第 1~4 回では、様々な測定における不確かさの求め方を

不確かさ講座
第5回
-測定の信頼性を高めるために-
(全 6 回)
製品出荷検査の信頼性
第 1~4 回では、様々な測定における不確かさの求め方を中心に解説してきた。今回は視
点を変え、電子機器や電子部品の生産現場において製品の出荷検査を行う際、その合否判
定に測定の不確かさがどのように影響を与えるかについて解説する。
合否判定
典型的な合否判定の例として、量産している製品の出荷検査を考える。判定しようとし
ているパラメータが、製品の規格である上限値 (SU)と下限値(SL)の間にあれば合格、その
外側は不合格である。判定しようとするパラメータは、測定によって得られるものとする
と、その測定値には誤差やバラツキが含まれる。図 1. において、A 点は合格、B 点は不合
格であるが、SU に近い C 点を単純に合格として良いのだろうか。
A
-
-
不合格
合格
不合格
SL (下限)
-
-
C
判定しようとする値
図1
B
SU (上限)
合否判定
通常は誤判定を避けるためのマージン、あるいは製品の特性の変化を考え、製品の規格
値の内側に、合否判定基準を設定する。このマージンはどれくらい取れば適切なのであろ
うか?
判定に使う測定値の不確かさが評価されていれば、次の指針がある。
1
ILAC G8 の指針
線分上の各点は以下の意味を持つ
測定値 + 拡張不確かさ
測定値
測定値 - 拡張不確かさ
SU
SL
Case 1
Case 2
図2
Case 3
Case 4
Case 5
適合性の判定 – ILAC G8 の指針
ILAC (the International Laboratory Accreditation Cooperation) は、仕様に対する適合
性の判定のガイドラインを、ILAC-G8 Guidelines on Assessment and Reporting of
Compliance with Specification という文書の中で述べている。図 2 において、線分の中心
が測定された値、線分の両端はそれぞれ測定値+拡張不確かさ、測定値 – 拡張不確かさを
示すものとする。(ILAC-G8 では下限に対する同様な図も示されているが、解釈は同じなの
で割愛する)
Case 1: 測定値も、
(測定値+拡張不確かさ)も上限を超えていないので、合格である。
Case 2: 測定値は上限を超えていないが、(測定値 + 拡張不確かさ)は上限を超えている。
従って、合格とは言えない。しかしながら、信頼水準が 95 % (*1)より低くても良
いなら、合格と言える場合もある。
2
Case 3: 測定値が上限と等しい。高い信頼水準が求められるなら、合格であるとも不合格で
あるとも言えない。しかしながら、信頼水準に関わらずなんらかの判定をしなけ
ればならない場合、測定値<= 上限という要求であれば合格、測定値<上限という
要求であれば不合格と言う事もできる。
Case 4: 測定値は上限を超えているが、
(測定値 - 拡張不確かさ)は、上限を超えていな
いので、不合格とは言えない。しかしながら、信頼水準が 95 %より低くても良い
なら、不合格と言える場合もある。
Case 5: 測定値も、
(測定値 - 拡張不確かさ)も上限を超えているので、不合格である。
注1) ILAC-G8 の原文は、「95 %の信頼水準」と記しているが、このケースでは片側に対する判
定なので、97.7 %(あるいは 97.5 %)の信頼水準とも言える。
Case 1 は明らかに合格、Case 5 は明らかに不合格である。法や規制値に対する適合性の
判定においては、Case 2、Case 3、Case 4 の場合をどのように扱うかのかは、大いに議論
を呼びそうである。出荷検査の立場であれば、不良品をできるだけ出さないのが目的なの
で、 疑わしい Case 2、Case 3、Case 4 は不合格とすれば良い。
Case 2、Case 3、Case 4 を不合格とするという扱いは、SU と SL の内側に、拡張不確
かさの幅のマージンを取って判定基準を定める事に相当する。 (図 3)
上側の判定基準を AU (Acceptance limit Upper), 下側の判定基準値を AL (Acceptance
limit Lower) と呼ぶことにする。
合格
不合格
不合格
UTEST
UTEST
-
-
SL (下限)
-A
L
-
測定された値
図 3 判定基準とガードバンド
3
AU
SU (上限)
この SU と AU の間、SL と AL の間を、ガードバンドと呼ぶ。ガードバンドを拡張不確
かさと等しくなるように定めれば、測定値が丁度 AU (または AL )の上であった時は、信頼
水準 95 %(*1)で合格と呼べる。
「信頼水準 95 % ということは、(片側で) 2.5 %の確率で誤判定するということか? わが
社の商品は ppm オーダーの不良率を目指しているので、2.5 %も不良が出るような判定で
は困る」という声が聞こえてきそうだ。ここで言っているのは、ガードバンドを拡張不確
かさと等しく取った時に、測定値が丁度 AU の上にあった時、真の値が SU を超えている、
リスクが 2.5 %あるという事であり、実際の誤判定率がこの値になるわけではない。
誤判定には、本来不合格のもの(不良品)を合格と判定してしまう False Acceptance と、
本来は合格のもの(良品)を不合格としてしまう False Rejection がある。ガードバンドを定
めた時に、実際にこの二がどのような比率で発生するのかは、被測定物の判定しようとす
るパラメータの分布を考えないと算出できない。
まず、判定しようとするパラメータの分布と判定基準の関係について考えてみる。
工程能力指数
品質管理では規格内の製品を生産できる能力を表す指標として、工程能力指数を使う。
判定しようとするパラメータが正規分布をしていると考える。その母集団の平均値をμ、
標準偏差を σ とする。平均値μから近いほうのリミットまでの距離を T とすると、工程
能力指数 CPK は次のように表わされる。
CPK = T / (3 σ )
T = (SU – μ) または (μ – SL ) のどちらか小さい方
判定しようとするパラメータが正規分布に従うなら、CPK が与えられれば、規格外となる
率は累積確率分布より簡単に計算できる。表 1 にいくつかの CPK に対して規格外の率を計
算した例を示す。
4
CPK
σで表したT
不良率(片側)
0.33
1σ
16 %
0.67
2σ
2.3 %
1.00
3σ
0.13 %
1.33
4σ
32 ppm
1.50
4.5σ
3.4 ppm
1.67
5σ
0.29 ppm
2.00
6σ
0.00099 ppm
表 1 工程能力指数 CPK と不良率
CPK が 1.33 より大きければ、出荷時に全数検査をせずとも ppm オーダーの不良率が達
成できる。目標不良率により達成すべき CPK の値は違う。規格が片側のみであり、 5 ppm
の不良率を目標とするなら、CPK = 1.5 を維持している事を抜き取り検査 (サンプリング検
査) により確認すれば全数出荷検査をしなくても十分である事がわかる。(ちなみに、品質
管理手法のシックスシグマは、1 ppm よりずっと小さい不良率を目指すことから、このよ
うに名付けられた。)
CPK = 0.67 ( T = 2σ)
不合格
不良となる率
2.3%
2σ
-6
-5
-4
SL (下限)
-3
-2
-1
0
1
2
3
判定しようとする値
図4
CPK = 0.67 の時の分布と不良率
5
4
SU (上限)
5
6
CPK = 1.5 (T = 4.5σ)
不合格
4.5σ
-6
-5
-4
SL (下限)
-3
-2
-1
0
1
2
3
判定しようとする値
図5
4
SU (上限)
不良となる率
3.4 ppm
5
6
CPK = 1.5 の時の分布と不良率
工程能力を監視するためには、小さな不確かさが必要
出荷検査を行なわずに商品の品質を保つ場合は工程能力を監視する必要がある。通常は
サンプリングによる測定で母集団のμと σ を推定し、工程能力を監視する。この時 CPK を
実用的な精度で把握するためには、サンプリング測定での拡張不確かさ UTEST は、最低で
もσの ¼ 以下であることが必要と思われる。(*2)UTEST が σ の ¼ であった時、推定した
μの値は 0.25 σ の不確かさを持つことになる。CPK = (SU -μ) / (3σ ) であるので、μの不
確かさが 0.25 σ であれば、CPK の不確かさは、0.25 σ / (3σ) = 0.084 である。
仮にサンプリング測定で算出したμとσ から、CPK =1.500 という値が得られたとすると、
信頼水準 95 %での CPK は 1.500 不確かさ 0.084 となる。これは、CPK の真の値は 1.416
から 1.584 の範囲に存在することを意味するが、CPK が 1.416 の時と、1.584 の時の片側
の不良率を表 2 に示す。
C PK
T /σ
1.416
1.500
1.584
4.248
4.500
4.752
表2
不良率(片側)
11 ppm
3.4 ppm
1.0 ppm
CPK の推定範囲と不良率
6
この例のように、5 ppm の不良率を目標として、CPK = 1.5 を維持することが必要であれ
ば、CPK に換算した不確かさを考慮し、サンプリング測定により得られる CPK を 1.584 以
上に保つ必要がある。
注 2) この時、UTEST と T
の比を算出してみる。CPK の値が 1.5 であれば、T= 4.5 σに
相当する。UTEST がσ の ¼以下という条件は、T の 1/18 以下に相当する。工程能
力の把握のために行うサンプリング測定の不確かさは CPK の不確かさに与える影響
を考慮し、十分に小さくなるように測定系を構築する必要があることがわかる。
出荷検査における False Acceptance Ratio と False Rejection Ratio のシミュレーション
多数個の出荷検査をした時に、不良品を合格として判定してしまう割合を、False
Acceptance Ratio (FAR)、良品を不合格として判定してしまう良品棄却の割合を False
Rejection Ratio (FRR) と呼ぶ事にする。ちなみに、FAR、FRR、良品を合格とした割合、
不良品を不合格とした割合の 4 つを足し合わせたものが、出荷検査の全体であり 100 % と
なる。
前節と同様に、不良率 5 ppm が目標と仮定する。 CPK =1.5 以上であれば、前節で述べ
たように、サンプリングによる測定で工程の能力が変化していないかを確認すれば良いが、
CPK <1.5 の時には、全数出荷検査により 不良を抑える事が必要となる。
そのような判定では CPK, 判定に用いる測定の不確かさ、ガードバンドの幅、False
Acceptance Ratio (FAR) と False Rejection Ratio (FRR)は相互に密接な関係がある。その
関係を数値計算により求めたので紹介する。
○使用する記号と条件
数値計算で使用する記号と条件は次の通りである。
SU : 規格値上限
SL : 規格値下限
全てのパラメータは SU = +1, SL = -1 に正規化して表わしている。
(*3)
AU : 判定基準上限
AL : 判定基準下限
ガードバンド = (SU – AU) or (AL – SL)
T : 規格値から母集団平均値μまでの距離
(SU – μ) または (μ– SL )
σ UUT: 判定しようとするパラメータの母集団の標準偏差
7
µ UUT: 判定しようとするパラメータの母集団の平均値
CPK = T/(3σ UUT)
UTEST: 判定に用いる測定の拡張不確かさ
uTEST: 判定に用いる測定の合成標準不確かさ ( = UTEST / k , k =2)
TUR : Test Uncertainty Ratio T と UTEST との比。 例えば、T=4UTEST の時、TUR は
4:1 というように使う
○シミュレーションの条件
両側規格 (SU と SL が存在する)であり、µ
心にあるものとする。 SU を +1, SL
を
UUT
= (SU + SL ) / 2 つまり両側の規格値の中
-1 に正規化しているので µ UUT = 0 となる。
注 3) 判定しようとしているパラメータが抵抗値であり、規格が 1300Ω +-15Ω である場合、抵抗
値 x (Ω)に対して、 y = (x -1300) /15 という変換をする事により、規格値の上限 1315Ω
を +1 に, 規格値の 下限 1285 Ωを -1 にスケ ーリ ン グできる 。なお 、 σUUT ( Ω) や
UTEST(Ω)からの変換式は、y = x /15 となる。
以降のシミュレーション結果では、常に上限が +1, 下限が -1 であるので、 σUUT や
UTEST の値は、常にそれに対する相対値である。
判定しようとするパラメータと測定値の数学的モデル
最初に考慮しなければならないのは、測定値と判定しようとするパラメータとの関係を
どのような数学的モデルで表わすかである。
ここでは、測定値は正規分布に従い、その平均は被測定物の判定しようとするパラメー
タであり、標準偏差は合成標準不確かさに等しいという、簡略化したモデルで考える。(*4.)
この時、判定しようとするパラメータが xD である時に、測定値 xM が観測される確率は、
式(1)で表わされる。
( xM − xD ) 2
−
2
1
p( x M ) =
e 2 ( uTEST ) ・・・
2π ⋅ uTEST
uTEST : 測定の合成標準不確かさ
8
(1)
注 4) ここでは、測定値の分布の標準偏差が合成標準不確かさに等しいとしたが、 ある測定装置
で比較的短時間の間に得られる測定値の標準偏差は、それより小さいと考えられる。 また
平均値は、被測定物の値とはならない。 なぜなら、不確かさの算出過程を振り返ると不確
かさの中には短期間に変動する成分、例えば温度変化による成分、測定の再現性による
成分等と、長期的には動くであろうが、短期的には一定とみなされる成分、例えば上位から
の校正値の不確かさ、長期安定度等の両方の要素があるためである。 従って、より実際
に近いモデルとしては、平均値は、被測定物の値 + (未知の)オフセットとなり、短期間で得
られる測定値のばらつきは合成標準不確かさよりは小さい値となる筈である。 そのようなモ
デルでもシミュレーションを行ったが、FAR, FRR の変化の傾向は同一である。 また機会
があれば紹介したい。
多数の被測定物に対し、出荷検査を行った時の数学的モデル
ここで、電子部品や電子機器の量産ラインのように多数の被測定物を検査する場合につ
いて考える。判定しようとするパラメータの母集団は正規分布しており、その平均値μは
ゼロ、標準偏差が σ であるとする。十分多数個の出荷検査を行った時に、判定しようとす
るパラメータが xD であり、その測定値として xM が得られる確率密度関数 p(xD,xM) は式
( 2)で表わされる
p( xD , xM ) =
1
e
2π ⋅ σ UUT
−
xD 2
2 (σ UUT ) 2
1
e
2π ⋅ uTEST
−
( xM − xD )2
2 ( u TEST ) 2
・・(2)
これは二つの変数 xD と xM に対して一つの値を持つ関数であるが、どのように解釈した
ら良いのであろうか。
説明のために、xD と xM から成る平面を考える。
9
2
1
xM
0
-1
-2
-2
-1
0
1
2
xD
図6
xD と xM の平面
もし、測定結果に不確かさがなければ、常に xM = xD の関係が成立する。従って xM - xD
平面上での xM と xD の関係は図 6 に示す直線となる。しかし、xM には不確かさが存在す
るので、図の直線の周りにある程度ひろがりを持った分布となる。あるデバイスを測定し
た時、その値が xD であり、その測定結果が xM となる発生確率、つまり xM , xD の平面上
で、xM , xD の組で表わされる点の発生確率を示すものが式(2)である。
それを 3 次元グラフで表したのが図 7 である。
10
p ( xD , x M )
xM
xD
図 7 式 2 の 3 次元プロット
この確率分布を、次に示す領域にわたって積分する事により、二つの誤判定率が求めら
れる。
まず、False Acceptance とは、xD< SL または xD> SU であるにも関わらず、AL <=xM
<= AU
となってしまうこと(つまり不良品を合格としてしまうこと)であるので、False
Acceptance Ratio (FAR) は図 8 に示す ①の領域における式(2)の積分値である。
FAR = ∫∫ p( x D , x M ) ⋅ dx D dx M
R1
= ( xD > S U R1 : ) 1 ( AL ≤ x M ≤ AU ) + ( x D < S L ) 1 ( AL ≤ x M ≤ AU )
次に、False Rejection とは、SL <=xD<= SU であるにも関わらず、xM< AL または xM> AU
となってしまうこと(つまり良品を不合格としてしまうこと)であるので、False Rejection
Ratio (FRR) は、図 8 に示す②の領域における式(2)の積分値である。
FRR = ∫∫ p( xD , xM ) ⋅ dxD dxM
R2
R2 := ( S L ≤ xD ≤ S U )  ( xM < AL ) + ( S L ≤ xD ≤ S U )  ( xM > AU )
11
不合格
xM
②
SU
AU
合格
不合格
①
①
AL
SL
②
SL
SU
不良品
図8
良品
xD
不良品
FAR と FRR を定義する領域
False Acceptance Ratio と False Rejection Ratio の計算結果
FAR と FRR が条件によりどのように変化するのかを、前述の①、②の領域に渡って式(2)
を積分して計算した。なお、この時の UUT のデータの分布は、表 1 より、全数出荷検査に
より品質を抑える事が必要であると思われる CPK が、0.67, 1.0, 1.33 を代表的な分布と
して扱った。また、UTEST は一般に最低レベル TUR が 4:1 は必要と言われているため、
0.25 を標準的な値として、その前後を必要に応じて変化させている。なお、ここでの FAR,
FRR は、両側に規格が存在し、UUT の分布の中心が規格の上限と下限の真ん中にある場
合の、上限付近で起きる割合と下限付近で起きる割合の合計を表している。片側規格の場
合は、結果の数値を半分にして読み取って欲しい。
12
FAR
FAR
1.01.0E-03
× 10 −3
1.01.0E-04
× 10 −4
1.01.0E-05
× 10 −5
σσUUT=.5
UUT = 0.5
σσUUT
= 0.33
0.33
UUT =
5 ppm
σσUUT=
0.25
UUT = 0.25
A点
1.01.0E-06
× 10 −6
1.01.0E-07
× 10 −7
0
0.2
0.1
0.3
0.4
0.5
UTEST
図9
UTEST に対する FAR の変化
FAR は、σUUT が大きなほど、大きな値となる。σUUT が同一の条件では、FAR は、UTEST
にほぼ比例して増大する。
σUUT = 0.33 で UTEST が 0.05 以上の時( 図 9 A 点より右側)、及び σUUT = 0.5 で UTEST
の全ての値において、FAR は 5 ppm より高くなってしまい、ガードバンドをより広くする
ことが必要である。 (これに関しては次に述べる。)
同一の条件で計算した FRR を図 10 に示す。FRR は、σUUT が大きなほど、大きな値と
なり、同一の σUUT では、UTEST にほぼ比例して増大する。表 1 に示した UUT の分布と
不良率によれば、σUUT が 0.5 (CPK = .67)の時の製品の本来の不良率は 4.6 %であるので、
UTEST が 0.1 (TUR 10:1) を超えると、それに比べ無視できない FRR が発生する事が判る。
13
FRR
FRR
35%
30%
25%
20%
σσUUT
=.5
0.5
UUT =
15%
σσUUT
= 0.33
0.33
UUT =
σσUUT=
0.25
UUT = 0.25
10%
5%
0%
0
0.2
0.1
図 10
0.3
0.4
0.5
UTEST
UTEST に対する FRR の変化
ガードバンドの最適化
σUUT が 0.33 より大きな時は (CPK が 1 より小さい時は) ガードバンドを拡張不確かさ
と等しく取るだけでは許容できない FAR が生じる。それでは、ガードバンド をどのよう
に設定したら、FAR を望むレベル(ここでの目標の 5 ppm 以下) に抑えられるのであろう
か?
そこで、ガードバンドを拡張不確かさのα 倍にとり、α を 0 から 2 まで変化させた時の
FAR の変化を、σUUT = 0.5 (CPK = 0.67) と σUUT=0.33 (CPK =1.0) について計算した。
α = (ガードバンド) / (拡張不確かさ)
α が 1 以下のデータは、ガードバンドを拡張不確かさより狭くした時であり、参考とし
て示している。 α = 0 は、ガードバンド を全く取らない時に相当する。
σUUT = 0.5 (CPK = 0.67) の時の結果を図 11 に示す。縦軸はログ目盛である。
‐α の値が大きくなるにつれ、FAR は指数的に減少する。
‐UTEST が 0.25 の場合、 α = 1.6 つまり ガードバンド を UTEST の 1.6 倍に設定し
た時に、FAR は 4.6 ppm となり(図 11 の B 点)、目標の 5 ppm 以下を達成できる。
14
但し、
代償は FRR の増加である。
同一条件の FRR を、
図 12 に示すが、この条件 (σUUT
= 0.5, UTEST = 0.25, α =1.6)の FRR は 20 %となり(図 12 の C 点)、CPK = 0.67 の
分布の本来の不良率 4.6 % (表 1)に比べて 4 倍にもなってしまう。
‐UTEST が 0.125 であれば、 α =1.5
の時に、FAR = 4.8 ppm となり、この時の FRR
は 6.1 %である。
FAR vs Guard Band, σUUT=0.5
FAR
1B01.E-02
× 10 −2
1B01.E-03
× 10 −3
1B01.E-04
× 10 −4
B点
−5
1B01.E-05
× 10
U=0.25
U = 0B25
5 ppm
U=0.125
U = 0B125
UU=0.063
= 0B063
−6
1B01.E-06
× 10
1B01.E-07
× 10 −7
1B01.E-08
× 10 −8
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
α = ( Guard Band)/UTEST
図 11
FAR vs ガードバンド、σUUT = 0.5
FRR vs Guard Band, σUUT=0.5
FRR
30%
25%
C点
20%
15%
UU==0.25
0B25
U=0.125
U = 0B125
10%
U=0.063
U = 0B063
5%
0%
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
α = ( Guard Band)/UTEST
図 12
FRR vs ガードバンド、σUUT = 0.5
σUUT=0.33 (CPK =1.0) の時の結果を、FAR を図 13 に、FRR を図 14 に示す。FAR の値
は σUUT = 0.5 の時の約 1/10, FRR の値は、約半分であるものの、α に対する変化は基本
15
的には同一である。
FAR vs Guard Band, σUUT=0.33
FAR
1B01.0E-03
× 10 −3
1B01.0E-04
× 10 −4
1B01.0E-05
× 10 −5
1B01.0E-06
× 10 −6
U=0.25
U = 0B25
U=0.1225
U = 0B125
UU=0.063
= 0B063
−7
1B01.0E-07
× 10
1B01.0E-08
× 10 −8
1B01.0E-09
× 10 −9
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
α = ( Guard Band)/UTEST
図 13
FAR vs ガードバンド,
σUUT = 0.33
FRR vs Guard Band, σUUT=0.33
FRR
16%
14%
12%
10%
UU==0.25
0B25
8%
U=0.125
U = 0B125
6%
U=0.063
U = 0B063
4%
2%
0%
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
α = ( Guard Band)/UTEST
図 14
FRR vs ガードバンド, σUUT = 0.33
まとめ
全数出荷検査をせずに、工程能力を管理して製品の品質を押さえる時には、サンプリン
グ測定に使用する測定の不確かさを、十分に小さく保つ必要がある。
16
また、出荷検査で、不良率を ppm のオーダーに抑えるためには、判定に使用する測定の
不確かさを把握し、適切なガードバンドを設けることが不可欠である。
その時、FRR を低減するためには、判定に使用する測定の不確かさを小さく抑える必要
がある。一般に TUR は 4:1 が一つの目安と言われるが、特に CPK が 1.0 以下の時に、
FRR を本来の不良率と同程度に抑えたいのであれば、TUR は最低でも 8:1 は必要である。
但し、
ここに掲げた数値はあくまで目安である事に注意頂きたい。
注 1. に記したように、
ある測定装置で、短期間に行った測定では、そのバラツキ(標準偏差)は、拡張不確かさより
は小さく、平均値は未知のオフセットを持つと考えられる。実際の出荷検査での FAR と
FRR を最適化するためには、測定毎のバラツキと、オフセット値の最大の変化範囲を、不
確かさの各成分まで遡って把握し、それに合った数学モデルによるシミュレーションを行
い、実際の測定結果により検証することが必要である。
製品の品質に直結する FAR を管理するには、検査を行う測定の不確かさを算出し、ガー
ドバンドを調整する事が必要になることを理解して頂けたのではないか。不確かさの裏付
けとなる、測定器のトレーサビリティーが確保されていることも重要である。これについ
ては、第 6 回で解説したい。
参考文献
[1]
ILAC-G8: Guidelines on Assessment and Reporting of Compliance with
Specification (based on measurements and tests in a laboratory)
http://www.ilac.org/documents/pub_Ilac-g8.pdf
[2] Michael Dobbert, “A Guard-Band Strategy for Managing False-Accept Risk”,
2008 NCSL International Workshop and Symposium
17
中心極限定理を実感する方法
複数の独立な確率変数の和(又は平均値)は、個々の確率変数がどのような確率分布を持とう
とも、正規分布に近づく。
これが中心極限定理(central limit theorem) である。
しかし、これを読んだだけでは、なかなか実感できない。そこで、エクセルを使って、
この定理を実感する方法を紹介する。
例として、6 個のランダム関数(エクセルでは RAND() )の和を取り上げる。個々のランダ
ム関数は、0 から 1 の範囲で、
一様分布をする関数である。
それを 6 個足し合わせた値 50,000
個のヒストグラムを描画してみると、図のように、正規分布関数と極めて良く一致してい
る。一様分布をするランダムな数を 6 個足しただけで、このような正規分布が得られる事
に驚かれるのではないか。
個々のランダム関数の平均が 0.5 であるので、6 個の合計の平均は 3 となる。また、個々
のランダム関数の標準偏差は、 0.5/√3 であるので、その二乗和の平方根で、1/√2 とな
っている。
3000
2500
2000
1500
発生頻度
正規分布関数
1000
500
0
0 0.3 0.6 0.9 1.2 1.5 1.8 2.1 2.4 2.7 3 3.3 3.6 3.9 4.2 4.5 4.8 5.1 5.4 5.7 6
「複数の独立な確率変数の和が正規分布に近づく」ことから、拡張不確かさを算出する
ための包含係数 k は、特殊な場合を除いては 2 を使えば良い。(正規分布とみなす)
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2014.8.1
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