2014年 2月20日 各 位 東京都中央区日本橋小舟町7-8 代表取締役 菊地 博 ヒトiPS/ES細胞の新しい凍結保存試薬の開発 極東製薬工業株式会社は、独立行政法人 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センタ ー(元 幹細胞研究グループ・ディレクター 西川 伸一)と公益財団法人 先端医療振興 財団(細胞療法開発事業部門・副事業統括 川真田 伸)、株式会社理研セルテック(社 長 平田 史明)との研究成果として、ヒトiPS/ES細胞の新しい凍結保存試薬と方法を 開発したことを発表しました。本研究成果は、2014年2月12日、米国発行のオンライン 科学誌「PLOS ONE」(プロスワン)に公開されました。 1.背景 様々な種類の細胞へと分化できる人工多能性幹細胞(iPS 細胞:induced Pluripotent Stem Cells)と胚性幹細胞(ES 細胞:Embryonic Stem Cells)は、基礎医学研究のみなら ず創薬および再生医療研究において注目されております。しかしながら、ヒト iPS/ES 細胞 は、通常の細胞株とは異なり凍結耐性が低く、特にジメチルスルホキシド(DMSO)を主 成分とした凍結保存試薬を用いて緩慢凍結すると、生存率が 1%以下という極めて低い値を 示すことが知られております。そこで、水を結晶化させずガラス状態で固化させて細胞を 凍結保存するガラス化法(vitrification)という方法が提唱されました。現在、理化学研究 所バイオリソースセンターでは、研究用 iPS 細胞は DAP213 というガラス化液を用いて凍 結保存されています。但し、ガラス化法は、細胞の懸濁をはじめてから 15 秒以内に液体窒 素に移す、融解時に温培地を添加し超急速解凍するなど極めて短時間の操作が必須で、熟 練した手技を要します。そこで、ハンドリングが容易で、再現性が安定して得られる凍結 融解方法および試薬の開発が望まれていました。 2.研究内容と成果 既に当社では、骨髄や末梢血中の造血幹細胞を緩慢凍結保存する研究用試薬として、ヒ ドロキシエチルスターチ(HES)と DMSO を主成分とした細胞凍害保護液「CP-1」 を製造販売しております。今回、組成の改変を行い、オンフィーダー培養のヒト iPS/ES 細胞を緩慢凍結法で保存可能な試薬「CP-5E」を新たに開発しました。細胞剥離液「プ 1/3 ロナーゼ/EDTA」を用いてヒト iPS/ES 細胞コロニーを細かく分散して回収し、CP-5E で凍結保存する方法によって、ヒト iPS 細胞 2 株およびヒト ES 細胞 2 株は、融解・播 種後の生存率が 80%以上という高い値を示しました(図) 。さらに、融解後の幹細胞マ ーカー発現や分化能の維持ならびに染色体の安定性が確認され、凍結融解前後で細胞の 性質が変化しないことも明らかにしました。 今回の結果は、細胞剥離液プロナーゼ/EDTAと凍結保存液CP-5Eを組み合わせた方 法がヒトiPS/ES細胞の緩慢凍結保存法として優れていることを示しました.特にコロ ニー回収時のプロナーゼ/EDTA処理によるクランプ(細胞集塊)の細分化が、高い細 胞生存率を与える重要な条件であることを世界で初めて明らかにしました。また、これ まで凍結保存液の必須成分と考えられていたアルブミン・血清・培地が、iPS/ES細胞 の凍結保存に必須因子でないことも分かりました。CP-5Eは、HES、DMSOおよびエ チレングリコール(EG)を生理食塩水に溶解した組成であり、高分子であるHESは細 胞外で、低分子であるDMSO及びEGは細胞内外で氷晶(氷の結晶)の成長を防止する 働きがあります。これら3成分が最適な濃度バランスで存在することにより、凍結に伴 う細胞障害を協調的に抑え、高い生存率が得られたのではないかと推測しております。 本方法は、以下の特徴をもっており、高い再現性を得ることが可能です。 1)緩慢凍結法であり、ガラス化法のような特別な手技を必要とせず簡便である。 2)融解時に温培地添加は不要で、ウォーターバスによる融解が可能である。 3)プロナーゼ/EDTAの細胞剥離により、短時間で最大の生存率が得られる。 4)凍結時にプログラムフリーザーは不要である。 5)CP-5Eは、たん白質や動物由来成分を含まない組成である。 3.本研究の意義 当社製品開発部長の内堀勝典は以下のようにコメントしています: 当社の細胞凍害保護液 CP-1 は、骨髄・末梢血幹細胞用として 1992 年に発売され、 また細胞分散用プロナーゼ溶液は 1996 年に発売され、ともに約 20 年、細胞研究分野 の研究用試薬としてユーザー様に支持されてきました。本研究内容は、両製品の性能を 改良しヒト iPS/ES 細胞の凍結保存用に最適化させた応用研究の成果の 1 つであり、凍 結保存操作というヒト iPS/ES 細胞培養における問題点を解決する 1 つの方法を提案で きたものと確信しております。本研究成果は、既に国際特許出願済みであり、研究用試 薬として製品の発売を予定しております。今後さらに研究を発展させ、ヒト iPS/ES 細 胞のみならず幹細胞研究分野に貢献できる基礎研究用試薬や再生医療・細胞治療分野の GMP 対応可能な製品開発も進めていきたいと考えています。 2/3 〔参考〕 「PLOS ONE」(プロスワン)の当該論文掲載URL http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0088696 (独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター CDBニュースURL http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/14/140213_freezing.html 図 各種酵素液で剥離後に CP-5E 組成で凍結した iPS 細胞の 融解・播種後の生存率 (社内データと PLOS ONE(プロスワン)より改変) 問合せ先: 極東製薬工業株式会社 営業学術部 TEL: 03-5665-5664 FAX: 03-5645-5703 E-mail: [email protected] 3/3
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