学習メモ

生物基礎
テレビ学習メモ
第 15 回
今回学ぶこと
生命現象を支えている
DNA ⑴
し、200 種類以上の細胞にわかれていくこ
監修講師
同じ遺伝情報を持っています。なぜ同じ遺
大野智久
伝情報を持つ細胞が、さまざまな個性を持
ヒトの体は、受精卵が細胞分裂を繰り返
とで形づくられます。細胞分裂では DNA
は正確にコピーされ、全身の細胞はすべて
つのでしょうか。「遺伝子の ON と OFF」
調べておこう・覚えておこう
に注目して学んでいくことにしましょう。
遺伝子/タンパク質/細胞の分化/
だ腺染色体/パフ/iPS細胞
Point 遺伝子の ON と OFF
細胞分裂の際、DNA は正確に複製されるので、すべての細胞は同じ遺伝情報を持っている。
▼
それならば、すべての細胞は全く同じ性質を持つように思える。しかし実際には細胞内にあるす
べての遺伝子が常にはたらいているわけではなく、遺伝子は ON になったり OFF になったりす
る。それぞれの細胞では ON になる遺伝子が異なっている。例えば、皮膚では皮膚ではたらく
特定の遺伝子だけが ON になり、それ以外の遺伝子は OFF になっている。
ユスリカの幼虫のだ腺の染色体は、遺伝子が ON になるときに束になっていた DNA がほぐれ
る。このため、これを顕微鏡で観察することで、遺伝子の ON・OFF を間接的に見ることができる。
Point 細胞の個性はタンパク質から
遺伝子はタンパク質の設計図である。細胞によって ON になる遺伝子が異なるということは、
細胞によってつくられるタンパク質が異なるということを意味する。赤血球ではヘモグロビン遺
伝子が ON になり、酸素の運搬にかかわるヘモグロビンと言うタンパク質がつくられる。筋細
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胞ではミオシン遺伝子が ON になっていて、筋肉の収縮に関係するミオシンというタンパク質
がつくられる。水晶体ではクリスタリン遺伝子がはたらいて、クリスタリンというタンパク質が
つくられる。それぞれの細胞では、遺伝子の ON・OFF によってつくられるタンパク質が異なり、
それが細胞の個性を生み出しているといえる。
筋肉の細胞を培養すると、増殖し、さらに融合して細長い筋細胞をつくっていく様子が観察で
きる。このような現象の裏ではさまざまな遺伝子が ON になったり OFF になったりしていて筋
肉の細胞としての個性を生み出している。
Point
iPS 細胞
京都大学の山中伸弥教授は、iPS 細胞の研究によりノーベル賞を受賞した。iPS 細胞とはどの
ような細胞なのだろうか。受精卵が皮膚や筋肉などさまざまな細胞にわかれていく過程ではさま
ざまな遺伝子が ON になったり OFF になったりする。この過程は後戻りできず、一度決まった
細胞の個性は変えることができないと考えられてきた。しかし、ある方法を使うと、遺伝子の
ON・OFF をリセットして体の細胞を受精卵に近い状態に戻せることがわかった。こうしてつく
られたのが iPS 細胞である。
iPS 細胞をつくった後に、遺伝子の ON・OFF をコントロールすればさまざまな細胞をつく
りだすことができる。例えば、皮膚の細胞を iPS 細胞化すれば、そこから遺伝子の ON・OFF
▼
をコントロールして筋肉や神経などさまざまな細胞をつくりだすことが可能である。このため、
iPS 細胞は万能細胞と呼ばれることもある。iPS 細胞は、さまざまな疾患の治療への応用が期待
されている。
iPS 細胞と似た「万能細胞」に ES 細胞がある。ES 細胞は、受精卵が分裂
してできた着床前の胚から、未分化な細胞を取り出して作成される。しか
し、ヒトになる可能性のあるものを壊すため、倫理的な問題が指摘されていた。
column
もう半歩
先に
また自分以外の細胞から作成されるため、免疫の拒絶反応の問題もある。
iPS細胞は、自分の皮膚の細胞などを元に作成できるため、ES 細胞の持つ倫理的問題と免疫の
拒絶反応の問題を同時にクリアすることができた。
「万能性」だけではなく、このような点でも iPS
細胞は画期的であった。
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