塩分環境における骨材のASR調査について 東北技術事務所 髙田 ○千葉 仙台河川国道事務所 小林 北上川下流河川事務所 佐藤 浩穂 孝寿 健一 英一 1.はじめに 東北地方のコンクリート構造物(以下、構造物という。)は、凍害や凍結抑制 剤等の散布による塩害、飛来塩分などの劣化要因に曝されている。構造物に塩分 が供給される環境下では、コンクリート中のアルカリ金属イオン量が上昇し、ア ルカリシリカ反応「ASR(以下、ASRという)」が確認されている。そこで、構造 物の耐久性の観点から、ASRに対して使用材料の性質に合った適切な抑制対策と して、宮城県生コンクリート工業組合と共同研究した試験結果について中間報告 を行うものである。 2.アルカリシリカ反応(ASR) 2.1 ASRの発生要因と影響 ASRは、コンクリート中に存在するアル カリと骨材に含まれるアルカリ反応性鉱物 が反応し、その生成物(ゲル)が水分を吸 収・膨張し、コンクリートにひび割れを起 こさせる現象である。 写真ー1 ASR発生事例 2.2 国土交通省における対策 ASRの抑制対策として、次の3項目があり、土木構造物については、1,2を優 先することとしている。 1.コンクリート中のアルカリ総量の抑制(N,H使用の場合) 2.抑制効果のある混合セメント等の使用 (BB使用の場合) 3.安全と認められる骨材の使用 3.検討内容 東北コンクリート耐久性向上員会でとりまとめた「東北地方におけるコンクリ ート構造物設計・施工ガイドライン(案)」では、ASRに対する対策として次の提 案を行っている。 「外部から塩化物の作用を受ける地域では、化学法において「無 害でない骨材」を使用する場合は、外部からの塩化物の影響を取り入れた試験に より、使用骨材又は使用配合の安全性を確認する必要がある。」 この提案に基づき、塩分環境下におけるASRと骨材の物性値の関係について、S SWモルタルバー試験及びSSWコンクリート試験によって産地、種類等が明らかな 骨材(JIS化学法:「無害ではない」)で調査を実施し、ASRと骨材の関係につい て、検討を行った。 3.1 試験内容 ガイドライン(案)で提案されて いる「外部からの塩化物の影響を 取り入れた試験」として SSW 試 験を実施した。SSW試験とは、供 試体を包む吸取り紙に含ませる真 水を20%NaCl水溶液に変える点の みが異なる試験方法である。 表-1 使用材料 骨材は宮城県内で広く使用されている 骨材とし、セメントは、任意に選んだ三 つの異なる生産者から入手し、等量混合 を行った。コンクリートの配合は水セメ ント比(W/C)50.0%、目標スランプが8・0 cm、目標空気量を4.5%とする。コンク リートの配合は試し練りによって決定した。 実施した試験項目 3.2 表-2 使用材料の主な物性値 4.検討結果 4.1 骨材のアルカリシリカ反応性試験結果 JIS 化学法及び JIS モルタルバー法の試験結果を表-3示す。今回選定した4 種類の骨材の溶解シリカ量(Sc)は、100mmol/L から500mmol/L 程度の間となり、 いずれも「無害でない骨材」と判断され、モルタルバー法においては、膨張率が 0.02(%)程度で全てが「無害」と判断された。 表-3 試験結果 4.2 SSWモルタルバー試験結果 4.2.1 膨張率 塩化物の影響を把握するため、SSW モルタルバー試験を実施した。JIS モルタ ルバー法によって「無害」と評価された骨材であっても、塩分環境下のSSWモル タルバー試験では約7倍から37倍も膨張し「無害でない」と判定された。 (材齢13週の時点→0.1%から0.68%) その膨張率は、骨材の溶解シリカ量(SC)が増すに従って高くなり、正の相関 関係が認められた。 但し、材齢26週では、供試体の汚れや材齢26週で見られたひび割れ等との関連 が疑われる傾向(G1膨張、G3収縮)が見られた。 図-1SSWモルタルバー試験 図-2Scと膨張率(材齢13週)の関係 4.2.2 外観観察 JIS モルタルバーの供試体では S2 と S4 で一部 ASR 反応痕と思われる「斑点」 が散見される程度であったが、SSW モルタルバーの供試体は全てで「斑点」や 「ひび割れ」等の ASR 反応痕が多数認められた。 写真-2 JISモルタルバー(左)とSSWモルタルバー(右) 4.3 SSWコンクリート試験結果 4.3.1 膨張率 配合の違いと塩化物の影響を把握するために、SSW コンクリート試験を実施 した。セメントの種類別の結果を図-3,4,5に示す。BB は材齢26週まで膨張 率が徐々にアップし、N,H は BB に比べ小さい値で推移しているが、判定基準の 0.1%未満を満足しており、「無害」と評価された。 図-3 SSWコンクリート(N) 図-4 SSWコンクリート(BB) 図-5 SSWコンクリート(H) 4.3.2 外観観察 BB では骨材全ての組合せで「反り」「斑点」「ひび割れ等」の ASR 反応痕はほ とんど認められなかった。N,H では全ての組合せで ASR 反応痕が認められた。 またポップアウトは N,BB,H 全てで確認された。 これにより、高炉セメント(BB)を使用条件(塩害対策)として、塩分環境下に おいて使用可能と判断できる。 4.4 塩分濃度分布測定 SSW コンクリート試験においてBBは「無害」と判定できる結果が得られたもの の、N及びHは「膨張率・無害」「外観観測・無害ではない」と判定してよい多数 のASR反応痕が認められ相反する結果となった。そのため、ASR の主因となる塩 分の浸透深さについて蛍光 X 線分析を実施した。マッピングデータ(塩素濃度 を色相によって表したもの)は赤色>黄色 >緑色>水色>青色の順に濃度が高い 事を示している。浸透深さはH>N>BBの順となっており、ASRによる劣化の程度と 一致していた。 5.まとめ JIS法により「無害」と評価された骨材を使用しても、N、HではScの値や塩 分供給があるなど一定の条件下では、ASRを発生する可能性があることが確認さ れたが、閾値を求めるには至らなかった。また、BBについては反応痕は殆ど確認 されず、材齢26週の膨張率も判定基準の0.1%未満であったが、N,Hに比べ高い 数値が確認された。これは初期の段階ではASRによる膨張が生じていたが、材齢 が進むにつれ高炉スラグの潜在水硬性の効果が発揮されたものと考えられる。 本試験では、N,Hでは材齢18週以降膨張率が大きくマイナス(収縮)となった。 ゲルの膨張作用によりゲージプラグの角度が変化し、正しく計測されていない 可能性が考えられ、その結果、膨張率を材齢26週まで測定できなかった。 そのため、引き続き最終材齢まで測定可能な手法を検討し、SSW試験を再開し 今年度中を目標として試験を継続したところである。 共同研究を実施するにあたり、三浦尚東北大学名誉教授、日本大学岩城一郎教 授から様々なご指導を頂いたことに対してここに深甚なる謝意を表する。 写真-3、写真ー4 骨材周囲の ASR 反応痕 (ゲル) ※端面から深さ10mm 位置でカットした断面 (粗 骨 材 の 周 囲 か ら 浸 出 した透明のゲルが確認 された) 写真ー 3 カット位置(H) 写真ー 4 カット面から浸出しているゲル
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