6.7. 行列の指数関数 431 である。ここで、かっこの中身を A+B ⇣ A ⌘⇣ B⌘ 1 A B 1 I+ = I+ I+ + O 2 = exp exp +O 2 N N N N N N N (6.7.26) と書き換えておく。これを、もとの (6.7.25) に戻し、O(1/N 2 ) の項は N 個集まって O(1/N ) になることに注意すれば、 exp(A + B) = lim N %1 ⇢ exp A B exp N N N (6.7.27) という、リー118 の積公式 (Lie product formula) が得られる119 。ここでも数学的な証明は省 略したが、厳密な証明も難しくはない。この公式は、基礎的に重要なだけでなく、量子力学 の経路積分表示や常微分方程式の数値計算などにも応用されている。 積公式の興味深い応用を一つ紹介しよう。eA+" B という形の指数関数を実変数 " について 展開してみる。この場合、積公式 (6.7.27) の右辺の極限の中身は、 ⇢ ⇣A⌘ ⇣" B⌘ exp exp N N N ⇢ N ⇣ A ⌘⇣ "B "2 ⌘ exp I+ +O 2 N N N ⇢ ⇣ ⌘ ⇣ A ⌘" B ⇣ "2 ⌘ N A = exp + exp +O N N N N2 N ⇢ ⇣ nA ⌘ " B ⇣ (N n)A ⌘ X = exp(A) + exp exp + O("2 ) N N N n=1 = (6.7.28) と展開できる120 。ここで、N % 1 の極限をとると、n についての和はちょうど s = n/N に ついての積分に書き換えられ、 Z 1 exp(A + " B) = exp(A) + " ds exp(s A) B exp[(1 s) A] + O("2 ) (6.7.29) 0 となる。行列が交換しないために、パラメター " についての展開から自然に積分がでてくる のだ。この仕掛けはなかなか面白い。この表式は、量子力学や量子統計力学の摂動論などに おいて活躍する。 118 Marius Sophus Lie (1842–1899) ノルウェイの数学者。連続対称性についての数学をリー群やリー環とし て定式化した。これらの理論は物理学とも深く関わっている。 119 (6.7.27) をトロッター公式と呼ぶことがあるが、それは正確ではない。有限次元行列についての (6.7.27) を ある種の無限次元行列(自己共役演算子)に拡張したのがトロッター公式である。 120 ここで、O("2 /N 2 ) の項が全部で O(N 2 ) でてくるので、それらを最後の O("2 ) の項としてまとめた。
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