にとってはチャレンジはあるものの、存 ていってしまいます。ですから急いで制度をつ 亡のリスクにも面していると思うのですが。 くらなければならないと考えています。幕末に 外園 企業はもちろん、われわれにとっても ペリーが来て開国したときに、日本の金貨がも 予算的に厳しいですし、世の中もこれだけ変 のすごく流出してしまいましたね。あれと同じ わっていますから、私として言えるのは、私ど 政策的失敗が今度の新防衛装備移転三原則とい もも精一杯の努力をしますので、官民一緒に変 う「開国」に際して、先進技術についても起こ わっていきましょう、ということを企業の皆様 りうるわけですから、ファンディングはそれを に是非お願いしたいということです。わが国の 防ぐ手段の一つでもあります。 安全保障にとって防衛産業は国の骨幹ですか ──次に国際共同開発ですが、防衛装備移転 ら、その方々が防衛装備庁(仮称)に生き生き 三原則や国際共同開発のグローバルな流れを考 とご提案頂けるように、あらゆる相談にも応じ えると、先ほどのヘリを例に出すまでもなく、 させて頂きたいと思っています。また新しく国 これからさまざまなパターンが出てくると思い 際共同も進んでいく中で、民-民間や官-官 ます。先進国との共同とか、後進国の教導とい 間、官-民間といった連携を強化していくこと うことも出てくるのではないでしょうか。 が求められるでしょう。そうしたことを担うの 外園 すでにそれらの国々との対話は始まっ がまさしく防衛装備庁(仮称)の政策であって、 ています。主に民間技術でしょうが、日本の技 いままでの政策や調達制度ではできなかった部 術への期待が高いという話が防衛省にも入って 分があったと思います。例えば防衛省が開発し きています。新しく防衛装備移転三原則が施行 た航空機の民間転用も一歩一歩制度を整えてい された昨年の4月以前までですが、基本的に米 かなければならないですし、実務的には防衛装 国以外でも国際共同開発はあくまで例外という 備庁(仮称)の政策部門が企業等と一緒になっ ことになっていました。今後は、米国以外との て日本の安全保障の技術基盤を培っていけたら 共同開発も積極的にやろうという話し合いの機 と思っています。 運がよりいっそう高まりつつあります。発展途 ──安全保障を巡る環境の変化や産業経済の 上国についても広い意味での安全保障という 変化など、防衛技術の舵取りはさぞご苦労され か、特に ASEAN 地域での災害では救助活動の るだろうと思いますが、頑張って下さい。本日 ため自衛隊の通信装置やネットワークなどに興 はありがとうございました。 4
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